百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「うーむ、午後からも濃ゆいなホント……」
「素直に見てるだけじゃなくて、こっからは自分達の準備に時間を割り振れるから、ある程度はマシだろうけどな」
午後からのタイムスケジュールを見て「うわ……午後からも濃すぎ……?」ってなってる私に、幼馴染みが気にするなと声を掛けてくる。
……うん、まぁ分かってるんだけどね?
「本番が近付いてきて、今さら緊張がががが」
「まさかの本番に弱いタイプかお前」
わざとらしく緊張したように震えれば、同胞が苦笑を返してくる。
文芸部までの道のりを、そんな感じに会話をしつつ進む。
──ああ、そろそろなんだな、なんて。
いい加減覚悟決めなきゃなぁ、そんな思いを秘めながら。
決戦は、もうすぐだ。
「──続きまして、『文芸部』の『聖魔の秘した祈り』の上演を行います」
「……つ、ついに本番ですよ!」
「
「まぁ、緊張するよりはマシだけれど……全く。二人はどう?服が重いとか得物が重いとか今さらになって震えてきたとかない?」
「気分的にはもうどうにでもなーれって感じなんで大丈夫」
「それ本当に大丈夫なのか……?」
後輩ちゃん作成のお手製魔王&勇者衣装を纏った私達。
ナレーションを後輩ちゃんが、王様役と背景転換の総指揮役を転校生ちゃんが。
最後に、舞台袖から劇全体の進行を確認する紡ぎ手ちゃん。
……一応荷物運びなどは演劇部から人員を借りてるので、私達だけで全てが進行できるわけじゃないけど。
それでもまぁ、やるべきことは決まってる。
「はいみんな、あれやるよあれ!」
「あれっていうと……」
「あれですね!」
「出番前の気合入れと言うわけね」
「
みんなで肩を組み、円陣を組む。……少年漫画かな?ってツッコミは横に投げ、声を上げる。
「行くぞぉっお前らぁっ!!」
「「「「おーっ!!」」」」
さて、始まりだ。行ってこい同胞、しばらくお前さんのソロターンだぜ!
その背を押すように叩けば、彼は一瞬だけこっちに笑みを返し、舞台の上に駆けていった。
「──ここではない場所、ここではない世界。人々と、魔物。決して混ざりあうことのない二つの種族が、終わらぬ闘争を続けている大地。──彼の者は、その世界の小さな村に生まれ落ちた」
簡単に世界観の説明をしている後輩ちゃんの声をBGMに、簡単にこの物語の解説をしていこうと思う。
物語の舞台である世界は、わりとよくある感じのファンタジーワールドだ。
他と違うことがあるとすれば、どっちの種族もやけに殺意が高いということだろうか?
敵種族の子供を捕まえて人質にするなんてのは朝飯前、どこぞの小鬼みたいな肉盾アタックから、果ては勝利のために自軍ごと巻き込んでの魔法爆撃も必要であれば普通に飛び交う修羅の国。
それが、物語の舞台となる世界である。
……なお、詳細な描写はどう考えても年齢指定が入るので大幅カットである。
口頭で「この世界エグいでー」くらいの軽さにスケールダウンしてあるので、小さなお子様にも安心だ!……安心か?
まぁ、そんな感じに屍山血河が死屍累々の血湧き肉踊るどったんばったん大騒ぎなこの世界、上層部は意外と腐ってなくて、流石に今のままだとヤバくね?となったわけである。
そこで産み出されたのが「魔王システム」と「勇者システム」の存在。
雑に言えば「魔物側は魔王が全部悪いので、勇者に倒して貰って手打ちにしようぜイエーイ」である。……本当に上層部腐ってないのかこの世界?
なお、この場合の上層部とは神様のことである。……作者じゃねぇか、つまり私じゃねぇか。……てへ♪
なお紡ぎ手ちゃんに関しては、私の原案を広げてくれただけなので無罪です。
寧ろめっちゃマイルドに直してくれたので、こちらには感謝しかありません。……添え物だったはずの魔王と勇者のラブロマンスが、かなり前面に押し出されるはめになったがな!
まぁ、そんなわけで。
勇者として選ばれた子供が、村や国、神様達から色々と教わり成長していく中で。
ある日、彼は森の中に佇む一人の女性と出会う。
切り株に腰を駆け、空を仰いで歌を紡ぐ、美しい女と。
『貴女は、誰ですか』
少年が声を掛けると、彼女はそこで初めて他人の存在に気付いたように驚いた顔を浮かべて、少年のほうに悪戯がバレた子供のように苦笑しながら振り向いたのだ。
『おっとすまない。驚かせてしまったかな?』
なんて風に惚けながら。
……いやまぁ魔王様なんですけどねこの人。
なんでここにいたのかって言うのは、もちろん勇者を視察しに来たから。
幾度も自身を打ち破った勇者、その生まれ変わりを、戦いとは関係なく見てみたかったからやって来たわけである。
この時点の勇者は知り得ないことだけれど、実はこの魔王と勇者の戦いというのは結構な回数がすでにこなされていて。
人の魂を輪廻させている関係上、記憶に関してはほぼ引き継がない勇者側に対し、魂の強度的に問題のない魔王側は全部覚えたまま新しい生を迎えていたのです。
……なお、その辺りは神様は知らない。こいつ私じゃないじゃん(突然の豹変)
そんなわけで、魔王様からすると顔見知りなんだけど、勇者からすると謎の綺麗なお姉さんである二人の交流が、しばらく続くわけでして。
剣技・魔法・体術といった戦闘技能。
炊事・洗濯・家事といった日常技能。
勉強やら遊びやら、あらゆる学びの全てを、勇者は魔王からも学んでいくのである。……なんや唐突なおねショタやね?
そうして立派になった勇者君。
いよいよ城の王様に呼び出されて、魔王討伐の旅が始まるのです。
そしてなんと、綺麗なお姉さんも彼の旅に同行するとのこと。
なんでも「流石に一人だと危なっかしいからね」という理由なのだとか。
そんなわけで、勇者と魔法使い(?)の二人旅が始まりました。
魔王の居城は遠く、途中で様々な問題を解決しながら二人は旅を続けます。
太陽を隠してしまった悪戯好きな悪魔を懲らしめたり。
魔物の子供を売り捌いていた悪徳商人を叩きのめしたり。
魔物なんて排斥してもええやろと騒ぐ町民をぶん殴って説教したり。
それに乗じて攻め込んできた四天王の一人をぼっこぼこにしたり。
まぁ、そんな感じに二人は旅を続けるのです。
そんな旅の途中、森の中で野宿のために火の番をする勇者に対して、魔法使いは問い掛けます。
『これまで人も魔物も平等にぶん殴ってきたけど。魔王の城に着いたらどうするつもりなんだい?』
『できれば話し合いたい。話し合いでどうにもならないんなら、流石に戦うけども』
どっち付かずのような、はたまたどっちも手に入れようともがいているような。
そんな勇者の若干の苦悩が見える返答に、魔法使いは小さく笑みを浮かべて言うのです。
『儘ならないものはあるだろう。それでも、選ぶしかないんだよ』
『わかってるさ、そのときはちゃんと選ぶよ』
世間の厳しさを語るような彼女の言葉に、小さく不貞腐れたような返事を溢して。
それからまた、二人は旅を再開します。
歩いて、走って、飛んで、眠って、落っこちて、這い上がって、また歩いて。
そんな風に進みに進んで、ようやっとたどり着いた魔王の城。
──けれど、周囲に魔物の姿はなく。
勇者は不審に思いながら、城の中を進みます。
進んで、進んで。
魔王の部屋は、もぬけの殻。
なにもなく、誰もおらず、音も聞こえず。
困惑する勇者が、あたりを見回すと。
魔法使いが、こちらを見詰めていた。とても、哀しげな瞳で、見詰めていた。
『さあ、最後の戦いを始めよう』
『魔王だなんだと祭り上げられているが!その実、吾は人身供物に他ならん!』
突然本性を現した魔法使い──魔王が語るのは、「魔王システム」の要。
要はこれ、世界全ての魔物達から魔力を集めることにより、魔王という存在を絶対的な存在にしているわけなのですが。
逆に言うと、魔王というのは
……即ち、力を持ちすぎている者達を平均して弱体化させることで、上位者達の驕りや増長を強制的に挫くためのモノなのです、これ。
流石に上下関係全てを地ならしするようなレベルではないのですが、強制的に全体のレベルを四分の一にして、削れた分のレベルを魔王に加算する……みたいなものではあるわけで。
そこまですることで、ようやく「話を聞いてくれる」くらいにまで、魔物達の態度を軟化させることに成功したのです。
とはいえ、レベルというのはカンストしてなければどこかで上がるもの。
ゆえに、また闘争心が高まる頃──即ち世界に闇が訪れしとき、魔王は復活せざるを得ない状況に陥るのです。
で、勇者のほうも似たようなもの。
肥大化した人の欲──よりよくありたい、もっと幸せに生きたいといった思いを、「打倒魔王」として聖剣を核に集めて、魔王の持つ「徴収した莫大な魔力」とぶつけて対消滅させる──、それが勇者の役割。
なので一応聖剣があれば、勇者がいなくともどうにもならないわけではないのですが、流石に剣しかないと信仰も集め辛い……ゆえに担い手としての勇者が求められるわけでして。
簡単に纏めますと。
世界の平和のために、余分な欲と力を捨てる儀式のための供物。
それが、この世界における魔王と勇者の役目なのです。
世界を救うため。
確かに、勇者が歩んできたのは──これから歩むのは、世界を救うための道。
けれどそれは──ずっと共にいた、大切な人を必ず殺さなければならない道。
何故なら、そうしなければ魔王が集めた魔力は、いつかその身に留めておけなくなって逆流し。
強大な敵を見た人類は、恐れや惑いから必ず「相手を滅ぼしたい」という欲を抱き。
そうして、世界は滅ぶのでしょう。
勇者は苦悩の末、激闘の末。
魔王に致命傷を与えます。
相殺された闇と光は天に登り、世界に恵みをもたらす雨となるでしょう。
もっとも。勇者は今、雨に打たれているようですが。
『悔やむでない、勇者よ。吾とそなたは殺し合うために出会い……その出会いの先に、吾の滅びという結末があった……それだけのことなのだ』
『でもよぉ、でもよぉ……っ!』
互いの血で染まり尽くした防具は、最早その用途を果たせぬほどに粉々で。
腕の中に抱いた愛しき人の吐息は薄く、その灯火は今にも消えそうで。
──それが己の業であるということが、彼の心を苛み続けている。
『……全く、今代の勇者は余計なことを背負いすぎるというか……。では、一つ約束をしよう』
『……約束?』
雨に濡れたままの愛しき男に、彼女は微笑みを浮かべながら言う。
──魔王とは、システム。
ならばここで滅びようとも、自身は再び蘇るだろう、と。
『……また、殺しに来い。何度でも吾は立ち塞がろう、立ち塞がり続けよう。その度に、こうして語ればよい』
『──そうするしか、ないのか』
……どこまでお人好しなのか、この男は。
彼女はまた笑みを深めながら、男の髪を撫でる。
『他の誰にも吾は殺されてはやらんぞ?』
『……ああ』
そして、私は。最後の言葉を、彼に問う。
「……私が人になっても。獣や、鳥や。男と女、はたまたどちらでもないようなものや。貴方より年老いていたり、貴方よりも若く未熟であったり。もはや、なにかしらの形を保てなくなっていたとしても。……貴方は、私を
「──────」
これは、台本に無い問い掛け。
ゆえに、彼は一瞬だけ思考を止めて。
「────必ず。お前がどんな姿になったとしても。お前がお前であるのなら、必ず会いに行こう」
「──────そう、ですか」
「会いに行って、」
「え?」
「──いつか、また旅をしよう」
────。
あーいや、あれだ。……ホント、バカだな私は。
込み上げてくる笑いを抑えきれず、大声を上げる。
「ははははっ!!ではさらばだ、我が愛しき勇者よ!我が運命よ!」
「ま、魔王……っ!?」
そしてそのまま首をがくり。
目蓋を閉じて、力を抜く。……いや、一応まだ演技中なんでね?
そんな雰囲気を察した同胞が、空気を読んで顔を伏せ。
舞台袖で紡ぎ手ちゃんが呆然としていた様子から復帰して、慌ててみんなに指示を出しているのを薄目で確認。
上から緞帳が降りてきて、私達の姿が隠れきってしまうのを確認して。……ようやっと、一息つく。
一息ついて、こちらを抱き抱えたままの同胞と目があった。
「さっきのは……」
「あと、終わったあとで!つーかいい加減離して貰えるっ?」
「おぅっ!?す、すまん」
いや、なんというか。……ちょっと心臓に悪い。
そんな感想を噛み潰しつつ、立ち上がって舞台袖に下がる私達。
劇のほうは、いい感じに後輩ちゃんが締めてくれたようだった。