百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「──せいっ!!」
「なんとっ!!」
速く、それでいて繊細に振るわれた錫杖(プラスチック製)は、彼の持つ聖剣(模擬刀)とかち合い、そして弾かれる。
少し速く振りすぎたかも、そう思いながらちょっと威力を調整。……いや、向こうも調整してたからこっちが強めに弾かれた。
ええい、噛み合わないな今日の私ら!
「……ふむ、実際に劇中で振る得物となると、また勝手が変わってくる……ということかしら?」
「かもしんない!ってか同胞、ちょいと加減してくんない?!基本そっちのが強いんだけどぉっ!?」
「んなこと言いながら速くしてんの知ってんだぞお前ぇ!!」
「なんだとぉっ!?」
売り言葉に買い言葉、得物をぶつけ合う私達。……なんというか互いにエスカレートしてきている感じで、こっちもあっちも遠慮がなくなってきているような?
いやまぁ、向こうがやる気なら、こっちもやる気ってなだけなんだけどね!
「やる気の『やる』、の部分の当て字が変わってないかしら貴方達……?あーもうはいはい、一旦休憩しなさい、休憩」
「だってさ同胞!さっと腕引っ込めると良いんじゃないかな!?」
「おうお前がそれ下げるんなら止めるぞこっちもなぁ!?」
「なんで今日のお二人はこんなに喧嘩腰なんですかね?」
「
んぎぎぎぎ……!
さっと引いてくれればこっちも引き下がるってのに、なんだって今日の幼馴染みは、こんなにあたりが強いかなぁ?!
錫杖と聖剣で鍔迫り合いをしながら、お互いに
「「折れたぁっ!?」」
「ああもう、だから素直に止めなさいって言ったでしょうに!」
「言ってる場合じゃないですよ、弁償ですよこれ……」
「──ぐぬぬ、同胞ぁ!お前さんが悪いんだからねぇ!?」
「一切引く気が無かったのはお前もだろうが!」
「なんだとぉっ!?」
「なにをぉっ!?」
「──止めなさいって言ってるでしょうが!!」
折れた得物を持って罵りあっていた私達を見て、転校生ちゃんが叫ぶ。
途端、皆が騒ぐのを止め、辺りは静寂に包まれた。
……ヒートアップしてた思考が冷めて、次第に状況が呑み込めてくる。……ああもう、なにやってんだか私は。
「あー、うん。ごめん、ちょっと頭冷やしてくるね……」
「あ、先輩?!」
「後輩ちゃんは幼馴染みさんのほうお願い。私は部長さんのほう、相手してくるから」
「え、ちょ、転校生さんまでぇ?!」
「
──近くの手洗い場で、ちょっと水でも被ってこよう。
そんなことを思いながら、私はみんなの輪から離れるのだった。
「……ああもう、なんなんでしょうこれ。先輩、何をイラついてるんですかね?」
「わからん、この間からずっとああなんだよ。……こっちもどうしていいやら、って感じに参ってるんだ」
後輩の困惑の言葉に、苦虫を噛み潰したような心持ちで答える。
……この間、部活仲間で遊びに行った次の日あたりから、徐々に調子を崩していった感じのアイツ。
今日がそのピークだった、と言われても納得できるほどに、なにかにイラついている様子の幼馴染み。俺も何度か声を掛けていたのだが……その悉くを、なんでもないと躱されてしまっていた。
その結果がこれである。
体を動かせばなんとかなるかと思っていたのだが、どうやら見通しが甘かったらしい。……周囲に余計な負担を掛けてしまっているあたり、褒められた状況ではないだろう。
「んー、なるほどなるほど。……先輩が起因、となると……うーん。こっちでできることは無さそう、ですかねぇ?」
「いつもの能天気がどこかに行ってるもんだから、こっちも調子が崩れてる感じ……なんだよな」
「あー……先輩と幼馴染みさん、基本的には一緒にいますもんねぇ」
セット運用が基本なので仕方がないんでしょうけど、なんて後輩の軽口に小さく苦笑を返す。
……なんやかんやでアイツとは小学生時代からの付き合いである。
そんなにも長く一緒にいるものだから、相手の変化がこっちに影響してくる……というのも、間違いではないのだろう。
実際、片方が調子を崩すともう片方も調子を崩す、というのは俺達にもよくあることだった。
「……いや、前も聞きましたけど、実は惚気てたりしませんよねそれ?」
「いや、至極普通のこと言ってるだけだろ?」
「……普通?普通ってなんなんでしょうか……?」
とか言ってたら、後輩の表情が胡乱げなものに変わっていた。
……いや、なんというか。幼馴染みって大体こんなもんじゃないのか……?
「
「……まぁ、確かに。遅いなアイツら」
そんなことを思っていたら、横合いからもう一人のほうの後輩の声。
……なんだかすさまじく雑に流された気がしたが、こっちの後輩にそういうアレはないだろう、多分。なので、俺は二人が去っていったほうに視線を向ける。
……確か、手洗い場が向こうにあったはず。
運動部が暑い日に、思い切り頭から水を被るのに使えるくらいの、結構な広さの洗い場だ。……頭を冷やしてくると言っていたから、恐らくはそっちに向かったのだろう。
とはいえ、徒歩で何分も掛かるほど離れた場所……ということもない。帰ってくるのが遅いというのは確かな話だった。
……二人で口論でもしているのだろうか?普段ならそんなことあり得ないのだが、今の幼馴染みのイラつきようからすると、あながちあり得ないとも言い切れない。
行って確かめてみるべきだろうか?そう思った俺が、腰を浮かせようとして。
「……ただいま」
「ん、ああ、おかえり」
何故か反対方向から戻ってきた二人に背中側から声を掛けられて、思わず普通に声を返してしまう。……いやなんというか、さっきまでの状況からするとその、普通に声を返すのは……なぁ?
だが、当のアイツはこちらに視線を向けていない。……端的に言ってそっぽを向いていた。
まだイラついてるのかこいつ……?
そう思いながらしばらく見詰めていたのだが、こいつは次第にぷるぷると震えだして、なんだなんだとこっちが困惑し始めたくらいのタイミングで、盛大に爆発した。
「うがーっ!!!!!あーもーっ!!!!!!」
「うおっ!?」
突然の大声、突然の髪掻き毟り、突然のしゃがみこみ、突然の撃沈。
……突拍子がなさすぎてわけがわからない。
説明を求めて転校生のほうに視線を向ければ、彼女は眉根を寄せながら、くすくすと小さく微笑んでいた。……いや、ホントにどういう状況だこれ?
「詳しくは聞かないであげて。どうせ逃げられないんだから、そのうち話すと思うわ」
「は、はぁ……?」
淡い苦笑と共に述べられたのは、今は聞かないであげてという軽い懇願。……向こうで何事か話した結果が、今の幼馴染みの状況……ということなのだろうか?
……いや、なにがあったらこんな「うぐぐぐぐ……」とか、「うっそだぁ……」みたいな呻き声をあげる機械状態になるんだ……?
そう思いながら視線を返すも、見詰める先の転校生は、意味深な苦笑を崩さない。……うーむ。
「具体的に、どれくらい待てばいい?」
「そうね……演劇祭が終わるまで、かしら。一応、劇そのものは真面目にやるように言っておいたから、ぶり返すにしてもその前後くらいのタイミング……に、なるでしょうね」
なので、待てとはどれくらいの期間なのか、ということを聞いてみた。
答えは演劇祭の終了後、だそうで。……なんか幼馴染みが「そんなこと言ってなかったよさっき!?」みたいな目で転校生を見てたんだが、それに関しては彼女はスルーを決め込んでいた。……いいのかこれ?
「まぁ、こうでもしないと、いつまでもうじうじしてるでしょうから。……そもそも今この場でしっかり説明しろ、と言わないだけ有情だと思わない?……ねぇ、部長さん?」
「返す言葉もございませーん……」
転校生の言葉に再度撃沈する幼馴染み。……いやまぁ、待てと言われれば待つけども。
……いや、なんでこっちを見るんだお前、しかも滅茶苦茶ジト目で。そう言えば、彼女は小さくため息を吐くと、こちらに視線を合わせないままに口を開いた。
「……ああ、うん。なんでもない、こっちの話」
「なんでもある感じの言い方なんだが……」
「いいから!ややこしくなるから!今はスルーしてお願いだから!」
「ええ……?」
……いやまぁ、流したほうがいいんなら流すけども。
なんとなく納得のいかない部分の残ったまま、稽古に戻る俺達なのだった。
気を取り直して、部室に戻って台詞合わせである。
得物に関しては、当日までに代わりを用意することで落ち着いた。
そもそも元の得物自体が結構傷んでいたらしく、買い替えるいい機会だと演劇部の人達は笑っていたんだけど、壊したことも確かなので、購入費用を折半することで手打ちとなった。
……ただまぁ、これが結構高くてびっくりしたんだけど。
一応お得意様割引とか効いてはいたんだけど、錫杖なんかはあんまり使われることがないからなのか、元値が高いのなんの。
いや、本格的な舞台用の真鍮製になるともっと高かったんだけどさ?それにしたって折半しなければ万が飛ぶのか、とちょっと遠い目になったんだけど。
……そもそも壊れにくい真鍮製とか鉄製のを借りれば良かったんじゃないかって?死人が出るわそんなん、付け焼き刃のド素人の演劇にそんなモノ求めないで下さい、としか言えぬ。
というかプラスチック製のでさえ、ようやく重さに慣れてきた感じなのに、金属製の得物なんて、余計に振り回されるだけだってば。
……まぁ、そんなわけなので、本番でも使うのはプラスチック製の得物になるだろう。今回のでよーく身に沁みたので、打ち合うにしても慎重にやろう、という反省もセットである。
そもそも論を言うなら、打ち合いの場面なんて入れなきゃ良かっただろうって?ごもっともすぎるけど、会話だけで間を持たせられる気もしないので、正直苦肉の策です……。
「……おい、そっちの番だぞ」
「あ、ごめんごめん。……えっと、『よくぞここまで』からだっけ?」
「まだそこじゃないな、もうちょっと前だ」
「ん、了解」
そうやって考えごとをしていたら、どうにも台詞の順番を忘れていたらしい。
同胞から咎める声が飛んできたので、ここからだっけと聞き返せば、まだそこじゃないと返された。……うーん、上の空だねこれは。
「
「あー、そういうわけじゃないんだけどさ……」
心配そうにこちらを窺ってくる紡ぎ手ちゃんに苦笑を返す。
……別に、調子が悪いわけではない。ただ、なんというか。……なんといえばいいんだろうかこれ?
「……ん、ごめん。こっちの事情はちょっと後回しにするから、気にせず次行こう」
「それでちゃんとできるってんなら、こっちに咎める理由はないけどよ……」
纏めきれていないので後回しにすることを伝えれば、同胞からも心配そうな声が返ってくる。
「別に、体調悪いわけじゃないから。……いや、その……今は良すぎて困ってると言うか……」
「……なにか言ったか?」
「なんでも!ない!……いいから、台詞あわせするんでしょっ」
「????????」
私の様子に、困惑したように疑問符を浮かべる幼馴染み。……ごまかすように声をあげて、台詞合わせに戻る私達。
転校生ちゃんだけが訳知り顔で微笑んでいたので、あとでなにか罰ゲームでもぶつけてやろうか……とちょっと理不尽なことを考えつつ、部活の時間は過ぎていくのだった。