百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界でサバイバル開始の件について

「じゃ、二日後の同じ時間くらいに迎えにくるから。……怪我とかするなよ、お祖父様に説明するの僕なんだからな」

「はい、承知していますよお兄様。そちらのほうもお元気で」

「……ふんっ。じゃ、柳瀬。後は宜しく」

「承った。……ついでに、まだ見ぬ財宝も持って帰ってみせるさ」

「はいはい、そっちは期待せずに待ってるよ」

 

 

 鈴莉ちゃんのお兄さんは、その皮肉めいた物言いを崩さぬままに、クルーザーに乗って戻っていった。

 ……うーむ、なんというか猫みたいな人だなあの人。……犬っぽい妹と、猫っぽい兄か。傍から見ている限り相性はいい……のかな?

 

 そんなことを思いつつ、降りた場所から周囲を見渡す。

 

 クルーザーから下ろされた場所は、一応船着き場っぽいところだった。

 ……手入れとかされてないからわりとぼろぼろの見た目で、正直ここに下ろすのか……って気分になったりもしたんだけどね。

 まぁ、木の桟橋とかでもない、普通のコンクリートの波止場だったので、道が崩れたりしていない分マシ……と言えなくもないような?

 

 必要最低限の荷物だけを持って、そのまま島の陸地部分に上陸。

 かつては漁村か・はたまた鉱山で栄えた村だったのか──そんな当時を偲ばせる年季の入った建物が、崩れきらない程度に立ち並ぶ廃墟街。

 廃村になったのはもう何十年も前らしく、流石に人の気配は感じられない。

 ……野生動物の気配も、ここから見える範囲にはなさそうだ。

 

 

「つってもイノシシとか鹿とかなら、平気で海を渡ってくるって言うしなぁ」

「そういえば、食べ物があればわりと居たりするんだっけ?」

 

 

 同胞の言葉に、むむっと記憶を思い出そうとする私。

 ……そういえば、いつだったか陸地から離れた離島に泳いで渡る、イノシシの集団が問題になっている──みたいなニュースを見たことがあるような?

 

 飢え死にするくらいなら、海を泳いで渡るくらいわけない──ということなのか。

 人の手を離れた島の中で、野生動物達が密かに楽園を築いている──なんて、そんなセンセーショナルな見出しで撮影された映像が流れていた気がする。

 

 あたりを見回してみる。

 ……今のところ、鳥の鳴き声くらいしか聞こえてこないけれど。一応、警戒くらいはしておくべきだろうか?

 

 

「ふむ──、とりあえず、近くには居ないみたいだ」

む、わかるのか(なんでそう思うんです)?」

 

 

 そんな風にちょっと緊張しているところに、柳瀬さんが声を掛けてくる。

 結花ちゃんがわかるのか?と問いかけると、彼女はちょっとした蘊蓄を語ってくれた。

 

 

「この島は片側が人家・もう片側が木々に覆われた山と言う風に綺麗に別れている。──見た限り、こちら側に彼等が食料とするようなものはないだろう。人間がまだ住んでいる、というのなら話は別なのだろうけど、居ない以上は彼等が好む農作物は存在しない。……なら、必然的に彼等が縄張りとするのは山の方。何か逼迫した事態でも起こらない限り、好んでこっちに来ることはないだろうさ」

「はへー、なるほど」

 

 

 イノシシは雑食性で、かつ美味しいものを好むのだという。

 人から害獣扱いされているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。……自然にあるものよりも、人が育てたモノのほうが美味しいらしい。

 

 そしてそれは、人の手から離れた場所では()()()()()()()()()()()()()()()ので、必然的に自然にあるものを食べざるを得ない、ということでもある。

 ……泳いで他所に行くこともできるのに、わざわざ人の居なくなった場所に残っているのであれば。──食べ物の在処について、熟知している個体だろうと予測できる。

 飢えを嫌って移動を断念したのであれば、端から何もない場所に近寄ることもないだろう。

 ゆえに、こちらにイノシシは──仮にこの島に生息していたとしても、近付いてくることは稀だろう。

 

 そういうことを、柳瀬さんは言っているのだった。

 

 

「ま、野生動物が何を考えているのかなんて、正確に測り様がないから。……身も蓋もないことに、半分くらい当てずっぽうになるんだけどね」

 

 

 そもそも調理とかしてたら、匂いにつられて近寄ってくる可能性もあるしね、と彼女は話を結ぶ。

 ……ふーむ。信憑性云々は置いといて、実に()()()解説劇だった。探偵扱いされているというのもよく分かる話術だと言える。

 

 

「……まぁ、イノシシ云々は置いておくとして。今日はどこで雨風を凌ぐつもりなのかしら?」

 

 

 うんうんと頷いていたら、船酔いから復活した朱紅奈さんが、今日のキャンプ地について尋ねてくる。

 ……日はまだ昇りきっていないので、あれこれと行動する時間はあると思う。ちょっと遊んだりしても、まだまだ余裕があるだろう。

 

 とはいえ、テントを張るなら場所を見付けなければならないし、廃屋を間借りするにしても痛みの酷くない場所を探さなければならない。

 

 ……水についてもちょっと問題かな?

 一応それなりの量の飲料水を予め用意して貰ったけれど、それとは別に蒸留したりわき水を探したり……みたいなことをする必要もあるだろう。

 一応サバイバルという体なので、そこらへんを手を抜くのは有り得ない、とも言える。

 

 っていうか体験できるなら体験しとくべきでしょ、火起こししたりろ過装置作ったり虫取りしたり!

 ……最後のは違う?ははは。──絶対でっかいクワガタ居るだろうからそこは外さんぞ私は(鋼鉄の意志)

 

 

「……まぁ、初日はテントを張る、という形でいいんじゃないでしょうか?」

「元気がある内にやってみよう、ということかしら?」

「ですです!もし二日目以降ちょっと無理がありそうなら、廃屋をお借りして雨風を凌ぐ、という感じで!」

 

 

 そんな感じに私が燃えていると、鈴莉ちゃんが初日はテントにしよう、という提案をする。……特に反対意見も上がらず、そのまま可決。

 建物郡から離れた森と街との境あたりに、テントを設営することが決まった。

 そしてそのまま、衣食住の『食』についての話に議題は移っていく。

 

 

「……まぁ寝るとこはそれでいいか。で、食べ物は?釣り道具あるし、とりあえず俺は釣りに行くけど」

「じゃあ……食べられそうな野草とか……果物とか……探して見るわね……」

「その辺りの知識は一通り修めている自信があるし、僕もそっちの手伝いに入ろうかな」

「あ、私一応お兄様から水源の場所については聞いていますので、案内くらいはできそうです!」

「じゃあ私は、栗花落さんの手伝いをしようかしら」

「……あれ?」

 

 

 そうしてみんながサクサク自分の仕事を提案していくものだから、結花ちゃんと私が残ってしまった。──ってことは、

 

 

「……テント設営、頑張ろっか?」

承った、全力で行く(よ、宜しくお願いします)!」

 

 

 むぅ、女性でも組み立てやすいテントっていうけど、大丈夫だろうか?

 なんだか張りきっている結花ちゃんを見ながら、はてさてどうしたものかと思考を巡らせる私なのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「三人用のテントを三つ設営、意外と大変だねぇ」

 

 

 額の汗をぬぐって、小さく息を吐く。

 

 テントの設営って溝を掘ったりシートを引いたりペグを打ったり……みたいな感じで、意外と工程が多くて大変だな、とちょっと辟易中。

 ソロキャンパー達はこういうの全部テキパキとやるらしいけれど、流石に初心者二人じゃテキパキとは行かないみたいだ。

 ……いやまぁ、結構簡単に組めるテントを選んだので、本来のそれに比べれば随分と楽になっているんだろうけどさ?

 

 

群れ為す家屋の威容たるや(数が意外と辛いですね)……」

 

 

 なんやかんやで三つ作る、というのがシンプルに疲労感を与えてくるのが辛いというか……。

 

 いやね?私ジッと待つの苦手だから、同胞の代わりに釣りをするとか無理だし、野草とかキノコとか見分けられる気がしないから、先生達についていくの無理だし。

 ……そうなるとテントか水の確保に動くしかないわけだけれど。

 正直水の確保についてはそこまで人数が必要、ってほどでもないから、鈴莉ちゃんと朱紅奈さんが立候補した時点で、それ以上人数を動員する必要はないし……。って感じで、必然的にテントの設営に回るしかなかったんだけどさ。

 

 

「……いや、二人だけで全部終わらせようとするからでしょう、その疲労ぶりは」

「あれ?朱紅奈さんお早いお帰りで」

 

 

 そんな感じで駄弁っていたら、テントの向こうからひょいと顔を覗かせる朱紅奈さんの姿。

 ……あれ、早くね?って感じの言葉を返したら、煮沸やろ過の手間を考えて、ポリタンク四つぶんだけ汲んできたのよ、と答えを返される。……それならまぁ、最大二往復で済むか。大体四十分くらい?

 

 

「ってことはもしかして、私らちょっと先走った感じ?」

「寧ろ三つとも終わりかけなのが、初心者としてはちょっと早すぎるくらいなのでは!」

 

 

 あとで聞いたところによると、初心者がテントを設営するのに掛かる時間は、目安として二十分くらいなのだという。……三つだと一時間?

 この時はまだ四十分くらいしか経過していなかったけど、大体フライシートを被せて固定したら終わり、ってところまで終わってたので、ちょっと性急過ぎた面が無くもなかったようだった。

 

 

拙速貴ぶれど兵追いつかず(もう少し落ち着けばよかったですね)……」

「そう……だね……」

 

 

 あとに残ったなんとも言えない疲労感を噛み締めながら、私と結花ちゃんはがっくりと頭を垂れるのだった──。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ヘイ同胞、釣れてるー?」

「海が綺麗なものだから、直接銛で刺したほうが早いんじゃないかって気がしてるとこ」

「お、おう……、意外な盲点……」

 

 

 最初に上陸した波止場からちょっと離れた位置の岸壁から、海に向かって釣り糸を垂らす同胞が一人。

 近付いて釣果について訪ねてみるけど、結果は思わしくないようだ。

 ……そのわりに、近くのバケツの中には、三匹ほど魚が突っ込まれていたわけなんだけど。いや、結構釣れてない?

 

 

「自分から釣りに行く、って言っといてその程度だと示しが付かねぇだろうがよ……」

「お?男のプライドってやつ?私は釣り苦手だからよくわからんけど、その意気やよし!」

 

 

 ふむ、言い出しっぺ的には不満があると。……ならばここは私が一肌脱ごうじゃないの!

 

 

「いや、一肌脱ぐってなにする気だ一体」

「シューベルトの『ます』って歌、あるじゃない?」

「あーもうわかった、頼むからやりすぎるなよ……」

 

 

 額を抑える幼馴染みに笑い返しつつ、近くの砂場から砂を掬っていざ構え。

 ──綺麗な海で針が見えてしまうと言うのなら、わざと濁りを作ってやればいいのさ!なんてったって釣り人は卑怯な盗人、なんだからね!

 バサッ、と砂を撒き、強制的に海を濁らせる。まぁ、あくまで一時的にしか濁らないわけだけども。

 

 

「ふっはっはっはっ!!ついでに砕いたオキアミ入りじゃい!それ今じゃ同胞!」

「なんなんだそのキャラ付け……」

 

 

 濁りの中に餌があれば、食い付かざるを得ないよなぁ?ふはははこれぞ人間様の知恵というものよ!

 真横で高笑いをあげる私に白い目をよこしつつ、同胞が順調に釣果を上げていく。

 うんうん、濁らせるのにも限度があるからサクサク釣ってくれ、私も頑張った甲斐があるから。……オキアミって意外と匂いがキツイから、あとで綺麗に手を洗わにゃならんのが辛いとこよね……。

 

 そんな感じでバケツいっぱいになった釣果を持って、堂々と凱旋する私と幼馴染みなのであった。

 

 

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