百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「酷い……目に……あったっす……」
「地味に自業自得なのが、なんとも言えないところだね」
「ああ……先週の」
ソファーの上で灰になっているナンパ君に苦笑を返せば、その反対側の同胞が遠い目をしていた。……わりと困ってたもんね、あのときの同胞。
まぁ仔細を口に出すと、またナンパ君がひどい目に合うので流石に言わないけど。……私の目にも涙、である。
「それでは僭越ながら一番槍、吶喊しまーす!」
「
「了解でーす、よっ!」
そんな私達を尻目に、後輩ちゃんが一番手を引き受けてボウリング玉を投げる。綺麗な投球により、滑るようにピンに向かったボールは、これまた綺麗に全てのピンを薙ぎ倒していた。
……前に一緒に遊んだときも、初めてのわりに結構さまになってたけれど、今の後輩ちゃんの投球は明らかに素人には見えなかった。……この子普通にハイスペ組だからなー、うーん恐ろしい。
「おや、凄いねぇ。僕は肉体労働は専門外だからなぁ、っと」
その横のレーンでは、不思議さんが覚束ない足取りで投球を行っていた。……綺麗にガーターに行ったね、うん。
「うーん、やっぱりダメ、か」
「なんの、二回目で全部倒せば実質パーフェクトっすよ!」
「ナンパ君ボウリングのルールわかって言ってるそれ?」
ボウリングでのパーフェクトって、全部ストライクだったときの呼び方なんですけどそれは。
……いやまぁ、大層楽しそうに応援してる相手に、こういうこと言うのは野暮かも知れないけども。
応援を受けた不思議さんは小さく苦笑を返して、二回目の投球に移る。
投げられたボールはレーンの右側のほうに転がっていき、結果として三本ほどのピンを倒していた。
「ま、こんなものだろうさ、身も蓋もない話だけれど」
「うおぉっ!!こうなりゃ仇討ちっすよー!!」
「いやいや、仇討ちって僕死んでないからね?身も蓋もないことに生きてるよ、生き恥晒してるよー」
「ボウリングのピンめ!うちの恋人をよくもやってくれたっすねー!!」
「全然聞いてませんね……」
「……全く、身も蓋もないことにホントバカだな彼は」
凡退に終わった不思議さんを思ってなのかなんなのか、異様に張り切るナンパ君。
恋人である不思議さんの言い分も、一切否定できない猪突猛進っぷりである。……というか、なにを仇討ちする気なんだろうねこの人?
まぁ、そんな彼も凡退するんだけども。……倒せたの合計二本とか逆に凄いのでは?
「面目ないっす……これじゃあ落武者にもなれないっす……」
「はいはい。次頑張りなよ、まだ終わりじゃないんだからさ」
とぼとぼと戻ってくるナンパ君に軽く声を掛ける不思議さん。
声を掛けられた側のナンパ君は「うう、優しさが痛いっす……」とソファーに腰を下ろしてメソメソしていた。……意外と豆腐メンタルだね?
「ボウリング……向こうでは触ったことはなかったけれど──こう、よね?」
後輩ちゃんが下がったレーンでは、転校生ちゃんが周囲の動きを見よう見まねでトレースして投球を行っていた。
……初めて遊んだはずなのにストライクを取っていた、いつかの後輩ちゃんほどではないものの、転校生ちゃんも一投目で四本・二投目で三本の、計七本を倒していた。……ビギナーとしては、普通に凄いのではないだろうか?
「じゃ、行ってくるわ」
「はい行ってらっしゃい。ストライク以外取ったら罰ゲームねー」
「気軽に罰追加してんじゃねーよ……それっ」
こっちのレーンは幼馴染みの番。
……綺麗にストライク取りおった。なかなかやるなぁ同胞、これは私も負けてられないぞぅ。
「
向こうでは紡ぎ手ちゃんが、ぎこちない動きでボールを投げていた。……一度目はガーター、二度目は四本。何気にナンパ君より倒せてるね?
「俺は……ダメな男っす……」
「そうだね、身も蓋もない言い方をすれば、女の子に負けてしまうようなよわよわボウリングプレイヤーだね」
「げふっ!?」
「……血反吐吐くような呻きのわりに、なんか楽しそうだなこの人……」
……うん、ナンパ君に関してはそっとしておいてあげよう。元男として、最低限の礼儀というやつだ(?)
変なものを見る目でナンパ君を見ている幼馴染みは置いといて、ボールを手にとってレーンの前に進み出る私。
ふっ、同胞よ、前回は無様な敗北を喫したが、今回の私は一味違う!見るがいい、これが私の全力じゃーい!
放たれたボールは唸りをあげ、並ぶ白いピン達へと向かう。そうしてボールがピンを巻き込んで───、
「……おっ、ストライクか」
「ふっ、私に掛かればこんなものよ……」
最後の一つが倒れ、モニターに表示されるストライクのマーク。……ふっ、口ではこういってるけど、正直ミスったかと思った……。
た、倒れてくれて良かった……!いやほんとに、変にぐらぐらして期待と不安を煽らなくていいから……。
……一周した結果、初めてっぽい組の紡ぎ手ちゃんと転校生ちゃん、および単なるイチャイチャカップルと化してるナンパ君&不思議さん組を置いて、私と後輩ちゃん、および同胞がスコア的に並んでいた。……うーむ、泥沼の予感。
「……で?何を賭ける?」
「この同胞端から勝つ気である、なんだこの野郎、私だって負けねーからなー!」
「お二人が燃えてます!でも私も負けませんよ!」
「……元気ねこの三人は」
「
「そうね。楽しいことは確か、ね」
そんな感じに、わいわいとボウリングを楽しむ私達なのでした。
「あー、遊んだ遊んだ!」
ゲーセンの外に出て、大きく背伸びをする。
……途中でミスった私を置いて、同胞と後輩ちゃんの一騎討ちになったボウリング対決。
結果に関しては……まぁ、後ろでニコニコしてる後輩ちゃんと、ぶすっ、としてる同胞を見ればわかる、よね?
ボウリングが終わったあとは、そのまま併設されたゲームコーナーであれこれと遊んで回った私達。
ナンパ君がレースゲームが得意だったのはちょっと驚きだったけど、いつか不思議さんを連れてドライブ行きたいーとか行ってたので、まぁそのあたりのやる気のなせる技……だったりするのかも知れない。
対する不思議さんは、クレーンゲームが異様に強かった。……いや、強いっていうかおかしいレベルだったけど。なして全部一発で取ってるのこの人……?
本人にそこまでやる気がなさそうだったからよかったものの、仮にやる気があったなら、店の景品根こそぎ持っていってしまいそうな凄みがあった。
こっち側の組では、転校生ちゃんが音系のアーケードが得意だったことが判明したりした。
ノリノリでやってる彼女の後ろ、そこに集ったギャラリーの数が凄いことになってたから、みんなで追い払うのに苦労したり。
紡ぎ手ちゃんはシューティングをやりたがっていたので、私がそれに付き合ってあげた。
流石に前の人達とは違って、普通に初心者で普通の腕前だった紡ぎ手ちゃんは、銃を構えるだけでわりとご満悦。
すぐにやられたりもしたけど終始楽しそうだったので、別に上手くなくてもいいんだろうな、という結論に至った。
……私は負けると悔しい側なので、紡ぎ手ちゃんがやられても意地で攻略してやったけどね!
後輩ちゃんと同胞は──、対戦できるゲームをずっとはしごしてたような?
格闘ゲームに始まり、パズル・クイズ・リズム・レースなどなど。ひたすらに対戦して、わりといい勝負をしていたように思う。
こっちもこっちでギャラリーが集まってたけど、転校生ちゃんの時のような不埒な者共ではなく、突然現れた
まぁ、そんな感じに思い思いに遊んで、気付けばわりといい時間になっていたので外に出てきた……というのが今の状況である。
「思えば、僕達も同伴して良かったのかな?身も蓋もないことを言えば、部外者だろう僕達?」
「男手が一つ増えることのほうがこういう場所ではありがたい、ってことがよーく身に染みたので、結果としてはトントンくらいじゃないですかね?……少なくとも、私達だけでゲーセン行くのはそろそろ止めといたほうがいいなー、とは思いましたよ……」
不思議さんの言葉に、私は思わず遠い目になる。
……転校生ちゃんに絡もうとしていた見知らぬチャラ男よ、お前は絶版だ(丁寧にお断りしながら)
初手のナンパ男君があんなのだったから、ちょっと感覚狂ってたけど。まぁどこにでもいるよね、ああいう人。
……女の人もいたのはビックリしたけど。
百合の間に挟まる女、とか対処に困るんでやめて貰えます?可愛ければいいって言っても限度があるんやぞ!?
……まぁ、前世でのそういう人達と比べると引き際がいいからまだ助かったけど。
全部私のじゃいっ!って言ったら「なんと剛毅な」って下がって行ったの。……変な勘違いされてないかなこれ?
「まぁ、どこかで聞いたかも知れないけど、基本純愛主義だからね、今の世界は」
「いや、それにしたって引き際がよすぎたような……」
「おや、どうしてそうなったのか聞きたいのかい?」
「やめて下さい絶対血で血を洗うヤベー歴史の予感しかしませんのでっ!!」
聞きとうない!
綺麗な百合の咲く地面の下に、実は誰かの亡骸があるんだよ……みたいなホラーは聞きとうない!
両手で耳を押さえて嫌ですアピールをすれば、不思議さんはこちらを見てクスクスと笑っていた。……結局どっちなのかわからなかったな、この人。
「顔の無い誰かが、世界を次に進めようとして生まれたのが今だ、ということは間違いないだろうさ。……新たな神を生もうとしたのかまでは定かではないけど、それに近い物が望まれた──というのは確かだろう」
「……えっと、はい?」
とか思ってたらまた何か語りだしたんですけど。
……そういうアレなのか、はたまた本当にそういう何かを見ているのか。その輝きのない瞳からは、なにも窺えない。
ただ、煙に巻くような微笑みだけが、薄暗くなり始めた世界の中に浮かんでいる。
「一つ、僕から忠告だ。───『ちゃんと見ること』。それが一番、君に必要なことだろうさ」
「──────」
言いたいことだけを言って、ナンパ君を伴って去っていく不思議さん。
ナンパ君はしばらく手を振っていたから、それに手を小さく振り返して。
「ん、帰ろっか」
「そうだな。……ところで、さっきあの人となに話してたんだ?」
「んー?貴方はどっちなのか、って聞きそびれた感じ?」
「なにを聞こうとしてるんだお前は……」
──わかってるさ、それくらい。
声にならない言葉は、宙に溶けて消えた。