百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
──微睡みの中で、脳裏に響く音がある。
優しい音色、暖かな音色。
此方に対しての思い遣りに富んだ、天使の様な声。
──ふと、
「───さん、起きて下さいまし───さん。午睡に
「ん……ああ、───さん。おはようございます……?」
自分を揺すっていたのは、
ふと視線を周囲に向ければ、そこはいつもの部室の中。
……あー、うん。どうやら自分は、部活中に眠ってしまっていたらしい。
私一人がみんなの足を引っ張ってしまっているから、気を張って頑張っていたのだけれど。……どうにも、緊張の糸が切れて、机に伏せってしまっていたようだ。
勝手に空回ってしまっているのでは世話がない。今度から気をつけるようにしないと……。
そういう焦りというか、驕りというかが表情に出てしまっていたのか、傍らの
「貴方はいつも無理をしているのだから、別に疲れてしまっていることを咎めたりはしませんよ。……それよりも。しっかり休んで、また部長として後ろで笑っていて下さいな」
「あ、はい……」
副部長さんにこうして頭を撫でられていると、どうにも逆らう気が起きなくなってしまう。
……こういうの、手綱を握られているって言うんだろうか?
悪い気はしないけれど、もうちょっと頼って貰えたらなぁとも思う。……具体的にどうすれば良いのか?……これまで以上に頑張る、とか?
まぁ、副部長さんにこれを言うとまた怒られちゃうから、あくまでも思うだけにしているんだけど。
「……また不純同性交遊ですか先輩。不潔ですね軽蔑します」
「ぴぇっ!?……い、いつから見てたの
そうして副部長さんを見詰めていたら、横合いから声を掛けられて驚いてしまう私。
視線を声のした方に向ければ、見るからに不機嫌な様子の
……若干、副部長さんへの視線がキツい、かな?
「最初からです。部室は爛れた行為に耽る場所ではありません、先輩はもっと部長らしくして下さい」
「は、ははは………。……面目ないです……」
後輩ちゃんの憤りももっともだ。……うん、やっぱり頑張らないと。
「あ、ああああの!!ぶ、部長さんは、その、頑張ってると思いますっ!」
「
「ぴぃっ!!?ご、ごごごごごめんなさい後輩ちゃんっ!」
そんな風に私が密かに志を新たにしていると、部活仲間の一人の
うん……。気にしてくれるのは嬉しいんだけど、
私よりドジなのは、ちょっとフォローしきれないかなって。……可愛いから手助けしちゃうんだけどね。
「……部長さん、とりあえず、これ」
「えっ、あ、
転校生ちゃんの一連の動きを、微笑ましげに見ていたら、自身の袖を引かれる感覚がしたので視線をそちらに移す。
昔ながらの文学少女、といった風情の後輩の一人、
いや、こんなに将来有望な子、うちみたいな弱小部活に抱え込んでていいのかな……?でもそういうことを言うと、悲しそうな顔をさせちゃうんだよな……。
……ただ、目の前で不安そうにしている寡黙ちゃんに関しては、すぐにどうにかしなくちゃいけないだろう。
「……うん、凄いね寡黙ちゃんは。ありがとう、いつも助かってるよ」
「……ん……♪」
なので、彼女の頭をよしよし……と撫でてあげる。
寡黙ちゃんは気持ち良さそうに目蓋を閉じて、私の手を受け入れていた。
……うちには妹は居ないけれど、居たらこんな感じなのかなぁ?でもその場合だと頼り無い姉と凄い妹、みたいになっちゃうか。……変にコンプレックスになったりするのは、やだなぁ。
「だ・か・ら!そういうことをやめて下さいって言ってるじゃないですか先輩!」
「ひゃあっ!?だからって間から飛び出す必要はないよね後輩ちゃん?!」
そうして少しの間意識を逸らしたのが悪かったのか、私と寡黙ちゃんの間から飛び出してくる後輩ちゃんに、気付くのが遅れてしまった。……私の手が離れてしまったことで、寡黙ちゃんの表情が少し曇ってしまう。
それから、後輩ちゃんの方に向き直った寡黙ちゃんは、彼女に対して抗議を始めてしまった。
「嫉妬は、よくない」
「誰も嫉妬なんてしていません。単に事実を述べているだけです。……ですよね、副部長?」
「ノーコメント、とさせて頂きますわね」
むぅ、と唸る寡黙ちゃんと、ふんっ、と唸る後輩ちゃん。
間の副部長さんは素知らぬ顔で、行き場のない苛立ちを抱えた二人が、一斉に此方を向く。……ひぇっ、怖いよ二人とも……。
「……部長、後輩の罷免を要求する」
「此方は寡黙さんの退部を要求します」
「え、ええ……っ!?仲良くしようよ二人とも……」
「「
「ぴぇっ!!?」
そうして私がちょっと怯んでいたら、止めようとした転校生ちゃんが巻き込まれて撃沈していた。
……ああもう、私にもうちょっと部長としての威厳があれば、この二人の言い争いも止められるのに……。
現実は、私は二人の応酬にあわわと慌てているだけ。……こんなんじゃダメなのに……。
「みなさーん、お茶が入りましたよー。……ってあ」
「「「「「あ?」」」」」
その時、飲み物の準備をしていた顧問の先生が、お茶を乗せたお盆を、部屋の中の段差に足を引っ掻けた弾みに宙へ放り出してしまい。
あ、あれ、これ私に直撃コース……!?
「きゃんっ!?」
「「「「「ぶ、部長ーっ!?」」」」」
綺麗に飛んできた湯飲みがぶつかった衝撃で、私の視界は白く染まっていくのでした。
「んっ……」
「目が覚めましたか、先輩」
鈍い痛みを感じながら目蓋を開ければ、此方を覗き込むのは後輩ちゃん。……さっきまでとは違う穏やかな表情の彼女は、小さく眉尻を下げながら微笑みを返してくる。
「すみません、私がもう少し注意をしていれば、止められたかも知れないのに……」
「気にしないで。先生のドジにはもう慣れてるから」
被害を被るのは、基本私だし。
みんなが怪我をしないで済むなら、甘んじて受けるのもありと言えばありだと思う。……できれば、あんまり酷いミスはしないで欲しいけど。
「……はぁ。先輩は、もう少し他の人に負担を流すべきですよ」
「負担って……。こんなの負担のうちには入らないよ、ちょっと驚いただけだし……」
「そういうのが、良くないって言ってるんです」
後輩ちゃんがベッドの端に腰を下ろして、此方の頬に手を添えてくる。
……睨むような、慈しむようなその眼差しは、彼女が此方を慮り、労ってくれていることを如実に示している。だからこそ、ちょっと後ろめたくなるのだ。
───私なんかが、彼女に心配される価値があるのだろうか、と。
「また、変なことを考えてるでしょう?」
「変なことって、私にとっては、重要な──」
唇の上に彼女の人差し指が置かれて、言葉を中断させられる。……見詰める彼女は、ただ哀しげな笑みだけを浮かべていて。
「私は、認めます。貴方が
「……ごめん、ありがとね、後輩ちゃん」
……彼女に哀しい顔をして欲しい訳じゃない。
だから、私は自分の思いを圧し殺す。……自分の願いをひた隠す。
そのまま笑みを取り繕って、二人で保健室を出る。
外に出ると、彼女はすっかりいつもの様子に戻ってしまった。……猫被りというか、そのまま猫のようだというか。
私に色々言ってくれる彼女だけど。その猫をどこかにやれたのなら、そっちの方が素敵だろうに……と思わず苦笑を溢して。
「────」
「……あ」
視界の端に、一人の男の子が写り込む。
あれは確か、お隣の───、
「
「……?先輩?どうしましたか?」
後輩ちゃんの言葉が、どこか遠くに聞こえる。
此方を見ているのは
「ぐ、ううぅっ!!」
「ちょっ、先輩?!先輩───!?」
割れるような頭の痛みに、思わず踞る。
──わからない、私は何を思い出そうとしている?誰を思い出そうとしている?わからない、わからない!
「────」
「………あ」
痛みに呻きながら、それでも上げた視線の先。
件の彼が、何かを言ったような気がして。
──そうして、
「……なんで原作が悪夢染みた終わりかたしてるんですかねぇ」
目が覚めたのは、自室のベッドの上。
魘されていたのか、寝汗が凄く、喉もカラカラだ。
……いや、途中までわりと普通の夢だった気がしたんだけど。
原作のままのみんなと心温まる触れ合いをして、なんだかいい感じになってたじゃん。
……そのままいい感じに終わればよかったじゃん。なんで若干ホラー風味になったし。
『──ちゃんと見ること』
「───あー、うん。……ですよねー……」
まぁ、思い付く理由なんて一つしかない。
……思い付いたからといって、すぐすぐ解決できるものでもないのもわかってる。
あーもう、なんというか……。
「最悪の寝覚め、って言うにはちょっとあれかなー?」
カーテンを開ければ、外は快晴。……こっちの気分なぞ知ったこっちゃないと言わんばかりの超いい天気である。
……さて、この気分をどう誤魔化すべきか。
御天道様に愚痴っても、話は聞いちゃくれないだろうし。
そんなことをぼやきながら、朝の支度を進める私。
───みんなで遊んだあの日から、時間はあっという間に過ぎ去って。
演劇祭まで、残り一週間ほどとなっていた。