百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
意味深な笑みでこちらを煙に巻く謎の人物、柳瀬 栞を無人島ツアーに誘うことに成功した私達。
その肩書き──探偵という言葉に些かの不安を抱きつつ、それでも島に上陸した私達が見たものは、驚愕・仰天・狂乱・凶報の連続であった!
果たして、私達の二泊三日の無人島サバイバルは、どうなってしまうのか?
そして謎の人物、柳瀬 栞の正体とは!?
「……という夢を見たんだ」
「またなんか胡乱なものを見たんだなお前……」
「止めろー!存在そのものが胡乱、みたいな目で私を見るのは止めろー!」
鈴莉ちゃんの実家から貸し出された個人所有のクルーザーに乗って向かうのは、とある場所にポツリと浮かぶ無人島。
より正確に言うと、昔は人が住んでいたけれど過疎化の果てに人がいなくなった、いわゆる廃村的な無人島なのだそうで。
鈴莉ちゃんの実家は、それを色んな経緯から買い上げることになったのだとか。
無人島って所有していても固定資産税が安いらしいので、税金対策にもおすすめらしい……なんて話があるけれど、そういうことなのかね?……うーむ、そのあたりは鈴莉ちゃんのお家の規模がわからんのでなんとも。
まぁ、今回はそんな無人島の一つをお借りして、ちょっとしたサバイバルを行おう!といった感じの話になっているのだった。
ついでにいうと、その島にはどこぞのお殿様の隠し財宝があるとかないとか……みたいな噂があるとのことで、そこに探偵(原義的な意味で)と呼ばれている柳瀬さんを招いて、ちょっとした余興にしよう──みたいなことも合わせて決まったのだそうだ。……なんか、いつの間にかだいぶ大事になってない?
「大人一人に子供五人だけ、それで無人島に二泊三日……とか認められるわけないだろ?その点、柳瀬が同行するってことなら話は別、僕もちょっとは安心できるってものさ」
「ははは、なんだか随分と買って貰っているようで何よりだよ。……あ、でも付き合うとかは間に合ってるよ、身も蓋もない話だけど」
「はっ、誰がお前なんかと。精々
「あ、もうお兄様!喧嘩腰はよくないと何度も注意させていただいているじゃないですか!」
「……ちっ」
「ああもう……あ、すみません先輩。お兄様はちょっと口が悪いですが、別に悪人というわけではないので、どうかお目溢しを頂ければ、と!」
「うるさいぞ鈴莉!……ったく、なんで僕が送迎なんか……」
柳瀬さんを無人島に誘った最大の理由は、鈴莉ちゃんのお兄さんが柳瀬さんと同じ大学に通う同級生だったから、その評判を知っていた──ということかららしいのだけれど。
……なんかフラグが!変なフラグが!積み重なって行ってないこれ?!ヤベーフラグじゃないよなこれ!?っていうか聞いたことがある、ってお兄さん経由だったんだね?!
クルーザーを運転しながらぶつぶつと文句を呟いているお兄さんと、そんな彼をニコニコと見詰めている鈴莉ちゃん。
時折柳瀬さんがお兄さんに何事かを話しかけて、それに対してお兄さんがなにかしら反論だとか嫌味?だとかを返している。
それを鈴莉ちゃんが苦笑しつつも微笑ましげに見ていて……ってこれ、私完全に部外者だね?
そんな和気あいあいとしている運転席から離れて、船の後ろのほう──いわゆるアフトデッキと呼ばれるところに向かう。
「ふ……ふふふ……まさか船酔い…………するなんてね………」
「大丈夫朱紅奈さん?沈黙が多くなってるせいで、喋りかたなんか先生みたいになってるけど……」
「ふ、ふふふ……大丈夫、ちょっと気持ち悪いだけだから……大丈夫大丈夫……」
「まったく大丈夫に見えねぇんですがそれは」
そこには、手すりに倒れ込むように全体重を預けながら、遠くのほうに意識を飛ばして虚ろに笑う朱紅奈さんの姿があった。……流石に吐くほどではないみたいだけど、明らかにその顔は青く、体調不良であることが窺える。
船酔い……もとい乗り物酔いには、外気に当たって遠くを見るのが一番効くらしいけど。……効いてるのかなこれ?今滅茶苦茶外の空気に当たっているわけだけど、楽になっているようには見えないんだけど……。
心配しつつその背を優しく撫でてあげると「ふ、ふふふ……優しさが沁みるわね……」と、彼女は空笑いを浮かべていた。……乗り物酔いに水って効くんだっけ?
「はい……お水……辛かったら……横になったほうがいいわよ……」
「あ、先生」
なんて悩んでいたら、先生がコップに入った水を持って、クルーザー内部のキャビンから上がってきた。……私が心配せずとも、すでに対応して貰っていたらしい。
彼女の言葉で素直に横になった朱紅奈さんと、私が見ておくわ、と手を振る先生に小さく手を振り返して、今度は船首側のデッキのほうへ。
「
「あんまり乗り出すと落ちるぞ」
「
「結花ちゃんがテンション高めだ?!」
前方の
あんまり見たことのないはしゃぎように、ちょっと面食らった感があるのは間違いないと思う。……なんだかんだ落ち着いてるほうだからね、結花ちゃん。
それを後方彼氏面……いや後方保護者面?で見守っているのが同胞である。
こっちはこっちで、船体に背を預けてリラックスしてる風だけど、その実彼女が落っこちそうになったら即座に飛び出すつもりなのか、ちょっと肩に力が入っているのが窺える。
……まさに保護者面、というべきか。
いやまぁ、気持ちはわかるけどね?だって結花ちゃんすっごいはしゃいでるんだもの、気分は幼稚園児を見守る保育士さんだ。
楽しそうな結花ちゃんの様子に小さく息を吐いて、同胞の隣に腰を下ろす。
……軽快に海を行くクルーザーの上、吹き抜ける海風は、現在の天気のようにカラッとしていて爽やかで。
照りつける太陽も、今ばかりは気分を盛り上げる一要素でしかなく。……思わず、口元に笑みが浮かんでくる。
「あっついのはイヤだけど、潮風を浴びて突き進むのは楽しいねぇ」
「そうだな。……にしてもクルーザーに無人島か。いいトコのお嬢様なのは知っていたが、こうして目の当たりにするとちょっと気後れするな」
視線だけ右上に投げれば、同胞がしみじみと呟きを返してくる。
……ふむ、島とクルーザー、ね?
「ところで同胞、このクルーザーって結構おっきいし、内装もしっかりしてるよね?」
「ん?ああ、そうだな。寝室あり・
同胞にこのクルーザーについての話を振る。
……全長大体十五メートル、重さ大体十七トン、定員数十余名……。
スペックだけ見てもなんとなーく「凄いのではこれ?」となる、立派な船舶だと言えるだろう。
「これから私達が行こうとしている無人島、大体東京ドーム四個ぶんくらいの大きさだって聞いたよね?」
「そうだな。……東京ドーム何個分、とか言われてもパッとわかるもんじゃないけど」
で、次に話すのは今現在向かっている無人島について。
東京ドームが一つで五万平方メートルなので、それの四個分というと結構大きな無人島だと言えるだろう。……六万坪くらい、と単位を変えてもよくわからないんで、実際に上陸してみないと実感が湧かないだろうけど。
……さて、これはあくまでも事前知識。重要なのはここからである。
「んでね同胞。私なんとなーく気になって、同じくらいの島と船の値段を調べてみたのよ」
「……ほう?そりゃまた、どれくらいの値段になるんだ?」
同胞の言葉を聞きながらスマホの画面を操作して、素人判断ながら調べてみた結果を表示。
そのままスマホを裏返して、同胞にだいたいの試算を示したところ。
「……桁がおかしくないか?」
「私としては──建物とか諸々含めると多分差が付くんだろうけど、島も船も同じ値段っぽい……ってことのほうがびっくりしたかな?」
スマホを指差してひー、ふー、みーと桁を数えては「?」と首を捻ってもう一度カウントし始める……という、若干挙動不審になった同胞が生まれてしまった。
……うん、どっちも五桁万円、下手すると六桁行く場合もあるよ?みたいな情報を初見でぶち込まれたら、私だってそうなってたと思うのでまぁ仕方ないねって感じだけども。……いや寧ろどっちの値段にしてもピンキリすぎるというか。
安くていいならうん百万だし、高いのならば七桁届くんじゃないのか、って感じだしで、とてもじゃないけども、庶民の金銭感覚じゃついていけない次元の話になっている。
……なんで鈴莉ちゃん、普通の学校に通ってるんだろう?
家柄的にはお嬢様学校一択なお方なのでは?私ら庶民のくせに馴れ馴れしすぎるのでは?その内無礼千万で市中引き回しのうえ打首獄門になるのでは?
「おや?そのあたり、先輩は覚えてない感じですか?」
「うひゃぁっ!?びびびびびっくりした!?どっから現れてるのさ鈴莉ちゃん!?」
そんな感じでむむむと唸っていたら、下から鈴莉ちゃんがひょっこりと顔を出してきたので、思わず飛び退る私。……びびびびっくりした、場所が場所ならそのまま海に落っこちてたよ私……。
そんなこっちのドキドキなぞ露知らずとばかりに、
「もともと近くの別の女学院に通う予定だったのを、お祖父様に無理を言って変えて貰ったんですよ!」
「な、なるほど。……そ、それは何故に?」
「もちろん、先輩達と同じ学校に行きたかったから、ですよ!」
「……なんですと?」
彼女の口から飛び出した答えに、私は困惑する。
あれ?そんな話私聞いた覚えがないっていうか、それがホントなら彼女の進路変えたの私らなの?マジ不敬なのでは?
バッと隣の同胞に視線を投げれば、「ほら、ボーリング」という言葉が返ってくる。……え、あれ!?あの時の!?『後輩ちゃんキャラ変事件』の発端のあれが原因なの!?
「はい、あのときの一件がきっかけでして。……お兄様と仲直りしたのも、あれがきっかけでしたよね?」
「……なるほどな。お前らが原因だったんだな、こいつの豹変は」
「はひぃっ?!お
混乱する私に追い打ちを掛けるように、後ろから鈴莉ちゃんのお兄さんが声を掛けてきた。
あれ!?運転は!?と思って運転席に視線を向ければ、ガラス越しにハンドルに手を掛け、こちらに笑みを返してくる柳瀬さんの姿が見える。……つ、ツッコミどころしかねぇけどツッコめねぇ……!
誰がお義兄様だ、とこちらを睨んできた彼は──小さく頭を掻いたあと、渋々といった感じにこちらに頭を下げてくる。
……え、なにこれ?どういう状況なのこれ?!
私の困惑は酷くなるばかり、隣の同胞もフリーズしたので役に立たない!詰みかなこれ!?
「うちのバカが世話を掛ける。……それと、このバカに向き合ってくれてありがとう。……あーっ!なんで僕が謝んなきゃいけないんだろうねっ!?」
「うぇっ?!情緒不安定過ぎるっ!?」
「やかましいっ!……はっ、精々仲良くするといいさ。……できれば末永く、な」
「え?え?」
「……全く、お兄様は素直じゃないんですから」
頭を下げられたと思ったら突然怒鳴られて、最終的に鈴莉ちゃんを任された、のかなこれ?
……ええ……?なにが起こったのか全然わかんないんですけど……。
っていうか同胞も、意識を宇宙猫してなくていいから、どういうことなのか説明してくれよぉっ!?
運転席に戻っていくお兄さんの背を優しく見守る鈴莉ちゃんと、その横で困惑し続ける私と同胞。
……このよくわからない状況は、船首で海を見るのに飽きた結花ちゃんが戻ってくるまで続いたのだった。