百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「お、おはよう同胞……」
「ひとーつ」
「なにそのカウント!?なにを数えてるの!!?不穏でしかないんだけど!?」
「ははははは」
「笑ってごまかすなぁーっ!!?」
次の日の朝。
家の前でこちらを待っていた幼馴染みに挨拶をしたら、謎のカウントダウンを始められてしまった。
……いや、まさかとは思うけど、名前呼ばなかった回数とか数えてないよねこの人……?
だとしたら怖いんだけど。どんだけ名前呼ばせたいのこの人。どこかで慣れないと死ぬぞ私、恥ずか死するぞこれ。……慣れるのかなこれ?
「ほれ、とりあえず行くんだろ?」
「……むむむ……はぐらかされてる気がする……」
幼馴染みの言葉に唸り返す私。
なんというかごまかされてる感が凄い。……いやまぁ、ここで唸ってても仕方がない、ってことも確かなんだけどさ。
釈然としない気分を抱きつつ、連れだって学校に歩き始める私達。
いろいろあった演劇祭も終わって、今日は学期末の終業式の日。
ありがたーい校長先生の話とかが終われば、生徒達は夏休みという一種の解放状態に移行することになる。
……登校する生徒達に妙にそわそわしてる人が多いのは、間近に迫った夏休みになにをしようか……と早速計画を立てている者が多いからなのだろうか?
まぁ私達も夏になにをしようか、みたいな話はしていたわけなんだけど。
……鈴莉ちゃんの提案を呑んでちょっとキャンプでも、というのが第一候補だろうか?
というかその場合は合宿扱いでいいんだろうか?……うーん、申請とかいるんだろうか?
「その場合は篠浦先生が引率になるのか?」
「……なんか急に超不安になったんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
部活として無事承認された文芸部、この度顧問を迎えることになったのだけれど。……うん、原作通り篠浦先生が顧問になったんだよね。
……イヤな予感しかしないんだけど!どんな無理難題が飛んでくるんですかねこれ!!
逆に西内さんは文芸部には未参加である。
生徒会が忙しいので、他の部活の手伝いには基本手を貸せない──と言われてしまった。……まぁ、仮に合宿するなら参加したい、とも言っていたけれど。
その辺は外部協力者扱いでお願いしたいとも言っていたので、ちょくちょく飛び入り参加みたいな感じになるのではないだろうか。
……ん、そうなると結局あんまり変わんないのかもしれないね、文芸部周りは。
あと気になることは──、結花ちゃんがリラックスモードから元に戻った、とかかな。
あのときは普通に喋っていた彼女だけど、結局最初に出会ったときのように
……そっちで喋っているほうが長くなっていたのもあって、どっちもある意味リラックスモードみたいなものだから……というのが戻った理由らしい。
それとあの喋りかたをしていると微妙に練習になる──みたいなことも言っていたような?……いや、なんの練習?
「そういえば、式が終わったら部室に集合か?」
「え?……あー、そだね。夏にどうするか決めなきゃだし、一回集合かな」
そうして考えごとをしていたからか、幼馴染みの発言に反応するのが少し遅れてしまう。
……んー、流石に慣れてはきたけど、意識の外から話し掛けられるとちょっと身構えちゃうなぁ。……早く慣れなきゃなぁ。
そんな感じに一人で百面相していたら、幼馴染みが小さく苦笑を向けてくる。……人の顔見て笑うの、良くないと思うんだけど?
「悪い悪い。慣れたつもりでもちょっと距離があるのが、なんか猫みたいで可愛いなって思ってな」
「……ねぇ君、実はなんか変なもの食べたとかない?幾らなんでもキャラ違くない?」
返ってきた幼馴染みの言葉に、思わずジト目を返してしまう私。
……なんかこう私が告白したせいなのか、幼馴染みの雰囲気が別物に変わっちゃったような感じがある……ような気がするんだけど……?
そう伝えると、彼からはこんな返答。
「……いや、こっちのほうが嬉しいだろ、お前」
「は?いやいやなに言ってる、の……お?」
──なんでこの人、人の頬に右手を添えてるんでしょう?
突然の幼馴染みの行動に機能停止していると、彼は笑ってこう続けたのです。
「どっちかというと、振り回されたい側だろお前」
「………幼馴染みが人のこと理解しすぎてて怖い」
微かな笑みと共に返ってきた言葉に、思わず半目になる。
そして、そんな素振り欠片も見せた覚えないんだけど、と問い返せば。見てりゃわかるよ、と返ってきて言葉に詰まる。
……基本振り回す側に回ってたから、気付かれてないだろうと思ってたんだけどなぁ、こりゃ負けるわけですわ……。
照れより先に呆れが来て、思わず笑ってしまう。……イヤだなぁ、もう。
「……朝からお熱いわね、お二方」
「どわっはぁっ!!?すすす朱紅奈さんいつからいたの?!」
「彼が貴女の頬に手を添えたあたり。……因みに栗花落さんもいるわよ」
「先輩がラブを発するとき、私はいつでも傍にいるのですよ!」
「……後輩に謎の能力が追加されてる件について」
そんなことをしていたら、後ろから声を掛けられて思わず跳び退く私。
振り返った先にはいつもの部活仲間達。
……すっごい鈴莉ちゃんがニコニコしてて、なんとも言えない気分になる。いや、なんでそんな上機嫌なのこの子……?
あと結花ちゃん、なんでおにぎりもぐもぐしながら付いてきてるの?
「
「……おお、なんか久しぶりな気のする副音声……」
尋ねてみると、バツが悪いのか視線を逸らす結花ちゃん。……視線を逸らされたことそのものよりも、久しぶりに副音声聞いたような気がすることのがちょっと驚きだったり。
……日差しは朝から強く。
本格的に夏になったんだなぁ、なんてちょっと間抜けな感想を抱きながら。
みんな揃って、学校までの道のりを歩く。
「……まぁ、こういうのもありかな」
ぼそりと呟き、空を仰ぐ。
……でもやっぱり熱いのはやめて欲しいかな!冬生まれなので私熱いのはダメなんだよね!
色々と台無しにする感想は外には出さず、そのまま校門前で解散して各々の教室に向かう私達なのでした。
「そういうわけで……夏休み中の……活動内容について……決めて行きましょう……」
「わーいすっごい先行き不安だー」
校長先生の長話を耐えきった先で、トラブルメイカーとの直接対決が待ってるとかちょっと笑えないなぁ!
……的なことを言っても遠回しじゃ聞き流されるし、直接言っても弾かれるし……で散々な、篠浦先生との
場所はいつもの文芸部部室!
顧問もしっかり配属されて、正式に部活として承認された私達に敵はない!……この場合の敵って誰だろね?
「敵……文芸部の……敵?」
「落ち着け、そもそも戦う部活じゃないだろ文芸部」
小さく首を捻っていると、同胞から軽いツッコミが。
……ししし知ってたし!文芸部は自分との戦いくらいしかないって知って……いや、なんかしらの賞とか目指すんなら、やっぱり他人との戦いなのでは……?
「賞を目指すのは……早くても二学期からね……今は……考慮外よ……」
「とりあえず夏の間は考えるな、ということですね!」
こんがらがって来た私に、二学期まで保留と伝えてくる篠浦先生と、ザクッと纏める鈴莉ちゃん。
……まぁ、賞に向けてって言っても、なんの賞を目指すのかとか色々あるし、そうそう決められるものでもない……か。
じゃあまぁそのあたりは棚上げで、さっくりと夏休みの計画について語っていこうじゃないの。
……というわけで、会議は始まったのです。
「はい!うち無人島持ってますので、二泊三日くらいサバイバルとかどうでしょう!」
「初手からちょっと処理が追い付かないものぶち込むの止めない鈴莉ちゃん?」
まー始まってすぐに止まったんだけどもね。
……んー、いきなり島持ってますよーとか言われても、反応に困るんだよねーははは。更にそこでサバイバル、サバイバルと来たかーははは。
……処理が!追い付かんわ!!?
あまりに気軽、あまりに唐突!
イヤ確かにね、色々経験することで書けるものの幅が広がったりするだろうから、いい案だとは思うよ!思うけどさ?
「なしてサバイバル想定!?普通に旅行に行きましたーでもいいんじゃないかな!?かな?!」
「普通はいらないのです!もっと刺激的に生きましょうよ先輩!!」
「なにもない毎日が一番、って名言を知らないんですかぁ!?」
「その歌はわからないやつのほうが多いんじゃないかなぁ……」
「しかもそれ、最終的に君がいない日々に負けて逃げてなかったかしら?」
「……
「ちょっと待ってちょっと待って……貴方達いつもこうなの……?」
わいのわいのと騒いでいたら、珍しくちょっと焦った様子の篠浦先生に中断させられる。……え?いっつもこんな感じですがなにか?
そう返すと、彼女は小さくため息を吐いていた。
……振り回す側のはずの先生が、なんだか知らんが振り回されている、だと……?
「……真面目な話を……しているときは……さすがに私も……自重するけど……貴方達……真面目に話を逸らしたわね……?」
「若い内は無鉄砲なくらいが丁度いいと習いました!先輩に!!」
「清々しいまでの責任転嫁っ!!?」
「いや、実際に似たようなことは言ってたぞお前……」
「う、うっそだぁ……?」
かわいそうなものを見る目で見てくる篠浦先生と、なぜだか自信満々な鈴莉ちゃん。
……無鉄砲にぶつかっていけと私に教わった、みたいなこと言われたんだけど私知らないよ?!って主張したら原因私やぞって同胞に釘を刺されてしまった。……そ、そうだったかなぁ……?
「……まぁ……いいわ……無人島二泊三日……それでいいのね……?」
「いいと思います!」
「いいんじゃないかしら」
「いいと思うぞ」
「
「……いやまぁ、みんながいいんならいいけども」
そうしてみんな次々と賛成に表を入れていくものだから、最終的に賛成せざるをえなくなってしまう。……いやいいけども。
しかしまぁ、まさかの初手からサバイバルキャンプとは。……夏満喫する気満々ですねこれ?
このまま肝試しとかも連鎖していくあれですね?
「そういうわけなので先輩!!」
「はい?なんでしょう鈴莉ちゃん?」
それにしても無人島でサバイバルか……なにを用意すればいいんだろうか?
なんて感じに、決まってしまったのだからもう張り切って楽しもう!とあれこれ考え始めた私へと、元気に声を掛けてくる鈴莉ちゃん。
……なんだかイヤな予感がするけど、なんだろねこれ?
「みんなで、水着見に行きましょう!水着!」
「……なん……だと……?」
無邪気に宣言する後輩に、私は目の前が真っ暗になるような恐怖を覚えるのだった────。