百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
はてさて、一夜明けて次の日の朝。
学校に登校し恙無く教室に着いた私は、一限目の予習でもしておこうかなー、なんて気分で席に座っていたのだけれど。
「ちょっとよろしくて?」
「……ああ、生徒会長さん。何かご用事でも?」
机に広げた教科書に影が差したので、ふっと視線を上げればそこに立つのは一人の少女。
光の反射具合で微かに青み掛かって見える、綺麗な黒い髪をおさげにして結っているのは、全校生徒の模範たらんとするがゆえ。
神経質そうに細められたその黒い瞳は、己を律し、他者を嗜めるその精神性が溢れ出ているがゆえ。
私の前に立っているのは、彼女にとって私が競い合う好敵手であるがゆえ。
……目の前に立つ彼女は、この学校の生徒会長である。
そして、本来の歴史では文芸部に所属し、主人公を補佐する副部長になっているはずの人物でもある。
どうしてこうなった、とは言わない。……彼女に関しては、私の行動の結果こうなってしまったことが明白であるからだ。
生徒会長さん……もとい副部長ちゃんは、原作では頼りない主人公を献身的に支える、甲斐甲斐しい系ヒロインだった。
そもそもの話として原作主人公は無個性型だった(一昔前の乙女ゲーにいた目元が影で隠れてるタイプ。区分がそこってだけで、本当に目元が隠れてたわけじゃない)ので、選択肢で時々弾けるくらいしか特徴と呼べるものがない、ごくごく平凡な少女として描写されていた。
なので、主人公の見せ場にできそうな場面でも、そのルートのヒロインが活躍することによって事態が動くことが多く、主人公の必要性について議論されることもしばしばだった。
主人公が女性なだけのギャルゲーでは?とはアンチスレでよく言われてた悪口であるが、安心して欲しい、ファンも大概そう思ってた。
だってハーレムルート行くと、主人公そっちのけでゆりゆりしてたこともあったしネ!……そんなんだから一部の層にしかウケなかったんだぞ原作者ぁ!
まぁ、個別ルートに入ったら流石に主人公もちょっと独占欲とか見せてたし、完全に無個性というわけでもなかったんだけど。
それに一応、パッケージに書かれてる主人公は普通に美少女だったしね。
……パッケージで確認できるくらいで、ゲーム中では自身の容姿を確認することほとんど無かったし、なんなら二人で並んで写ってるものだからヒロインの一人と勘違いされて、左の黒髪のかわいい子はいつ攻略できますか?なんて質問がちょくちょくあったりもしたんだけど。
まっとうに黒髪なヒロインが紡ぎ手ちゃんもとい寡黙ちゃんしかいなかったせいで、寡黙ちゃんルートで眼鏡取って髪を解いたのがパケの子なんじゃ……、なんて頓珍漢な噂が流れることがあったくらいに、主人公の容姿を活かせていなかった印象が強いのはなかなか酷いと思う。
…………そもそもね、百合ゲーなのになんでスチルがヒロイン単体なんじゃい、相手のキス顔だけじゃなくてちゃんと口づけを交わしてるところも描かんかい、百合ゲーなのにキマシタワー建てづらいってどういうことじゃい、そんなんだから制作段階では普通のギャルゲーだったけど、途中で路線変更して百合ゲーにしたんじゃないかと勘ぐられるんだぞ原作者ぁ!!
……失礼、厄介ファンの愚痴ほど聞き苦しいものもないと思うので聞き流して欲しい。
結局なにが言いたかったのかと言うと。
──原作の主人公と現在の私はほぼ別人、ということだ。
容姿こそ黒髪ロングのぺったん美少女で共通しているけれど、その実中身が全然違う。
原作での
対し今の
……うん、容姿以外全然似てない。双子とか言ったほうが信じられるレベルだねこれ。
なので、ほぼモブキャラであった幼馴染みを除いて、一番近い位置にいた少女──副部長さんとの付き合い方も、原作のそれとは全く違うものになっていたのだった。
彼女との出会いは小学生の時にまで遡る。
……思い出したくないんじゃないかって?思い出さなきゃ話が進まないんだから思い出すよ、代わりに私の精神力ガタガタになるけど仕方ないネ!……なしてや!
当時の私はまぁこまっしゃくれた……あれ、こまっしゃくれたって通じるよね?……まぁいいや。
当時の私はそれはそれはなんというか小生意気というか、変に捻くれていたというかなお子様で、謎に悟った感じで己磨きに邁進する……有り体に言えば可愛げのない子供だった。
まぁ当時はゲームの世界に転生したとは気付いて無くて、単に生まれ変わっただけだと思ってたから、前世でのちょっとした失敗を引き摺り続けていたせいもあったんだけど。
まぁ、重要なのは子供らしくない子供が、必要以上に頑張っていたということだけ。
──無理に無理を重ねて、破裂しそうに見えるバカな子供がいた……っていう、それだけの話だ。
……あ、過去回想とかには行かないよ?長くなるしなにより重いし。望まれればやるかも知れないけれど、少なくとも今はいいや。
重要なのは、昔の私がわりと全方位に喧嘩売るタイプのやつだったってこと。
副部長ちゃんにも同じように喧嘩を売って──結果仲が拗れたってことくらいだから。
……いやまぁ、拗れたって言っても、
「プークスクス、こんな問題も解けないとかwww」
「はぁー?こんなの余裕でしてよぉ!?」
……みたいな煽りあいしてる内に、なんかライバルっぽい感じになったってだけなんだけど。
なお、煽りに煽って今の関係に落ち着いたあと、この世界が前世で百合ゲーだったことを思い出して「あの子ヒロインじゃん!?」って思わず頭を抱えて転がり回るハメになったんだけどネ!
◯すぞ小学生の私ぃっ!!?って発狂しそうになりましたが、奇跡的にどうにか持ちこたえましたので、こうして元気にやっているわけでございます。
……そういえばそうやって煽りあいしてるときに、あわあわしながら私達を止めようとする可愛い子が居たような気が?……今だと美人さんになってるんだろうなぁ、あの子。
「……ちょっと?聞いていらして?」
「ええ、そう声を荒らげなくても聞こえているわ。……それで?」
おおっと上の空だったから聞き流してた。……美少女スマイルで受け流したけどこれ酷いやつだな?
思案のために下げていた視線を上げれば、睨んでいるような、はたまた泣いているような微妙な表情をしている生徒会長さんの姿。……やだ、今更聞いてなかったとか聞けない雰囲気……。
そんな思考は一切表に出さずにそれで?と聞き返す私は多分ヤベーやつにしか見えないと思う。……違う、口が勝手に!……いやお前のせいじゃねーか。
「……私共生徒会も、そちらと同じく演劇祭に台本を提供することに相成りましたので、その報告に参った次第です。……これで満足?」
「なるほど。……相変わらずね、貴方も」
なーんだ、ただの宣戦布告じゃん。……宣戦布告じゃんこれっ!?
やべーよやべーよ、正々堂々潰しあいしようぜってお誘いだよこれ……!?
私はただきゃっきゃっうふふしたいだけだと言うのに、何故に組の抗争みたいなことに発展してるんですかー?!
……そんな思考も美少女モードの私の表情筋には一切影響をもたらさない。いや、鉄面皮かよ私の表情。
っていうか売り言葉に買い言葉みたいになってるじゃん、余計に拗らせてどうすんのさ私ぃっ!!?
そんな私の内面を知ってか知らずか、生徒会長さんは一度なにかを言いたげに口を開いた後、バツが悪そうに視線を逸らして。
「……要件はそれだけです。お手数をお掛け致しましたわ」
という言葉を残し、自分のクラスへと戻っていった。
それと時を同じくして、教室に入る生徒の数が多くなり始める。……うん、なんというか。
「お互い暇なのね、くらい言っておけばよかったかしらね?」
「……唐突になに言ってるのか知らんが、とりあえず忠告しとくぞ。……止めとけ、余計拗れる」
「あら、来てたのね」
教室内なので美少女モード継続中の私に声を掛けてくるのは、朝起こしに行ったらちょっと用事があるとかで先に行けと促していた幼馴染み。
……朝っぱらからなんの用事かと思っていたのだが、こうして始業までに間に合っているあたり、そこまで大きな用事では無かったのだろう。
小さく右手を上げて挨拶すれば、彼はおう、と返して隣の席に腰を下ろすのだった。
「……んで、朝っぱらからなんの用だ生徒会長?」
『その前に、彼女は近くにいないのですね?』
「あー、先に行けって言っておいたからいないと思うが……」
早朝にスマホが軽快に音を鳴らしたので何事かと思って確認すれば、ディスプレイには生徒会長の名前。
朝っぱらからなんの用だ、と思いながら応答しようとしたのだが、時同じくして玄関口に幼馴染みの姿。
……流石にアイツの前で電話に出るわけにもいかず、仕方無しに先に行けと促せば。
アイツは一度首を捻ったものの、特に疑いもせずに先に学校に向かったようだった。
……それを確認した後に、相変わらず鳴り続けていた電話に出たら先の応答が行われた……というわけである。
「んで、結局なんの用だよ?」
『……貴方は変わりませんのね』
……変わっていないと言われたのは二度目だな、となんとも言えない気分に襲われつつ、生徒会長に続きを促す。
電話の向こうの彼女は小さく息を吐いて──重苦しい空気のまま、声を発した。
『彼女は……まだ私を赦してはくれないのでしょうね』
「あー……」
……なにを持って許したとするのか。
そこが噛み合わない以上、彼女の求める許しは決して与えられないのだろう。……とは言えず、なにを述べるべきかわからずに口ごもる。
『……演劇祭に生徒会名義で、一つ演目を提供することになりました』
「そりゃまた、急な話だな」
そうして逡巡しているうちに、生徒会長が本題を切り出した。
内容は演劇祭について。……まるでこちらに宣戦布告するかのようなその行動に僅かに眉を顰めるが、続く言葉に呆れのため息を返した。
『……彼女のお膳立てです』
「そのお節介を他所に回せよあの人……」
愉快犯めいているが一応は善意の結果である彼女の行動に、自分含め多数の人が振り回されてきた。
……あの人もあの人で罪悪感に苛まれているところがあるのが、さらにややこしい。
うちの幼馴染みはどうしてこうもまぁ、だなんてため息を漏らしても仕方がないと思う。
変に拗らせていない分、後輩と転校生の方が遥かにマシだと思えるくらいだ。……いや、転校生もちょっと拗らせてるところはあるが。
素直に見てられるのは寡黙な後輩くらいのものである。……いや、あっちはあっちで寡黙と言うには少しばかり個性的ではあるけども。
「……ん、まぁ、わかった。こっちも相応にやるように言っておく」
『いえ、伝達は私のほうから行います。貴方には、普段通りに振る舞って頂きたいのです』
「余計な心労を掛けないように、か?……気にしすぎ、って言っても聞かないんだろう?」
こちらの言葉に彼女は勿論です、と声を返してくる。
変に頑固な彼女のことである、こちらの忠言は暖簾に腕押しのようなものだろう。
……結局、彼女自身が納得しない限り、答えにはたどり着かないのだ。
『今度こそ、私は勝ちましょう。勝って、彼女に告げるのです。──もう、頑張る必要はないのだと』
───彼女が張り合うのは結局のところ、小学生の頃の幼馴染み──その幻影を追い続けているからだった。
猫被りしている時の我が幼馴染みが、当時のそれに近似しているのもややこしさを助長している。
ついでに言うなら、件の彼女も幼馴染みの幻影を追い掛けている一人だ。……毒婦かなんかか、あの時の幼馴染み。
転校生はそのあたりを切り分けているからどうにかなったが、ある意味で渦中にいた二人は、未だその幻影を見続けている。
……外から諭したところで、止まらないだろう。
言うだけ言って通話を切った生徒会長になんとも言えない気分を覚えながら、俺は長いため息を吐くのだった。