百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「仲直り、ねぇ」
親戚の都乃葉姉ぇに話をしてみたところ、極々普通にそう返されてしまって、
……悪いのは確かにこちらなのだが、それを認めることが余計に話を拗らせるというか、あの時の言葉が本心で間違いでもなんでもないのも確かなので、どう言い募ればいいのやら、糸口が全く見えてこないのが現状だというか。
……というか、あの子の場合は普通に謝っても受け入れてくれないだろう。絶対余計に拗れるだけだ、断言できる。
「……やっぱり」
──■は■■ない、ということなのだろうか。
改めて事実として突き付けられると、なんとも言えないモノがある。……いやまぁ、それが一番なんだろうな、と言うのもわかるのだが。
とはいえ、それが簡単に認められるなら
なんて思いながら、朝食の食パンに口を付ける。
母が台所に立っているのをボーッと見ていた私は、ふとテレビのニュースに視線を移す。
何日か前に余所の県で強盗事件があったのだが、その犯人の行方が未だ知れずにいる……みたいな事をテレビのアナウンサーが喋っていた。
……なんというか、凄まじく縁起が悪い。
こんなタイミングでそんな話を聞くだなんて、まるで
「物騒な話ね、桐依も気を付けるのよ?」
「……うん、見たことない人とか、危ないとことか近付かないから大丈夫」
「そう?ならいいんだけど」
そんな風にテレビを見詰めていたら、いつの間にか後ろに来ていた母が、流れているニュースを見て心配そうにこちらを覗き込んでくる。
……それに心配ないと返して、食事を終えた私は皿を流しに置き、部屋に戻って鞄を背負う。
そうだ、心配なんてない。
「今日こそ!絶対に!決着を!付けて!見せますわ!」
「……朝から元気だな」
朝礼が終わって次の授業が始まるまでの僅かな休憩時間。
幼馴染みにコテンパンに負け続けている彼女は、何時にもまして気合十分と言うか、気合が有り余りすぎていると言うかな様子で、両拳を握って気炎を上げていた。
……いや、なんというか。
俺もアイツの顔が変わるところが見たいとは言ったが、こうも突っ掛かられているところを見ると、なんというかもうちょっとなんとかならないのだろうか、と思わざるを得ない。
いや、敵とかってわけじゃないんだろうけど、それにしたって騒動の種をばら撒きすぎと言うか……。
そう思いながら視線を横に向ければ、転校生も彼女と一緒に握り拳を作っていた。
「よくわかりマセンガ、私も協力シマース!」
「刻遠野さん……!ええ、二人ならきっと、あの子に吠え面をかかせることができますわ!」
「……あー、張り切るのはいいがほどほどにな?」
一応注意しておくが、はたしてこの二人にどれくらい効果があるものか……。
調子に乗っている、というわけではないのだろうが、なんというか周りが見えていない感じがひしひしとするので、俺が見ていないといけないような気がして仕方がないんだよなぁ。
まぁ、学校が終わるまで行動を起こす気は無いようなので、授業中は安心できるのはありがたいが。
ちらりと視線を向ける先にいる幼馴染みは、こちらを見ようともせず、ただ席について前を向いている。
なんとなく、いつもより表情が強張っているように思えるのは、俺の気のせいだろうか。
俺の視線に気付いた彼女はこちらをちらりと一瞥して、何も言わずに前に視線を戻す。
……どういう思いを籠めた視線なのか、俺にはわからなかったが。なんとなく、悲しそうだったなと思いながら、二人の方に視線を戻す。
「どうしたのですか堀ノ内さん!私達は打倒彼女を誓う同士!困り事があるのならば相談して下さいまし!」
「そうネー!私達は同士ダヨー!!」
「落ち着け転校生、流石に今の西内に染まるのはいろいろと不味い」
……完全に変なテンションになっている。
というか西内、お前もそんなキャラじゃなかっただろう?どんだけアイツに負けたの悔しかったんだよ?
落ち着けと二人を宥めて、席に戻るように促す。
一時間目の授業の開始のチャイムがなったのは、ちょうどそんなタイミングで。
教室に入ってきた担任の姿を見て、ようやく二人の狂乱が収まるのだった。
「……で、学校が終わると同時にあいつら走って行っちまったわけだけど……」
最後の授業が終わると同時に、あの二人は異様に張り切ったまま学校を飛び出していった。
……付いていけば良かったかも知れないが、「今回は私達二人でやってみせますので!」「堀ノ内クンは、暫くシタラ彼女にコレを渡してクダサーイ!」などと言われて学校に残るはめになってしまったため、仕方がなく教室に残って幼馴染みの様子を窺っていた。
……ただ、当の幼馴染みの様子は、何時にもましておかしかった。
覇気がないというのか、はたまた何かに怯えているというか、とにかく雰囲気がいつもと違ったのだ。
なので、遠巻きに見ている俺も、なんだか変に不安を感じてしまっていた。……なんで俺まで、と問われるとなんとも言えないのだが。
とはいえ、そうこうしている内に西内達の言っていた予定の時間になってしまったので、話し掛けに行かないわけにもいかず。
ええい、なるようになれ、という感じに、俺は幼馴染みの元に近付いていったのだった。
「あー、東山?ちょっといいか?」
「………………っ」
「……東山?」
肩に手を置いて、声を掛ける。
……ビクッ、と体を震わせた彼女は、しかしこちらに振り向く気配がない。
そのことに少しイラッとして──彼女がずっと体を震わせていることに気付き、首を傾げた。
今の季節は春の終わり、夏の手前。寒さで震えるような季節ではない。だから、震えているのなら、それは寒さからではなくて。
何故だか背筋が寒くなって、彼女の顔が見える位置、即ち前方に移動する。
彼女は僅かに頭を下げて、地面を見ているような姿勢だった。……ただ、本当に地面を見詰めているわけではなくて。
「…………だ」
「お、おい、東山?」
……その瞳は揺れに揺れ、俺が目の前に立っていることすら認識できていないようで、僅かに開いた口から、何事かをずっと呟いている。
恐る恐る近付いて、彼女が何を呟いているのかを聞こうとした俺は、すぐにその行動を後悔した。
「ちがううそだききまちがいそうだききまちがいだだってそんなことあるわけいやいやまってぜんぶぜんぶあってるまたこれだじゃああれはほんとうなのそんなうそだうそだっていってだれか………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ひっ!?」
途中から小声ですらなくなった呻きに、思わず彼女から距離を取ってしまう。
──明らかに、異常だった。突然何かのスイッチを押してしまったおもちゃのように、反応がおかしくなっている。
頭を抱え、喉が潰れてしまいそうな呻きをあげ続ける彼女。
……俺と彼女以外に教室内に誰も居ないからこそ、彼女の異様な状態をどうにかしたければ、俺がどうにかするしか無いんだ、と遅まきに気付いて。
いきなりの異常に困惑しつつ、俺は再び彼女に近付いてその肩を掴み、彼女の意識をこちらに向けるために前後に揺する。
「落ち着け東山!落ち着け!」
「っ!!!あ、あぁあああああぁぁぁあああああああああああああっ!!?」
「んなっ!?」
だが、彼女はこちらが彼女に呼びかけた途端、大きく目を見開いて、さっきよりも大きな声で叫び始めたのだ。
腕を振り払われた俺は蹈鞴を踏んで後ろに下がり、彼女は錯乱したように椅子から立ち上がって、教室の隅まで走って逃げた後、そのままそこに座り込んで頭を抱え、ガタガタと震えだしてしまった。
そんな彼女の口から漏れ出すのは「うそだ」という嘆き。
それだけをずっと吐き出しつづける彼女は、傍目からはおかしくなったようにしか思えず。
「いや、なにがどうな……くっ!?」
思わず、俺が呟こうとして、言い終わる前に俺の言葉に反応した東山が、さっきよりも大きな声で叫び始めた。……いや、本当にどうなってるんだ一体!?
まるで
だって、さっきから彼女の正気を取り戻そうとするたびに、もっとおかしくなっているようにしか思えない。
いきなりの彼女の狂乱、喋るたびにおかしくなる彼女、まるで近寄るなと言うかのように、教室の隅に逃げるその姿。……俺にはなにもできないのだと、そう告げるかのような現状の全て。
「……ふざ、けんなよっ……!!」
意味がわからない、理解ができない。
彼女の違う顔が見たいと言ったが、こんな姿を見せてほしいとは言っていない。
仮にこれが、誰かが望んだものなのだとすれば。
──こんなものはクソだと突っ返さなければならない。
だが、今すべきことは、居るかもわからない誰かに憤ることではなく。
「おいっ、
大声で、ほっとけないと思った彼女の正気を取り戻すことだ。
そう決心して、声を張り上げたのだが。
「──えっ?」
「え?」
俺が彼女を呼んだ途端、彼女の様子が変わった。
まるで憑き物が落ちたかのように、こちらを呆然と眺める彼女。
その瞳に、先程までの狂乱は影も形も残っておらず。
……いや、え?
その、俺のさっきまでの気合とかは、どうすれば?
そんな間抜けな俺の姿を見て、彼女はかすれた笑みを浮かべた。
「変え、られる?
泣き笑いとしか思えない笑みを浮かべた彼女は、涙を拭って表情を引き締めたあと、こちらに声を掛けてくる。
「えっと、先生?警察?……とにかく、誰でもいいから大人を呼んできて!!」
「は、はぁっ?!」
「いいからっ!!呼んだら、私は街外れの廃工場に行ったって伝えて!!伝えるだけでいいから!!」
「いや、ちょっと待て、なんだ一体まったくわからないんだが!!?」
こちらの困惑する姿に、彼女はさっきとは打って変わった笑みを浮かべて。
「変えられるんだ、
わけのわからない言葉を言いながら、彼女は教室から飛び出して行く。
……一瞬途方にくれた俺は、彼女の様子からなにかが起きているのは確かなのだろうとだけとりあえず理解して、手近な大人を呼ぶために教室を飛び出すのだった。