百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「ふんふんふふんふーん♪」
放課後になればお楽しみ部活ターイム!
新たなるヒロイン達とお近付きになるためにも必要な我が城、文芸部の部室に向かって鼻歌を奏でながら歩く、見る人全てが振り返らざるを得ない美貌を持った、可憐でクールな美少女は一体、誰でしょう?
そう、私です!
……鈍いな私だよ私、この世界の主人公たる私だよ!今明かされる衝撃の事実~!
「いや、混じってる混じってる」
謎の脳内ナレーションに、適当なツッコミを叩き込みつつ、部室のある三階まで階段を登っていく私。
現在私が所属する文芸部――もとい文芸研究会の部室は、三階の隅っこのほうにある。
一応キッチンも付いてるし、冷暖房も完備しているこの部屋は、元々は学校に寝泊まりする教師のための仮眠室だった、らしい。……そりゃ冷蔵庫もあるよね、なんて思ったかは置いといて。
部員数が定員に足りておらず、現状同好会扱いになっている文芸研究会が、なぜこんなわりと上等な部室を手に入れているのか……というと。
特に捻りもなく、私の人徳によるものだったりする。
……おい、今鼻で笑ったやつ出てこい、私もそう思うから一緒に笑おうぜ☆
いやまぁ笑うのは冗談だが、人徳というのは冗談ではない。
中身はこんな残念生物な私だが、それはあくまでも親しい人と一緒にいる時の姿。
私(がくせいのすがた)は最初から自己紹介してた通り、容姿端麗・成績優秀・文武両道・大和撫子──を規範とする、パーフェクト美少女である。
流石に生徒会長に関しては(諸々の理由から)パスしたものの、そういうモノを任せても問題ない人物だ、と思われる程度には真面目にやってるのです。
なので先生方にちょろっとお願いすれば、立地的に使いにくい代わりに設備はそれなり……な部室を準備することくらいは、お茶の子さいさいというわけなのですよ!
……みたいなことを後輩ちゃんに聞かせてみたところ、なぜかおはぎを渡された。
なに?後輩ちゃん和菓子キャラなの?え?違う?お茶の子はおはぎのことだから?……いや寧ろそっちが初耳だよ。
なんてよくわからないやりとりがあったとかなかったとか。
部室を用意できたのは良いのだが、代わりに先生方から一つ課題を出されてしまった。
それが、近く行われる演劇祭の劇用の台本を一つ完成させろ……というものである。
それと、演劇祭終わりまで同好会としての活動を認める代わりに、終了後一ヶ月以内に部活の最低定員数である、五人以上の部員を集めるように……とも。
じゃなきゃ文芸研究会は解散、部室も他の部活に使わせる……というような話だった。
……今見るとすっごい譲歩されてる。
終了後一ヶ月以内とか、演劇祭成功させれば余裕すぎるだろうし、できなかったとしても解散だけで、他のペナルティは一切なしとか、なんて優しい条件なのかとちょっと感動したものだ。
そんなわけで、演劇祭をおよそ二ヶ月後に控えた今日、本格的な台本制作に取り掛かるため、私は部室へと向かっていたのだった。
「というわけではいおまたせ、っと……」
部室の扉を開け、中に入る。
僅かに下げた視線を上げれば、そこには二つの人の影。
部屋の中心で向かい合っているのは、茶色の髪をポニーテールにした、普段は犬みたいに人懐っこい後輩ちゃんと、綺麗なブロンドヘアを首元あたりでカットした、女帝のようなクールな印象を周囲に与える転校生ちゃんの二人。
その間に流れる空気はまさに一触即発、竜虎相打つといった緊張感あるもので(なんかその向こうに死んだ目で中空を眺める幼馴染みが見えるけどちょっとスルー)。
……え、なにこの状況。
私が唖然とすると共に、厳しい顔をした二人が、雷火のように迅速に動き始める。そして行われたのは!
「……後輩ちゃん、貴方は確かに
「転校生さんも、噂に違わぬお人でした!」
「わからん、なんもわからん……どうなっとんこれ同胞……」
問い掛けた先の幼馴染みは、「俺にもわからん……」と死んだようなため息を吐いた。お、幼馴染みダイーン!!?
「というわけで、新入部員よ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくおねがいします……?」
なんか普通に流されたんだけど。……いや、よそう。藪をつついて蛇を出す必要はないんだ、同胞も頷いてる。
先日のお誘いはどうやら功を奏したらしく、こうして転校生ちゃんが新入部員として加わった……と言うことらしい。
「つまり部員歴的には、私が先輩になるのではないでしょうか!」
「そういうことになるみたいね。肩でも揉みましょうか?」
「転校生さんにそういうこと頼むと、後が怖いので遠慮しておきます!」
「別に怖がらなくてもいいのに」
「……遠慮するな、とは言わないんだな」
あらやだ雰囲気は和やかなはずなのに、会話がなんだか
……いやまぁ、別に言うほど一触即発ってわけではないみたいだけど。
なにがどうなってこうなってるのかわからないこっちからすると、何処かに地雷でも埋まってるんじゃないか、とちょっと不安になるわけでですね?
「大丈夫ですよ先輩、私と転校生さんはオトモダチですので!ちょっと小競り合いがあってもお気になさらず、です!」
「そこは小競り合い、って単語を出さないで欲しかったなー?」
「あら、小競り合いくらいなら楽しんで見てるものかと思ったのだけれど」
「……ねぇ転校生ちゃん、私のイメージどうなってるの?貴方の中の私は魔王かなんかなの?今の御時世魔王だって無用な小競り合い楽しむ余裕無いからね?」
「そうかなぁ……?」
おい梯子を外すな同胞、今の魔王軍はコンプライアンス大変なんだぞ。……いやなんの話だよ?
話がズレてきたので軌道修正。
部員が増えたので、これからの方針と役職について決めていこう、というのが今回のメイン議題なのだ。
「あ、俺雑用なんで」
「おいこら同胞ぁ、さくっと決めて逃げようとするんじゃねぇ」
「……バレたか」
バレラーザ!(?)
確かに幼馴染みは、喉乾いてきた時に飲み物用意したり、場合によってはおやつ作成に動いたり、で主に雑用係なわけだけど!
お前さんが副部長してくれないと、どう考えても後が怖いんだよぉ!どっち選んでも戦争でしょこれぇっ!?
「なるほど、副部長と言う名前の雑用ということですね!流石先輩、ナチュラルに仕事を増やしていく!よ、魔王!」
「魔王軍結成というわけね、参謀あたりに立候補してもいいかしら?」
「ノー!アイムノットデーモンキング!」
「なんだその適当英語……」
適当英語とは言うが、向こうの宗教観的に魔王の訳文って大体こんな感じだぞ同胞ぁ!
向こうの価値観的に微妙に魔王ってポジションが訳しにくいんだぞ同胞ぁ!
「ってちげぇ!なして君らこういう時に限ってボケるのさ?!それ私の役目ぇ!」
「おちつけ、泥沼になってるぞ」
「うぐぬぬぬ……」
きゃいきゃいしてる二人の姿は割とてぇてぇなんだけど、それに付随するもの(※こっちへの被害)がてぇてぇを阻害するから、おちおちてぇてぇもできねぇ……。
目の前のてぇてぇを楽しめないとはなんたる不幸……!
「おい、そうやって泣いてるフリしながら、密かに俺を副部長にしようとするな」
「ちっ、目ざといな幼馴染み。だがお前が副部長をやらないとどうなると思う?」
「……どうなるんだ?」
「大惨事スーパー文芸部大戦ね」
「決着は銀河の彼方ですね!」
「こうなる」
「うん、俺副部長でいいわ……」
ですよねー。
「……いや、ホントに会議が紛糾するとは思わなかった」
決めなきゃいけないこと、なんてそんなになかったはずなのに、なんでこんなに疲労困憊になってるんだ私達……?
実際役職なんて、部長私で副部長幼馴染みー、以外は最低限平部員でも良かったはずなのに、なんでこんなことに……。
いやまぁ、みんなが役職欲しがったからなんだけどね?みんなやる気あって私嬉しいなぁ!(ヤケクソ)
「そういうわけで、茶菓子係を拝命しました!先輩のリクエストに答えて洋菓子系も揃える予定です!」
「うん、費用はまぁ私が持つんで、いい感じのお願いするね?」
お任せですよ!と元気な後輩ちゃん。
実際甘味の目利きが結構得意みたいなので、ピッタリの役職だと言える。……甘味係が文芸部に必要か、って疑問はスルーで。
「参謀もとい資料集め係、ということになったみたい。劇の方向性とかは見えているのかしら?」
「そのあたりも決める気だったんだけどねーなんでかなーあははは」
それは私だけの責任じゃないわよ、と紅茶に口をつける転校生ちゃん。……追求はしまい、私も悪ノリしたし。そして、
「おい、こっち見ろお前。雑用兼任だからってわざわざこんなもんまで用意しやがってこの野郎」
「ふはははは」
「笑ってんじゃねぇよ……」
わなわな震える幼馴染みに笑い返してやる。
ふはははバカめ、初手で雑用を希望するからこうなるのだ、恨むんなら自分の愚かな選択を恨むんだな!的なことを言えば「魔王め……」と忌々しそうに言われてしまった。……だから魔王じゃないってば。
……さて、幼馴染みが現状どうなっているのか、と言うと。
なんのことはない、雑用係の常としてメイド服を着ている、というだけのことである。
元が百合ゲー世界なのもあって、この世界の人々の顔面偏差値は原則かなり高い。我が幼馴染みもその例に漏れず、普通に美形に区分される側の人間である。
……だったらやるよなぁ?似合いそうなら着せるよなぁ?家庭的なスキル網羅してるんだから絶対似合うよなぁ?……という私の中の女性的な部分が暴走した結果がこれである。
だが私は謝らぬ。似合うんだから着せればいいんだよ!それ以外に理由はいらねぇ!……流石にかわいそうなので、ロングスカートのオーソドックスメイド服だけどね。ミニスカフリフリメイド服とかは、流石に自重した。
ただまぁ、今の御時世だと服の性別指定もなんかあやふやなところがあるらしい(制服でもスカート・ズボン共に自由選択だったりする)ので、彼が怒ってるのは女物の服を着せられたということにではなく、無理やり制服脱がせてメイド服着せた……という行動そのものに対してのもの、みたいだけど。……なんか一部の人すっごい喜びそうだねここ?
まぁ私としては、視界の華やかさが増したことのほうが重要なので、特にそのあたりは気にしないけど。
わーい、百合の花園だー!……そのせいで議論の時間が致命的に削れた、ってことについてはノーコメントで。
「欺瞞にもほどがあるだろうがよ……」
「いいんだよ欺瞞でも!私はゆりゆりしたいんだよ!幼馴染みも言ったじゃないか、やるだけやってみろって!」
「俺をそっちに巻き込んでいい、とは言ってないんだがな……」
ぶちぶちと文句を言う我が幼馴染み。
……むぅ、自分でやらせといてなんだけど、似合ってるなホントに。
背もそんなに高くないし、体つきもそこまでがっちりしてるわけでもないから、女装させても可愛らしさのほうが目立つし。……黒髪ショートの口悪い系メイド、ありだな!
なのでとりあえず頼み倒しておく。
「そんなこと言わずに!私の命を救うと思って!」
「……ったく、部活の時だけだぞ」
YES!我が幼馴染みスーパーちょろい!
ちょっと頼み込めば言うこと聞いてくれるんだからホントもう愛してる!……え、愛してるなら嫌がることさせるな?知らなーい。
「転校生さん、これいつツッコミます?」
「ほっとけばいいんじゃない?そのうち戻ってくるでしょうし」
あとそこの二人。ダメだこいつらみたいな顔しても、さっきまで我が幼馴染みの女装のために、嬉々として協力してくれてたという事実は消えないからな?……ということを伝えれば、二人して知りませーんと返してきた。
……なんも知らねーなこの部員たち、やっぱりお前が頼りだぞ幼馴染み。……知らんがな?でしょうね。
なお、この日は同胞のメイド化のために時間を費やしてしまったので、これで解散になったのだった。
……いや、これ間に合うよね演劇祭……?