百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「それにしても……」
「なんだよ?」
家を出て、駅までの道を五人で歩いている私達。
ふと視線を幼馴染みのほうに向けると、彼は怪訝そうな顔でこちらを見返してきた。
その格好は、普通に男性が着るようなもので。
「今日は、この前みたいに女装してくれないんだね」
「……いや、男女比率考えろよ。また絡まれるぞ?」
私の残念がる言葉に、同胞からはもっともな言葉が返ってくる。
……うん、いやまぁ、確かにそうなんだけどね?
折角美少女を侍らせてるというのに、同胞だけ男性の格好だとなんかこう、ちょっともやもやするというか……。
言い方がアレだぞ、とツッコまれつつ、なんとも言えない気分でむぅと唸る私。
……いや、わかる。わかるんだ、同胞の言いたいことは。
そもそもこの世界、同性でも異性でも付き合うことに支障がないし、なんだったら重婚ありなので、複数人と付き合っていたとしても別に咎められることはない。
……いやすまん嘘言った。
無理やりっぽい要素が欠片でも見受けられたのなら、周囲から凄まじい侮蔑系の視線に晒されるうえ、最悪の場合は通報されかねない。……なので、実質的にハーレム展開っていうのはある程度覚悟している人達にしかできません。……覚悟してたらやれるわけだけど。
ともあれ、私達の集団に関しても誰を主体にしたものなのか──というのは、外からでは判断できないわけで。
結果として、周囲からは単なる友達集団として見られている可能性が一番高い──ということはわかっているのだ。
だからこそ、この間みたいにナンパとかされるかも知れないぞ……という予想により、先んじて同胞が『男性がいる』と主張することで、周囲に
そこに下心とか一切ないんだってことも、全部わかっているのだ。
……だけどねぇ、だけどねぇ!
「これじゃうちの同胞が、女の子をたくさん侍らせてる、稀代のハーレム王にしか見えないじゃないですかやだー!」
「なんだこの凄まじいまでの風評被害」
こんなん、パッと見たら同胞ハーレムにしか見えへんやんけ!違うの主体は私なの!部長たる私が天に立ってないのはおかしいの!
そんな感じのことを述べると、同胞は風評被害にもほどがある、と渋い顔。
「でも、ナンパ避けとして活用するつもりなら。……幼馴染みさんが中心だ、って思われたほうが好都合なんじゃない?」
「…………」
そこに、横から転校生ちゃんの援護射撃が飛んでくる。ナイスアシスト、流石帰国子女!(?)
ゆえに、この場で畳み掛ける……!
横の後輩ちゃんに目配せをすれば、彼女は一瞬不敵な笑みを浮かべていた。……これなら、イケる!
「そーなんですよ転校生ちゃん!!なしてまた寝取られ気分味合わねばならんのですか私!?」
「その場合は寝取られた側の先輩も、一緒にハーレムに取り込まれちゃってるんじゃないでしょうか!」
「いやなに言ってんだお前ら?!」
「なんとぉ!?いつの間にか私まで同胞に手篭めにされていたのか……!?なんて卑劣な男なの!変態!悪魔!鬼!緑の事務員!」
困惑する幼馴染みに口撃を重ねていけば……。
……決まったぁー!!百合の間に挟まったんじゃなくて、百合を二本とも手折って持ってったヤベーやつの完成だぁー!!
……うっ、持病の寝取られ・間男
そんな私の内心の葛藤には気付かなかったらしい幼馴染みは、周囲に落ち着くように言って聞かせながら、小さく頭を振った。
「おーけいおーけい、わかったわかった。……なにが欲しいんだ?」
「いえー!みんな同胞がアイス奢ってくれるってー!」
「はいはいわかったわかった。……たく、最初からそう言えよな……」
──勝ち申した。
三位一体の同胞追い詰めの陣は
これより我らは氷菓子の選定に移る……、いやなんだこのキャラ?
いやまぁ、同胞に恋バナとか早い早いなので。なんの心配もしてないので。全部茶番でしたので!めでたしめでたし!
「本当にめでたしめでたし、かしらね?」
「……転校生ちゃん、なにか言いたいことでも?」
そうして呵々大笑していたら、転校生ちゃんにぼそっと囁かれてしまった。
……いや、なにもないってば。なんで笑うのさ転校生ちゃん。……なんだこの試合に勝って勝負に負けた感っ!?
なんだかよくわからない敗北感を胸に刻まれながら、私達は近くのアイス屋に向かうのでした。
「電車の中での視線が凄かったわね」
「まぁ、この集団美少女ばっかりだからねぇ。……なんか幼馴染みにも熱視線が飛んでた気がしたけど」
「……いや、なんというか。……俺今日女装してないよな?」
自身の服を見て困惑してる幼馴染みに、間違ってないよと声を掛ける。……なんというか、電車の中では周囲からよく見られていたように思う。
見た目は完全に美少女集団なのでさもありなん、中身のほうまで美少女かどうかは保証できんがな!
……幼馴染みにも視線が──嫉妬ではなく興味の視線が──向いていたのは、ちょっと予想外だったけど。
でもまぁよくよく考えてみると、幼馴染みも大概可愛い系美少年なので、視線が飛んでくる可能性は普通にあったんだな……と気付く。
そもそもこの世界同性愛に寛容なんだから、性別がどっちだなんてのは見られるか否かに関係ないじゃん。
そりゃ見られるわ、だって今の照れて私の後ろに隠れてる同胞、わりと可愛いし。
……むぅ。
「……ええぃ散れぇい者共!!見世物じゃないわとっとと散れぇいっ!!」
「!?」
……なんというかこう、とても面白くない。ついでに周囲に人が集まりだしているので動きにくい。
なので大きな声を上げ、周囲に退いてくれと主張する。
突然の大声に驚いた野次馬たちは、そのままサーッと散っていった。
……あんまり褒められたやり方じゃない、というのはわかってるので内心反省しつつ。
とりあえずこのままここにいたら、また囲まれかねないので目的地に向かうために動き出そうとして。
「──あれ?なんか勇ましい声が聞こえるなー、と思ったら先週の彼女さんじゃないっすか?」
「貴方は、この間のナンパ君?」
波のように引いていった人垣の中から現れたのは、先週私たちの案内に付き合わせた男性──見た目がチャラい青年、ナンパ君その人だった。
「いやまぁなんというか、災難だったっすねぇ?」
「美少女が集うと特殊なロードが開くとは聞いていたけど、まさか私たちにも起きるなんて……って感じよ、もう」
こちらの愚痴にはははと苦笑いを返しながら先導してくれるナンパ君。私達はそれについていく形だ。
……すっかり仲良くなったもんだよね、ホントに。
いやね?彼はナンパ野郎だけど、別に警戒しなくてもいいナンパ野郎だから、一緒にいるのが楽なんだよね。
……ナンパ野郎なんて全部同じじゃないかって?ノンノン、そりゃ偏見がすぎるってものだ。
彼が安全な理由とは、彼が下心を一切隠していない、ということにある。
下心見え見えだなんて、一番警戒すべきタイプではないのか?
……と思われるかも知れないが、それはそもそもの話として、ナンパなんてものは下心なしにやるもんじゃない──という視点が抜けていると主張したい。
……下心が見えないままに異性に近付いてくるチャラ男とかモブ男とかって、どう考えても危険人物でしょう?
百合に挟まる男絶対ぶっ飛ばすマンな人達ならば、この気持はよーくわかるはずだ。
というかね、下心一切なしの男性、なんてものは幻想の中にしかいない生き物なわけですよ。
紳士然とした人だって、紳士である自分をよく見せたいー、なんて気持ちを大なり小なり持ってるのが普通だし、年頃の男性なら可愛い・ないし綺麗な女性と付き合いたいー、と思うのは自然なこと。
……いや、正確に言うと「認められたい」という欲を抱くのが普通、と言うべきかな。
女性にだってそういう承認欲求はあるけれど、男性の場合は「
それがモテたいという感情になったり、強くなりたいという感情になったり、凄いと思われたいという感情になったりするわけだ。
なので、あるはずのその「認められたい」という欲を隠したまま、異性に近付いてくる奴というのは──原則信用ならない狼だ、というわけである。……そうやって隠すことで、自身の欲を達成しようとしている、とも取れるからね。
まぁこれが草食系男子とかなら、また話は違ってくるんだろうけど。……ここで対象にしているのは、あくまでもナンパ男について。
ナンパって欲を見せてるのに下心ないー、とかなに言ってるんだコイツ、ってなるでしょう?
だから、ちゃんと恋人が欲しいと主張していた彼は、恋人にはなれませんよーと最初に主張しておけば、こっちが隙を見せない限りは安心していい、オトモダチになれる人物だ……というわけだ。
……隙を見せた場合?そこまで信用できるんならやってみたらいいんじゃない?私は流石にそこまでは信用していないけど。距離感保てるなら友達だよね、ってだけだし。
え?同胞?下心とかないない、だって幻想みたいなもんだもの、女装イケるんだから大丈夫大丈夫(慢心)
え?私?……中身が中身なんで欲まみれですね……(悲しみ)
……なんか盛大にダブスタじゃねーか、って突っ込まれた気がするけど、あくまで私の考え方なんで別に真理とかじゃないよー、って言っておこう。
高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応するのが私のやり方なんだ(キリッ)
「それにしても……ナンパ君は今日もナンパ?」
「あ、いえ。実は最近恋人ができまして、今日はその人と遊ぶためにこっちに来てたんっすよ」
「なんと!?おめでとうナンパ君!君はやるやつだと思ってたよ私!」
「あいたたたっ、背中っ、背中を叩かないで下さいっす!?」
なんて思考は表に出さず、ナンパ君がなにをしていたのか聞いてみたのだけど。
……いやまさかまさか。ナンパ君ならいい人見付けられるだろうな、とは思っていたけど、こんなに早く見付けられるとは思ってなかったよ私!めでたいじゃないですかやだー!
なんだか自分のことのように嬉しくなって、思わず彼の背中をバシバシと叩いてしまう。
「もう、そういうことは最初に言いなさいよこのっ、このっ!よっ、幸せ者!」
「あいててて、彼女さんにそんなに祝福してもらえるとは思ってなかったんすよいててて」
祝福ってのは痛いもんだぞありがたく受け取っておけいっ!とバシバシナンパ君の背中を平手打ちする私。
いやー、なんかさっきのイライラも何処かに飛んでいってしまった。
なのでニッコニコで後ろに付いてきているはずの、みんなのほうに振り返ったのだけれど。
「……なんでみんなそんなに疲労困憊なの?」
「お前のテンションが高すぎるんだよっ!!」
「……ふ、ふふふ、まさか部長さんがこんなに上位カーストだったとは、ね……かふっ」
「転校生さんっ!!しっかりして下さい転校生さん!傷は深いですよがっかりしましょう!?」
「
「なんだこれ」
……いや、ほんとになんだこれ?
真っ白に燃え尽きて倒れている転校生ちゃんと、その周囲であれこれ騒ぐみんな。
……という、あまりにもよくわからない状況に陥っているのを見て、私は思わず意識を遠い宇宙まで飛ばしてしまうのだった──。