百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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木を隠す森を伐採するが如く

 その違和感に気付いたのは、登校日のことだった。……いや、正確には見ないふりをしていたことに気付いた、というべきか。

 

 演劇祭のあの日まで、私の目が曇っていたことは事実である。

 さらに、それが終わってからもしばらく、周囲を気にできる余裕がなかったのも事実。

 なので、自分がクラスメイトの顔とかをあんまり見ていなかった、ということに気付いたのは、自身が登校日に教室の扉を潜って、クラスメイト達の顔を改めて認識してからだったのだ。

 

 ──うわマジか私、いくらなんでも薄情過ぎるでしょ……なんて自嘲しつつ席について。

 席替えをすると担任が言うのでくじを引いて、決まった席に座り直してこれからどうしたもんかと思案して。

 

 

「あ、お隣は東山さんか。よろしくねー」

「ん、よろしく……う?」

 

 

 隣にやってきた彼女からの挨拶を受け、こちらも挨拶を返そう……として硬直した。「え、いきなりどしたん?」と声を掛けられたので慌ててなんでもないと返し、笑みを返す。

 彼女はしばらく首を傾げていたが、こちらが笑みを崩さないのを見てとりあえず保留することにしたのか、もう一度だけよろしくーと言って席に座った。

 

 そんな彼女を横目に、内心でため息。

 ……いや、見間違いじゃないな、これは確かに……。

 密かにチラチラ彼女を見ながら、その特徴を確認していく。

 

 髪の色は茶色、瞳は黒色。……確か、髪は地毛だっけ?

 体型は私と似たようなもの。……スタイルについて指摘されると涙目になっていた気がする。

 身長は、私より低め。……あっちでは一番背が低いのだったか。

 そして──当たり前だけど、彼女の着ている制服は私と同じもの。……一番の違和感。

 

 そこまで確認して、小さくため息を吐いた。

 ……いや、『2』の主人公じゃねーかこの子。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 この世界に近似した、とある百合ゲーム。

 変な人気があったこれは一部に異様にウケ、それなりの販売数を稼いでいた。

 それで変な自信を得てしまったのか、この会社続編を作ってしまうのである。それが『2』。……なのだが。

 

 まぁ、そもそも最初のタイトルのヒット自体がちょっと特殊な感じだったのも合わせて、続編は大爆死。

 以降、この作品達は一部のファンの間でしか語られない幻の作品と化して行ったのだ。

 そんな、あんまりにもあんまりなゲームの主人公が、今目の前に居る彼女、『秋山 昴』なわけである。

 

 なお、そっちでは舞台となっていた学校が違った為、本来彼女が着ていた服も全く別のものだった。

 ……前作の反省からちゃんとした女学校が舞台にしていたので、彼女の服も丈の長いロングスカートなどが特徴的な、わかりやすいお嬢様な服装だったのだ。

 

 それがどうだ?現在隣に居る彼女は、原作ではもうちょっとお淑やかな感じだったのに、今ではわりとテンション高めの一般女子高生である。

 いやまぁ、楽しそうなのはいいことだと思うのだが。

 ……可愛いお嬢様、って感じだった原作からするとギャップがすごい。

 

 そもそもの話、なんでここに居るのだろうか彼女は?

 この世界がゲームではないことはもう知っているが、それにしたってわざわざ続編の主人公に相当するような人物が、これ見よがしに私の前に配置されるとか、何者かの作為を感じざるを得ないぞ……?

 

 そんな感じなので、ちょっと彼女について探りを入れてみた、というのが先までのいろいろなアレの理由である。

 ……まぁ、反応のいい一般人、みたいなことしかわからなかったんだけどね?

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「では、文芸部が来る文化祭にて何を出店するのか、ちょいと足掛かりくらいは話しておきたいわけなのですが……」

 

 

 晃のお手製ランチをみんなで食べ終え、一息ついて。……あっきーは「いやなんで部室でこんな普通にランチが出てくるわけ……?」ってずっと困惑してたけどそれは置いといて。

 

 片付けも終わり、久方ぶりの部活の時間である。

 議題の内容は文化祭について。前回の活動である演劇祭では惜しくも勝利の栄冠を掴むことはできなかったわけだが。

 今回は勝敗とか気にする必要性はないものの、下手な出し物を見せるのは沽券に関わる。

 文芸部らしい、文芸部に見合ったモノをお届けしなければ、なんてちょっと張り切っていたり。

 

 

「あれ?メイド喫茶をやるのでは?」

「冷静に考えて人数が足りぬ、特に調理要員が晃以外格が落ちるのが宜しくない」

「あー、堀ノ内先輩が休憩されると、その間の味の維持が難しくなるんですね?」

「そういうこと」

「大袈裟な……」

 

 

 そこで、鈴莉ちゃんからメイド喫茶をやるはずだったのでは?との疑問。

 

 ……あの時は思わず名案だ、と思ったけど、そもそもあーいうのって人数が居る、ってことにあとから気付いたため、白紙に戻したのだと告げる。

 

 文化祭って基本朝から夕方までやるので、交代制にしないと自由時間が一切なくなってしまうのだ。

 そこを考えると……削りに削って一組だけ受けるって感じにしても、調理できる人が晃しかいないという壁にぶつかってしまう。……正確に言うと、晃の調理スキルと同じラインで料理を出せる者が居ない、という問題だ。

 

 悲しいかな、私もこの幼馴染みの料理には太刀打ちできる気がしないので、丸一日彼を働かせる羽目になるメイド喫茶は、ちょっと選べないなぁとなったわけである。

 なお、私以外のみんなに関しては、美玲さん以外の三人はまぁ普通に、美玲さんはちょっと苦手、といった感じの料理の腕を持っている。……流石に代わりにはならなさそうだ。

 

 

「揚げるだけで最悪形になるチュロスを出す、とかは?」

「それもはやチュロス屋じゃない?メイドである必要性がないというか」

「あー、なるほど?喫茶を名乗る以上はメニューに幅が欲しいけれど、それをクリアしようとするとどこかで妥協がいる、と」

「そういうこと。妥協するくらいなら他のことをやるべきかなって」

 

 

 ついで上がるのは、簡単に調理できるモノを提供するのはどうか、という提案。……確かに、全部出来合いのものを提供するのであれば、必要な人数を減らすことができる。メイド喫茶をやりたい、というだけならこれが一番確実だろう。

 

 ……ただまぁ、そこまで妥協するなら普通に他のことしたほうがいいんじゃないかなーというか。

 そもそものメイド喫茶をやりたいってのが私のワガママなので、それを妥協で満たすくらいならちゃんと普通の出し物したほうがいいでしょう、という。

 

 

「……人員だけでしたら、生徒会からお出しすることもできますが?」

「んー、そこまで行くとちゃんと晃の腕に並ぶ人が欲しいってなるからなぁ」

「ワガママすぎる……」

「なんだよー、そもそもメイド喫茶やりたいってのが私のワガママなんだから、ワガママ満たせなきゃやる意味ないってなるの仕方がないだろー!」

 

 

 だから違うこと考えようぜ、って提案してるのに、なんでみんなどうにかしてメイド喫茶にしようとしてるのさ?

 

 

「いやだって、部長がやりたいって言ってるんだから考慮はするだろ」

「……え?まさかそんな理由で?」

 

 

 晃の言葉にみんなを見渡すと、返ってくるのはそうだよ?と言う頷き。……あー、マジかー、部長権限だったかー……。

 迂闊なことは言うもんじゃないな、と反省。

 せいぜいクラスでワガママ言ってる一生徒くらいの立ち位置なつもりだったんだけど、そうか言われてみれば私部長でしたね……。

 

 しばらく瞑目して思案。……ぬぐぐぐぐ。

 

 

「わかった!簡単に調理できるチュロスとホットサンドだけ出すメイド喫茶!それで妥協!ごめんなさいだけど美玲さんには人員をお借りします!」

「はい、承りましたわ。……最初からそうしていればややこしくなくて済んだのでは?」

「そこまで配慮されてると思わなかったんだよ……こんなに配慮されてるならそりゃやるよ……」

 

 

 ここまでされるとやらないほうがワガママだよ……。

 ホント、迂闊なことは言うもんじゃないね、迷惑かけっぱなしじゃんこれ。

 

 

「先輩が楽しんで貰えるのが一番なので!」

「基本的には貴方を中心に集まっているのだもの、方針には従うわよ」

紡ぐものとしては失格だが(文芸部らしいかどうかは謎ですが)世を笑うもまた一興よ(楽しいのはいいと思います)!」

「……みんなが私を甘やかしてくるんだがどうすればいいと思う?」

「素直に甘えてればいいんじゃないか?」

 

 

 ……うーん、いいのかねぇ?

 とはいえこの子達も大概頑固なので、意見は梃子でも変えないだろうけど。

 

 

「……そういえば、服どこかに借りるか何かしないといけないね?」

「あ、うちが貸し出します!全員分!」

「お、おう。流石の屋敷住まい……ん?全員分?」

 

 

 さて、やることがメイド喫茶に決まったわけだけど。

 どこかに借りるなり作るなりしなきゃいけないなぁ、と思ってたら鈴莉ちゃんがうちのを貸しますとの言葉。……ナチュラルにメイドさん雇ってる家は言うこと違いますね……なんて思ってたら、謎の「全員分」の言葉。

 ……ん?何人分用意する気なのこの子?

 

 

「はい?文芸部員全員分と、生徒会からの協力者さん達の分ですよね?」

「……それ、私も入ってる?」

「なんで入ってないと思ったんですか?」

「oh……」

 

 

 あ、ああ。そっか、私もか……。

 いや、言われりゃそうなんだけど、メイド達を侍らせてる図を最初に思い浮かべてたから、ちょっと考慮の範疇外だったんだわ……。

 

 

「その……ところでなんだけどさ?私、いつまでここにいればいい?」

「ん?……ってあ、あっきーごめん、忘れてた!?」

 

 

 ちょっとへこんでいたら、聞きなれぬ声を掛けられて視線をそちらに向けて。……あっきーがおずおずと手を上げていたのを見て今更ながらに帰っていいよとも言ってなかったことに気付いた。

 慌てて謝罪をして、付き合わせてごめんと言ったのだけど、彼女は何事かを悩むように下を向いたあと、視線をこちらに向けて、小さく笑った。

 

 

「あのさ、私も文芸部、手伝ってもいいかな?」

「へ?あ、いや、構わないけど。……え?メイドやりたかったの?」

 

 

 突然の提案に驚いて聞き返すと、彼女はたははと笑いながら理由を話してくれた。

 

 

「ほら、クラスの出し物展示になったじゃん?暇だから、何かないかなーって思ってたんだよね。文芸部はなんか楽しそうだしさ」

「あーなるほど。……いやでも、いいの?私ら結構暴走するけど、今の会議みたいに」

「そこはまぁ必要経費かなって。折角だし、楽しい方が絶対いいしさ。ね、お願い!」

 

 

 ……うーむ?わりとついてけない感じのメンバーだと思うんだけど、ここまで晒してもこんな反応、と。

 

 

「……ん、じゃあありがたく頼らせて貰います。覚悟しとけよー、もっとハチャメチャになるからなあっきー!」

「上等上等!私が弄られるんじゃないならオッケーオッケー!」

 

 

 まぁ、働き手は幾ら居ても構わないだろう。

 私は打算も含みながら、あっきーの提案を受け入れるのだった。

 

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