百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界に転生したら仮説と現実と祭の終わりの件について

 シミュレーション仮説、というものを知っている?

 

 雑に説明すると、人が生きている世界は全て作り物(シミュレーション)である、とする仮説。

 シミュレーテッド・リアリティという呼び方で知った人というのも多いかもしれない。

 ……そうそう。その『親しみを込めて呼ばれそうな人』から知った、って人が多いんじゃないかな。

 

 ──自分の生きる世界は作り物、だから自分も作り物なんじゃ、みたいな自己否定の論理。

 もしくは、作り物の世界で生きているのだから、他人は全て作り物、そこに意識なんて存在しない──みたいな論理。

 

 ……まぁ、基本的には錯覚で片付けられるような、とある時期(中学二年生)の子供が好きそうなやつ。それが、シミュレーション仮説というものだ。

 

 なんでそんなものの話をしたのか、と言えば。無論、私がそれを罹患してい()からだったりする。

 ……いやいや?どっかの人みたいに、全能感とかからそうなったーってわけじゃなくて。っていうか、そもそも正確に言うなら()()罹患していたわけじゃなくて。

 

 あー、うん。前世のね、()()罹患してたのよ、これ。

 

 ……なんでそんなことになったのか、ってのは聞かないでね?別に対した理由じゃないし。寧ろ阿呆かって前の()を蹴っ飛ばしたくて仕方なくなるからアレだし。

 

 まぁ、前世の()がそれを信じてた、というのは事実。で、こっちに転生してからしばらくの間の()も信じてたってのも事実なわけよ。この世界は作り物なんだー、って。

 ……いやまぁ?勝手に斜に構えてたってだけで、別に他の人を蔑ろにー、みたいなことは考えてなかったし、やりもしなかったけどさ。

 

 代わりに──ある意味、自分を蔑ろにしてたのかな。

 別に死んだ時に、神様とかに出会ったりはしなかったけれど。

 ()()()()()、前世で悟ったつもりのまま死んだ()を、アイツらは馬鹿にしてるんだろう──って感じたから。

 ……もう一度、この気持ちのまま終わってやろう……みたいな?

 いや、正直あの頃の気持ちを思い出せと言われても、よく思い出せないっていうか、思い出したくないというか……。

 

 まぁ、うん。

 だからあの時期の私は、基本的にトゲがあったんだよね。

 本来ないはずの二週目(来世)に突然放り込まれて、イライラしてたのかも。……それで生徒会長さんを、あんな風に思い詰めさせてたって言うんだから救えないよね、私ってば。

 

 ──えっと、脱線してるから話を戻すと。

 小学校卒業前くらいまで、()は痛い子だったってこと。

 それがあるきっかけで治った──というのが、重要な話なわけだ。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 

「あるきっかけ?」

「あー、その、うん。……なんというか、えっとー……」

 

 

 いつも饒舌な──というかさっきまで饒舌に過ぎるくらいだった幼馴染みが、何事かを言い淀んでいる。

 言いたくない──というよりは、言うのが恥ずかしい──というような感じで、そのまま眉根を寄せてあー、とかうー、とか唸っている幼馴染み。

 ……なにをそんなに迷っているのだろう?そう俺が不思議に思っていると、

 

 

「その……同胞が、きっかけ」

「俺が?」

 

 

 幼馴染みは、俺を右手で指差して、左手で顔を隠しながらそう告げた。

 ……左手の隙間から覗く幼馴染みの顔は、ほんのり赤い。

 どうやら、よくわからないが照れているらしい。……いや、照れていることに対して、憤っているようにも見える。

 

 

「作り物だと思っていた世界で、自分達は作り物なんかじゃないんだって、最初に示したのは──あー、同胞だったってワケ」

「はぁ、……よく覚えてないけど、そうか」

「覚えてなくて良いっていうか思い出さなくていいからっ、こっ恥ずかしいっ」

「は、はぁ?」

「いいからっ」

 

 

 なんだかよくわからんが怒鳴られてしまった。……いやまぁ、怒っているというよりは、単なる照れ隠しなんだろうが。

 彼女は真っ赤な顔のまま、話を続けていく。

 

 

「……まぁ、シミュレーション仮説に関してはそれで終わり。──とは言えなかったって言うのが次の話」

「……と、言うと?」

 

 

 こちらの問いに、幼馴染みは小さく息を吐いて、天井を仰いだ。……その姿は呆れ──自分の間抜けな行動に対しての呆れを示すかのようで。

 

 

「ここが前世で見た、とあるゲームに近しい世界だって気付いた私は──軽い()()()()()()()()ことになってたのよ、こっちはつい最近までね」

「二重人格?」

「そ。……とは言っても、別に実際に人格が切り替わるわけじゃなくて、判断基準をちょっと誘導する感じの、別の基準ができてた──って感じなんだけど」

「はぁ……?」

 

 

 飛び出したのは、彼女が自身を二重人格だと思っていた、という告白だった。

 ……美少女モードのことではないらしい。聞いてみたら「違うわっ」と怒られてしまった。

 

 

()は──この世界がゲームの世界に近しいものだと知って、その主人公が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを投影するための、想像上の()だった」

 

 

 彼女が語るのは、ある意味転生者であるからこその悩みのようなもの。

 ──憑依ではなく赤ん坊として、ちゃんとこの世界に生まれたからこその、本来そこにいた誰か(主人公)の話だった。

 

 ある種の俯瞰視点である()と、実際にそこに立っている()()()本質的には今を見ているわけではない(ゲーム視点のままでいる)()

 どちらも世界をまともに見ていなかったうちは良かったのだが、片方()普通の視点を得た(俯瞰を止めた)ために、視界の()()が起こったのだと。

 ──なまじ()の視点が通常のものに近かった(俯瞰ではなかった)ことも、問題をややこしくする原因になっていた。

 

 

「……みんなのこと、幼馴染みとか転校生ちゃんとか後輩ちゃんとか呼んでたのは、ある意味()のせい。……作り物のはずの世界と、作り物じゃなくてちゃんと生きている貴方達の差異を、無意識に否定していたから」

 

 

 今思えばなんて不義理なことをしてたんだか、なんて彼女は言いながら、目元に手を当てて唸る。……唸っていても仕方ないと言わんばかりに、表情はすぐ元に戻っていたが。

 

 

「とはいえ、基礎的な判断は()側だったものだから、基本的に()には気付いていなかった……というよりは、()()()()()()()()()()()()()()って感じかな?」

 

 

 判断基準の上に覆い被さるように追加された(視界のバッティングを起こしていた)ものであったため、気付くのに遅れた……ということらしい。

 夢の中で()()()()()()()()()という異常を知って、そこから自分の言動を見詰め直した時に、そういえば一度も名前を言ってないし、聞いてもいないぞ?と震えたのだという。

 ──脳内で勝手に聞いたつもりにされていた(補正されていた)のだと知って、恐ろしくなったのだとか。

 

 

「それを、あの不思議さんに指摘されたってわけ。……あの時、『どっちの性別なのか』って聞きそびれたって言って、同胞は呆れてたじゃない?……あれ、『そんな失礼なことを聞くな』じゃなくて、『なんでそんなこともわからないんだ』ってほうの呆れだったんでしょう?」

 

 

 彼女に問い掛けられて、俺は記憶を探る。……ああ、そんなことを聞かれたこともあったか。

 確かに、なにを変なことを聞いているのか?と疑問に思ったものだ。 

 そんな俺の様子にふ、と苦笑いして、彼女は続きを語る。

 

 

「精神の基礎構造は男性な俺だけど、その出力は女性な私は、あの人に自分と同じものを無意識に見出していた。……だから()()()()()()()()()()()()()。……今改めて思い出してみれば、普通に女の人だったよあの人」

「ああ、勘違いするなんてありえないってくらい、普通に女性だったよあの人」

 

 

 俺の肯定に、だよね、と返す幼馴染み。

 

 

「……ある意味、()()の秘めた願望でもあった。無個性だった(主人公)に、無意味(無力)な自分は愛されるはずがないという、現実を押し付けるための身代わりだった」

 

 

 そんな、都合のいい()だったから。

 手放せないまま、ずるずると過ごしていたのだと。

 彼女は、困ったように笑うのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ま、まさか……貴女が性別不合だったなんて、私気付きませんでしたわ……なんなる、なんたる不覚!」

「いやあの生徒会長さん?話聞いてた?もしもーし?……あダメだこれ、全然聞いてないや」

 

 

 不覚不覚不覚と言いながら超凹んでる生徒会長さんに、思わず呆れ顔を返しつつ、周囲のみんなに視線を向けてみる。

 反応は様々。……まぁ、事前に予想してた「お前は私達を作り物だと思っていたのか」みたいな憤りはなかったのだけれど。

 

 

「はー、なんというか。色々納得できちゃいました」

「そうよね、詳しい説明は私も今聞いたけど。……色々な疑問が解消されちゃったわね」

「え、なんでそこで納得の頷き?」

 

 

 代わりに転校生ちゃんと後輩ちゃんが、何事かに説明が付いた、とばかりにうんうんと頷いていた。……え、なに、なんなの一体?

 

 

「先輩が色々抱えていたのはわかった。でも……なんで今?」

「お、おう紡ぎ手ちゃん、何故にリラックスモードなのですか……?」

「警戒する必要がなくなった。もう癖になってるからあれだけど」

 

 

 次いで近付いてきて来たのは、普通の喋り方の紡ぎ手ちゃん。

 ……ええ……?わりと一世一代の告白の気分だったんだけど、なにゆえみんなこんなに緩いん……?

 

 

「色々と噛みあってないのは……みんなわかってたもの……だから……驚いたのは……前世があるってことくらいよ……」

「えええ、そんなにわかりやすかったの私……?」

 

 

 先生の言葉に愕然とする。

 ……いや、そもそもこれを告白しようと思ったきっかけ自体が、転校生ちゃんからの指摘によるものだけどさぁ?!そんなに私わかりやすかったかぁ!?

 

 

「ああ、結構な」

「マジかよ……」

 

 

 同胞の発した肯定の言葉に、思わず項垂れる。

 ……いや、まぁ、私が勝手に凹む分にはいいんだ、うん。

 

 

「で?後輩も言ってたけど、なんで今なんだ?」

「……不思議さんに言われたからってのが一つ。夢で見てしまったのが一つ。……一番重要なのが、それら全部単なるきっかけだって気付いたこと」

「ふむ?」

 

 

 同胞に続きを促されて、言葉に詰まる。

 

 ああもう、言いたくない。

 言わなきゃいけないけど、言いたくない!

 ……でも言わなきゃダメなんでしょこの空気。

 だから仕方なく。息を吐いて、吸って、一息に告げる。

 

 

「……そもそもの話!同胞と食べさせ合いしてた時のアレが、思いっきり言い訳だったって、あとから気付いたのが原因なんです悪いかちくしょーっ!!」

「は、はぁ?」

 

 

 ()()()()()()()()()()ことに気付いちゃったからとか、そんなん馬鹿でしかねぇじゃないですか……!!

 

 私の絞り出すような叫びに困惑する同胞と、すっごいニヤニヤしてる転校生ちゃんを半ば睨むように見ながら、言葉を叩きつける私。

 

 

「食べさせ合いだぁ!?男同士でやるとかフツーにないわ!仲良すぎるっての!その気がなくてもあるよね!って思われるレベルでないわ!!言い訳下手かっ!!!」

「お、おう?」

「指摘も食らったんだよ!『私達に対しては基本一通りの呼び方なのに、彼に対してだけは三種類もあるのね』ってねぇ!!そうだよ同胞(どうほう)同胞(はらから)幼馴染み(おさななじみ)って、アンタにだけ呼びわけめっちゃしてるじゃん!外から見たらバレバレ、とか言われた(わた)しゃぐあああああ!!?って叫びたくなったわけよわかるっ?!」

「お、ちょ、待て待て」

「待たんわ聞けぇっ!!同胞がメイド服着た時の感想が可愛いだぁっ?!──男に!!可愛いとか!!もうごまかしようのないくらいアレじゃんっ!!そもそも妾にならないかー、とか言ってたな私っ?!なんやそれ初っぱなから告白しとるやんけ!!百合の花園目指しとると言うとるのに!!初っぱなから!!同胞()を加えること考えとるこのアホ!!バカだな私!さてはバカなんだな!!?」

「いや待て、ホント待て!」

「さっきの()云々の話だって、一番重要なのはそこらへんから都合よく目を逸らすためのモノでしかない!!みんな作り物なんやでって言い聞かせて!どっか遠くに自分を置いて!!できればこっちは気にせずにいて欲しいなー、みたいなわがまま放題!!あーもうバカ!!バカのバカ!!」

「いやホント、落ち着け、真面目落ち着け、な?」

 

 

 ……中身はもういい歳だってのに。

 感情に任せて大声で叫ぶとか、ほんと単なるバカでしかない。

 

 

「……なにに変わっても愛してくれるか、とか聞いちゃって。一緒に旅をしようとか返されて。あーダメだこれ、ってなっちゃって。……もうダメじゃん、素直に認めるしかないじゃん……」

「その、なにを認めるんだ?」

 

 

 同胞の返しに、一瞬息が止まる。

 呼吸ができない、言葉が出ない。……出したくない。

 でも、私から言わなきゃアカンのよね、これ。

 あー、恋人いない歴年齢とイコールなやつにはキツいぃ……。

 頭を抱えて、転げ回って、なかったことにしたい。全部忘れて寝てしまいたい。

 

 ──でも、言わなきゃ、進めない。

 

 

「私は、君が、好きなんだなって」

 

 

 ──顔があっつい。感情が制御できない。

 あまりにも馬鹿馬鹿しくて泣きたくなってくる。

 ……初恋ってこんなんなんだ、って変な感想が沸いてくる。

 

 あーもう気持ち悪い。

 こんな気持ちでいることが、こんな感情でいっぱいなことが。

 ───()()()()()()、気持ち悪い。

 

 

「だから。その、付きあって貰えたら、嬉しいなっていうか」

 

 

 ろくに顔も見れないまま、自分勝手な願望を口にする。

 ……叶わないだろうな、でももしかして、なんて思いは、

 

 

「え、イヤだけど」

 

 

 ───すぐに、霧散した。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「……え、ちょ、えっ!?」

 

 

 転校生がマジかよ、みたいな声を漏らしている。

 対面の幼馴染みは──、目から光が消えていた。

 顔の赤みもさっと引いて、ここではないどこかを見詰めている。……壊れたような笑みを、浮かべている。

 

 

「……あ、あはは。そっか。だよねー、気持ち悪いもんねー、私みたいなのは。……あは、あははは」

 

 

 空笑いを浮かべながら、視線をさ迷わせる彼女。

 それから、近くに並べられたフォークを手に取って、

 

 

「ちょ、おやめなさい!なにを考えているの貴女っ!?」

「ああああ離せぇっ離してくれぇっ!!こんな無様晒したのに生きてられるかああああああああ!!」

 

 

 なにをしようとしたのかを察した生徒会長が、彼女を後ろから羽交い締めにする。

 そのまま、じたばたと暴れる彼女。

 泣き喚いて、みっともない姿を晒し続けている彼女。

 ──そんな彼女に近付いて、その顔をひっ掴まえて、こっちに強引に視線を向けさせる。

 突然のことに、思わず暴れるのを止める幼馴染み。

 

 ──俺は、端的に言ってとてもイラついていた。

 

 

「イヤに決まってるだろう。……こっちを名前でちゃんと呼ばないやつと、付き合うのなんて」

「…………はへ?」

 

 

 全然なにもわかってない幼馴染みに、俺は憤っていたのだ。

 ──自分のわがままだけを通そうとする、このバカな幼馴染みに。

 

 

「付き合いたいってんなら、ちゃんと名前で呼べ。……今までみたいに、あだ名めいた呼びかたをする必要も、もうないんだろう?だったらそれからだろう、なにをするにしても」

「え?……あ、いや、その」

「呼べ」

「ひぇっ、顔、顔近い……」

「好きな相手の顔が近くてなにか問題が?」

「ひぃっ、なんでそんな唐突に押せ押せに……」

「呼ぶのか、呼ばないのか」

「ひゃいっ!?呼びますっ、呼びますから堪忍して下さいぃ……」

 

 

 視線を逸らさず、逸らさせず、幼馴染みに口擊を繰り返す。

 

 幼馴染みを羽交い締めにしている生徒会長が、「自分はなにを見せられているのだろう」みたいな感じで遠い目をしていたが、とりあえず無視。……逃げられないようになっていること自体はありがたいが。

 

 視線をしっかりあわせ、彼女の言葉を待つ。

 彼女は再び真っ赤になって、何度も口を開きかけて、躊躇して止めるのを繰り返し。

 

 こちらの視線に、涙目になりながら。

 か細い声で、こちらを呼んだ。

 

 

ほ、堀ノ内、くん?

「下の名前で呼べ」

「ひぃっ?!……あ、うっ、……あ、(あきら)、くん?

「なんだ、桐依(きりえ)

 

 

 やっとこちらを呼んだ幼馴染みに、同じように名前を呼び返してやれば。……彼女はさっきよりも真っ赤に顔を染めて。

 

 

「……しょ、」

「しょ?」

「……少女漫画……っ」

 

 

 謎の言葉をあげて、そのままがくりと項垂れた。……処理限界を越えて気絶したらしい。

 

 ……まぁ、今回はこれくらいで勘弁してやるか。

 近付けていた顔を離し、小さく嘆息する。

 ……ふと、周囲を見ると。「なんだ今の一連の流れは……」みたいな表情の部活仲間達でいっぱいだった。

 

 ……いや、そもそもの話。

 今現在は演劇祭が終わっての後夜祭なので、結構な数の生徒達に聞かれていたわけだが。

 

 

「いやまぁ、周りが意識して聞いていたのは、あくまで部長さんの告白以降の部分でしょうけど。……随分と思いきったことをしたわね、貴方」

「今まで振り回されてきたツケってやつだ。せいぜい、意識が戻った時に盛大に転げ回ればいいさ」

「……うわぁ……」

 

 

 後輩がスゴいものを見た、みたいな視線を向けてくるが知ったことではない。

 

 ……百合の園を作りたいといいつつ、あんまり積極的に動いてなかったこととか。

 こっちに対して距離感が近過ぎた理由が、自身と同性扱いだった部分が少なからずあるとか。

 名前を呼ばないままにしておこうとしてる理由の一部に、単に名前を呼ぶのが恥ずかしい……とかいう子供みたいなものがあるとか。

 

 言いたいことは山ほどあるが。

 あれだけで済ませてやったのだから、文句を言われる筋合いはないのだ。

 

 

「……この人を怒らせてはいけない」

「流石正妻ポジション……強さが桁違いですね……」

「……お前らだって、名前で呼んで貰えるならそっちのほうが嬉しいだろ?」

 

 

 俺の言葉に、みんなが顔を見合わせる。……あれ?

 

 

「いやまぁ、そこら辺は追々どうにか……みたいに思ってたから、ね?」

「全力ストレートで全部ぶっちぎった堀ノ内先輩が色々おかしいというか……」

「……あれ?」

 

 

 なんで俺、微妙にアウェーみたいになってるんだ?

 

 ……それと後輩、早速お前はこっちの名字を呼ぶんだな?なんて言えば、彼女は「そもそもその辺り東山先輩にみんなあわせてたところがありますので……」と苦笑していた。

 

 ……まぁ、うちの幼馴染みが意識してか否かはわからずとも、基本的に名前を呼ばないのはみんながわかっていた。

 ゆえになにか理由があるんだろうなと気を使ってあわせていた……というのは事実である。主体が幼馴染みなので、アイツが止めればそこに拘る必要もない……というのも道理だった。

 

 

「まぁ、とりあえず。……長かった演劇祭も、これで終わりですねぇ」

「……そうだな、色々長かった」

 

 

 後輩の言葉に視線を上げれば、舞台の上に垂れ下がる『優勝・生徒会』の文字。

 ……僅差ではあったが、勝利の栄冠を掴んだのは生徒会だった。

 さっき生徒会長や先生が混ざっていたのもそのせい。

 ……仲直り、というと変な話だが、まぁわけのわからない意地の張りあいも、今回で終わり──というわけだ。

 

 

「とりあえず、次にするべきことと言えば夏休みの計画……かしらね?」

「あ、うちの伝で無人島とかどうですか?」

「事件の予感、新しい作品の糧にできそう……」

 

 

 三人娘はかしましく、次の予定を立てている。

 そんな様子を眺めながら、俺は飲み物を一口。

 

 

 

 

 長い長いプロローグ(演劇祭)は、こうして終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

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