百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界でサバイバル一日目の夜を迎える件について

 突入したクワガタ軍団の中には、オオクワの姿は見あたらなかった。

 ……むぅ、ノコクワとかも悪くはないけど、見たかったなオオクワ……。

 

 

「なんなんだよ、お前のそのオオクワへの謎の情熱は……」

「だってさ同胞!森のダイヤだぞ、森のダイヤ!見たいに決まってるじゃんかそんなの!」

金剛石を名乗るか、面白い(ダイヤ!?それは凄いですね)!」

 

 

 腑抜けたことを宣う同胞に熱く語って聞かせる。

 オオクワガタと言えば、世の昆虫愛好家が挙って探す、森の至宝である。

 ……いや、天然物だと大きさによってはエグい値段になる、みたいな面があるから、そっちだけ気にしてるようなのもいるかも知れないけれどそれはそれ!……関係ないんだけど、とあるフリマサイトで「オオクワガタの中古/未使用品を探そう」とか書いてあって思わず吹きました。……定型文だから仕方がないんだろうけどさ、未使用品のオオクワガタってなんだよ(真顔)

 

 まぁ、それは置いといて。

 『オオ』という冠詞が尽く昆虫というのは、基本的に人気者なのである。具体的にはオオクワガタ・オオカマキリ・オオムラサキなどなど。

 ……凶暴かつ養蜂家に被害が出るので嫌われているオオスズメバチも、フォルムとか強さとか自体は認められているように、大きい虫はやっぱり見ていて面白いものなのだ。

 ……え?ここであげた四種以外は大概微妙なのしかいない?知らなーい。

 

 とにかく、オオクワガタには夢があるのである。

 見付けられたらヒャッホー!と言う気分になること間違いなしなのだから、見付けられそうなら見付けておこうってなるのは仕方ないんだよ!……みたいなことを同胞に熱く言って聞かせる私。

 

 

「わからん……ぜんぜんわからんなんも……」

「なんでさ!?」

 

 

 まぁ、すっごい渋い顔で否定を食らったので、彼に理解させるのは諦めたんだけどね!きりえんしょんぼり。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ただいまー」

「はいお帰りなさい。満足いく結果だった?」

「オオクワには出会えなかったけど、カブトムシとか見れたからわりと楽しかったよ。噂のオオムラサキがオオスズメバチ撃退するとこ、とか見れたし」

綺麗な薔薇には棘がある、か(綺麗なのに凄い蝶でしたね)……」

「な、なるほど。楽しめたのなら良かったわね」

 

 

 キャンプ地(テントがある的な意味で)に帰ってきた私達。

 出迎えてくれた朱紅奈さんに見てきたものを伝えたら、彼女はなんとも言えない表情でそれを聞いていた。

 ……むぅ、Gの話とかしない分、わりと手心加えてるつもりなんだけど、意外とウケが悪いような。

 やはり女性に虫はダメだ、ということなのだろうか?面白いのになぁ、虫。

 

 

「そういえば、財宝のほうはなにか見付かったのですか?」

「今のところは空振りだね。……探すのならもっと奥の方になるだろうけど、一日目で無理して探す必要性もないだろうさ、身も蓋もないことにね」

 

 

 私達から少し離れた位置では、柳瀬さんが鈴莉ちゃんと宝探しの進捗について会話している。

 ……虫探ししつつ、宝の痕跡探しもしてたのかあの人。うーむ、よく見てるというか侮れないというか……。

 

 

「とりあえず……夜の準備をしましょう……?」 

「あ、先生。……夜の準備って言うとんー、お風呂沸かす……とか?」

「ドラム缶風呂ですか!?ドラム缶風呂ですね!?ちょっと入って見たかったんですきゃっほい!」

「わひゃっ、びっくりした……え、なんで鈴莉ちゃんそんなハイテンション……ってああ……」

 

 

 先生から次の作業に付いての提案をされ、少し思案して。

 ……夕食は材料自体はあるからあとは調理するだけ、寝床はすでにこうして確保済み。

 となれば女性としては必須の、お風呂の準備が次に必要性がありそうなものだろうか?と言うことを口に出したら、さっきまで柳瀬さんと話していたはずの鈴莉ちゃんがこっちに飛んできた。

 

 ちょっと困惑しつつ、なんで彼女がこんなに楽しげなのかを考えて──すぐさま、お嬢様な鈴莉ちゃんは、ドラム缶風呂なんてものは話に聞いたことがあるくらいのもの、なのだろうなということに思い至る。

 ……そもそもに楽しそうなこと大好きだしなぁ、この子。

 

 

「じゃあ、とりあえず使えそうなドラム缶と、底のほうに敷く木の板。……それと、ドラム缶を置くためのコンクリートとかを、探しに行くとしますかね」

「はい!はい!私ドラム缶をコロコロするのやってみたいです!」

「んん?……あー、横に倒してってこと?」

「いえ!ちょっと傾けてシャーッとするやつです!」

「いきなりのプロテク希望とな?」

 

 

 私の言葉に、元気についていきますアピールをしてくる鈴莉ちゃん。

 やりたいことがあるというので聞いてみれば、ドラム缶を少し傾けて、回転を加えながら相手に渡すやつがやりたいとのこと。……うん、あの運びかたは確かにちょっと憧れるけど、初心者には難しいんでないかなー?と思いつつ、連れ立って市街地の方へ。

 

 住宅街をちょっと漁ってみれば、外回りがちょっと錆びてるドラム缶を、幾つか発見することができた。

 

 

「んー、中はそこまで汚れてないけど……とりあえず、海に持っていって海水で洗ってみる?」

「そこまで汚れているわけではないみたいですし、このままでも大丈夫なのでは!どっちにしろ熱するのですから殺菌はバッチリでしょうし!」

「鈴莉ちゃんってば時々ワイルドになるよね……」

 

 

 焼けば同じだよ!みたいなことを言う鈴莉ちゃんにちょっとジト目を向けたのち、海水を汲み入れたドラム缶を熱することでお風呂を沸かすという工程上、結局浜辺に持っていったほうが効率が良いな?と言うことに気付いた私達は、そのままドラム缶を転がして砂浜へ。

 あたり一面に開けた砂浜は、周囲の海を一望できる特等地だった。

 

 ……うーむ、綺麗な砂浜だ。明日はここで泳いでみるのも悪くないかもしれない。貸し切りビーチとか、ちょっとワクワクしてくるものがあるぞぅ。

 

 

 

「ここに設置すると、海を見ながらの露天風呂ということになるわけですね!」

「確かに、わりと贅沢なお風呂だねぇ」

 

 

 鈴莉ちゃんの言葉に小さく頷く。

 透明度の高い海を前に、風呂に浸かって夜空を見る。

 ……字面だけなら最高の贅沢三昧である。まぁ、浸かるのがドラム缶風呂なので、相対的にはちょっとマイナスくらいになりそうな気がするけど。

 

 

「ま、入れれば同じだ同じ、さっくり準備するよ鈴莉ちゃん」

「了解しました!では、堀ノ内せんぱーい!」

「呼んだか?」

「うわっ、いきなり現れるんじゃないよ同胞、びっくりするじゃんかっ、……というか、なんで鈴莉ちゃんに呼ばれて飛び出てジャンジャジャーンしてるの君?」

「……みーっつ」

「イヤだからそのカウントなんなの!?実はごまかしかなんかなの!?」

 

 

 とりあえずドラム缶を設置しなければ始まらないので、火を入れる場所とそれを囲うもの、さらに上にドラム缶を乗せるための渡しを作ろうと提案し、それを受けて鈴莉ちゃんが手を叩いたら、近くの林から同胞がにょきっと飛び出してきた、のでちょっとびっくりした。

 

 いや、君鈴莉ちゃんの従者ってわけでもないだろうに、なんで呼ばれた途端にサッと登場してるんです?的な事を聞いたら、また進んだ謎カウント。

 ……実は意味のない空のカウントじゃなかろうな?けどそこらへん聞いてもはぐらかされるからなぁ……?

 首を捻りつつ、同胞を伴ってドラム缶風呂を準備する私なのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ふはーっ、いい湯だねぇ……」

「おじさん臭いわよ、今の貴女」

「中身は実際おっさんだからねぇ……」

「ああ、そう言えばそんなこと言ってたわね。……だから虫好きなのかしら?

 

 

 ドラム缶から少し離れた位置に、カンテラスタンド代わりに突き刺されている木の枝の影が、夜の闇によって完全に溶け込んでしまうくらいの時刻。

 パチパチと火の粉の爆ぜる音と、夜闇の中で静かに鳴いている虫の声を聞きつつ、視線を上に向ける。

 遮るもののない空は、星の輝きを思う存分地上に降らせ、人の文明の中から離れた場所に、今自分が居るのだということを如実に示している。

 

 ……思わずポエムっぽいものを口ずさみそうになるくらい、現実味の薄い光景だった。

 こんなのずっと味わってたら、色々帰ってこれなくなるで。……みたいなことを呟きつつ、頭の上に乗せたタオルがずり落ちそうになるのを元に戻す。

 

 

「……今さらだけど、私のこと気持ち悪い、とかはないんで?」

「いや、ホントに今さらね、その質問」

 

 

 しかも風呂に入りながら聞くとかどうなの?……という問いが返ってきて、思わず鼻白む。

 ……いやまぁ、あのときは流されたし、改めて聞いておいたほうがいいかなー、というかね?

 そんな私の様子に、彼女は小さくため息を一つ。

 

 

「前世がどうあれ、今の貴方は女性でしょう?……そもそも、その姿の貴方が男性らしいことをしてる場面なんて、私見たことないわよ?」

「……んん、そういえばそうか。……どこに出しても文句の出ない、完璧な美少女目指して頑張ってたからなぁ」

 

 

 私の疑問に返ってきた答えに、思わず確かにと頷く。

 ……恋愛対象の性別が女性になっているのは、そのまま前世の影響だろうけど。今まで磨いてきたのは、まさしく女子力のほうである。……性自認が男性なのかと問われると、確かに怪しいものがあると言えるだろう。

 だって、今まで私がやってきたのって、自分の中の男性面の否定だ、って言われたらわりと否定できないところがあるし。

 

 

「それに、今から男性になろう、とか。将来的に男性性を選ぶ、ということもないのでしょう?……それ、普通に女性扱いでいいじゃない」

「むー、そう言われると、確かにとしか言えないなぁ」

 

 

 ……確かに。私はこの美少女な私の姿を気に入ってるし、それを変える気もないし、別にいわゆるオス側を望んでるというわけでもない。

 身も蓋もないことを言えば、私を好きになってくれて、私が好きになれるのなら、小難しいことを言う気は一切ないのだ。

 ……だからまぁ、同胞が好きだ、みたいなところに着陸したわけだし。

 

 

「まぁ、愛というものがややこしい、ということには同意するけど。……誰が誰を愛するのか、大昔からすれば随分と柔軟になったはずだと言うのに、結局人は愛ゆえに悩み・悔やむのだもの。──なんとも、難しい話よね」

「……柳瀬先輩からの悪影響でも」

「単なる!私の!素直な考えよ!」

「え、あ、はい……」

 

 

 突然に愛について語り始めるものだから、柳瀬先輩からの悪影響でも受けたのかと思ってしまったが、そういうことは一切ないらしい。……ホントかなぁ?

 

 

「それ以上言うのなら沈めるわよ?」

「うわったた、ごめんって!」

 

 

 ぺしぺしこちらの頭を叩いてくる朱紅奈さんに全力で謝りつつ、もう一度空を見上げる。

 ──うむ、極楽極楽、って感じかな。

 朱紅奈さんときゃいきゃいと騒ぎながら、私は夜を満喫するのだった。

 

 

 

 

 

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