百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「……なに?」
「いや、そんなやり方してて疲れないのか、お前」
初めて彼女に声を掛けた時の、そのなんとも言えない表情を、俺は今でも覚えている。
そんな生き方で疲れないのか、なんて拙い質問……拙い労りは、
「疲れたからどうした、苦しいからどうした。どうせ、そんなものに意味なんてないんだ。……
こちらを突き放すような、労うような、そのどちらでもあって、そのどちらでもない無関心を投げつけられた俺は。
……何故だか、彼女から離れてはいけない……という気持ちに、強く包まれたのだった。
「小学生時代の先輩、というと……」
「アイツが黒歴史扱いして、意図的に無かったことにしていた時期の話だ。……俺と、生徒会長。それと、一時期の刻遠野も関わったことがある」
部室の椅子に座り直した俺達は、桐依が今どうなっているのかを語るために、必要な前提知識を栗花落に説明しようとしていた。
──彼女が
それは、彼女や俺達が小学生だった時にまで遡る。
「アイツ自身が演劇祭の時に言ってたように、自分を蔑ろにするような行動ばかりしていたんだよな、あの時期の桐依は。……端から見れば手の掛からない良い子だけど、実際は良い結果を出せれば自分への被害は一切考慮しない……みたいな、いわゆる無茶ばかりやる奴だった」
「他人への配慮が欠けていたわけではないというのが、また問題だったのよね」
「成績や普段の行動は模範的でしたから。……子供心に、なぜそんなに焦っているような、急いでいるような生き方をするのかと、不思議に思ってはいましたが」
「なる、ほど?」
昔を思い出ししみじみと語る俺達と、当時は関わりが無かったために、いまいち共感できずに頷くしかない栗花落。
……ってそうじゃなくて。昔話に花を咲かせるために話し始めたわけじゃないんだよ。
二人も懐かしんでなくていいから次々話していくぞ、と声を掛ける。
「そうですわね……男勝り、とはまた違いますわね。……無機質と言うほうが近い──そんな感じの方でしたわね、あの時の彼女は」
生徒会長の言葉と共に、俺達は古い記憶を掘り起こし始めるのだった。
──前世なんて覚えてないほうがいい。
生まれ変わって数年、
巷に溢れている転生ものの物語では、前世の記憶を活かしてやれ無双だ・やれ頭脳チートだ、みたいなものが多いみたいだけれど。
そんなもの、前世が最悪の──思い出したくもないような黒歴史じゃないからこそ選べるモノで、そうして
……まぁ、後から『思い出したくもない部分は避けてしまえばいい』っということに気付いてからは、そこまでおかしな話でもないんだな……と思い直したんだけど。
まぁ、折角前世の
……
……というのは、前世からの
そのお題目を掲げる以上は、不安の種はずっと小骨のように、喉の奥に刺さったままだった……というわけだ。
まぁ、しょーもない自分語りは、一先ず置いておいて。
そんなひねくれものの
基本的に同年代の子供達からは遠巻きに、先生達からは
「……まぁ、別にいいけど」
頼りにされていると言っても、実際は体よく雑用を押し付けられているだけのことでしかないし。
遠巻きにされていると言っても、なんだアイツ……みたいな、小さくない敵愾心からのものだし。
どっちも結局のところ、マイナスの感情を向けられていることに変わりはないのだから、いちいち気を取られるのもバカらしい話だ。
……気にしていない、なんて風に冷めた目で見ている自分も含めて、全部がバカバカしい。
そんな、小学生の子供らしくない気持ちを裡に秘めたまま、日々を過ごしていた
なんのことはない、『いじめはダメだ』という当たり前の行動を、ただ当たり前に実践した結果に過ぎなかったのだった。
「な、なんだよひがしやま……」
「聞こえなかった?じゃあもう一回。──ダサい、滅茶苦茶ダサいよアンタ達。それが通ると思っているのなら、もう一度幼稚園からやり直してくればいいんじゃない?」
「な、なんだとぉっ!?」
「や、やめとこうって。コイツこえーもん、さわんないほうがいいって」
「んぐ、……く、くそっ!おぼえてろよー!」
「いやガキかよそのセリフ……いやガキだったわ、そういえば」
捨て台詞を吐きながら走り去って行く男子達に、思わず苦言を溢してしまうが。
……よーく考えてみたら、あーいうのが普通の小学生男子の反応か……と思い直して、なんとも言えない気分になってしまう。
小さくため息を吐いて、後ろに振り返る。
そこに居たのは、腰まで伸びる金の髪と、涙目になった蒼い瞳。可愛らしい白いワンピースを着て、こちらを見つめる少女。
彼女は自身の目元を拭うと、大きく腰を折って、こちらに感謝を伝えてきた。
「あ、ありがとござマシタ!このご恩、イッショー忘れマセン!」
「あ、ああ、うん。別に忘れてくれていいんだけど……」
な、なんかまた濃ゆい子だなこの娘。
多分ハーフかなんかなんだろうな、とすぐさま理解できる微妙なカタコトの言葉遣いと、ちょっと……いやだいぶ大袈裟な台詞。……両親か祖父母あたりが、日本被れだったりする感じだろうかこれ?
そんなことをこっちが思ってるとは露知らず、彼女は両手に握り拳を作って、こちらに鼻息荒く詰め寄ってくる。
「そうはイワナの焼き
「いやいやわけわかんねー!?いいから、私なんかに感謝とかしなくていいから!」
変な日本語と謎のテンションのせいで、こっちのペースまで乱されてくる!?こんなん手に負えないので、踵を返して脱兎の如く逃げ出すぜ!
「オー!?待ってくだサーイ!せめて名前だけデモー!!」
「名乗るほどの者じゃないんで!!そんじゃ!!」
「ノー!?」
途中で何もないところですっ転んだのが見えたので、放置するのをちょっと躊躇しつつ、それでも現場からそそくさと逃げ出す
……暫く逃走するも、追ってくる影はなし。
安堵から思わず胸を撫で下ろして、そのまま教室に戻る
「それで、ずっと付き纏われてるって?そりゃ名前を教えてやらないお前が悪いんじゃないか?」
「……うるさい堀ノ内。
「私、物じゃないデース!!いいからお名前プリーズデース!!」
「……完全に懐かれてるな」
「うるさーい!いいから連れてけこのクソ幼馴染み!!」
「わひゃあっ!?」
「おっと。……大丈夫か?」
「だ、大丈夫、デス。……あ、行っちゃいまシタ……」
離れてはいけない、と決心をしてから、そう間を置かず。
いつの間にやら幼馴染みが、転校生に犬みたいに懐かれていた。
……口では邪魔、みたいな事を言い、実際にこうして突き放したりもしているけれど。
その癖、怪我とかはしないように最低限配慮してるあたり、人が良いのかなんなのか。
素直になれないというよりは、必死で壁を作っているだけにも思えて、どう対応したらいいのか、子供心に困っている俺である。
「うー、ナンでアンナニ頑なデスカー!?」
「なんでだろうな。……詳しいことは聞いたことないから、俺もよくは知らないんだ」
うがーっ、といった感じに吠える転校生に、俺もわからない、と首をひねり返す。……あそこまで頑なに一匹狼を気取る理由があるのか、単なる幼馴染みでしかない俺には想像もつかない。
……なんてことを言ったら、今度は彼女のキラキラした目がこっちに向いていた。……い、いや、なんだ一体?
「オサナナジーミ!それは聞いたコトアリマス!男女七歳にして
「はぁ?!」
思わず声を荒げてしまった。……いや、なんだその間違いまくったことわざ?!
そりゃまぁ幼馴染みは幼馴染みだが、そういう間柄ではないぞ?!
「エ、違うのデスか?私てっきり、日本はソーイウの進んでるとオモテマシタ」
「……いや、どこで覚えた知識か知らないけど、そんなの一部だよ一部」
幼馴染みが許嫁でうんぬんだとか、そんなのは一部のやつらだけの話だ。
誰でも彼でも、幼馴染みなら付き合ってる……とか、そんなことあるわけがない。
こちらの説明に不承不承と言った様子で頷く転校生に、思わず深いため息を吐く。……いや、なんで俺がこんなに慌てなきゃいけないんだこれ?
冷静に考えたらなんかムカついてきた。それもこれもアイツが転校生をこっちに投げてきたからだ。
「……とりあえず、転校生はアイツに名前を聞きたいんだよな?」
「ハイ?……エット、そうデスネ。私はあの人に名前を聞いテ、私の名前も教えテ、ソレデ、ソレデ……?」
「……いや、なんでそこで首をひねる?」
なので、転校生の手伝いをしてやろう!
……と思い付いたのだけれど。当の転校生が首をひねって不思議そうにしているので、思わずこちらから尋ねてしまった。
彼女は首をひねったまま、こちらに視線を向けて。
「エエト、私、あの人に名前を教えテ、教えテ貰っテ、ソコからどうしたいンデショー?」
「……ええ?」
なんのためにそれをしたかったのかがわからない、なんて言われた俺は、思わず唖然とした声を返してしまうのだった。