百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「──せいっ!!」
「なんのっ!」
竹刀を持つ幼馴染みに対して、こちらは長い棒を振り回して隙を狙う。……狙いすぎると目的にあわないので、あくまでもほどほどに。
上段から振り下ろした棒は、狙い違わず同胞の頭上に向かい、これまた狙い通りに同胞が横に構えた竹刀によって防がれ、拮抗状態に移行する。
ある程度押し合いをしたのち、互いに後方に飛び退いて体勢を整え──、どちらからともなく互いの得物を下ろした。
「……なんつーか、意外と難しいな
「舞台の上だともうちょっと大変になると思うから、ある程度は慣らしとかないといけないんだけど。……力加減とか難しいね」
手を抜きすぎると迫力が失せるし、かといって本気でやり過ぎたら怪我しそうだし。……丁度いい動き、というのは何回も練習して覚えるしかなさそうだ。
「重さとかはどう?振ってるうちに疲れるようなら、もう少し軽くするけど」
「俺はこんなもんでいいかな、軽くしすぎると迫力に欠けるし」
「私はもうちょっと軽いほうがいいかな、長いから動きが振り回されちゃうや」
傍らに控える転校生ちゃんは、私達の注文を聞いて手元のメモになにやら書き記している。
それと、その後方で木陰に座った紡ぎ手ちゃんが、私達と自身の手元の用紙に視線を交互させながら、原稿を書き進めていた。
後輩ちゃんは、その横で彼女に飲み物を渡したりしている。……徐々に暑くなってきてるし、さもありなんってところだろうか?
はてさて、私達がグラウンドの一角を借りてなにをしているのか、といえば。
なんのことはない、役作りの一貫としての『動き』の練習だった。
「現実に魔法とかないから、結果的に魔王が杖で直接殴ってくる件について」
「所詮は学生がやる舞台だからなぁ」
「……プロなら魔法が使える、みたいな言い草だねそれ」
木陰で休憩を取りながら、幼馴染みと会話をする。
……魔法使いらしい大きな杖を自在に操り、相手を撲殺しようとしてくる魔王──という字面だけ見ると、なんとも言えない気分になる。
なので、せめて迫力ある演技にしようという面が、この動きの練習にはあったりする。……それも可能な限りスタイリッシュに、だ。闇雲に杖を振り回して殴り倒そうとする魔王様とか、可愛いとは思われても恐ろしいとは思われないだろう。……やり方による?この場合恐ろしくなってもホラー方面だと思うんだよなぁ……。
それと、舞台上では単純な体の動きに加えて、声や身振りでの演技も必要になる。
……喋りと動きを、演じるキャラクターにあわせてしっかりこなしていくとなると、途端に難易度が上がる気がしないでもない。
なので、何度も練習して、できる限り失敗や動揺を無くしていきたい──という面も少なくない。
当然、練習にも熱が入る。……のだけど。
「戦闘風味に棒振り回すのが、こんなに大変だとは思わなかった」
「あー……」
遠い目をした私に、主な被害者である同胞がなんともいえない呻き声を返してくる。
棒を振り回すだけなのに難しいとは?と思われるかも知れないが、これが結構大変なのだ。
一番最初に躓くのが、「振り回すのが単純な棒じゃない」というところ。
……見てもらえればわかると思うんだけど、魔王の持ってる杖って典型的な
これを振り回すとどうなるのか。……バトンみたいにくるくる回してるうちはいいのだけど、いざ相手に向けて振るとなると、勢いが付き過ぎるわ手の中からすっぽ抜けそうになるわで、正直「誰だこんなの使わせようと思ったやつぅ!!」ってなったのだ。……主犯は私なので誰も責められねぇ……。
わかりにくければ、長い柄のついたハンマーを振り回すようなものだと思ってもらえばいい。
要するに、人に向けて振ると得物の重さで体を引っ張られるので、うまいこと加減ができないのである。
実際、この練習中にも何度か幼馴染みがたんこぶを作りそうになったり、勢いよく私の手から飛び出した棒から紡ぎ手ちゃんたちが慌てて逃げたりなど、幾つかのヒヤリハットが発生していた。
……そりゃ小学校とかでむやみにトンカチとか振り回すなって言われるわ、これ結構筋肉ついてないと寸止めとかムリのつぶてでしょ?
完璧美少女なんだからなんとかしろって?流石に薙刀術とかは習ってないんで、流用できそうな経験がないです。
そう、そこがもう一つの難点。
……長時間物を持って振る、というのは。そういった武術を習っているとか、はたまた農家で鍬を振ってるとかでもない限り、意外と経験がないものである。
そして、仮に経験があったとしても、それを他人に向けて振るというのは──想定していないか、想定して怪我のないようにした得物を振る、という対策が施されている。
では、改めて私が振ってたものを見よう。
木の棒です。先の方に本番で持つ杖と同じ比重になるように重りを括り付けた、木の棒です。
……人に向けて木刀振るなって教わらなかったのかよテメーっ!?……いや問題はそこじゃなくて。
こんなんずっと振り回せとか私を殺す気か!ということが問題なのである。
木刀の素振りとかをやったことがある人ならわかると思うのだが、始めたての時には五十回もいかないうちに腕が上がらなくなる。
それを何度もこなしていくことで、次第に百回を超える素振りも行えるような筋肉が付いていくわけだ。……そこまでやって、やっと得物の重さに振り回されないようになるわけである。
つまり。
今の私は、慣れない得物を、慣れない動きで振り回しながら、相手に怪我をさせないように注意しつつ、できうる限り勢いを落とさないように心がける……というようなことを要求されているわけである。
……なんだこれは?私に求められる操棒技術が、最早プロに投げろよみたいなことになっている……?!
「私は華奢な美少女なんですよ……肉体労働は専門外なんですよ……」
「形にできてるあたりは流石だなって言っておくよ」
「嬉しくなぁーい……」
完璧美少女ハイスペックボデーのポテンシャルでごまかしてるけど、正直今日はもう棒を振れる気がしない。
手の中から棒がすっぽ抜けたのだって、棒の振り過ぎで握力が弱くなってきてるからだし。
そもそもそんなに疲れたこと自体、この棒が振り回しにくいせいで、動きを抑えるのに余計な力を使ってたからだし。
……ただまぁ、武器同士での押し合いを考えるとあんまり軽い得物にもしづらいんだよなぁ、打ち合ったときに壊れそうで。
「実際の舞台ではプラスチック製の武器になるでしょうけど、強度的に考えると重さは然程変わらないわね」
「だよねぇ……」
転校生ちゃんの言葉に、がっくりと肩を落とす私。
発泡スチロール製とかにすれば軽くはなるだろうけど、押し合いとか打ち付けるとかは基本論外になるだろう。だったらプラスチック製になるわけだが、こっちもこっちで強度の面からすると重さは木製のものと然程変わらなくなる。……怪我をし難くなることだけは救い、かな?
「まぁ、諦めて素振りだな」
「おのれ同胞、自分は軽い得物だからっていい気になりおって……」
「お前の危なっかしい棒捌きの前に放り出されてるんで、これくらいは許してもらわないと困る」
「どっちもどっちで大変というわけね、起因は部長さんだけど」
「なしてや!なしてワイが悪いみたいになっとんのや!!」
どうせならカッコいい魔王やるー!って言い出したの私の方だから仕方ないけどさ!
二人からの弄りを左右に捌きつつ、嘆く私なのであった。
「うおおお!杖で
「おいバカ落ち着け!?疲れてるからか知らんがキャラがおかしくなってるぞ!?」
「ふはははははー!!憑かれてるようなもんだから是非もないね!!」
「やっべぇこれ止められる気がしねぇ!!?」
そうして練習を続けていたところ、唐突にテンションがマックスになった先輩が、謎のハイテンションで幼馴染みさんに襲い掛かり始めたのです。
見ている分にはとても楽しそうなのですが、渦中の幼馴染みさんからしてみれば堪ったものではないでしょう。なので止めるべきかな、と思っていたのですが。
「限界まで動けば止まるでしょう、下手に割り込むほうが危ないわよ」
「……それも確かに!」
転校生さんがやんわりとこちらに忠告を下さったので、私は思い留まることができたのでした。
まぁ、横のつむちゃんはずっとあわわと慌てていたのですが。見た目に反して結構小動物染みてますよね!
そうして慌てているつむちゃんを落ち着かせるように、転校生さんが彼女の手元の原稿用紙を見詰めながら問い掛けます。
「ところで。紡ぎ手さんは原稿、どこまでできあがったのかしら?」
「
「……確かに、二人がどこまで仕上がるかわからないけど、負担は減らすべきだものね」
つむちゃんが語るところによれば、先輩や幼馴染みさんの負担を考慮して、当初予定していた二人の戦いの部分を大幅に削るつもりなのだそうで。
……ただ、登場人物は基本的に二人きり。あとは出番も少ししかない王様などの端役ばかりであるため、冗長になりやすい二人の会話部分をどうするか、で悩んでいるみたいでした。
「スマホゲームの文章がぶつ切りになるのと似たような感じね、こっちはわざと戦闘を挟んで物語の緩急を付けようとしてるから、実際の用途は逆だけれど」
転校生さんがなにやら頷いています。
……長い話というのは、単純に聞いていると緊張や集中が切れやすいものなので、間に動きを挟んで適度に緊張感を取り戻させる必要がある……ということでしょうか?……ところで。
「おや、転校生さんはスマホでゲームをされるんですか?」
「……ちょっとだけね、付き合いで誘われたものとか、色々よ」
私の問い掛けに、転校生さんがふいと視線を逸らします。
……付き合いとかではなく、自分から進んでやってますねこれは。
「なるほどなるほど!転校生さんは他の生徒さん達からの人望も厚そうですしね!」
「……わかってて言ってるわね貴方?」
はてさてなんのことやら?
先輩が力尽きて倒れるまで、私達の楽しいお話は続くのでした。
「……