百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「せーんーぱーいー!」
「ふぁっ!?ききき来たぁっ!?」
「いや来たってお前、その驚き方はどうなんだ……?」
部室の外からとある人物の声が聞こえてきた途端、慌てて机の下に隠れる私を見て、呆れたようにため息を吐く幼馴染み。
そうは言うがな、我が
私は確かにユリーレム(百合ハーレムの略、なんか聖地っぽい響きが気に入ってる)を目指すものだが!なんかこう、向こうからガンガン来られるのは違うんだよ!
私が目指したいのはあれだ!
四季の花が咲き誇る美しい庭園で、いい感じの紅茶なんかを嗜みながら、あらあらうふふと笑いあう感じの、古典的で静的なやつのほう──なんだよ!
最近のきゃっきゃっ系の緩めの百合から摂れる成分も、確かにいいものだなーとは思うけども!
それはそれとして、私の主食はマリ○てとかのほうなんだよ!分かってくれよ幼馴染みマーン!
「む、幼馴染みさんでしたか、こんにちわ!それで、先輩はどちらに?」
「へいこんにちわ。……で、アイツはそこの机の下。いい加減隠れる場所の工夫が欲しいところだよな」
「お、幼馴染みマーンっ!?」
机の上から聞こえてくる会話に絶望する。
……ダメだこいつ、いつもの世迷い言だと思ってなに一つ聞いちゃいねぇ!?
そうして私は、とぼとぼと机の下から引きずり出されるのであった、トホホ……。
「そういうわけで!先輩のかわいいかわいい後輩が、こうしてやって来ましたよ!褒めて下さい!」
「うんうんかわいいねー」
「やったー!」
「……雑ってツッコミを入れたほうがいいのかこれ?」
折角喜んでるんだから水差さないであげて。……と幼馴染みに小さく威嚇。
私より頭一つ分くらい小さな、後輩ちゃんの頭を優しく撫でてあげると。その後頭部で結んだポニーテールが、左右にぶんぶんと振れて、喜びを全力でアピールし始める。
……毎回思うんだけど、これどうなってるんだろうね?
いや犬みたいでかわいいけどもさ。でもすまん、私猫派なんだ。
「なるほど、私が攻めればいいんですね?」
「ちゃう」
「ちゃうちゃう?」
「ちゃうちゃうちゃう!」
「ストップ、それ終わらないやつだろ」
……はっ!?
いかんいかん。この子と話してると会話の流れを相手有利に引っ張られるから、歯止めが効かなくなって危ないんだった。
止めてくれた幼馴染みに感謝しつつ、改めて後輩ちゃんと視線を合わせる。
──私も大概美少女なほうだと自負しているけれど、後輩ちゃんもそれに負けないくらいの美少女だな、と思う。
それもそのはず。原作ゲームでは、彼女も攻略対象ヒロインのうちの一人。
そっちでは、めっちゃツンツンしてる生意気系後輩……って感じのキャラだった。
付き合い始めてからもしばらくの間ツンツンしてる……という真性のツンデレで、デレを見せてくれるのは二人っきりの個室の中だけという徹底ぶり。
──それ自体も、関係が深まってとてもリラックスしている時に、思わずぽろっと……というくらいの、ツン9デレ1の、今時珍しいパーフェクトツンデレ少女だったのだ。
……まぁ現在はご覧の通り。
元のキャラとは方向性真反対な、先輩好き好き系後輩ちゃんになっているわけなのですが。……いやなんでぇ?!
「んもぅ、先輩ってば。それを私から語らせるとか、い・け・ず♪」
「幼馴染みぃー?!幼馴染みぃー!?ぷりーず、へるぷぷりーず!!」
「……ったく、ほれ」
後輩ちゃんからの謎のいけず判定を受け、思わず助けを求めた幼馴染みから、一枚のメモが渡される。……流石我が同胞、気が効きすぎてて怖いくらいだぜ☆
はてさて、メモにはなにが書かれてるんじゃろな、っと思いながら、折り畳まれたメモを開くとそこには。
『大体お前が悪い』
「──知ってたよぉっ!!」
「なんと、メンコ大会ですか!幼馴染みさん、私にもなにかないんですか?!」
「んじゃあ、これ」
「よっしゃあーっ!!」
「ちげーよ!?遊んでんじゃないんだよ!!つーか普通のメンコ使うな負けるに決まってんじゃんあああああああ」
地面に投げつけたメモ用紙が、後輩ちゃんのメンコによって吹っ飛ばされる。
……なんか知らんけど負けた気になってしまった私は、近くの椅子に腰掛けて真っ白に燃え尽きるのであった。
「……私ら一体なんの話をしてたんだっけ?」
「私がかわいい、って話ではなかったでしょうか!」
「君の話だったのは確かだけど、それでは
「えー」
後輩ちゃんの分かりやすい膨れっ面を横から人差し指で突いて萎ませつつ、改めて今までのあれこれを思い起こす。
……いや、やっぱり最初に出会った時は、ゲームと同じツンデレ系後輩だった気がする。
じゃあいつだ、いつ彼女はこんな感じに変わってしまったんだ?
……そうか、そうだった!
「幼馴染みぃー!?よく考えたら、お前さんと会ってからじゃんこれぇ?!」
「仮にそうだとしても、大本の原因はお前だぞ」
「なんだとぉー?!……それはすまぬ!」
「気にしてないから大丈夫」
「おお、恩に着るぜ!……って違ぁう!」
机をバンッと叩いて立ち上がる。──思い出した、思い出したのだ私はっ!
確か後輩ちゃんは、最初に会った時は元のツンデレ系後輩のままだったけど!
私と幼馴染みと出会い一緒に会話をした、その次の週くらいから!……今のデレデレ系後輩に、クラスチェンジしていたのだ!
す・な・わ・ち!この変化の鍵は、貴様だ幼馴染みぃーっ!!ってな感じに指差しずびしっ!
……対する幼馴染みは、冷静かつ呆れたような視線をこっちに返してくる。
「つってもな。別に変なことはしてないぞ、変なことは」
「……うむぅ、確かに。幼馴染みが変なこととかするはずがないしなぁ」
「むむ?阿吽の呼吸と言うかなんというか。やきもちコロコロしとけばいいですか私?」
「コロコロしてどうすんのさ?」
「焼ききな粉もちです!むせながらご賞味ください!」
「嫌がらせなのかどうか、微妙に迷うチョイスだな……」
うだうだ言ってた私達を横目に、後輩ちゃんが自身の鞄から取り出したるは、パックにつまった焼ききな粉もち!
取り出すタイミングを見計らってたんやろか?……というツッコミはとりあえず飲み込んで、三人しておやつタイムに興じる。
「ほい、熱いお茶」
「ほいどうも。……やっぱり和菓子には、あつーい緑茶だよねぇ」
「むむむ?お茶請けを用意したのは私なのに、なんだか幼馴染みさんの株のほうが上がっているような気がします!これは理不尽なのでは?」
「親友だからな、そのあたりは多めに見てくれ」
緑茶を啜りながら応える幼馴染みと、それに対してむむむと唸る後輩ちゃん。……その口に、不意をついてもちを突っ込む。
突っ込まれた側の後輩ちゃんは、突然口の中に飛んできたきなこの塊に思いっきりむせていた。
はははむせてるむせてる、良い子は真似しちゃダメだぞ?
しばしむせていた後輩ちゃんは、自身の緑茶をぐいっと飲み干して人心地付けたあと、こちらに気炎を上げて詰め寄ってきた。
「いきなりなにをするんですか先輩!?」
「美味しいもの食べてる時に、茶々を入れるような話をするのが悪い!……と言わせてもらうぜ☆」
「まぁ、こういう時にするのは、明るい話のほうがいいよな」
もむもむともちを食べながら頷く幼馴染みと、それを見てむぅと小さく唸ったのち、観念したように大人しく座り直して、新しいもちに手を伸ばす後輩ちゃん。
……うむうむ。折角のお茶会なんだから、楽しい話のほうがいいよね……。
「──って、ちげぇ!?そもそもお茶会はお茶会でも、緑茶をしばくのはなんというか……こう……とにかくちげぇ!!?」
「うるさいです先輩」
「ぶへぇ!?」
叫ぶ私に対してさっきのお返し、とばかりに口内に飛んでくるきなこの塊。
その対処に追われて、思わずむせるはめになる私なのだった。
「いや、なんというか。──平和ですねぇ」
「……そうだな」
私はうふふな感じの、ふつーのお茶会がしたいんだよー!
……などと宣いながら、アイツが部室を飛び出してから大体一分ほど。
椅子に座って大人しくしていた後輩の少女が、湯呑みの緑茶を啜りながらぽつりとぼやいた。
対する俺はといえば、特にその発言に反論する気もなく、小さく肯定の言葉を返すだけだ。
そうして返した言葉のなにかが琴線に触れたのか、小さく笑みを溢す後輩。
それを訝しげに見ていれば、彼女はこちらに意味深な流し目を向けて来ていて。
「幼馴染みさんとしては、今のままが嬉しい感じなんですか?」
「……はて、どうだろうな。とりあえずはアイツが満足するまで付き合う気ではあるが」
「むむむ、それは気の長い。……いえ、先輩相手だと、それくらいの心構えでいたほうがいいのかもしれませんが」
ついで、小さくため息を吐きだした。
……ある意味、俺のアドバイスのせいでもあるのだろうか、彼女のため息の理由は。
「気持ちは素直に伝えるべき、でしたね。……ストレート過ぎるのもどうかと思いますけど、実際下手なカーブとか使っているほうが疲れる……というのは、一種の真理めいてはいましたよ。──少なくとも、私にとっては」
「……それでカーブが丸っきり投げられなくなってる、っていうなら世話ない気もするんだがな」
抱え込めば抱え込むだけ、人は
それはまぁ、生きている以上は仕方のないことでもあるのだろう。
──なにもかもを曝け出して生きていくことはできない。秘さねばならないもの、と言うのも少なからずあるのだから。
なら、ちょっとの変化球というのは。
その人自身の心の安寧のためにも、幾つか残しておくべきだろうと俺は思う。
……だからまぁ。
ちょっとしたアドバイスで、今まで使えたものを全部放り投げてしまったようにも見える後輩の様子に。
……少しの後ろめたさを感じてしまうというのも、ある意味仕方のないことなのだ。
そんなことをぽつりと呟けば、当の本人は「なに言ってるんですか」と笑っていた。
「お二人に憧れたからこそ、こうなったようなものなので。それは全部、私の自己責任ですよ。──第一、先輩に付き合うつもりでいる以上、変に常識に囚われているとそっちのほうが疲れちゃいますよ」
「あー、うん。そのあたりはぐうの音もでないな」
微笑みながら返ってきた後輩の言葉に、確かにと苦笑を返す。
容姿やら成績やらを見れば、どこの超人だ、みたいなスペックを持つ我が幼馴染みではあるが。
近い位置に居る人間からしてみれば、隙も油断も多い迂闊な面のほうが目立つし、そうでなくても突飛なことをしでかすのがあの
なので、アイツと上手くやっていこうと思うのなら。
……ある程度は常識を投げ捨てたほうが良い、というのも。ある意味正解ではあるのだ。
「まぁ、その疲れこそを楽しんでそうな、逞しい幼馴染みさんには負けますけどね?」
「……そう見えるか?」
にこやかにはい、とはっきり返されて少し瞑目する。……楽しむ、楽しむか。
「うん、まぁわりと楽しんでるかもしれないな」
「……これってもしかして、惚気けられてます?」
半ば呆れたような後輩の言葉に、惚気かどうかはわからないが。と返せば、彼女は小さく苦笑して「でしょうね」と呟いた。
──それから、後輩は真面目な顔に戻って。
「やっぱり、先輩と幼馴染みさんはセットですね。……両方一緒じゃないと、魅力半減です」
「……それ、やっぱり諦めてなかったのか?」
「当たり前です。幼馴染みさんが居ない時の先輩は、それはそれで素敵ですけど……、やっぱり二人一緒じゃないと、なんだか欠けてるなー、って気分になっちゃいますし」
原則ずっと一緒に居る感じなので、個人的にはあまり実感が湧かないのだが。
俺がいない時のアイツは、どこか生気が足りない感じがする……らしい。
見た目はしっかり美少女なので、それでもモテはするだろうが、やっぱり二人一緒のほうがイキイキしているのだとか。
「そういうわけですので、お二人一緒に私に嫁いでくれると嬉しいです!」
「……多分アイツ、増やす気まんまんだぞ?」
「なら全部面倒見ますよ!目指せハーレム!」
「それ、アイツが聞いたら別の意味で泣くと思うんだよなぁ」
それ私の夢ぇ!?と幼馴染みが鳴き声を上げる様子が如実に想像できて、思わず二人して笑い合う。
しばらくして戻ってきたアイツに「なんか知らんけど、後輩ちゃんと同胞が仲良くなってる!?」と驚かれるまで、その笑いは続いたのだった。