百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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不穏は足並みを揃え、その時を待ち

「なるほど……あの子がまた……」

ふむ?師は何を知り隠す(また、って何度かあったんですか)?」

 

 

 在原の言葉に、先生が遠い目をする。

 ……俺はあくまでも幼馴染みでしかないので、親戚である彼女のほうが詳しいこともあるのかもしれない。

 ……まぁ、みんなが語ることは最終的に一つの事件に収束するのだろうけど。

 それ以外の部分に関しては、あの頃はまだ高校生だった彼女のほうが、細かい部分についてはよく知っているのだろう。……親元を離れ、桐依の家に下宿していたと聞くし。

 

 

「……そうね……今のあの子になる前の……()……意地っ張りの彼と……一番よく話していたのは……私かも知れないわ……」

 

 

 昔を懐かしむように、はたまた惜しむように。

 彼女はゆっくりと、自身の知る()について語り始めたのだった。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 ──自分に自信がない、なんて悩みを抱える人は五万といるだろう。

 

 できることがわからない。やるべきことがわからない。

 したいことがわからない。するべきことがわからない。

 目標がない、目的がない、理想がない、理念がない。

 能力がない、時間がない、お金がない、意味がない。

 

 色んな重りを背負って、色んなしがらみに縛られて。

 そうして生きていくのが人生なんだよ、なんて。

 そんなおぞましいことを言われているような気分になりながら、どうにかしてそこから這い出そうとしていた高校二年の春。

 

 親から急な転勤の話が出たのは、そんな憂鬱な日々をこれからも過ごすのか……なんて、思春期特有の思考から勝手に悩み続けて、寝不足になっていた朝のことだった。

 

 

「いや、転勤?私は、どうすれば……?」

「んー、私達と一緒に付いてきてもいいけど……今度行くの、青森のほうだから。だいぶ遠いし、アンタも高校生なんだし、この際下宿とかしてもいいんじゃないかって思うのよね」

「げ、下宿?い、いやだよ?私知らない人達となんか暮らせないよ……?」

 

 

 こちらの困惑を感じ取った母が、「なーに言ってるのよ」と無責任に笑う。……私が対人恐怖症気味なのを知りながらこの反応、仲が悪かったら縁を切っていてもおかしくなかったと今でも思う。

 けれどまぁ、母も無責任に言葉を発した訳ではなくて。

 

 

「ほら、お父さんの妹さんの家、ここから近いでしょ?転勤するって話をしたら、もし必要なら都乃葉ちゃんを預かりますよ、って言ってくれててね」

「叔母さんが?」

 

 

 母が口にしたのは、比較的近い位置に住まう親戚が、自分を下宿先として受け入れてもいいと言っているという話だった。

 叔母さんに関しては、何度か正月なんかに祖母の家に帰った時に顔合わせをしている。

 おおらかで、細かいことを気にしない、のほほんとした人だった。

 

 

「最近はお子さんができたからって忙しそうにしてたけど、その子も小学生になったから余裕ができたし、一人っ子だから遊び相手も欲しいし、みたいな感じらしくてね。アンタが問題ないなら、直ぐにでも来て欲しいみたいな感じだったわよ?」

「え、ええ?その子、手が掛かる子なの……?」

 

 

 直ぐにでも来て欲しい、だなんて。

 それ、その子がとんでもない問題児で面倒をみて欲しい、みたいなことなんじゃ。……そんな心配をしてしまう私に、母は「そうじゃないわよ」と豪快に笑う。

 

 

「そう、なの?」

「静かで大人しくて、よく家の手伝いもしてくれるいい子なんだって。……ただ」

「ただ?」

 

 

 もったいぶって言葉をためる母と、何を言うつもりなのかと次第に不安になる私。

 そうして母は、その子がどういう子なのかを端的に示す、決定的な言葉を口にするのだった。

 

 

 ──その子、手が掛からなさすぎるみたいなんだけどね、と。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 結局、高校でできた数少ない友達と別れるというのも、住み慣れたこの街から離れるのも許容できなかった私は、親戚の叔母さんの申し入れを受け入れることにした。

 お子さんの相手も、手の掛からないいい子だと言うのなら難しくないのではないか、みたいなことを思って受けた記憶がある。

 

 必要な荷物を父さんに持ってきて貰うことにして、一足先に叔母さんの家へ。

 チャイムを鳴らせば、人の良さそうな若い女性が、玄関から現れてこちらに笑顔を見せた。

 

 

「あら、都乃葉ちゃん。いらっしゃい、ようこそ我が家へー。どうぞどうぞ、上がっちゃって」

「あ、はい。失礼します」

 

 

 迎えてくれた叔母さんは、若くて綺麗な人だった。

 いつもにこにこ、幸せいっぱいといった感じで、そこに不安や悩みなんて一切見出だせない人だった。

 だから、

 

 

「あ、桐依。都乃葉お姉ちゃんよ、仲良くしなさいね」

「……こんにちわ、都乃葉お姉ちゃん」

 

 

 自分の娘を紹介する時に、それが一瞬だけ翳ったことに、なんとも言えない不安を抱き。

 次いで紹介された娘さんの瞳が、どうにも脳裏に焼け付いてしまったことに、僅かな違和感を抱いた。

 

 なんのことはない、普通の女の子の笑みのはずなのに。

 ──何故、なにもかもに疲れきったような雰囲気を感じたのだろう、と。

 

 

「……都乃葉ちゃん?」

「あ、いえ。……こほん。宜しくね、桐依ちゃん」

 

 

 こちらを見て、小さく首を傾げる叔母さんになんでもないと手を振って、改めて少女──桐依ちゃんと視線をあわせる。

 

 一瞬感じたモノは、今は影もなく。

 彼女は年齢相応の笑みを浮かべ、可愛らしく小首を傾げている。……その姿に、おかしなところはない。

 

 

「宜しくね、都乃葉お姉ちゃん」

 

 

 にぱ、と笑う彼女は、まるで()使()のよう。

 仲良くなれればいいな、という思いと、仲良くなれるのだろうか、という不安をうちに秘めながら、彼女に手を差し出す。

 不思議そうな顔をした彼女は、やがてその手の意味を理解して、こちらの手に自身の手を重ねてくる。

 そのまま、彼女に手を腕を引っ張られ、奥の部屋に向かう。

 

 

「おかーさん、都乃葉ちゃんと遊んでくるー」

「はいはい。あんまり迷惑かけちゃダメよー」

「はーい」

「都乃葉ちゃんも、ほどほどでいいからね」

「あ、はい」

 

 

 途中で叔母さんに声を掛け、小走りで駈けていき、たどり着いたのは彼女の部屋。

 ──入った瞬間、僅かな違和感を覚えた。

 なにが、と言われても困るのだけれど。……なにかがおかしいと、そう思ってしまうなにかがあるような気がしたのだ。

 

 

「都乃葉お姉ちゃん、どうしたの?」

「え、あ、なんでもないよ。……それで、なにして遊ぶ?」

 

 

 部屋の中を見渡し固まった私に、桐依ちゃんが声を掛けてくる。……心底不思議そうなその声に、なんとも言えないバツの悪さを感じて、

 

 

「いいよ、別に遊ばなくても。楽にしてればいいんじゃない?」

「……え?」

 

 

 急に人が変わったようにこちらへ声を掛ける彼女の様子に、思わず浮かべた笑みが凍りついた。

 視線を向ける先で彼女は、部屋の中心にある丸机の上に鞄の中からノートなんかを持ってきて、黙々と書き取りを始めてしまった。

 突然のことに思わず思考停止していると、彼女はさっきまで可愛らしい笑みを浮かべていたその顔に、今度は怪訝そうな表情を浮かべて。

 

 

「……いや、どうしたのお姉さん?面倒な子供の世話より、手間の掛からない子の近くに、ただ座ってるだけで感謝されるほうが良くない?」

「え?いや、その、え?」

「──ああ、なるほど。こっちを一瞬変な目で見てたから、気付いたのかと思ってたけど、早とちりだった?そりゃまた失敬失敬」

 

 

 声の色は変わらないのに、その内容だけがどこまでも子供らしくない。

 ちぐはぐな印象をこちらに投げ付けながら、彼女は宿題らしきものを終わらせていく。

 私は──現状をどうにか理解しようとして、その前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付いた。

 

 可愛らしいもので飾り付けられた、女の子らしい部屋。

 お行儀よく座っている大きなぬいぐるみや、その周囲に置かれている小さなぬいぐるみ達。

 ──そのどれもが、使()()()()()()()()()()()()()()ということに。

 

 

「女の子だし、可愛いもの並べておいたほうがいいかなって。……たまにはわがまま言わないと、そっちのほうが心配掛けるみたいだし、って感じに買って貰ったけど。……まぁ、流石にぬいぐるみを抱いて寝るような趣味もなくて。ほこりを被らないようにだけは気にしてるんだけど」

 

 

 漢字の書き取りを終えた彼女が、うっかり書き間違いをしていないかを確認しながら、こちらに声を掛けてくる。

 淡々と、ただ事実を語るその声に、私は違和感の理由を確信する。

 

 

「……まぁ、ここまで腹を割ってることからわかって貰えるとは思うんだけど。──お姉さん、()の話し相手になって貰える?」

 

 

 彼女は、手間が掛からなさすぎる(小学生だとは思えない)のだと。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 彼女()は、全くもって子供らしくない存在だった。

 別に愚痴を話したいとか、そういうんじゃないんだけど。……みたいなことを言いながら、話す内容はなんの変哲もない世間話。

 こちらが相槌を打つと、少しだけ楽しそうに新しい内容に移っていくけれど。

 それでも、彼女()から話す頻度はそう多くはなく。

 

 

「はい、じゃあお姉さんの不満をお聞きしましょう。最近困ってることとかは?」

「……友達とうまく会話ができないんですよね」

「いや、聞いたの()だけど、それ小学生相手にする相談かい?」

 

 

 もっぱら、話題提供は私のほうからだった。

 

 友人関係の不安、将来への不安、両親への不満。

 今日の夕食についての感想や、最近流行りのモノについての意見交換。

 年下相手にするものというよりは、年上相手に話すようなことを、彼女()()()に誘ってくれたときには、ずっと話しこんでいたものだった。

 

 

「友達、友達かー。……()もちょっと、悩んでるんだよね」

「桐依ちゃんが?なんでもできそうなのに」

 

 

 その日の会話の内容は、友達付き合いについて。

 いつもは淀みなく答える彼女()が、その日に限って遠い目をするものだから、気になった私は仔細を聞こうとして。

 

 

()、こんなだから子供相手にはウケが悪くてね。……突っ掛かられることはよくあるんだけど、ちょっと言葉選びを間違えちゃって、怒らせちゃったんだよね」

「……いえ、桐依ちゃんと張り合えるってわりと凄いのでは……?」

 

 

 返ってきた内容に、思わず苦笑してしまう。

 彼女()みたいな子でも、友達付き合いとか、そんな普通のことに悩んだりするんだな、と。

 

 そう素直に伝えると、彼女()は珍しく目線を逸らして、

 

 

()にだって、苦手なことくらいあるさ」

 

 

 と溢すのだった。

 

 

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