百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「なんでこの世の終わり、みたいな顔をしていたのかと思えば、貴方泳げなかったのね」
「末代まで隠していたかった……」
完璧美少女を自称してるのに、泳げないとか恥以外のなにものでもないじゃん……、とぼやく桐依を取り巻くようにして歩く俺達。
因みに篠浦先生は仕事があるとかで学校に残ったので、ここにはいない。……良かったかどうかは実際謎である。
会議をなし崩し的に終え、そのまま栗花落のごり押しで隣街まで出掛けているのは、彼女が終わり際に言い放った「水着を見に行こう」という提案を果たすためである。
……なんで俺まで巻き込まれているんだろうな?女性陣だけで選べばいいんじゃないのか?
「男性目線でいい感じのを見繕って貰うのもありかな、と!」
「……実際の本音は?」
「先輩の水着を選んであげて下さい!」
「ちょっとぉっ!!?」
「了解、一番いいのを選ぼう」
「同胞も乗るんじゃなぁいっ!!」
栗花落からの要請に、サムズアップで答える。
そういうことなら吝かでもない、誠心誠意真心込めて、桐依に似合う水着を選んでみせよう。
……こっちをぽかぽか殴ってくる幼馴染みはスルーしつつ、しばし歩いてたどり着いたのはわりと大きめの百貨店。
学生程度の小遣いでもいろいろ買えてしまう、わりとリーズナブルなテナントが並ぶ優良店である。
「あああ生き返るぅー……」
「外あっついもんな……」
店内に入れば、太陽照り付ける外とは大違いの、よく冷えた空気が俺達を出迎える。
熱いのはダメと公言する桐依が、冷房を浴びてたちどころに復活するのを見て、なんとなく苦笑を浮かべ。そのまま、皆で二階に向かう。
そうして夏物がズラリと並ぶ服屋に入り、各々が好きに見て回る形へ移行。……一応、俺と栗花落と桐依が纏まって動いてはいるが。
他二人は先に普通の夏服を見て回るらしいので、あぶれ組は先に水着の物色を──というわけだ。
「文芸部初期メンバー集結ですね!」
「集結もなにも、いっつも一緒じゃん私達」
「あえて言葉にすることに意味があるんですよ!」
「……なるほど?」
などとうだうだ喋っているうちに、水着コーナーの前に到着である。
今年のトレンドはシンプルイズベストと言うことなのか、無地モノの陳列数がやけに多い。……色の種類自体は結構数があるようだが。
「……緑色だと、なんか葉っぱみたいじゃない?」
「流石にその感想はちょっと……」
「なんだと貴様ぁ!?」
適当に一つ手に取ってみた水着を、こちらに見せながら控えめに笑う桐依。
緑色だから葉っぱ、みたいな安直な考え方に冷笑を返せば、途端に怒り出す桐依。……に、店内で騒ぐなよとさらに言葉を返し、しゅん……となって落ち込む桐依を見て、後輩と静かにハイタッチ。
……からかわれていたのだと気付いて、顔を真っ赤にしてぷるぷる震える彼女を見るまでが、ほぼ既定路線である。
こういうときは初期メンバーとしての連携力の高さを感じざるを得ないな(?)
「ええい、堰を切ったように調子に乗りおってからに!こうなったら同胞!貴様もこれを着ろぉっ!!」
「……!これは……!」
叫ばないように叫んだ(?)器用な桐依が、ハンガーラックから引っ張り出した一着の水着。
その造形に、俺と栗花落が驚愕する。何故ならば、
「上下フリル付きとは言え、ビキニをチョイスするとは……」
「先輩、堀ノ内先輩の女装好きすぎでは?」
「ええいなんとでも言えいっ!!こっちばっかり恥ずかしがるのは不公平だろってんでい!」
いわゆるフレアビキニと呼ばれるタイプの水着を引っ張り出してきて、どうだ!と笑う桐依。
……笑うというか引き攣ってるというかな微妙な笑みだが、発言そのものは本気のようである。……ふむ。
「どうだ、栗花落。似合うかこれ?」
「むむむ、先輩のイメージ的には青とかの寒色系のほうがいいのでは!……あ、ちょっと柄入りのもいいかも知れませんね?」
「…………っ?!え、ちょ、マジで着る気なの!?」
隣の後輩に感想を聞いてみる。
……ふむ、青色、青色か。同じタイプで色違いのものは置いてあるだろうか?
なんて感じに水着を物色し始める俺達と、自分で選んだ癖に困惑している桐依。……なんでこんなにびっくりしてるのだろうか、こいつは?
「マジもなにも、着てほしいから選んだんじゃないのか?」
「え、えええ?あれ?私おかしいこと言って……あ゛」
こちらの返答を受け、唐突なダミ声と共に静止する桐依。
さっきからどうしたのだろうかこの幼馴染みは?と首を捻る俺の前で、当の幼馴染みはひたすら唸り続けているのだった──。
せやったこの世界、異性装に対して緩いんやった(通算幾度目かの気付き)。
……水着コーナーの裏手に回ってみれば、大事なところを隠したり目立たなくしたり、はたまた全部寸胴なら同じや!……したりできるようにと、あれこれ
水着コーナーの上にある案内板が単に『水着コーナー』になっていることに最初から気付いとけば、変に恥を掻く必要はなかったかも知れない……。
「……いややっぱりおかしい、羞恥心とかどうなってんだ一体」
「唐突にどうしたお前」
……いややっぱりおかしいよ!見えなきゃいいにしてもなんかあんでしょ普通は!
こちらをジト目で見てくる幼馴染みにそう問えば、呆れながらも彼は答えを返してくれる。
「まぁ、猥褻物にあたる部分を見せるのは、普通に捕まるからな。……逆に言うと、そこらへんしっかりしてれば意外と問題にはならないみたいだぞ」
「みなさん、着たい物を好きに選んでますからね!」
「ぐぬぬぬぬ、最早一般的になってるからこそか……!」
同性での付き合いが認められていることの延長線上で、俗に言う女役・男役の扱いが性別から離れてしまっているからこその服装の自由……と考えるべきかね?
性別区分が単純な肉体の性に限らず、精神的な性まで混じってるから……というか。
女性用の男性服・男性用の女性服みたいなのもあるし、最早これは深く考えるだけ無駄なのかも知れない……。
いやでもほぼ下着に
「いや、俺も人がいるとこなら気にするよ。……でもこれ着るの無人島だろ?ならまぁ、桐依がどうしてもって言うなら選択肢に入れないでもない……ってだけだよ」
「んぐっ」
そんな私の惑いは、次の同胞の言葉で中断される。……わ、私が望むなら、かぁ……。
……ちょっと冷静になって考えてみる。
見た目が見た目なので、別に女性用の水着を着せてもまぁ似合うだろう。……視界内の花が増すのは、実際とても喜ばしい。
……いやでも同胞には普通の男性用の水着を着て欲しいような……いやしかし……。
「なにを悩むんですか先輩……!」
「お、お前は
私が勝手に
「どっちも着せてしまえばいいんですよ、傍若無人ないつもの先輩はどうしたんですか……!」
「な、なんだと……!?」
人をなんだと思っているのか、といういつものツッコミは抑えつつ、彼女の提案に驚愕する。
──それはつまり、同胞ファッションショーIn無人島を開催しろってことですかーッ!?
そんな私からの問いに、「ふ、料金は私持ちですよ……面白そうなので!」と答える鈴莉ちゃんはまさしく悪(ノリ)のカリスマである。……いや、とても魅力的な提案だと思うよ実際。だけどね?
「……へ?なぜ後ずさりするのですか先輩?」
「鈴莉ちゃん、後ろ後ろ」
ゆっくり後ろに逃げていく私と、首を傾げる鈴莉ちゃん。
……うん、流石にちょっと悪ノリしたからね。逃げないと巻き込まれるからね、仕方ないね?
困惑する彼女の背後には、
「ひゃぎゃっ!?痛っ!?ってせせせ先輩っ!?」
「──お楽しみは、これまでだ!」
「わーっ!?ごめんなさいごめんなさい!流石に調子に乗りましたあ痛たたたっ!?」
「あ、あれは、『四十五度チョップ真拳』!」
「知っているの桐依?」
「うむ、四十五度の角度からチョップをすれば電化製品が治る──、昔の人々のそういった信仰が形を得て昇華されたもの、それが『四十五度チョップ真拳』!相手の言動や行動が条理より外れているとき、それを正すために振るわれるとされる慈悲の御業よ……」
「……すごく痛そうなのだけれど」
「慈悲の心とは仏の心。仏の慈悲は痛いものと相場は決まっている……痛くなければ覚えませぬ、というやつだな」
「仏まで体罰教育に汚染されている……?!」
同胞のチョップ連打で追いかけ回されている鈴莉ちゃんを、いつの間にか合流していた朱紅奈さんと眺める私。
結局、その追いかけっこは店員さんの無言の圧力によって、みんなが店の外に出るまで続くのであった。
「
「返す言葉もありませぬ」
「右に」
「同じに候」
店内のフードコートで、結花ちゃんにお叱りを受ける私達。
朱紅奈さんまで巻き込まれているのは、一連の騒動を見てるだけで止めなかったから……だろうか?
「まぁ、仕方ないわね。実際止める気がなかったわけだし」
「水着自体は一応選び終わってたのが救いかなぁ……」
「実際泳ぐような暇があるかはわからないわけだがな」
騒ぐまではいかずとも、静観はしていたのだから……と朱紅奈さんはすまし顔。
それにあーだこーだと話をしながら、頼んだポテトをぱくり。……うむ、可もなく不可もなく。普通のフライドポテトですねこれは。
おやつにバーガーってどうなんだろ感あるけど、健全な学生なら学校帰りに買い食いとか普通だよね!
「むー、絶対楽しいことになってたと思うんですが!」
「主に楽しいのはお前だったろ、却下だ却下」
「えー!?というか東山先輩途中まで乗り気だったじゃないですか!なんで急に手のひら返したんですか!?」
「うぇ?」
そんな感じに飲み物飲みつつポテトポリポリしてたら、鈴莉ちゃんから飛んでくる疑問の声。
……ふむ、いきなり梯子を外した理由、ね………。
「いや、その……どうせならそーいうのは私だけが見たいかなーと言うか……」
「……許しました!ごちそうさまでした!」
「こっちも手のひら返しがエグい件」
「独り占めは寧ろ美味しい、というわけね」
「……
「う、うるさいなぁもう!」
正直に答えたらなんか満足されてしまったでござる。
……なんだよう、別にいいじゃんかよう……。
いやまぁ、結花ちゃんの言う通り、だいぶお花畑気分になってるなと自分でも思うけどさ……。
「──ふむ、騒がしい風が吹くな、と思っていたら。こんにちは諸君、息災そうで何よりだよ」
「む、その声は──不思議さん?」
若干拗ねながら飲み物をぶくぶくさせていたら、聞き馴染みのある声が聞こえてきたので視線を後ろに向ける。
そこには一般人にしてはやけに濃い人──そんなに濃いのにも関わらず、原作では一切見たことがない謎の人物である──仮称不思議さんが、こちらに軽く手を上げて挨拶をしてくる姿があったのだった。