百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「来たぞーっ!演・劇・祭っ!!」
朝の教室、登校して直後のこと。
黒板の前・教卓の後ろで、うちのクラスのお調子者の男子生徒がわはー!と騒いでいた。
その周囲では男女入り混じった生徒たちが、彼ほどではないものの興奮したように会話を続けていた。……クラス単位での参加はしていないので、今回の彼等は基本観覧者側である。
だからなのか、基本的には祭りが楽しみで仕方がない、といった感じのお気楽そうなムードであった。……参加者側であるこっちからしてみれば、いい気なもんだなお前ら?感がすごいけどね!
「そういえば、うちのクラスは二組ほど参加者側なのがいるんだっけ?」
「あーそうそう、文芸部と野球部じゃなかったっけ?」
「文芸部はなんかファンタジー的なやつで、野球部はー……そうそう、バラエティ的なのをやるとかなんとか言ってたよ?」
「……いや待て、野球部のほうは大丈夫なやつなのかそれは?」
主にエグいのとかヤバいのとか『し あ わ せ』とか飛んでこないだろうな、的な意味で。
……思わず脳内でクラスメイトのツッコミに頷いてしまった。
野球とバラエティの組み合わせってのは、なーんかこう不穏な感じしかしないんだよなぁ……?うっ、メロンパン入れ……!
まぁ、まだ見ぬライバル達については放っておいて。
昨日のうちに配られた演劇祭のしおりをパラパラとめくり、タイムスケジュールの確認をする。
……文芸部の出番は、最後から四番目。
全部で二十の劇が行われる予定なので、頭から数えると十七番目の出番……ということになる。
「……おいおい?」
「なんか違う十七が混じってないか……?」
おっと独り言を幼馴染みに聞かれてた。
……いや、パッと思い付いた十七関連がそれだったものだからつい、ね?
小さく苦笑を返しつつ、ざっとしおりを眺めてみる。
……ふむ、一つ目が『寄せ集めブラザーズ』の『寄せ集めでもハッピー!』。……コメディドラマ的なやつ、なのかな?
二つ目が『吹奏楽部』で『響けハーモニカ』。……青春ドラマなの?あと吹奏楽部なのにハーモニカ以外なしなの?!
三つ目『サッカー部』で『
四つ目『水泳部』で『泳げたこ焼きくん』……怒られないこれ?
五つ目『
六つ目は『野球部』で『実践野球劇』。……危険な匂いしかしませんねこれは?
……みたいな感じで、みんな個性的な──っていうか個性的すぎる演目で勝負を仕掛けてきている感じだった。……うちめっちゃ真面目なやつなんだけどこれ大丈夫かな……?
と、言うのも。今回の演劇祭、折角校外からの観覧者を募るのだからってことで、どの演目が一番面白かったか、投票して貰うようになっているのである。
……いやまぁ、別に一位にならなきゃダメだ、なんてことはないんだけど、折角参加するんだったら頂点目指したいじゃない?
実際に取れるかどうかは別として、それくらいの心構えで本番に望むのがいいんじゃないかなって。とはいえ、
「多分本命は生徒会長さん達のやつ、だよねぇ……」
「気合いの入り方が異次元だったからな」
演目の一番最後、トリを飾るのは『生徒会』。
──演目『円卓の興亡』。……現役の劇団員からの指導まで受けたというそれが、今回の大本命なのでした。
「えー、本日は当高校主催の演劇祭にお集まり頂き、本当に──」
「……校長先生の挨拶って、なーんでこんなに眠くなるんだろうね?」
「……静かにしとけ、怒られるぞ」
演劇祭の始まりを告げる校長の挨拶を聞く私達。
なお、この段階で一応一般公開は始まっているのだけど、外部観覧者は数える程度しかいない。……物好きなのか、はたまた真面目なのか。
視聴者的には開会宣言なんて一番つまらないもの、だったりしないのかな?
少なくとも私は選手宣誓とかは飛ばしちゃうほうだけど。……いや、選手側でもないのにスポーツへの熱い思いとか共感し辛いというか……。
まぁ、私の話は置いといて。
校長先生の話が終わると、いよいよ本番の開始である。
舞台に上がらない生徒達は、こうして席にいるのが基本になる。
無論、お手洗いのために席を立つとかは許されてるけど、特に用事もなければ座ったままでいることを求められる。
……劇が嫌い、とかでもなければそう苦になることもないとは思うけど、今の御時世的にこの指示は意外と強気だなー、と思わなくもなかったり。
行動を縛ると反発する人、ってどこにでもいるじゃん?よく反対の声とかあがらなかったなーと言うか……。
まぁ舞台に上がる側が、強制じゃなくて自主的な参加なので、最初からある程度面白くしようという熱がある……というのも理由なのかも知れないけれど。見てて面白いのなら時間も忘れる、というか?
「おっと、分析してる場合じゃないや。それでは見せて貰おうか『寄せ集めブラザーズ』、君達の演技というものを……」
「いや、どういうポジションなんだよお前……」
ふふふ、私を楽しませることができるかな諸君。
因みに私は箸が転がるさまでも、時と場合によっては普通に笑うぞー!……笑いの沸点が低すぎる?ノンノン、笑いというものに寛容なんだと言って欲しいね私は。
そうやって同胞とぐだぐだしながら、劇の始まりを待つことしばし。
「──これより、上演開始となります」
「おお、本格的」
「いやだから静かにだな……」
館内の照明が落とされ真っ暗闇になると同時、アナウンスで劇が始まることが告げられる。
暗闇の中、一筋のスポットライトが
──幕の向こう、舞台の上に立つのは三人。
彼等は一様に右手になにかを掲げ、円陣を組むように集まり、共に天を見上げていた。
幕が上がりきるまで微動だにしなかった彼等は、紐を巻き取る鈍い機械音が消えると同時、大きく声を張り上げる!
「我ら、産まれし時も土地も違えども!」
「同じ志のもと、ここに集いし
「願わくば、同じ戦の場にて、共に終わりを迎えんことを!」
「「「乾杯っ!」」」
掛け声と共に鳴り響く、小気味良い金属音。
……ありゃタンブラーか?中身はジュース?いやいやそれよりもだな?
(ブラザーズって、桃園のほうかいっ?!)
まさかの三国志ネタであった。……なんだ、ここから大演義でも始まるのかい?
そんな観覧者の思いを知ってか知らずか、舞台上に立つ三人のうちの一人が、突然に顔を強張らせて苦しみだした。……え、なにこれどういうこと?
「掛かったなアホめが!だぁーれがお前なんかと同じ戦場で死にたいと思うかっ!」
「ぐ、まさかお前、お前のカミさんに『最近アイツ、部下の綺麗系の武官と仲いいんですよー』ってバラしたのを根に持って……!?」
「違うわっ!?つーかお前かよアレバラしやがったの!?俺はあくまで愛でていただけだってのに、滅茶苦茶いい笑顔で『ガンバ♪』って言われたんだぞ!?わかるかあのときの俺の気持ちがっ!!」
「うーわっ、まさかの挙兵前から後宮普及の大紛糾すか?急に羽振りよくなったからどうしたのかと思ってたら、そんなふしだらな人だったとは俺驚愕っすよ」
「ちーがーうーわーっ!!!」
お、おおぅ。まさかの仲間割れ……。
桃園って言えば、切っても切れないくらいの固い結束の象徴だってのに、こんな風に改変するとは流石高校生、恐るべし……。
唖然とする私達の前で、『寄せ集めブラザーズ』達の演義は続くのでした。
「……楽しかったんだけど、なんかこう……すっごい疲れたね……」
「裏切ったと思ってたら、そのときの裏切りが後々必要な行動だった……とかいろいろあったが、正直劇で見るにはちと濃厚すぎたな……」
お昼の時間なので教室に戻ってきた私達。
教室内を見渡せば、みんな似たような感じで机に突っ伏したり、もそもそと昼食を摂ったりしていた。
……コメディだと思ってたら巨悪と戦う冒険ものだった『寄せ集めでもハッピー!』に始まり、ハーモニカ多重奏で人々を「なんだこれは……?」の渦に叩き込んだ『響けハーモニカ』。
ほぼほぼ有名なあの落語番組の構成で、ひたすらサッカーの格言やら面白話を、矢継ぎ早に叩き込んでくる『
元ネタの鯛焼きみたいに店のおじさんと喧嘩して海に飛び込んだら、似たような境遇のイカ焼ちゃんやら、海の中でゆらゆら揺れてたカツブシくんやらを巻き込んで、海の芸能界でトップスターを目指すという、脚本家の狂気が垣間見える『泳げたこ焼きくん』。
教育の闇に切り込み、そこで戦う
そしてお昼前のトリを飾ったのが、戦車に乗りながら野球・バスケしながら野球・インド
結論から言わせて貰うと、全部胸焼けがするレベルで濃ゆかったです。
……好みが激しく分かれる感じのものばかりだったので、多分投票上位にはならないだろうけど。
なんというかこう……パッケージ化したらちょくちょく売れそうな勢いと熱さはあったと思う。
「うー、なんかご飯の味がしないよぅ……」
「感情が飲み込めてない、ってやつだな。……いろいろぶち込まれて情緒をシェイクされたようなもんだから、まぁ仕方ないが」
幼馴染みからお茶を受け取って一息つくと、ようやっと精神が落ち着いてきたような気がする。
……とはいえ、このノリを繰り返した後に自分たちの番というのは、わりとキツそうな気がしてならないんですがそれは。
「そういえば……いつもの猫かぶりじゃないんだな?」
「……それ今聞くんだ……いや、転校生ちゃんと被るし、そろそろ止めようかなーとは思ってたんだよ?」
そうしてむむむと唸っていたら、幼馴染みから口調への指摘が飛んでくる。
……まぁ、今までは教室内だとちょっと気を張ってたけど。……いろいろ考えた結果、もういいかなーというか?みたいなことを伝えれば、同胞は微妙に心配そうな顔になった。……いや、別に悪いことがあったとかじゃなくてね?
「それも演劇祭のあと、か?」
「あははは……そういうことにしといて」
ため息を付いて追求を止めてくれた幼馴染みに、心の中で手を合わせながら、弁当の処理に戻る私なのだった。