百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
出会いと別れは、誰しにも等しく訪れるもの。
例えそれが、悲嘆の中後悔と涙に
「だからまぁ、なんだ。……悔やむでない、勇者よ。吾とそなたは殺し合うために出会い、事実こうして干戈を交えた。……その先に、吾の滅びという結末があった……それだけのことなのだ」
「でもよぉ、でもよぉ……っ!」
互いの血で染まり尽くした鎧は、最早何かを守るという用途を果たせぬ程に粉々で。
腕の中の女性の吐息は薄く、その灯火の消える時が近いことを、如実に表しているようで。
──それを為したのが己であるということが、男の心を今も苛み続けているのだった。
「……全く、今代の勇者は情緒豊かというか、余計なことを背負いすぎるというか……。そこまで嘆くのなら、一つ約束をしよう」
「……約束?」
痛めなくてもよいはずの心を痛め続ける男に、彼女は安らかな笑みを浮かべながら声を返す。
──魔王とは、システム。
ならば、ここで滅びようとも、自身が再び蘇る時は来るだろう、と。
「……また、殺しに来い。何度でも吾は立ち塞がろう、立ち塞がり続けよう。その度に、こうして語ればよい」
「──そうするしか、ないのか」
……どこまでお人好しなのか、この男は。
魔王はまた笑みを深めながら、男の髪を撫でる。……この愚かしい男を、好ましく思いながら。
「誰よりも思いあうからこその殺しあいだ、他の誰にも吾は殺されてはやらんぞ?……だから、また来い」
「……ああ、必ず」
それは、誰も知らない約束事。
民が知れば怒り狂うかもしれない秘め事。
勇者と魔王、たった二人の為だけの
「は、はわわ!ここここれ、続きはどうなるんですか!?」
「んー、それはねー、どうしようかなーって思っててねー」
……魔王と勇者の悲恋とか、わりと使い古された題材かと思ったのだけど、やっぱり王道は王道であるがゆえに、評判が良いものらしい。
でもなー。これ話を締めに行くのに、大体どっちかがどっちかに合わせる形になっちゃうんだよなー。
……性差に縛られない今の時代で、立場に縛られる結末ってウケるのかなー?なんてところが気になって、ちょっとばかし筆が止まっているのが現状だったりする。
いやまぁ、面白いものに貴賤なしって言うし、話がよければ普通に受け入れられるのかも知れないけれど。
「……とりあえず、似たような話と、その評判について集めておきましょうか?」
「あー、うん。お願い転校生ちゃん」
「ん、了解」
転校生ちゃんがパソコンに向けていた視線を外して、こちらにちらりと向けてくる。
確かに似たような作品の評判を見れば、どういう結末が好まれているのかわかるかもしれない。……そういう意味で、転校生ちゃんの申し出は渡りに船であった。
なので軽く了承を返せば、彼女はふっと笑って、視線をパソコンの画面に戻す。……うーん、できる女感凄いなぁ。
しかしまぁ、なんというか。
昨日はあれだけ騒いでいたというのに、今日は拍子抜けするくらい、真面目に作業を進められている気がする。
……私も含め、みんなちゃんとしてれば普通に優秀なのだから、この結果もさもありなん……と言ったところだろうか。
後輩ちゃんにしろ転校生ちゃんにしろ、はたまたまだ見ぬヒロイン達や我が幼馴染みにしろ、みんな成績も運動も見た目も、平均値より上に属するだろう人々である。
みんながちゃんと動いて協力すればすごいものが作れる、という気分になるのは決して間違いじゃないだろう。
実際ゲーム内では幼馴染みが含まれない代わりに、他のヒロインが含まれたメンバーで、演劇祭の台本を作り上げたりもしていたのだし。
……まぁそっちだと現時点でちゃんとした部活として認められていたし、部室の場所もここじゃない全然違う場所だったんだけどね。
そもそもみんなの性格が今の彼女達と違うから、できあがるものも普通に王子様とお姫様のラブロマンス(但し役者はどっちも女性)だったし。……百合成分を劇中劇で補っていくスタイル……?
なお原作では演劇祭関連の話はさらっと流されてたんで、現状では話の参考程度にしかならなかったりする。
そりゃそうだ、だってこっちで演劇祭が重要イベントみたいになってるの、演劇部が同好会扱いになってるからだもの。
仕方ないのでため息を投げて、椅子の背に体を預けて弛緩させる。
「煮詰まってるみたいだな、ほい紅茶」
「ん、ありがと同胞」
横合いから幼馴染みに渡された紅茶に口をつけ、ほっと一息。
……紅茶にはあんまり詳しくないんだけど、なんとなく落ち着く香りのするお茶だった。
聞けば彼特製のブレンドティーなのだとか。……流石家事スキルカンスト勢、やることがすごい。
「……んー。とはいえ、一回止まっちゃうと、再起動までに時間がねー……」
そうして紅茶を口につけながら、一つ頭を掻く。
リラックスするのは構わないのだが、その結果として手が止まってしまうと、もう一度モノを書き始めるのに、それなりの労力が必要となってしまう。……というのが、休むことをちょっと躊躇わせる理由だったりする。
まぁ、無理に根を詰めても仕方ないだろう、って返されそうでもあるので、今は素直に休むことにしようかなぁ。
「……それで、なんでこっちを見るんだ?」
「知らなかったのか、私メイド萌えなんだ。メイドニウム補給で私は元気になるんだ」
「なん……だと……?」
困惑する幼馴染みにニヤリと笑い返す。
似合いそうだから着せたと言ったが、別に性癖ではないとは言ってないぞ?
……ふふふ、いつかメンバー全員をメイド服にして、メイドハーレムを構築するというのも私の夢なのだ。
なお私は雑食なので、別になんちゃってメイド服でも大丈夫だ!寧ろウェルカム!
「なるほど、文化祭で部活の出し物をする時に、その野望が果たされるというわけですね!」
「既に未来の展望が掴めていると。流石ね」
「………………!」
「その手があったか、みたいな顔をするんじゃない」
バレテーラ。
でもまぁ、今はまだ先の話だから考慮の段階でしかないけど、文化祭にメイド喫茶系の出店を目指すのは悪くないなぁ、と思う私なのだった。
「うぐぬぬぬ……ダメだぁ!なんも思いつかーん!!」
「あれは
「知っているの後輩ちゃん?」
「ベテランであろうとアマチュアであろうと、紙に物を書くのであれば誰もが使える初級忍術です!飛んでいく原稿用紙が一瞬のストレス発散と、あたりに散乱したそれをかき集める時の脱力感を確約するという自爆技ですよ!」
「やめて、追い打ちかけるのやめて!ただでさえ創造力を酷使してるのに追加で体力と精神力まで削るのやめて!……おい待てどこから出したその十面ダイス、おいバカやめろ判定すんなあああああファンブったあああああああああ」
「ダイス振るまでもなく発狂してるじゃね―か」
うるせーメイド長!こちとら長時間文章考えてたもんだから、脳がオーバーヒート状態なんじゃい!
メイド長……?と微妙な顔で首を捻る幼馴染みはとりあえず置いといて、後輩ちゃんが選んできたフルーツケーキにフォークを入れ、口に運ぶ。
フルーツの酸味と、クリームの甘味のバランスが絶妙な一品だった。
とはいえ脳に送る糖分としては、一口ではとてもじゃないけど足りないので、味わいながらも一切れ分のケーキを美味しく・それでいて迅速に頂いていく。
……うむ、ごちそうさまでした。
「とはいえ、完全に煮詰まってしまった、というのも確かな話でしょう?気分転換をして新しく考える……というのも、ちょっと時間的に無理があるみたいだし」
「ん?……うわホントだ、もう結構時間経ってる?!」
転校生ちゃんの言葉につられて、壁の時計に視線を向ければ、時刻は七時をちょっと過ぎたくらい。
……文芸部の居残りで、と言うにはちょっと時間が経過しすぎている。
「えっと、一応みんな徒歩通学だっけ?」
「そうですね!私は五分ほどで家に帰れます!」
「私は十分ね」
「で、俺とお前は八分くらい、と」
……となると、一応もう少し作業に時間を費やすこともできなくはない、か。
まぁ、さっきまで煮詰まってたのに、これから数分程度でなにかいい案を考えつくとも思えないわけだけど。
「んー、仕方ないか。はい、今日は解散解散!骨組みくらいはできたし、続きは来週!」
「え?……あ、そっか。今日金曜日だったんですね」
「明日も集まる気でいたわね、思わず」
手を叩きながら部活の終わりを知らせれば、後輩ちゃんと転校生ちゃんが揃って顔を見合わせる。
……ここは熱心だね、って言うべきところかな?
「用事がないのなら明日もまた集まってもいいけど、どうする?」
「んー、そうですね……あ、すみません。明日は家の用事が入ってました!」
「……ん、私もちょっと用事を思い出したから、土日は付き合えないわね」
「ありゃー」
「二人だけで集まっても特に捗りそうもないし、そういうことなら土日は休みだな」
みんなの発言を纏める限り、土日は集まって作業、というわけにはいかなさそうだ。
まぁみんな自分の生活があるわけだし、仕方ないよね。
その後は、部室内を片付けてから、各自解散になったのだった。
「はぁ……なんというか、文章書くのって思ってたより精神使うねぇ」
「アマチュアだから本業に比べれば、まだまだなんじゃないか?」
「……そこ広げるのは多分変な火種になりそうだからやめとこっか!」
幼馴染みと一緒に帰り道を歩きながら、あれこれと会話を交わしていく。
……部室を出ているので、幼馴染みの格好が普通の男子制服に戻っているのは、ちょっと残念な気がしないでもないけど。
こう、常に女装させるようにしたら、登下校メイド服な幼馴染みにクラスチェンジしたりしないかな……?
「なんか悪寒が走ったんだが、お前なにか考えたか……?」
「ナンニモカンガエテナイヨー」
ちっ、流石同胞勘の良い……。
やる気なら水面下でバレないようにやらないとダメだな、とりあえず幼馴染み女装計画は一旦凍結。
さしあたっての問題である、劇の台本のほうに話を戻すことにする。
「あえて、魔王と勇者から離れるっていうのは?」
「んー、脳内アイディアはそっちに偏っちゃってるからなぁ。一回全部リセットは、ちょっとわりにあってないと言うか……」
「ん?どした?」
急に後ろを振り向いた私に、訝しげに視線を向けてくる幼馴染み。
……ふむ、これは多分……。
「……ん、別になんでもないよ」
「?????」
頭上に疑問符を浮かべまくっている幼馴染みに、なんでもないと返して彼の背中を押してさっさと帰ろうと促す。
……そうして帰り道を急ぎながら、もう一度だけ背後に視線を流す。
暗がりの市街地、そこに並ぶ電信柱の影に隠れる誰かが見えた気がして、私は思わず顔を綻ばせるのだった。