百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「……はい、ここまで。なかなかいい感じにできたんじゃないかしら?」
「はぁー、ようやく完成、かぁ」
転校生ちゃんの終了の言葉に、みんなが緊張を解いて相好を崩した。
今は通しの演技の確認も終わって、残すはもはや本番のみ……といった感じになっている。
「
「結局ギリギリになっちゃいましたね!」
台本担当の紡ぎ手ちゃんがふぅと息を吐いて、そんな彼女の隣で後輩ちゃんが愉しげに笑う。
その向こうでは、転校生ちゃんが小道具の再チェックをしていて。それを見ながら、私と同胞は二人して背中合わせに座り込んでいたのだった。
……いや、ほんと、すっごい疲れたわけでして……。
「……いや、間に合って良かったというか、本番前なのにこんなに疲れてるのどうなんだ、っていうか……」
「本番は一回きりだし、全力出すだけだからまだ気は楽かも……いやごめん、正直見に来る人数多過ぎてビビる」
「思い出させんなよ……」
正直な気持ちを吐露すれば、幼馴染みはげんなりとした様子で空を仰いでいた。
……
学校の宣伝にもなるということなのかはわからないが、前年度までの地味なそれとは一線を画する、大々的な宣伝が行われた結果、結構な人数の観覧希望者が集まったのだ。……少なくとも、前年度まで一般に公開していなかった、素人の演劇を見るために集まるとは到底思えないくらいの人数が、だ。
なんだろう。この学校は、演劇祭を文化祭クラスのメジャーな催し物にでもしたいのだろうか……?
とは言え、たまったものじゃないのは参加する生徒達だ。
全校生徒が参加する義務がある、小学校などで行われる学芸会とは違い、演劇祭は希望した生徒が自主的に参加を決める、自由参加型の催し物である。
その参加の仕方についても、シナリオ提供だけをして演劇自体には関わらない──という形から、仲間を募って実際に舞台上で演技をしてみたり、はたまた劇で使われる音楽を演奏するためだけに参加してみたりなど、その形式は結構多岐に渡っている。無論、あくまで観客側にいる──というのも、一種の参加手段であったりする。
まぁ、前年度まではしょせん内輪向けのものだったので、文化祭のように参加者全員が気を張ってやり遂げようとする……と言うほどのものでもない、わりと緩い催し物でもあったわけなのだが。
ところがどっこい、今年の演劇祭は文字通り『祭り』である。
外から見に来る人がいる以上、前年度までの緩いノリは期待できない……とも言えるだろう。
……いやまぁ?個人的には別に、今回もゆるーくやってもいいんじゃないか……とは思うんだけど。
その場合、衆人環視の中で下手な演技をして、結果として大恥を掻くはめになる……というリスクを背負う必要性があるかも知れないわけで。……まともな人ならそういう無用なリスクは取らずに、普通に演技するんじゃないかなーと言うか……。
そういうわけなので、去年までのさざ波レベルから突然大波レベルの大騒乱にぶち込まれることになってしまった、哀れな一般参加者生徒達は。体制が変わってからの数週間を、てんやわんやの大騒ぎをしながら過ごすはめになっていたのでしたとさ。
……原因がどう考えても某先生(と、それによって参加が決まった生徒会と文芸部)のせいなので、ご愁傷さまとしか言えねぇ……。
まあ、私達文芸部も巻き込まれたようなものなので、不満とかわりとありまくりなんだけどネ!……あの教師絶対いつか寝首を掻いてやるぞ……。
「まぁ、やれることはやったわけだし。あとは野となれ山となれだー」
「やけっぱち過ぎるだろ……、いや今の疲労具合じゃそうもなるってのはわかるが……」
「はははは、気を詰めるだけ損だぜ同胞ぁー」
「お前は気を抜きすぎなんだっての、ったく……」
うだうだと語り合いながら、空を仰ぐ。
──天気は変わらず快晴。
屋内だから直接は関係ないにしても、劇当日はいい日になりそうだな、と思う私なのだった。
「そーいうわけで、壮行会じゃーい!」
「おおー!」
とりあえずの下準備を全て終え、近くのカラオケ店に繰り出し、演劇祭に向けて英気を養うことにした文芸部。
個室の中に入った私達は、すでに思い思いのままに好き勝手行動開始していたのでした。
……こういうバカ騒ぎって若い内にしかできないから、やりたいのならじゃんじゃんやるべきだよね、っていう感じかな?
「なんだかノリが大学生染みてる気がしないでもないねぇ?……実際、大学生とかになったらどうなるんだろね、私達」
「そりゃまぁ……酒でも入るようになるんじゃないか?」
「今の時点で、わりと酒入ってるような気がしないでもないテンションなわけだが?」
「……否定はしない」
将来どうなっているんだろう?みたいな軽い私の言葉を受けて、適当に答える幼馴染み。
……直後にこっちが返した言葉で、スッと視線を逸らしていたのだけれど。まぁ、基本的にはハイテンションだよね、私達。
その向こう側では、後輩ちゃんが流行りの曲を熱唱している姿が見える。……さっくりといい点取ってるあたり、やっぱりハイスペ組だねというか……。
「さぁつむちゃん!なにか歌いましょうよ!」
「
「…………!古くて渋い……?!」
その横で後輩ちゃんに絡まれていた紡ぎ手ちゃんが、若干遠慮がちに選んだのは……わ、古い曲だ!最近の若い子は絶対知らないぞ、って感じの渋い曲だ!?うーむ、紡ぎ手ちゃんはいい趣味してますなぁ。
こりゃ負けてられないぞ、次に歌う曲を決めなくては!ってな感じに機械に手をのばす私。……あ、でもその前に喉を潤しておこっと……。
「……すっかり元気だな、お前」
「ぶふぅっ!?げほっ、うへっ、いや、いきなりなにっ!?」
「お、おぅ。……いやまさか、そんなにびっくりするとは思わなくてだな……?」
そうして飲み物に口をつけたタイミングで、同胞が話を蒸し返してくるものだから、思わす飲み物が気管に入ってむせてしまった。
幸い口につけたばっかりだったので被害は大きくなかったものの、ともすれば窒息してたぞ同胞ぁっ!?……と睨んであげたら、流石にタイミングを図り損ねた、と認めて小さく謝罪をしてくる幼馴染み。
……んもぅ、仕方ないんだから幼馴染み君は、みたいな感じで無礼を許して選曲に戻る私。
「いや待て」
「……っち!!」
……を、逃すことなく再度追求してくる同胞。
っち、都合よく騙されてくれてればいいものを……!
仕方ないので、ちゃんと幼馴染みと視線を合わせる私。
妙に気恥ずかしいので、あんまり視線合わせたくないんだけど……視線を外すと余計に勘ぐられるので、ここは我慢だ我慢。
「いやまぁ?心配事は後に投げたから?今さらうだうだしてても仕方ないっていうか?」
「……別に悩み事が解消された、ってわけじゃないんだな」
「───、いや、まぁ、そうだけども……」
図星を突かれて言葉に詰まる私。
……と言うかだね、幼馴染みが至極真面目な顔でこちらを見詰めてくるものだから、ちょっと視線を外したくなってしまうんだけどどうすればいいのかなこれ?
……いや、その、別に心配されるようなことじゃないと言うか、個人的な問題だと言いますか、ね?
そう伝えると、眉根を寄せて、悲しげに彼は視線を逸らすのだ。
「そっか、俺じゃあお前の問題を、解決してやることはできないんだな……」
「ああいやそうじゃなくってああああああああもおおおおおおお!これ絶対転校生ちゃんの入れ知恵でしょおおおおおおっ!!?」
どう考えても同胞らしくない、持って回った言い回しに、元凶だろうと思われるさっきから
……居たぞ
「落ち着きなさい部長さん。争いは悲しみしか産まないのよ?」
「おおぅねーちゃん、儂の目ぇ見て話さんかいワレェ?争いとぅないんなら火の粉ばら撒くん止めぇ、ていつも言うとるやないけおぉん?」
「落ち着け、マジ落ち着けお前」
転校生ちゃんに詰め寄って責め立てていると、後ろから肩に置かれるのは同胞の手。……ええい離せ同胞!こいつは、こいつだけはここで処断しなければいけないんだぁー!!!
……ソウダゾユルシチャイケナインダゾー。ゴマカシテナイヨー?
(……うまくごまかしたものね)
(こいつ……さては見抜いていやがるな……?)
(ちくわください)
((誰だ今の))
(私ですよ!)
((!?))
落ち着けと繰り返す同胞を尻目に、転校生ちゃんと目で語り合う私──と、割り込んでくる後輩ちゃん。
……いや、別に無理して入ってこなくていいからね後輩ちゃん?……というか寧ろどうやって入ってきたんだ今の?
まぁいいや。
なんとか幼馴染みをごまかすことに成功したので、喜び勇んだ私はマイクを手に立ち上がる。
選曲するのはとにかく激しいやつ!なんというかこう、全部吹っ飛ばしたくて仕方がないんだ今の私は!
「
「色々とこもってそうな歌声ですね!」
「うるさいぞそこぉっ!そして私の歌を聞きやがれぇぇっ!!」
ごちゃごちゃ言ってる後輩ズにシャラップと返し、ガガッと歌いきる私。……点数はさほど出なかったけど、気分転換にはなったと思う。
……喉が乾いたので再び飲み物に口をつけると、今度は同胞がマイクを握って立ち上がるのが見えた。
「ぶふぅっ!!?」
「先輩がまたむせた!?」
……そうして飛んできたのが、魔女っ子系の歌だったのでまたむせる私。……なんだってのさもぉーっ!?
「ああもう酷い目にあった……」
「
お手洗いで顔と手を綺麗にする私と、付き添いで付いてきてくれた紡ぎ手ちゃん。
……そういえば二人きり、か。いい機会なので、アレについてお願いしておこう──そう思いながら彼女に声を掛ける私。
「紡ぎ手ちゃん、ちょっといい?」
「
そうしてとあることについてお願いをすると、彼女は快く引き受けてくれた。
「
「んー……確かめたいことがあるから、かなぁ?」
紡ぎ手ちゃんの疑問に苦笑を返す。
……実際はもうほとんど解決しているようなものだけど。最後の一押しが欲しい……と言った感じだろうか?
よくわからないと首を捻る紡ぎ手ちゃんに微笑み返し、連れ立ってみんなのいる個室に戻る。
それからは特に大きな騒動もなく、私達はカラオケを堪能するのだった──。