百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

48 / 65
四章 決戦はクリスマス
春は遠く、願いを忘れ人は笑う


 ……どうして。なんで。

 

 疑問か、はたまた悲嘆か。……もしくは、そのどちらもか。

 それを溢したのはいつだったか。

 自分がそれを思ったのはいつで、それを願い、求めたのはいつだったか。

 

 ()してほしい。()してほしい。

 どちらも等価で、どちらも必要で、どちらも■■■(自分達)は捨ててしまったもので。

 だから、ずっと燻っている。胸の奥で、残り続けている。

 なんでもないように、どうでもいいように、ずっと。

 

 ああ───■■■■■(気持ち悪い)

 ■■(自分)■■(幸せ)■■■(なれる)わけないのに。

 だから、早く。()を、()して。さっさと、()にして下さい。

 それだけが、それこそが、()の願う全てなのだから───。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「……むぅ」

 

 

 ──なんというか、イヤなものを見たような気がする。

 飛び起きたりしたわけではないものの、寝汗やら何やらで最悪の気分を味わいながら、ベッドの上から半身を起こす。

 

 ()()()()()と溢したもの。──切り捨てるべき、()の最後の心残り。

 それを改めて突き付けられたような心持ちに、思わず深くため息を吐いて。ベッドから降り、窓の近くまで歩み寄った。

 

 からからと音を立てながら開いた窓の縁に腰を掛け、真っ暗な空を眺める。

 ……月の光が柔らかく夜の帳を照らしている。

 真夜中の空気は凛として、ほう、と吐き出す息が白く染まる。

 

 このまま、夜の闇に落ちてしまえたら。

 ……なんてことを思っていたのは、いつのことだったか。

 

 ……いかんな、一人だとどうにも考えが片寄って仕方ない。

 小さくため息を吐いて、窓の縁から部屋の中へと戻る。

 

 ──後ろ髪を引かれたような気がしたけど、振り向くことだけはしなかった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「へい、おはよー晃。いやー、今日も朝からさっむいねぇ」

「おう、おはよう。……なんつーか、あっという間に冬って感じだな」

「そうだねぇ。もう十一月だし、そろそろこたつとかが恋しくなってくる感じだね。……部室に置けたりしないかな?」

「いや、流石にこたつは無理だろ、場所がねーよ……。素直にストーブにしとけって」

「いーや、確か倉庫のほうに畳が何枚かあったはずだから、それを使えば部室の一画に、こたつゾーンを作ることは十分に可能なはず……!」

「なんなんだよ、そのこたつへの熱いこだわりは……」

 

 

 学校への道すがら、隣を歩く晃と他愛ない会話を重ねる。

 

 慌ただしかった文化祭の日から、すでに一ヶ月とちょっと。

 秋の過ごしやすい空気はとうに過ぎ去って、街中はすでにクリスマス気分へと染まりつつあった。

 ……ちょっと前はハロウィンで大騒ぎしてたくせに、その次の日にはもうクリスマスに向けての準備が始まるとか、なんというか本当に節操のない国だな日本……。

 

 

「文化祭からハロウィン・クリスマス・正月・バレンタイン……ってな感じで、年末から年始にかけてはとにかく忙しいもんな」

「師匠が走り回るから師走って言うけど、正直弟子も普通に走り回る忙しさだよね、実際は」

「ああ、弟子(生徒)弟子(生徒)で試験とかあるからな」

「あっきーがまた死にかける、ってのだけは分かる」

「それは確かに。……また勉強会でもするか?」

「そうだねぇ、あっきーに泣きつかれるのは、最早確定事項みたいなもんだしなー」

 

 

 年始を迎える前に、学生である私達には期末試験が待っている。……それを思えば、師走というのは誰しもが忙しく走り回るものなのでは?なんて感想が思い浮かんできて、ちょっと苦笑してしまう。

 

 そうして他愛のない話をしていたら、うっすらと吹いてくる寒い空気。

 ……身震いを感じて、マフラーを巻き直して耳を隠す。

 私は耳が冷たいのが一番イヤなんだけど、そのために耳当てをするのは更にイヤ、と言うワガママ持ちである。

 

 手袋は二重だし、ストッキングが校則でオッケーだから遠慮なく防寒用のやつ履いてるし……って感じで、寒さ対策を怠っているわけでは、決してないのだけど。

 耳当てについては昔から──それこそ前世の時から使いたくない、という徹底ぶりである。なんなのだろうね、この謎のこだわり。

 

 まぁ、とにかくそんな感じなので。

 おっきなマフラーで耳元まで覆い隠すのが、冬場の私のいつものスタイルだったりする。

 ……口元まで一緒に隠すから、吐いた息が持つ熱で内部も暖かくなる……というのは、わりといい感じなんじゃないかなって毎回思ってたり。

 

 

「……あ、そだ」

「なんだいきなり……ん?」

 

 

 そんな中、ふと思い付いて右手の手袋を脱ぎ、晃に向けて差し出す。

 それを見た彼は、初めはその意味がわからない、といった感じに首を捻っていたが。

 しばらくしてこちらの意図を理解したのか、小さく頷いて私の手に自分の手を重ねてくれた。

 ……ん、そうそう。寒いんだから手を繋ぐくらい普通普通、ってね。

 

 

 ──────(ほんとうに)

 

 

「……っ、」

「どうした?」

「……いんや?なんでもないなんでもない」

 

 

 そうして繋いだ手を、気持ち強く握り直して、学校への道を急ぐ。

 ……抱いたモノは、表に出す必要性はない。

 そのまま沈めて、忘れて、なかったことにしてしまえばいい。

 

 

「……おい、桐依」

「んー?どしたの晃?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 晃が訝しげにこちらを見てくるが、私がにっこりと笑顔を返すと、彼はなんでもないと言い残して視線を前に向けた。

 

 ……ん、それでいい。

 それでいいんだよ、()のことは、ほっといてくれていいんだ。それが一番、簡単に終わる。

 

 ──そのあとは、特に会話をすることもなく、普通に学校にたどり着いたのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「──桐依。貴方、堀ノ内君と何かあったの?」

「また不躾というか、どことなくふわっとしてるというか……そういう質問だね、朱紅奈さん」

「茶化さないでちょうだい」

 

 

 休憩時間中に、購買で買ってきたゴーヤオレをちゅうちゅう吸っていたら、朱紅奈さんから突然詰め寄られた。

 

 不機嫌そうな彼女からは、晃となにかあったのか、という質問が飛んできたんだけど。……別になにもなかったよ、としか私には答えられない。

 実際、登校中に会話が弾まなかったなー、ってくらいのことしか起きたことはなかったわけだし。

 そう伝えると、彼女はこちらを不審げに見詰め、一つ息を吐いた。

 

 

「……いえ、何かあったのは貴方のほうね?」

「ありゃ、鋭いね朱紅奈さん。──まぁ、ちょっと夢見が悪かったから、変な対応してたかも知れないね」

「……夢見?」

「そ、変な悪夢に魘されてた、みたいなやつ。──そうは言っても所詮は悪夢だから、別に何がどうってわけでもないんだけどさ」

 

 

 やけにしつこく聞いてくるので、素直に悪夢を見たことを答える。

 まぁ、悪夢と言っても大したものじゃないんで、そんなに気にして貰うような必要もないんだけど。

 ……みたいなことを伝えるも、彼女はなんとも微妙な色を、その綺麗な相貌に浮かべていたのだった。

 ……むぅ、これは信用されてないってやつだな?

 

 

「内容は?悪夢の」

「んー、起きた時にすっごい不快だったから、多分悪夢だーって思っただけで、正直詳しい内容とかは覚えてないんだよねー」

「………本当に、大したことないのね?」

「いや、私そんなに無理してるように見えるの私?」

「……いえ、私の勘違いだったかもしれないわね」

「ええ……?今度は素直に引きすぎじゃない?どしたの朱紅奈さん?熱でもある?」

 

 

 なので、ちゃんと詳細を話してみたのだけれど、今度はなんとも不完全燃焼感の溢れる結果になってしまった。

 ……彼女、口では納得したみたいに言ってるけど、表情から本当は納得してないのが丸わかりである。

 うーむ、ホントになんでもないんだけどなー。

 

 ──うん、なんでもないんだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……貴方」

 

 

 おっと、なんか変なことでも口走っちゃったかな?

 目の前の彼女がこちらを見る目が、猜疑心溢れるものに変わっている。……()、私が言った()()のせいだろうけど。

 

 

「うん、()()に関してはわりと真面目にほっといて。時間が解決するのは目に見えてるから」

「……もしかして……いえ、でも」

「いいから。気にしなくていいから。いつも通りでお願い」

「……ノーコメントよ」

「うーん強情。ホントに気にしなくていいのに」

 

 

 こちらの言葉に、彼女は肯定も否定も示さない。……別に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 余計な苦労を背負い込むのは、損する原因でしかないぞー?

 ……なんてちょっと茶化してみても、彼女の堅い表情は変わることなく。

 

 結局、休み時間の終わりを告げる鐘の音が響くまで、彼女はその場から動くことはなかったのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「先輩の様子がおかしい?」

「そ。……うまく言えないけれど、()()()()()とでも言うのかしら」

 

 

 珍しく桐依の居ない部室の中で、刻遠野と栗花落が話をしていた。……内容は、体調不良で先に家に帰った、我が部の部長である桐依について。

 ……ずれている、という刻遠野の感覚は正しい。

 実際、俺も久しぶりに()()雰囲気を感じたため、どうしたものかと悩んでいたところだったのだ。

 

 

「むむむ?懐かしいとは、どういうことなのですか?」

「刻遠野のほうは、覚えがあるんだろ?」

「……ということは、やっぱりそうなのね」

「ええー、お二人だけで納得するのは無しですよー!?」

 

 

 一人だけ話に付いていけてない栗花落が騒いでいるのを、はいはいと宥めながら適当に相手していると、突然部室の扉が大きな音を立てて開かれ、俄に騒然とした部室の中に委員長が入って来た。

 凄まじい剣幕を浮かべた彼女は、そのまま俺の前につかつかと歩いてきて、こちらを睨むように声を吐き出してくる。

 

 

「あれは、どういうことですの?」

「……桐依のことを言ってる、ってことでいいんだよな?」

「それ以外に何があると言うのですか!!あれでは、あれではまるで……!!」

()()()()()()()()()、そう言いたいのよね?」

「刻遠野さん……?……いえ、貴方もあの時期の彼女と面識があると仰っていましたわね……」

 

 

 ……なんとも、重苦しい空気になってしまった。

 三人ともが、何を話せばいいのかわからずに押し黙る。

 話してどうにかなるものなのか、という思いが、口を開くことを躊躇わせる。

 

 

「だーかーらー!勝手に納得するなっ、ですよー!」

 

 

 ──だから。

 何も知らない栗花落の言葉に、俺達は辛うじて再起動を果たすことができたのだった。

 

 

「……そうね。私達だけで納得していても、なんにもならない、か」

「気持ちが急きすぎていましたわね。……ありがとう栗花落さん。目の覚めるような一喝でした」

「え?は、はい?い、いや、なんのことやら全くなのですがー!?」

「まぁ、知らない人間だからこそ見えるものもあるだろう、ってだけの話だよ」

 

 

 困惑する栗花落の頭を、三人で順繰りに撫でる。

 ……なんなのですかー?!とさらに困惑する彼女の様子に、思わず笑みがこぼれた。

 

 皆が落ち着いた中、語るのは()()()の桐依についてのこと。

 ──もう出会うことはないと思っていた、死にたがりの()の話だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。