百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「……由々しき事態だ」
「ゆゆ式時代だ?」
「違う!……いや無関係とも言い辛いけど違うの!」
後輩ちゃんが投げた言葉に否と返しつつ、机をバンッと叩いて立ち上がる私。
室内に居た部員たちはなんだなんだという感じでこちらを見ていたのだが、そもそもその反応が返ってくる時点で色々おかしい。
「百合を、私は百合を求めていたはずだと言うのに……!これじゃあよくて普通の学園モノだよ、下手すりゃ単なる喋り場だよ……!!」
「……言うにこと欠いて現状への不満を投げ出したぞコイツ」
幼馴染みが呆れたような声を上げるが、私は止まらない。
……だってさぁ、だってさぁ!?
生徒会長からはなんか仁義なき抗争仕掛けられるし、最近やったことと言えば同胞と遊びに出かけたとか、紡ぎ手ちゃんに癒やされたとかだし!!
……擬似キマシタワーはあっても、百合のゆの字にも掠ってないじゃん最近の私!
百合の看板背負ってるくせになにやってんだコイツとか思われても仕方ないじゃん!?
どうしてこうなった!
「どうもこうも、貴方の理想が高すぎるだけでしょう?」
「どこがさ?!私は普通にゆりゆりできれば満足なんだよ!?」
「……希望する形式は?」
「マ○みて」
「現実見なさい、以上」
「
熱い思いの内を語ったら、素気なく切り捨てられたでござる。どうしてそういうこと言うの転校生ちゃん!?
……いやまぁ、ここでいきなり襟を正して、
「転校生さん、タイが曲がっていらしてよ」
「あらあらうふふ」
……とかやり始めても、周囲からはついに狂ったか、としか思われなさそうだけどさ!!
それでも、曲がりなりにもユリーレムを目指すものとしては、妥協しちゃダメなときだってあるんだいっ!!
「……今原稿どこまで進んでるんだ?」
「
「なるほど、スランプなのね」
「冷静に分析するの止めようっ!?」
これだから察しのいい人達はさぁ!?
裏の理由をさっくり見破られた私は、小さく呻くしか無いのでした、まる。
「と・に・か・く!!今日は百合分補給にあてます!以上!」
高らかに宣言したところ、みんななんとも言えない表情。
……イヤというわけではなさそうだけど、じゃあなにするの?とでも言いたげな表情だった。
そりゃ勿論、思う存分ゆりゆりしてだな……。
「……てぇてぇって、なんだ?」
「なんかいきなり幼馴染みのアイデンティティが崩壊した件」
「い、いや、違うんだ同胞。わかってる、わかってるんだ。女の子同士の絡み、エモいという感情を想起するもの。きゃっきゃっうふふの極致。頭では、わかってるんだけど……」
「だけど?」
「……私はみんなとどう接すれば、エモみとかてぇてぇを発生させられるのですか……?」
「ええ……?」
同胞がなに言ってんだコイツ、みたいな視線を向けてくるが、私としては至極真面目な話だった。
中身がおっさんみたいな奴は、所詮は見た目でしかてぇてぇを……ひいては百合を発生させられないのでは?
それは真のてぇてぇなのか?キマシタワーと呼んでいいものなのか?
……い、いや!チューバーとかはおっさんみたいな性格の人でも、じゃんじゃかてぇてぇを発生させている、はずだ。じゃなきゃあんなにスパチャが飛び交うわけがない!
「……なんか色んなところに喧嘩売ってないか?」
「ちちち違うよ喧嘩なんて売ってないよ!羨ましくはあるけど!」
てぇてぇしてお金まで貰えるとかとっても憧れるよ!
……そっちも喧嘩売ってないか?と言われたけどとりあえずスルー。
とはいえ、問題は振り出しに戻ってしまう。
……気安くてぇてぇと口に出していたが、そもそもてぇてぇとは一体なんなのか。
雰囲気だけを見て、本質を掴みきれていなかったてぇてぇという感覚。
……今一度、てぇてぇについて真面目に考える必要があるのではなかろうか?
「深刻そうに話してるのに、その内容がてぇてぇについてだからなんにも頭に入らねぇ」
「幼馴染みさんの目が据わってます!怖い!」
「まぁ、幼馴染みさんの気持ちもわからないでもないわね。……今さらなにをうだうだ言っているのだか、って」
「
なんか外野が騒がしいですね……。
いや、まぁ確かにわけわからんこと言ってるなー、とは自分でも思うのだけれど。それでも、一度気になり出すともうダメというか……。
と、言うようなことを説明したところ。転校生ちゃんが、小さく息を吐いて笑みを浮かべた。
……いや、ただの笑みではない。
悪いことを思い付いたときのような、引き込まれるけどできれば見続けたくない類いの笑みだ。
えっと、転校生さん?一体なにを思い付きになられたのでございましょうか?(震え声)
「そう。つまりは、ドキドキしたいのね?」
「……へい転校生ちゃん、多分なんか勘違いしてる!絶対勘違いしてる!!しちゃダメな類の勘違いしてるよユー!?」
ドキドキの意味が違うモノが飛んで来る予感しかしないんですけど!具体的には寿命が縮む類いのやつ!
というかゆっくりと近寄ってくる転校生ちゃんの笑みが、どんどんヤバい感じに深まっていくものだから、すでに悪い意味でドキドキしてるんですけど私!!?
「さぁ、観念なさいな」
「う、うわああぁああっ!!?」
や、止めてくれぇー!!?
そんな懇願は届かず、私は転校生ちゃんの魔の手に落ちるのだった。
「ストレートばかり、と言うのも勿体ないと常々思っていたのよ」
そんな転校生ちゃんの言葉と共に、私は彼女のオモチャになっていた。……うん、ぶっちゃけると髪をあれこれ弄られている。
後輩ちゃんとお揃いのポニーテールから始まり、後ろで三つ編みにしておさげを作ってみたり、はたまた両サイドで括ってツインテールにしてみたり。
私は髪が短いから、あれこれアレンジできるのは羨ましいわね───などと言われながら、彼女にされるがままに髪型を変えられていく。
……うん、驚くほど普通だった。
さっきの悪魔の笑みから想定されるような恐ろしいことは一切なく、ただただ髪を弄られる時間が続いていく。
……単に髪を弄られてるだけなのに、なんか小恥ずかく感じるのはなんなんだろうね?
「そうそう、可愛いわね、流石よ」
「ほら、じっとして」
「そう、身を委ねて」
──それにしても。
転校生ちゃんの声色がいつもより優しいからか、はたまた髪を触る手付きが穏やかだからか知らないけれど。
……こうして座って髪を弄られていると、なんだか意識がボーッとしてくるような。
「寝てもいいわよ、ほら、肩から力を抜いて」
「なんにも考えなくていいの、今はただ、私の手にだけ集中して」
「ねぇ、気持ちいいでしょう?」
「ほら、ゆっくり息を吐いて」
……………あー、……これ寝落ちする、やつ…………。
「……そう。夢の中なんだから、もっとリラックスして」
「私の言葉に、ずーっと従って居たくなるけれど。それは仕方のないことなのよ……?」
「さぁ、もっと素直になりましょうね……?」
……………、……………。
「なにやってんだお前」
「……あ痛ぁっ!?ちょ、幼馴染みさんっ!?今本気でチョップしたわねっ?!」
「壊れてるやつには四十五度チョップ、これ常識」
「あ、ちょっ、止めっ、いたたたたっ!!?」
「………ふぇっ!!?」
……お、おお?
転校生ちゃんのあげた大声に、飛んでいた意識が戻ってきて、思わず周囲を見回してしまう私。
……な、なんか今、ヤバいことになっていたような……?!
寝ぼけ眼のまま後ろを振り返れば、幼馴染みが転校生ちゃんに対し、不気味なくらいに凪いだ表情のまま、びしびしとチョップを叩き込んでいるのが見えた。
え、なにこの状況。私がボケッとしてる間に一体なにが!?
「……完全に催眠音声でしたね、さっきの!」
「
後輩ちゃんと紡ぎ手ちゃんが、仲睦まじそうに何事か話している。
それを横目に、私は部室内を鬼ごっこしている二人を、慌てて止めに入るのだった。
「……酷い目にあったわ」
「酷い目にあわなきゃ覚えないだろうが」
『私は部長を洗脳しようとしました』、という言葉が書かれたスケッチブックを持った転校生ちゃんを前に、私は幼馴染みに視線を向ける。……まるで般若のような形相だった。幼馴染みちゃん顔こわっ!?
一体私が気を飛ばしている間に何があったんだ……?っていうか洗脳ってなに(恐怖)
そう思うも微妙に切り出せず、代わりにおほん、と咳を一つ。
「えっと、反逆者?転校生ちゃんは何か弁解はありますか?」
「百合がしたいと注文されたので、可能な限り希望にそっただけ。だから私は悪くない……そうよね?」
「
「あ、アンタほどの
「ちょっと!?これどう考えても出来レースじゃないのよ!?」
裁決を下す幼馴染みの、あまりの剣幕に押されて思わず納得してしまう私と、こんなの無効よーっ!!と叫ぶ転校生ちゃん。……いや、なんだこの状況。
……わ、私が百合を求めたというだけで、二人がこうまで壊れてしまったというのか……?おのれ、許さんぞ通りすがりの人ぉーっ!!
「流石にここで通りすがりの人に罪を擦り付けるのはどうかと思います!」
「あ、はい。ごもっともでございます」
後輩ちゃんにビシッと叱られてしまった。
……うん、なんでも他人のせいにするのは良くないよね……。
「なのでえーっと、罪状がはっきりしてるので、転校生ちゃんは有罪でございます。一週間おやつ抜きになりますのでそのつもりで」
「……いえ、部活なのだから大した罰は飛んで来ないとは思っていたけれど。……思いの外軽い罰ね、それは」
「その間出されるおやつが、全て幼馴染みが作ったものだとしてもかね?」
「……!?」
「おいちょっと待て」
罰が与えられるということに対して戦々恐々としていた転校生ちゃんだったが、告げられた罰を聞いてちょっと拍子抜けしたような顔をしていた。
……その後で詳しく説明をしようとしたら、何故か幼馴染みまで一緒になって驚愕していた件について。……いや、なんで転校生ちゃんだけ罰があると思ってるん?
「必要だったとはいえ、いたいけな女の子を追いかけ回してチョップをしてたんだから、罰の一つくらいあってもおかしくないと私は思います」
「……マジで?」
「マジです。……よくわかんないけど、私のためだったみたいだし、おやつ作成だけで許すけど」
「マジかー……」
「いやちょっと待ちなさい!裁判長!減刑!減刑を要求します!もしくは証人尋問!」
「そんなものはない」
「あああああああ」
「転校生さんが『あ』だけを生み出す機械になっちゃいました!」
「
喧嘩両成敗、ってわけじゃないけれど。
こうして、唐突に始まった文芸部裁判は幕を閉じたのだった。
……いや、どうしてこうなった?