百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
無人島から帰宅してから、その次の日の朝。
島での疲れを癒すために、久方ぶりの柔らかいベッドの上で熟睡していた私だったけど……。
「桐依、お友達来てるわよー」
「……んん、お母さん?友達?……んんん?」
階下から母がこちらを呼ぶ声を聞いて、小さく目を擦りながら上半身だけ起き上がる。……こんな朝早くから、友達?
一体誰だろう、と思いつつ上着を羽織り、自室から玄関までの階段を降りて、そのままサンダルを履いて外に出る。はたして、そこにいたのは──、
「はいはいどちらさ、ま……あ゛」
「……おはようございます、東山さん。……ええ、私、確かにお伝えしたと思うのですが。……部活で!出掛ける!用事があるのならば!一声下さいと!私、言いましたわよね!?」
「ああああああままままだだ慌ててて」
「慌て過ぎでは!?」
光の反射で青み掛かって見える黒髪を、いつもとは違いそのままにしている(せいで、ちょっとウェーブ掛かっている)彼女は、紛れもなく生徒会長──、西内さんだ。
そしてその顔を見たと同時に、思い出される彼女の過去の言葉。
──『仮に合宿するなら参加したい』。……やべぇ、どう考えても合宿みたいなもんなのに、誘うのすっかり忘れてた!?
「いえ。確かにこの三日間、私用事に追われていましたので、誘われたとしても参加など夢のまた夢、無下に断る結果になっていただろうことは想像だに難くありませんが。……それでも、それでも!一言、一言あっても良かったのではないかしら?!」
「あばばばばごごごごごめんなさい西内さん!!ホントゴメン!埋め合わせ、埋め合わせするから!許して!」
柳瀬さんの調査のほうを優先したもんだから、結果的に西内さんのことがすっかり頭から抜け落ちていた!……とか、言い訳以外の何者でもない。
なのでたまらず謝ると、彼女は小さくため息を吐いて、こちらにこう告げたのだった。
「──プール、行きましょう。みんなで」
「え゛」
……この夏はもう、水着を着ることなんてないと思ってたんですけどねぇ!?
とはいえ、こっちが悪いのは明白。仕方なく、みんなに今日はプール行こう、と連絡を入れることになったのだった。
「先輩から連絡が入った時は何事かと思いましたが、そういうことなら私の出番ですね!」
なんて言葉と共に、市内のレジャープールに集まる予定が、あれよあれよという間に栗花落家所有の邸内プールで遊ぶことになってしまったわけなのだが。……演劇祭以降、鈴莉ちゃんの金持ちパワーが炸裂しまくってない……!?
「こういうのは使ってなんぼなんですよ、有り余る財力で全てを思うままに動かすのです!」
「……なんだか、物語の最初のほうでやられる四天王みたいな台詞ね、鈴莉」
「なんですとーっ!?わかりました、わかりましたよ朱紅奈さんっ!!この間の勝負の続き、ここで決着付けようじゃありませんか!」
「いいけど……また負けても知らないわよ?」
「上等ですよ負けさせてみろってんですよコノヤロー!!」
「……あの、すいませんほんとすいません、なんか悪影響与えちゃってたみたいでほんとすいません」
「ええい、いちいち謝るな鬱陶しいっ。……別に、昔のアイツよりかは幾らかマシだから、お前も気にしなくていいよ」
送迎用の車の中で、ガヤガヤ騒ぐ後部座席組をバックミラーで見つつ、運転席の鈴莉ちゃんのお兄さんに謝罪しておく。……いやだって、私(と同胞)に憧れてああなったって自己申告されてるんですもの、ちょっと責任感じるじゃないですか……。
まぁ謝罪したら謝罪したで、鬱陶しがられた上でまた感謝を返されたわけなのですが。……ツンデレ版鈴莉ちゃん、家族とそんなに上手くいってなかったんです……?
まぁ、そのあたりの話は置いといて。
再び運転手として駆り出された彼と共に、私達は栗花落家の別荘に向かっていたのだった。
……体の良い足代わりにされてないかこの人……?いや、別に嫌がったりはして……してな、い……?
わかんねぇ、多分大丈夫だと思うんだけど……。
そんなことを思いつつ、視線を前に。
車は現在、山間の道を軽快に進んでいる最中だった。……一応、この辺りの山も栗花落家の所有地、らしい。
「つ、栗花落家が名家であることは存じ上げておりましたが。こ、こうして改めて目前にしてしまうと、どうにも落ち着きませんわね……」
「あら、生徒会長さんでも怖気づくことがあるのね?」
「……人聞きの悪い。私は確かに泰然自若であることを己に科してはいますが、この場は友との友好の為のもの。空気を悪くするような行いは慎むと、私はそう決めたのです」
「驚いた、貴女そういう事気にできる人だったのね」
「だから人聞きが……いえ、貴女からかっていらっしゃるのね?」
「ふふふ、そう聞こえたのなら謝るわね」
「……いいでしょう、買いましたわその挑戦状……!」
「なんで朱紅奈さんは私以外からも喧嘩を買ってるんですか!?こうなったら会長さん、共同戦線です!」
……後ろでの争いが加速してるんですががががが。
おい同胞、そういうの止めるのお前の役目だろ何して……外見て現実逃避してる!?
ゆ、結花ちゃんは……あ、ダメだ窓の外に流れる景色を純粋に楽しんでる!あれを邪魔はできねぇ……。
……無言で後ろに向けていた視線を前に戻して、しばし。
「いや、ほんとすいません……」
「…………………ああ」
今度の謝罪は、普通に受け入れられた。
「おおぅ、またでっかいお屋敷……」
なんかもう感覚が麻痺してきたけど、やってきたのは大きなお屋敷。
栗花落家所有の別荘であるこのお屋敷は、夏の間であれば大きなプールで涼を取り、春や秋には付近の山を散策し、冬になったら銀に染まった山嶺を臨み──といった感じに、一年を通してよく使われる場所なのだそうで。
今回はそんなお屋敷の一画、結構な広さの屋外プールをお借りして遊ぶことになったのだった。
……なお、よくここを利用されているという祖父さんは、今回孫に気を使って他の別荘に居るのだとか。
いや、ほんとお手数おかけします……。
「せんぱーい、なにをされてるんですかー!?」
「あ、はいはーい、今行きまーす」
大きな玄関部分でこちらに手を振る鈴莉ちゃんの言葉を聞いて、そびえ立つ屋敷に向けていた視線を下げる。
小走りに彼女達に追いついて、そのまま中に。
……私の貧相な語彙力では解説しきれないような広い廊下を通って、奥に奥に。
脱衣所に入れば、みんながサッと水着に着替えている姿が。……ふーむ。
「今回は、流石に白スクじゃないんだね」
「あれはインパクト重視だったので!今日は普通の水着です!」
そういう彼女の水着は、セパレートタイプのフリルが付いたオレンジ色の可愛らしい水着。
……なんだけど、一部がおっきいので、なんというか凄いことになっている。最初は市内のプールに行くつもりだったけど、これを衆目に晒すのはないわー……。
そんなことを思っていたのがバレたのか、たまたま視線があった朱紅奈さんは小さく苦笑を浮かべていた。
で、その朱紅奈さんと結花ちゃんは無人島での水着と同じ、赤に黒いラインのベアトップワンピースと、薄い水色のフリル付きワンピース。
うん、やっぱり二人共似合っている。で、前回居なかった、今回のプール騒動の発端になった西内さんだけど……。
「な、なんですの?じろじろ見るのは宜しくないのではなくって!?」
「いや、ねぇ?」
「ええ、これは……」
「ほほう、ほほう……」
「
私達はお互いに顔を見合わせ、一つの結論に至る。
これは───。
「「「「凄い」」」」
「は、はぁっ?」
いやもう、凄いとしか言いようがなかった。
朱紅奈さんのベアトップハイレグワンピースも大概だけど、西内さんのは格が違った。
だって……プランジングですよプランジング。めっちゃエグい切れ込みがあるワンピース。
……これ、日本人に着れる人が居るんだ、ってちょっと感動しちゃったよ私。ファビュラスな感じの人じゃないとダメだと思ってたよ。
「みんな、西内さんを胴上げだ!」
「「「おー!」」」
「え、ちょ、何事ですのーっ!?」
あんまりにも感動したものだから、彼女を囲んでみんなで胴上げ。
凄いぞ西内、ヤバいぞ西内、やるな西内。
わけのわからないテンションに、巻き込まれて盛大に混乱する西内さん。
「……いや、お前らなにやってんだよ」
この狂奔は、私達がそのノリのままでプールに出て、呆れ顔の同胞にため息を吐かれるまで続いたのでした。
「…………」
「ああもう、ゴメンって。西内さんが凄いからちょっと興奮しちゃっただけなんだって」
「ふーん、だ」
「ごめんってばもう……」
あかん、完全に拗ね内さんになってしまった。……ちょっと調子に乗りすぎたか。
プール内では鈴莉ちゃんと朱紅奈さんが白熱のデッドヒートを繰り広げていて、それをプールの縁に腰掛けた結花ちゃんと同胞が応援している。
私達はそこからちょっと離れた影になる場所に居た。……西内さんは体育座りで壁のほうを向いていて、完全に拗ねてしまっているわけなんだけど。
……でもまぁ、悪いの私だからなぁ。こうして謝り続けるしかないんだよなぁ……。
むぅ、どうしたものか。と視線を彼女から離して、ちょっと思案していたのだけど。
「その、どうしても、気が咎めるというのなら。……一つ、私のお願いを聞いて頂けるのでしたら、許してあげても、構いませんよ?」
「なんと」
彼女がちょっとだけこちらを向いて、こちらに声を掛けてくる。
……うむむ、お願い、お願いかぁ……。
西内さんなら無茶なことは言わないだろうけど、お願いってのはちょっと怖くもあるなぁ……。
とはいえ、私が悪いうえにそれ以外の方法もなさげだし、まぁ聞くだけ聞いてみるかなぁ……?
そんなことを考えつつ、彼女に続きを促す。
「その、ですね。……私も、みなさんと同じように、名前で読んで頂きたいのです」
「はへ?えっと、下の名前?」
私の間抜けな返答に、彼女はこくりと頷いてみせる。
……あー、でも確かに。彼女だけ名前呼びなのは確かだ。それが、彼女に疎外感を与えているというのなら、確かに名前呼びも吝かではない。……いやまぁ、単に機会を逃してただけというかね?
「えっと、いいの?私、貴女に結構酷いこと言ってたと思うけど」
「酷いなんて……私も、貴女には売り言葉に買い言葉ばかりを返していました。……お相子、だなんていい方は卑怯ですが、それで流して頂けるのであれば……」
「待った、多分これお互いに譲らないやつだな?……なんで、ここではっきりと。私は気にしてない。西内さんも、気にしてない。……それでいい?」
「もちろん、です」
……こっちにも罪悪感はあるんだけど、向こうにも罪悪感はある。
それを、お互い気にしていないというのなら、話はそこで終わり。……終わりにして、次の話をしたほうがいい。
「じゃあ……美玲さん、でいい?」
「はい、私も桐依さんと。……随分、遠回りしてしまいましたが。……これでやっと、対等ですわね」
彼女の言葉に、小さく息を呑む。……随分とまぁ、昔の話を律儀に守っていたものだ。
思わず苦笑して、彼女もまた苦笑を返してきて。
「じゃ、美玲さん、いい加減泳ごっか」
「はい、競争ですわね!」
「きりかえ が はやい」
途端に元気になった彼女を連れて、もう一度と朱紅奈さんに詰め寄る鈴莉ちゃんのほうに向かっていく。
──競争は、まだ始まったばかりだと言わんばかりに。
私達は、二人を巻き込んでプールに飛び込むのだった。