百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界で無人島から脱出する件について

「今日もまた美味しくご飯を頂いてしまった……」

「魚ばっかりで飽きるかと思ったけど、意外とそうでもなかったな」

 

 

 食べ終えた魚の残骸を片付けながら、二人で話す。……魚に飽きなかったのは、君が色々調理法とか味付けとか変えてくれたから、って面が一番大きいと思うけどね。本当に美味しゅうございました。

 

 それと結局、廃屋を借りて寝床にする、という案は白紙になった。

 雨風を凌げると言っても結局は寝袋を使うことになるので、テントで寝るのとさほど変わりないな、と気付いてしまったからだ。

 家の中にマットでもあればよかったのだが、あいにく寝具などは残っていなかった。……じゃあまぁ、テントでいいやとなるのも道理というか。

 

 

「明日でこの生活も終わりですねぇ。帰ったら何します?」

「とりあえず、しばらく普通に休んでから考えたいな……」

 

 

 鈴莉ちゃんの言葉に小さく苦笑を返す。

 ……なんやかんやで無人島生活は楽しくもあったが、同じくらい疲れるものでもあった。なので……ちょっと……しばらく……ゆっくりと英気を養いたい……。

 

 

「おばあちゃんじゃないんだから……」

「中の人的の神年齢的には似たようなものでーす」

 

 

 朱紅奈さんの言葉に、小さく惚けるように答えを返す。

 ……実際前世の年齢と合わせると、昔の基準での初老はすでに迎えている私だ。考え方が老成してたって構わないのさー。

 

 

「だとすれば、随分とアクティブなおばあちゃんだね?」

大君が老婆、というわけか(我儘お婆ちゃん、というわけですね)

「というかそんなに余裕があるって言うなら、もうちょっと余裕を持って欲しいんだがな?」

「ええぃ、やめいやめい!儂を(もてあそ)ぶのはやめい同胞!恋愛は初心者じゃと言うとるやろがい!?」

 

 

 なんて言ってたら柳瀬先輩→結花ちゃん→幼馴染みのコンボが飛んできて思わず怯むはめに。

 

 ……不意打ちで手を握るのはダメだってば!恋人握りとかマジでどうしていいのかわかんなくなるからやめてホント!?

 どうにか捕まれた手を振りほどこうと、しばらく上下左右に左手を振ってみたけれど、同胞の握る力のほうが強くて無理だった。

 ……結局。もう好きにしてくれ、って感じに諦めた。……そのニヤニヤ笑い、いつかひっぺがしてやるからなちくしょう……。

 

 

「……カメラ持ってくれば良かったですね!」

「私の恥を残そうとするのやめてくれる!?」

 

 

 最後に鈴莉ちゃんが言った言葉に私以外のみんなが大笑いして、微妙に居心地悪いことになる私なのでした。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ふふふ……しょせん私は弄ばれ役……よわよわざーこざーこな恋愛弱者……ふふ、ふふふ……」

「悪かったって、元気出せよ、な?」

「うるせー、しまいにゃみんなの前で抱き締めてみやがって、かちんこちんになった私で遊んで同胞は楽しかったんだろうがよー、こっちは心臓破裂するかって思ったんだぞこのやろー」

 

 

 焚き火を眺め虚ろに笑う私と、その横で苦笑しながらこちらに軽い謝罪をしてくる同胞。

 ……いい加減慣れようぜ、とか宣った幼馴染みからの軽い抱擁を受けた私が、生娘の如くカチカチに固まったのはさっきのこと。……いやいや、いきなり抱き付くとか、こう、順番と言うかだな?

 

 

「ひゃっ、って言って完全に硬直するもんだから、栗花落が滅茶苦茶興奮してたな」

「朱紅奈さんも『可愛らしいわね』みたいな感じに軽い微笑みを向けてくるし、先生はあらあらうふふって感じになってるし……」

「先輩と在原はよく分からない賛辞を並べてたな。……まぁ、俺としてはお前がこんなだと先が思いやられるなーとしか思えないわけだが」

「やめてくれー、今の私にゃまだ刺激がつえーよー……」

 

 

 私が茹で蛸になっても食事にゃならないんですよ、そーいうのまだ無理なんすよー……。

 

 ああもう、なんで私がみんなの面白コンテンツみたいなことにならにゃならんのか。

 おかしくない?確か私、百合ハーレム王になるみたいなこと言ってなかった?こんなん良くてみんなの愛玩動物やんけー……。

 

 

「愛され系って言うんだっけか、そういうの」

「また定義の難しいものを……愛されるよりも愛せるようになれてればよかったんだろうけどなー……」

「また古い歌を……いや、中身的には青春の曲とかなのか?」

「……それがわかる君らのほうが私的に謎なんだけど?」

 

 

 謎といえば、私にとっての懐かしい曲とかがこっちの世界にもある、ってことも大概謎なんだけど。

 ……向こうより時代的にはちょっと進んでいるこの世界では、向こうでは起きたけどこっちでは起きてないこと、向こうで起きていてこっちでも起きていることがあったりするのだ。

 

 ……変に前世の記憶が抜けてない私としては、()()()()前世を思い出させるようになってるんじゃなかろうな、とちょっと不安にもなるのだ。

 

 

「……まーた変なこと考えてるなお前?」

「わぷっ、ちょ、髪を無茶苦茶に撫で回すのやめい同胞っ」

 

 

 こちらの不安を感じ取ったのか、私の頭を乱暴に撫でる同胞。……気を遣ってくれてるんだろうけど、私子供じゃないんでそんなんされても「髪直すの大変だなこれ」って風にしかならないんですけど!?

 

 

「そんなもんでいいんだよ、また黒歴史量産する気か」

「ぬぐ、それを言われると、その、あれだけど」

「どれだよ……」

 

 

 ため息を吐いた幼馴染みが、焚き火に枝を投げ入れる。

 ぱちぱち爆ぜる火を見詰め、しばしの静寂。……うーん、確かに、ちょっと考えすぎてた、か。

 

 

「よしわかった、同胞!夜の昆虫採集行こうぜ!」

「唐突に元気になりおった」

「元気になれって言ったの同胞でしょ、ほれほれはよ立て行くぞ山の中!帰る前にオオクワ見付けっぞ!」

「しまった元気にしすぎた」

 

 

 遠い目でため息を溢す同胞の腕を引っ張って、夜の山に突撃する。……オオクワが見付かったかどうかは──まぁ、秘密ってことで。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 ──朝。無人島生活最後の日。

 

 

「お昼前に迎えが来るわけだけど、みんなやり残しとかない?」

「泳ぎましたし山を探索もしましたので、特にないかと!」

「……思えば、海と山を一緒に楽しめる場所だったのね、ここ」

良き修行の場であった……(機会があればまた来たいですね!)

 

 

 最後の朝御飯に舌鼓を打ちつつ、仲間との会話を楽しむ。

 ……料理といえば、体調を崩す人がいなかったのは僥倖だった。

 大なり小なり体調を崩す人がでやすいのが無人島生活だけど、みんな気を遣って調理やら材料の採取やらをしてくれたからだろう。

 

 

「まぁ、間違えやすいものも生えてなかったようだし、この島がそもそもサバイバルに適していた……ということだろうね」

「……時期的にも……間違えやすいものが……少ない時期だしね……」

 

 

 柳瀬先輩と先生がうんうんと頷いている。

 ……秋は過ごしやすいけれど、素人が手を出すと痛い目を見るキノコ類が活発になる時期だけど。

 今みたいな夏だとキノコはそもそも採れないか、採れたとしてもわかりやすいキクラゲしかないので間違え辛い。

 ……まぁ、代わりに暑さをどうにかする必要があるのだが……、幸いこの島は木々が多く、日陰になっている場所を陣取ればそう問題と言うこともない。

 

 

「テレビなんかの無人島企画は『失敗しない』場所を選んでる──なんて話があるけど、この島はそういう意味で失敗し辛い場所だったのかもな」

「そうだねぇ。水とかも最低限は持ってきてたし、調味料もある。……初回のサバイバルとしては、結構甘めの難易度だった、ってことだろうね」

 

 

 いやまぁ、次回があるかはわからないけど。

 そんなことを言いながら、魚のマリネを一口。

 ……すっかり同胞に餌付けされてしまったな、なんてことをふと思う私なのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「息災か?じゃあ問題ないな、さっさと乗りなよ」

 

 

 島の船着き場で待つことしばし。

 来た時と同じ時刻に着くように、クルーザーを運転してきた鈴莉ちゃんのお兄さんが尊大にそう言って、私達は荷物を積み込み始めた。

 持って帰るお土産的な物もない(というか立地的に他県になるので基本的に持って帰れないぞと釘を刺された)ので、行きよりも軽くなったポリタンクなどを詰め込みながら、ふと島のほうに視線を向ける。

 

 

「……んん?なにか今、横切ったような……?」

「おおっと東山くん立ちくらみかな?立ちくらみだね?よくないよくないそういうのはよくない。堀ノ内君、彼女の代わりにこれ、お願いしてもいいかな?」

「え、はい。……なんだ、貧血か桐依?」

「え、いやそういうのじゃ……」

「はははは見えないものを見ようとして荷物を落とすだなんてよくないぞよくない失恋フラグじゃないかちゃんと断ち切らないとははは」

「わぷっ!?え、あ、同胞あと頼んだーっ!?」

「お、おう。……なんだったんだ一体」

 

 

 街の中を横切る黒い何かが見えた気がして、その事をちょっと口に出したら、唐突に横から柳瀬さんが飛び出してきて、あれよあれよと言う間に船内の寝室に連れ込まれてしまった。

 え、なんなんです?お前は見てはいけないものを見てしまったので消す、みたいな展開なんです?

 

 

「……まぁ、見ちゃいけないものを見た、というのは間違いじゃないよ。どちらかといえば、存在を確定させるべきではない……が正解だけれど」

「……!まさか、ここから犯人の動機解説が……?!」

「いや、それ探偵と犯人一緒になってるじゃないか。そうじゃなくてだね?」

 

 

 なんだ違うのか。

 折角柳瀬さんがわかりやすいくらい慌ててるからノってあげたのに、そういうのじゃないのか。ちぇー。

 いよいよスリルとサスペンスが襲ってくるのかと思っていたのだが、どうにも違うらしい。

 対面の柳瀬さんは珍しく疲れたような表情で一つため息を吐いたあと、詳しい説明のために口を開いた。

 

 

「──守り神さま?」

「超自然的なものと言うよりは、そういう風に奉って生息域を守ろう、みたいな感じだったようだけどね」

 

 

 地底湖にあったあるものと、街で探索したあの書斎にあった本から、彼女はその存在に行き着いたのだという。

 地底湖にあったのは、彼等の巣だと思われる幾つかの横穴。

 書斎で見付かったのは、彼等の生態だと思われる幾つかの論文。

 

 

「基本的に警戒心が強く人前に出てこないうえに、綺麗な水源がなければ生息できないという生き物、らしくてね。それだけだと何故守り神さまなのかわからないが、彼等が生息する地域では物が壊れにくくなる、という噂があったらしくてね?」

 

 

 見付けた論文内には、彼等の分泌物が大気に混ざったものが何かしらの個体に触れると、その表面に薄い保護膜が発生し、それが結果として外気や日光などでの劣化を防ぐ……というような事が起きているのではないか、という推論が述べられていたのだという。

 

 

「ただまぁ、こうして寂れてしまっている辺り、彼等は守り神さまをあくまでも偶然のものとして扱い、それを何かに利用するという気はなかったようだけどね」

「それは、なんでまた?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()程度の効果だったからだよ。取り立てて騒ぐような効果でなく、基本的に人前に出てこないのなら、神として奉ることで生活域を分けるほうが都合が良かったんだろう。……これは推論だけど、彼等の獲物はいわゆるイノシシなんかの害獣だったんだろうしね」

「うぇ、強い」

 

 

 なるほど、なんとなく物が壊れにくくなるような気がして、それでいてイノシシみたいな農作物を狙ってくるモノを食べてくれて、その上で人間には近寄ってこない。

 ……イノシシを狩れるような生き物である。変に刺激をするよりは、ということだろう。

 

 

「ただ、この島そのものが時代の流れで過疎化していく中で、彼等もまたその個体数を減らしていったらしい。論文の最後には、この島が廃村になった時点での個体数は、最早両手で数えられる程だろう、って記されていたよ」

「廃村が何十年前のこととなると……」

「まぁ、ほぼ絶滅危惧種だろうね。……とはいえ、その生息の痕跡自体は残っていた。ひっそりと、人の目に触れぬまま生きていくんだろうさ、彼等は」

 

 

 この島の宝、というのも恐らくは彼等のことだろう。

 とはいえ、彼等はこの島と共にひっそりと暮らすことを望んでいる。なら、噂は噂で終わらせるのが筋ってものさ、と彼女は解説を締め括るのだった。

 

 

「……これ、もしかして」

「ご明察、刻遠野君も知ってるよ。快く了承を受け取っておいたさ」

「……なるほど。いやまぁ、私影を見ただけなんで、ホントにそういう生き物が居るのかわかんないんですけど」

「人は世界の全てを見たわけじゃない。そして、世界の全てを見れるわけでもない。悪魔が隠れ潜んでいても、意外とわからないものさ。……正確には、()()()()()()()()()()、ってことになるわけだけど」

 

 

 ……まーた煙に巻こうとしてないこの人?

 いやまぁ、島の謎についてなんとなく知れたのは良いことだけど。

 

 

「謎の全てを明かすのが探偵だ。……僕は探偵のようなもの、だからね。時には、明かさずにしまっておくくらいするのさ、身も蓋もないことにね」

「……なるほど」

 

 

 んー、詳しく言う気はない、みたいな感じだろうか?

 ……というか汗が蒸発してコーティング材になる、とか不思議生物じゃないんですそれ?

 

 

「人の想像できる全ては人の行うことのできる全て、だなんていうだろう?似たようなものだよ、結局ね」

 

 

 そう言って視線を外に向ける柳瀬さん。

 つられてふい、と窓の外に視線を向ければ、猫のような生き物が、こちらを観察しているのが目に入って。

 

 あ、という間もなく山に消えていった生物。

 思わず視線を横に向ければ、彼女は口元に人差し指を立て、「黙ってようね?」とでも言うように微笑むのだった。

 

 

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