百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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思いは重く、その背に積もるように

「……なに?」

「いや、そんなやり方してて疲れないのか、お前」

 

 

 初めて彼女に声を掛けた時の、そのなんとも言えない表情を、俺は今でも覚えている。

 そんな生き方で疲れないのか、なんて拙い質問……拙い労りは、彼女()にとっては一笑に伏す程度のものでしかなくて。

 

 

「疲れたからどうした、苦しいからどうした。どうせ、そんなものに意味なんてないんだ。……()みたいなのに構う暇があるなら、君も自分のことを気に掛けたほうが、遥かに生産的だぞ」

 

 

 こちらを突き放すような、労うような、そのどちらでもあって、そのどちらでもない無関心を投げつけられた俺は。

 ……何故だか、彼女から離れてはいけない……という気持ちに、強く包まれたのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「小学生時代の先輩、というと……」

「アイツが黒歴史扱いして、意図的に無かったことにしていた時期の話だ。……俺と、生徒会長。それと、一時期の刻遠野も関わったことがある」

 

 

 部室の椅子に座り直した俺達は、桐依が今どうなっているのかを語るために、必要な前提知識を栗花落に説明しようとしていた。

 ──彼女が()()()()()()()()()時期の話。今とは違う基準で、アイツが動いていた時代の話。

 それは、彼女や俺達が小学生だった時にまで遡る。

 

 

「アイツ自身が演劇祭の時に言ってたように、自分を蔑ろにするような行動ばかりしていたんだよな、あの時期の桐依は。……端から見れば手の掛からない良い子だけど、実際は良い結果を出せれば自分への被害は一切考慮しない……みたいな、いわゆる無茶ばかりやる奴だった」

「他人への配慮が欠けていたわけではないというのが、また問題だったのよね」

「成績や普段の行動は模範的でしたから。……子供心に、なぜそんなに焦っているような、急いでいるような生き方をするのかと、不思議に思ってはいましたが」

「なる、ほど?」

 

 

 昔を思い出ししみじみと語る俺達と、当時は関わりが無かったために、いまいち共感できずに頷くしかない栗花落。

 

 ……ってそうじゃなくて。昔話に花を咲かせるために話し始めたわけじゃないんだよ。

 二人も懐かしんでなくていいから次々話していくぞ、と声を掛ける。

 

 

「そうですわね……男勝り、とはまた違いますわね。……無機質と言うほうが近い──そんな感じの方でしたわね、あの時の彼女は」

 

 

 生徒会長の言葉と共に、俺達は古い記憶を掘り起こし始めるのだった。

 

 

 

★  ☆  ☆

 

 

 

 ──前世なんて覚えてないほうがいい。

 生まれ変わって数年、()が考え続けた結果たどり着いた真理だ。

 

 巷に溢れている転生ものの物語では、前世の記憶を活かしてやれ無双だ・やれ頭脳チートだ、みたいなものが多いみたいだけれど。

 そんなもの、前世が最悪の──思い出したくもないような黒歴史じゃないからこそ選べるモノで、そうして()()()()()()()()()()()()()()()だった時点で、随分恵まれた生活をしてたんだなコイツら、と冷めた目でしか見られなかったものだ。

 ……まぁ、後から『思い出したくもない部分は避けてしまえばいい』っということに気付いてからは、そこまでおかしな話でもないんだな……と思い直したんだけど。

 

 まぁ、折角前世の()()()()()から逃げ出せたと思っていたのに、こうしてまさかの二回目(延長戦)を強要されたばかりの()にとって、そのことに気付くというのは、不可能に近いものでもあったわけで。

 ……()()()()()から離れられたことについては喜んだけど、同時に転生という自身に起きた不可思議な状況が、()()()()()の再来を■■(暗喩)しているようでもあって、ずっとイラついていた──というのはあると思う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……というのは、前世からの()の座右の銘、みたいなものでもあったのだし。

 そのお題目を掲げる以上は、不安の種はずっと小骨のように、喉の奥に刺さったままだった……というわけだ。

 

 まぁ、しょーもない自分語りは、一先ず置いておいて。

 

 そんなひねくれものの()が、小学校などという、精神の完熟していない子供達ばかりの環境に、馴染めるはずもなく。

 基本的に同年代の子供達からは遠巻きに、先生達からは()()()()()()()()()と頼りに──みたいな扱いを受けていたわけである。

 

 

「……まぁ、別にいいけど」

 

 

 頼りにされていると言っても、実際は体よく雑用を押し付けられているだけのことでしかないし。

 遠巻きにされていると言っても、なんだアイツ……みたいな、小さくない敵愾心からのものだし。

 どっちも結局のところ、マイナスの感情を向けられていることに変わりはないのだから、いちいち気を取られるのもバカらしい話だ。

 ……気にしていない、なんて風に冷めた目で見ている自分も含めて、全部がバカバカしい。

 

 そんな、小学生の子供らしくない気持ちを裡に秘めたまま、日々を過ごしていた()が、あの日彼女を助けたのは。

 なんのことはない、『いじめはダメだ』という当たり前の行動を、ただ当たり前に実践した結果に過ぎなかったのだった。

 

 

「な、なんだよひがしやま……」

「聞こえなかった?じゃあもう一回。──ダサい、滅茶苦茶ダサいよアンタ達。それが通ると思っているのなら、もう一度幼稚園からやり直してくればいいんじゃない?」

「な、なんだとぉっ!?」

「や、やめとこうって。コイツこえーもん、さわんないほうがいいって」

「んぐ、……く、くそっ!おぼえてろよー!」

いやガキかよそのセリフ……いやガキだったわ、そういえば

 

 

 捨て台詞を吐きながら走り去って行く男子達に、思わず苦言を溢してしまうが。

 ……よーく考えてみたら、あーいうのが普通の小学生男子の反応か……と思い直して、なんとも言えない気分になってしまう。

 

 小さくため息を吐いて、後ろに振り返る。

 そこに居たのは、腰まで伸びる金の髪と、涙目になった蒼い瞳。可愛らしい白いワンピースを着て、こちらを見つめる少女。

 彼女は自身の目元を拭うと、大きく腰を折って、こちらに感謝を伝えてきた。

 

 

「あ、ありがとござマシタ!このご恩、イッショー忘れマセン!」

「あ、ああ、うん。別に忘れてくれていいんだけど……」

 

 

 な、なんかまた濃ゆい子だなこの娘。

 

 多分ハーフかなんかなんだろうな、とすぐさま理解できる微妙なカタコトの言葉遣いと、ちょっと……いやだいぶ大袈裟な台詞。……両親か祖父母あたりが、日本被れだったりする感じだろうかこれ?

 そんなことをこっちが思ってるとは露知らず、彼女は両手に握り拳を作って、こちらに鼻息荒く詰め寄ってくる。

 

 

「そうはイワナの焼きhow-match(ハウマッチ)!受けたご恩は返さねバ、私の名が廃るデス!」

「いやいやわけわかんねー!?いいから、私なんかに感謝とかしなくていいから!」

 

 

 変な日本語と謎のテンションのせいで、こっちのペースまで乱されてくる!?こんなん手に負えないので、踵を返して脱兎の如く逃げ出すぜ!

 

 

「オー!?待ってくだサーイ!せめて名前だけデモー!!」

「名乗るほどの者じゃないんで!!そんじゃ!!」

「ノー!?」

 

 

 途中で何もないところですっ転んだのが見えたので、放置するのをちょっと躊躇しつつ、それでも現場からそそくさと逃げ出す()

 

 ……暫く逃走するも、追ってくる影はなし。

 安堵から思わず胸を撫で下ろして、そのまま教室に戻る()なのであった。

 

 

 

★  ★  ☆

 

 

 

「それで、ずっと付き纏われてるって?そりゃ名前を教えてやらないお前が悪いんじゃないか?」

「……うるさい堀ノ内。()に感謝とかそういうのいらないから、全然いらないから代わりにこの子持ってって」

「私、物じゃないデース!!いいからお名前プリーズデース!!」

「……完全に懐かれてるな」

「うるさーい!いいから連れてけこのクソ幼馴染み!!」

「わひゃあっ!?」

「おっと。……大丈夫か?」

「だ、大丈夫、デス。……あ、行っちゃいまシタ……」

 

 

 離れてはいけない、と決心をしてから、そう間を置かず。

 いつの間にやら幼馴染みが、転校生に犬みたいに懐かれていた。

 

 ……口では邪魔、みたいな事を言い、実際にこうして突き放したりもしているけれど。

 その癖、怪我とかはしないように最低限配慮してるあたり、人が良いのかなんなのか。

 素直になれないというよりは、必死で壁を作っているだけにも思えて、どう対応したらいいのか、子供心に困っている俺である。

 

 

「うー、ナンでアンナニ頑なデスカー!?」

「なんでだろうな。……詳しいことは聞いたことないから、俺もよくは知らないんだ」

 

 

 うがーっ、といった感じに吠える転校生に、俺もわからない、と首をひねり返す。……あそこまで頑なに一匹狼を気取る理由があるのか、単なる幼馴染みでしかない俺には想像もつかない。

 ……なんてことを言ったら、今度は彼女のキラキラした目がこっちに向いていた。……い、いや、なんだ一体?

 

 

「オサナナジーミ!それは聞いたコトアリマス!男女七歳にして(トコ)を同じにしても構わぬ間柄トカ!」

「はぁ?!」

 

 

 思わず声を荒げてしまった。……いや、なんだその間違いまくったことわざ?!

 そりゃまぁ幼馴染みは幼馴染みだが、そういう間柄ではないぞ?!

 

 

「エ、違うのデスか?私てっきり、日本はソーイウの進んでるとオモテマシタ」

「……いや、どこで覚えた知識か知らないけど、そんなの一部だよ一部」

 

 

 幼馴染みが許嫁でうんぬんだとか、そんなのは一部のやつらだけの話だ。

 誰でも彼でも、幼馴染みなら付き合ってる……とか、そんなことあるわけがない。

 こちらの説明に不承不承と言った様子で頷く転校生に、思わず深いため息を吐く。……いや、なんで俺がこんなに慌てなきゃいけないんだこれ?

 冷静に考えたらなんかムカついてきた。それもこれもアイツが転校生をこっちに投げてきたからだ。

 

 

「……とりあえず、転校生はアイツに名前を聞きたいんだよな?」

「ハイ?……エット、そうデスネ。私はあの人に名前を聞いテ、私の名前も教えテ、ソレデ、ソレデ……?」

「……いや、なんでそこで首をひねる?」

 

 

 なので、転校生の手伝いをしてやろう!

 ……と思い付いたのだけれど。当の転校生が首をひねって不思議そうにしているので、思わずこちらから尋ねてしまった。

 彼女は首をひねったまま、こちらに視線を向けて。

 

 

「エエト、私、あの人に名前を教えテ、教えテ貰っテ、ソコからどうしたいンデショー?」

「……ええ?」

 

 

 なんのためにそれをしたかったのかがわからない、なんて言われた俺は、思わず唖然とした声を返してしまうのだった。

 

 

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