百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
……あれこれとちょっと構ってみたけれど、特になにか隠しているようでもない、というか。
というかそもそも私が相手を探るのが苦手なんだなこれ?似たようなことを柳瀬先輩の時もやったし。
まぁ、そんな感じで部室に来るようになったあっきーの様子を見ていたりしたのだけれど、正直なーんもわからん。
わかることと言えば彼女がいい子だ、ってことくらいだろう。
話していて気を遣わずに済むというのは、普通に得難い相手だと言える。
「どしたんきりえん、なんかちょっと楽しそうだけど」
「んー?いやね。あっきーが勉強ちょっとずつでもできるようになっていくのを見てると、思わず目頭が熱くなってきてね……」
「お母さんじゃんっ!?え、私いつの間にきりえんの娘になったし?!」
「晃お父さん、娘がいい子に育ってくれて嬉しいですね……いや、どした晃、突然吹き出すなんて晃らしくないぞ?」
「おま、おまっ!!」
おおっと、珍しく同胞が照れてる。
……私も言ったあとでちょっと恥ずかしくなったけど、言ったことは撤回できぬのだ、お前には確かにお父さんになって貰うから覚悟しておけ……(震え声)
「いや私を挟んでイチャイチャすなし、そーいうの子供から見えない位置でやれし」
「なにおぅ、家族の仲が良いのはいいことだろぉっ!」
「……子供の前で過剰にイチャ付くのはよくないんじゃないかしら?」
「突然の朱紅奈さんからの砲撃!?」
「朱紅奈お姉ちゃんと言うわけですね!……おや、よく考えたら先輩は早生まれですので、私と歳が同じお母さんということに……?」
「やめろやめろ、突然闇深案件にするのはやめろぉっ!?」
確かに私は早生まれだけど!なんか色々あれだぞその発言はぁっ!?
その後、それを言ったら私お母さんより年上になるわよ?と朱紅奈さんが言い、同調した美玲さんがふふふ不潔ですわぁーっ!となんか知らんけど顔を真っ赤にしていやんいやんと首を振り、ぱぱお腹空いたーと久しぶりに通常モードになって喋る結花ちゃんを晃がよーしよしと撫でて……。
みたいに収拾の付かないてんやわんや状態になってから先生がやってきて、なにやってるのと真顔で言われることになるのでした。
「そうこうしている内にもう一週間、時が経つのは早いねぇ」
「試験前日なわけだが、流石に今日はみんな真面目だな」
浮かれるのは、試験を終えてからだ!
……なんて言った人が居たかは定かではないけど、中間考査前日の放課後。
運動系の部活は校内には残っていないけど、文化系の部活に所属している生徒は、うちみたいに部室を使って勉強をしている、みたいな人達も多いようだ。
なので試験前日の放課後にも関わらず、校内には人の気配が結構残っている。流石に先週のうちみたいに騒がしかったりはしないわけだけど。
そんな校内を部室に向かって歩きつつ、二階から三階に繋がる階段に足を掛けたら、上のほう……多分踊り場から聞こえてくる話し声。……これは、あっきーと、他の誰かかな?
晃を手招きして、階段を上がるのをやめてそっと聞き耳。
「……じゃあ、その通りに」
「うん、別に構わないけど……内緒なんでしょ?言わなくてもいいの?」
「気にしなくていいわ、そのあたりは調整しておくから」
「んー、すっべーがいいんなら別にいいけどきりえん怒んない?」
「……さぁ、どうかしら。とりあえず、部室に行きましょう。最後の追い上げも残っていることだし」
「うぇー、文字見るのもういやだなー……」
……話が終わって、二人の足音が遠くに消えていく。
ちょっとそこで待機して、足音が戻ってきたりしないことを確認したのち、階段の下に隠れるのを止めた。
「刻遠野と秋山か。なんの話をして……桐依?」
「ん?どしたし晃」
二人がなにを話していたのかを考察しようとしていた晃が、こちらの顔を見て疑問の声を上げる。……私?私はね……。
「いや、なんだその『やっべー、やらかした』みたいな曖昧な微笑み」
「なんでもないぞー、なんでもないんだぞー、あはははは」
「……いや、言いたくないんならまぁ聞かんが、他の奴に聞かれたくないならその顔は止めたほうがいいぞ」
「……はい」
こっ恥ずかしさで顔から火が出そうです……。
いや、なんというか、うん、そういやそうだったというか、うん……。
一つの忘れ事を思い出した私は、しばらく下を向いて過ごすことになったのでした。
「うわー!終わったー!」
「はい、お疲れ様。……出来は微妙、って感じ?」
日付は飛んで、四日後のお昼。
精魂尽き果てた、といった感じに机に倒れ込むあっきーに声を掛けつつ、クラスの中を見渡す。
大体の人は試験の終わった解放感から諸手を上げて喜んでる感じで、その中の時折自己採点してる人が居たり、はたまたホームルームも終わったのでさっさと帰ろうとしている人が居たり、と様々だった。
そんな中、晃がこちらに近付いてくる。
「俺らも帰るか?それとも部室に寄るか?」
「それなんだけど、鈴莉ちゃんがメイド服を用意するのに寸法測りたいって言ってたから、この後は部室の予定」
この後の予定に付いて聞かれたので、朝のうちに鈴莉ちゃんから連絡があったことを伝える。
正直晃に関しては自前の奴を使えばいいような気がしてるけど、どうにも喫茶で使うのは普段のクラシカルな奴では無いらしいので、そのあたりの関係で晃の寸法も欲しいのだそうだ。
「……まさか新しいメイド服が増えることになるとはな」
「私もちょっとびっくりだよ」
なお、そうして用意したメイド服は、晃に関してはそのままプレゼントしてくれるのだそうで。
日頃のお礼です、とは言うものの。それでいいのか男の子、みたいな葛藤もなくもないようで。……最終的に鈴莉ちゃんの熱意に押しきられてたけど。うちの晃は押しに弱い……。
「あっきーも、寸法測るんだよね?」
「え?あ、そ、そそそそうだね!メイド服とか初めて着るから、楽しみだなー!」
「……………」
「なんだこの微妙な空気」
蚊帳の外になっていたあっきーに声を掛けると、あからさまな挙動不審ぶり。……ヨクワカンナイノデ、ワタシハムゴンデカノジョヲミツメルヨ!ウン、ワタシハキヅイテナイヨー?
……隣の晃に変なものを見る目で見られた。くそう、私が悪いわけじゃないのになんだこのなんとも言えない空気……。
そのまま三人連れだって、部室へ向かう。
扉を開けて中に入ると、人の気配はどこにもない。
「あ、あっれー?りんちゃん達居ないみたいだねぇ?」
「そだね。とりあえず晃、お茶でも飲んで待ってる?」
「そうだな、紅茶と緑茶どっちがいい?」
誰も居ないのを確認して、そそくさと席に座るあっきーを横目にしつつ、晃に飲み物のリクエスト。
紅茶か緑茶かを聞かれたので、今日は緑茶の気分だと伝えると、あっきーは驚いたように目を真ん丸にしたあと、遠慮しがちな声で「わ、私も同じのでー……」と言っていた。
………なるほど?
そんな私達の言葉を聞いた晃は、「へーい」と返事をしながら奥の部屋へ。
そこは元々宿直室だった時に物置として使われていた場所で、現在は晃が着替えるための部屋になっている。
そこに入った彼が、何事かに驚くように「あ?」と声を発したあと、しばしガサガサと音をさせたのち、扉を開けてこちらに出てくる。
「……おお?大正の給仕風のメイド服とな?可愛いじゃん」
出てきた晃の格好は、いわゆる袴の上にエプロンドレスを着たような風貌の、大正浪漫溢れる和風メイド服であった。……いつものクラシカルなのもいいけど、和服系も悪くない。
それを着ている晃はといえば、ちょっと困惑している様子。
「いや、いつもの服が置いてるところにこれが置かれててだな?」
「ふむ?その様子だといつもの服は無かったと?」
(……無いなら着ないでいいのに、あるやつ着ちゃうんだ……完全に慣れだよこれ……)
部室内でのユニフォームみたいなものになっていたということか、とりあえず有るものに着替えたらこうなったとの申告。……私的には似合ってるんで問題ないんだけど……さて?
部室の扉が開いて、いつものメンバーが室内に雪崩れ込んでくる。そしてその手に持った円錐形のもの──クラッカーの紐をひっぱって。
「お誕生日おめでとうございます堀ノ内先輩!」
「へ?……あ、そっか俺誕生日だったわ」
「自分の誕生日を忘れてたの?……桐依、もしかして貴方」
「最初素で忘れてたけど、途中で思い出したので一応意図した結果です。サプライズの邪魔しなかったんだから無罪だと思いまーす」
「あ、ってことはどっかで見られてたんだ!?」
「気付かせてくれてありがとうございまーす、四日有ったんで私もプレゼント用意できました、ありがとうございまーす。でも私が隠し事できないと思って、サプライズ周りをこっちにもサプライズしてたのは酷いと思いまーす」
「そうですわね、こうしてちゃんと堀ノ内さんを驚かす事ができたのですから、貴方の隠蔽能力を疑うべきではありませんでしたね……」
「ねぇ、なんか突然人聞きが悪くなってない?気のせい?」
鳴らされた祝砲に、晃が目をぱちくりとさせている。
……あの日の踊り場での会話は、このことだったらしい。
話しているのを密かに聞くことで、私も彼の誕生日を忘れていたことに気付けたのは僥倖と言うかなんというか。
彼氏の誕生日忘れてる酷い彼女やんけ、ってちょっと羞恥で死にたくなったけど、そのおかげで私も色々準備できたので感謝しないでもない。
……ついでに言うと隠し事下手すぎるあっきーの疑いも、今回の流れで晴れていたりする。
ともあれ、今日が晃の誕生日だというのは確か。
ポカンとしている晃の手に、次々と部活メンバーから贈り物が乗せられていく。
「……鍋とフライパンのセットに、調味料入れ一式。それと……おまっ、これ結構高いやつ……!?」
「堀ノ内先輩がさらに美味しいご飯を作っていけるようにという投資です!気が咎めるのなら美味しいご飯をプリーズ!です!」
「あんまり高いものは遠慮するでしょうって私も言ったのだけどね。この子そういうところ頓着しないから」
「
「私からは計量器などを、それと篠浦先生からはバーベキューセットだそうですよ。いつかまた、貴方の焼いた串焼きを食べたい、だとか」
「わ、私は重いのもあれだろうし、近所のスーパーの値引きチケット!」
「……こりゃまた、随分といろいろ持ってきてくれたんだな」
おや、珍しく晃が涙ぐんでる。
……まぁ、こうして盛大に祝われるのはなんだかんだで初めてだろうし、仕方ないところもあるとは思うけど。
「お前は、なにをくれるんだ?」
「私のは帰ってから。……茶化さないで鈴莉ちゃん。違うから、そーいうのじゃないから!……ええい、どうせケーキとかあるんでしょう、さっさと準備しなさい!」
「わー!お母さんが怒ったー♪」
こちらを向いて晃が催促をしてきたので、帰ってからのお楽しみだと返す。……みんなの前で言ったせいで滅茶苦茶囃し立てられたけど、そういうんじゃないから。普通に贈り物用意しただけだから!
って言うと、蜘蛛の子を散らすようにみんな散っていった。……用意しているケーキを取りに行ったのだろう。
小さくため息を吐いて、改めて晃の方に向き直る。
「誕生日おめでと、晃」
「ん、ありがとな。……ったく、とんだ誕生日だな、ほんと」
「ま、こういうのもたまにはいいでしょ?」
「……だな」
朗らかに笑う彼を見ながら、私も小さく笑みを浮かべるのでした。