百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界に転生したら最後のヒロインが残念すぎる件について

「えっと、なんの話してたんだっけ……?」

 

 

 唐突に始まった部活裁判で、転校生ちゃんがおやつ抜きの刑を執行される……という、なに言ってるのかよくわからない案件にぶつかってしまったがために、その前になにを話していたのかすっかり忘れてしまった私。

 

 ……なんだけど、それを聞いた周囲は、なんとも言えない表情を私に返してくるのです。

 えっと、これは「マジかお前」的なやつ?……ではない?じゃあ「今さらそれ聞く?」的な?……これも違う?

 じゃあなんなのかと問いかけようとしたとき、急に部室の扉が開いた!

 そしてその向こうには、一つの人影が……!

 

 

「それは……私が解説しましょう……」

 

 

 声を聞いた私は人影が誰なのかを認識して即扉バーン(を閉めて)!鍵ガチャー(を掛けた)!!

 ……はい、私はなにも見なかった。見なかったからなんにもいませんでした!いいですね?!

 

 

「……言い難いんだが」

「ん?どしたの同胞、微妙な顔をして。悪は去ったぞ喜びな!」

「もう中にいるぞ」

what's(なんで)!?」

 

 

 同胞の指差した先には、椅子に座って今日のおやつのシュークリームを一つ頬張りつつ、こちらに小さく手を振る女性の姿。

 ……なんで中にいるのこの人!?閉めたよね、私今扉閉めたよね?!

 そんなこっちの混乱は知らぬとばかりに、目の前の女性──この学校の教師の一人である女性は、大きなクマのある目を細めつつ、にこやかに答えを告げるのだった。

 

 

「ふふふ……他の先生に……手伝ってもらったのよ……」

「ぅえっ!?……あ、ホントだ、外にいるの現国の先生だっ!?」

 

 

 またなにか弱みでも握って協力させたなこの人!?

 

 閉じた扉を開いて外を確認してみれば、部室の壁に背を預け、視線を中空に彷徨わせながら黄昏れる現国教師の姿が。……わざわざウィッグまでつけてシルエットを近付けているあたり、なにか薄ら寒いものを感じなくもない。

 こちらの視線に気付いた彼女は、全てを諦めたような笑みでこちらに会釈を返した後、トボトボと歩き去っていった。

 

 ……なにを掴まれたんだあの人、そしてなにやってるんだこの人。

 若干の戦慄と呆れを浮かべながら室内に戻れば、件の女教師……もとい、私の父方の親戚の姉ちゃんである彼女は、ニコニコと笑みを浮かべて私が戻ってくるのを待っていた。

 

 

「……それで、一体なんの用でしょうか先生?」

「もう……教室の中でもないのだから……もっと気安くても……いいのよ……?」

「部室は教室ですよ先生」

「……ふふふ……ああ言えば……こう言う子……」

 

 

 ぴしゃりと言い返せど、彼女のペースは揺るがない。

 ……うう、昔からホント変わんないなこの人……。

 

 なにがとは言わないが、私はこの人が苦手である。

 見た目は一人でなにもできない陰キャ系なのに、実際はさっきみたいに人の弱みを握っていいように使うし、普通に仕事もテキパキこなすし。

 かと思えば私に対しての接し方は見ての通りあまあまのあまだしで、ギャップが強すぎてちょっと対応の仕方がわからないのである。

 

 あと年上なのも地味に対応に苦慮するポイントだったりする。

 ……忘れてるかも知れないけど、私こう見えても転生者なので、前世と合わせれば普通に彼女より年上なのです。

 ついでに言えば前世では長男だったので、兄なり姉なりがいる、という感覚もよくわからない。

 結果として、距離感の近い親戚の女性、というものにどう対応していいやら判別に困っているのだった。

 

 ……百合ゲー世界なんだから普通に甘えればいいだろうって?

 違うんじゃいバブみ方向に流れるのは違うんじゃい……。私は精神的に対等なお付き合いがしたいんじゃい……。

 それが高望みだって?仰るとおりですが私は自分を曲げないよ!……いやなにと戦ってるんだ私は?

 

 

「ほら……お隣どうぞ……?」

「向かい側に座りますねー」

霊峰の先に未開の秘境を見たか(な、なんというか初めて見る部長さんです)……」

「……ちょっと冷たい感じの先輩もありありのありですね!」

「若干ツンツンしてるわね、見てる分には良いと思うわ」

「おい、戻ってこいそこのバカ二人」

 

 

 ……外野が相変わらず和気あいあいとしてるなぁ!!

 できれば対応するの変わってくれない?!……みんなして目を逸らすんじゃないよぉっ!!?

 

 誰も変わってくれないので、仕方なく先生の向かい側の席に座る私。……と。

 

 

「……ふふふ……捕まえた……♪」

「……はぎゃーっ!!?」

 

 

 意識の隙間を突かれ、机越しに胸元に抱き寄せられてしまう私。

 ……普通なら喜ぶんだけど、この人相手だと喜んでらんないんだってば!!?

 無理やり拘束を抜けて、そのまま席を離れて同胞の背中に隠れる。

 

 

「ふしゃーっ!!!」

「……いやどんだけ苦手なんだよ」

「ふしゃーっ!!!!」

「ひ、人の言葉を忘れている……」

「ええ、どういうことなんですかこれ?」

「……ふふふ……いつも……通りね……」

「ふしゃーっ!!!!!」

九の命持つ神獣、か(最早猫ですねこれ)

 

 

 ふしゃーっ!!!!!!

 

 

「……かわいいかわいい……従妹の姿を……いつまでも……見ていたいけれど……用件を……言うわね……?」

「さっさと言ってさっさと帰れふしゃーっ!!!」

「ええい、背中から威嚇するなっ」

 

 

 やかましい、盾くらいなってくれ同胞!

 この人相手だと迂闊に目も逸らせないんだよ、わかってマジで!

 

 そんな私達のやり取りを見ながら、クスクス笑っている先生。……くそぅ、楽しそうに笑いやがってぇ……。

 そうして笑いながら、彼女はとんでもない爆弾を投下したのだった。

 

 

「……演劇祭。……貴方達は……作った台本で……()()しなさい……」

「は?」

「え、そもそもそのつもりだったのでは?」

「違うぞ後輩ちゃん!この人が言ってるのそういう意味じゃない!」

 

 

 また無茶苦茶言い始めたよこの人!口に出したってことはもう諸々の根回しは済んでるんだろうね絶対!!

 

 私が若干錯乱ぎみなことを疑問に思わずにいるのは、目の前で私の盾になって先生の前に立っている、我が幼馴染みくらいのものだろう。

 ……いや、驚愕の表情を浮かべているあたり、紡ぎ手ちゃんもわかってるっぽい?

 

 そのわかってる側とおぼしき紡ぎ手ちゃんが、おずおずと口を開く。

 

 

師よ、汝が言葉は(それは、もしかして)舞台にて踊り狂え、と告げるか(劇の役者もやれ、ということですか)?」

「……え?え?」

「……私、部長さんの気持ちがよくわかったわ」

 

 

 なに言ってるのつむちゃん、と言いたげな後輩ちゃんと。

 先生から視線を外して天を仰ぐ転校生ちゃん。

 そんな私達を見ながら、先生は。

 

 

「……正解……♪」

 

 

 紡ぎ手ちゃんの言葉を、微笑みながら肯定するのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 まさしく嵐が過ぎ去ったような室内で、私達は沈黙を保っている。

 

 先生は言うだけ言って、さっさと出ていってしまった。

 ……そのためだけにここに来たのだろうから、伝え終われば去るというのはわかる。……わかるけど、納得できるものではない。

 というか今気付いたけど、生徒会長を焚き付けたのも先生でしょこれ。……ホントなんというか、トラブルしか持ってこないなあの人……。

 

 原作でのあの人も、トラブルメイカーと呼ぶしかないような人だった。

 

 ──文芸部の顧問であり、善意でトラブルを呼び込む問題児。

 かつ、原作においてヒロインに数えられる最後の一人。

 ……ラストはまさかの教師と生徒の百合であった。歳の離れた従姉の教師との百合とか色々ニッチすぎない?

 

 まぁ、原作ではわざとトラブルを起こしてるわけじゃなかったり、目元にあんな大きなクマとかなかったりで、明らかに現在の彼女とは違ったんだけど。

 ……いや、一応持ってくるトラブルの規模も違ったけどさ?

 

 因みに原作のほうがヤバいトラブルを持ってきていたので、選んで持ってくるこっちと、わざとじゃない向こうでは傍迷惑さは多分同じか、下手するとこっちのがマシかも知れなかったりする。……それマジで言ってる?

 

 

「……まぁ、できるギリギリを見極めてるみたいだからなぁ」

 

 

 ──乗り越えられないトラブルは、決して持ってこない。

 それが彼女の信条なのか、はたまた微笑みながら選んでるだけなのかはわからないけど。

 今回のこれも、乗り越えられるギリギリを見極めた結果だ……ということは確かだろう。ただまぁ……。

 

 

「だったらもっと早く言って欲しかった……」

 

 

 私が頭を抱える一番の理由はそれに尽きる。

 

 ……(勇者)(魔王)の恋愛もの、という風に想定していたのを、今さら変えられる筈もなく。

 ついでに言うなら、舞台としてちゃんと成立させるつもりなら、役者と性別を合わせる必要だってあるだろう。

 ……つまりは、だ。

 

 

「……俺ほぼ確定じゃん」

「え?あ、そっか男性役……」

「今の時代、男役を女性がやってもいいとは思うけれど。……そうじゃないんでしょう?」

 

 

 目蓋の上に手を当てどうしてこうなったと唸る幼馴染みと、その言葉を聞いて唖然とする後輩ちゃん。

 それを横目に声を投げ掛けてくる転校生ちゃんに、頭を抱えながら頷き返す。

 

 別に私が勇者で、魔王役を他の誰かにやって貰う、という形でもいいかもしれない。

 ……けれど、それはちょっと違うのだ。

 

 同性間の恋愛と、異性間の恋愛は、同じものではない。

 

 男の娘と女の子の恋愛を百合として出されても、それは百合か?と首を捻るか、それは百合じゃねぇ!と怒り出すか、それも百合かも?と納得するか……みたいに、皆の反応は別れるはずだ。

 それは、愛があれば許されるとまで言われるこの世界でも変わらない。

 

 ……そのあたり、結構感覚的なところが強いので言語化が難しいのだけれど。

 少なくとも、私が勇者で誰かに魔王をやってもらう場合には、さっきの百合云々みたいな葛藤を経る必要があるのは確かだ。

 

 性別上は女性である私(中身男)が、男性を演じて女性との恋愛を描く場合。それは百合なのか、はたまた普通の異性間の恋愛なのか?

 ……どっちなんこれ?ts少女を男装させてしまうのは、ちょっと男性成分強すぎるというか、それもう普通に男で良かったのでは、ってならない……?

 

 

「わからん……なんもわからん……」

「えっと、先輩はどうしてここまで苦悩しているんでしょう?」

「異性間の恋愛として書いたものに、後から百合をぶち込むのは違うのだ、みたいなこと言ってたからなぁ……」

 

 

 上等な料理にハチミツを塗りたくるかのごとき思想!

 ……みたいな話があるけれど、料理によってはハチミツがあうものもあるんでそこら辺ピンキリだよね、って感じではあるんで全部が全部ダメだとは言わないけど。

 でもまぁ、異性間の恋愛が売りの作品を、二次創作で百合にしちゃうのは、よっぽど上手い人じゃないと基本駄作になるんじゃないかなーというか……。

 うーん、なんだろうこのなんとも言えない葛藤……。

 

 まぁ、そのあたりの微妙なところを抜きにしても、問題はまだ残っているのだけど。……いやね?

 

 

「同胞を勇者役にして魔王役を誰かにやらせるって、それは最早寝取られを通り越して寝取らせなのでは……?」

「唐突になに言ってるんだこいつ」

 

 

 残念なモノを見るような視線が幼馴染みからバシバシ飛んでくるけど、仕方ないんだよ!

 

 魔王を誰にやらせても!見てるこっちからしたら!自分から妻を送り出した、顔の描かれてない夫の気分になるんだよ!

 寝取られ・間男殴っ血KILL(ぶっちぎる)派の私は、その場合同胞を殴り倒さねばならなくなってしまう……!

 そんなん流血沙汰でバッドエンドじゃないですかやだー!

 

 

「……ふむ。つまり、勇者役は幼馴染みさんで決定しているけれど、魔王役が決めきれないってことね?」

「え?あーうん。そうなるねぇ」

「なるほど、じゃあ答えは一つね」

「はい?」

 

 

 そうして七転八倒している私に、転校生ちゃんが笑顔で告げる。

 

 

「貴方が、魔王役。──図らずも、いつかの言葉通りになったわけね」

「………はい?」

 

 

 …………なんですと?

 

 

 

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