百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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いつか来る■■の前に、花束を

 ──変えられるのかも知れない。

 ()()は、最早意味のないモノなのかも知れない。

 

 彼の言葉に、その確信を見て。

 思わず表情が緩みそうになるのを抑えながら、ひたすらに走る。

 

 息が切れる?それがどうした。

 足がガクガクと震える?それがどうした。

 視界が霞み始めた?

 

 

「──それが、どうした!!」

 

 

 諦めの為のものでしかなかったそれを、こんな気持ちで叫べること自体が奇跡のようなモノなのだ。

 奇跡なんて信じたことはなかったけど、今の()なら信じられるかもしれない、それに手を伸ばそうと思えるかもしれない。

 だからこそ、体の悲鳴なんて、幾らでも無視できる。──間に合うかもしれないと、信じることができる。

 

 

「ああ、本当にっ!!」

 

 

 なんて心が軽いんだと、叫びだしてしまいそうな気分だった。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「はぁ、東山さんが?」

「は、はい、そうなんです」

 

 

 職員室に残っていた男性教師が、こちらの言葉に眉根を寄せて、なんとも言えない声をあげた。……なんとなく、不機嫌そうに聞こえる声だ。

 

 

「ふーむ?街外れの廃工場と言うと、最近朝礼で危険なので近寄らないように、と申し渡されていたところ……ですよね?」

「えっと、たぶん」

 

 

 男性教師がこちらに確認を取るように聞いてくる。

 ……確か、ちょっと前に会社が潰れて夜逃げしたとかいう工場で、色々面倒なことになっているらしく、中に機械や材料が残ったままになっているという場所だ。

 

 周囲からの視線のない街外れという立地ゆえに、近くの不良なんかがたむろしたりしていることもあるとかで、危ないので近付かないようにと言い含められている場所でもあった。

 ……まぁ、その不良達は最近補導されたとかで、今のその廃工場は単に危ない場所、という感じの場所になっているらしいのだが。

 

 ともあれ、基本的に優等生である東山が用事のある場所ではない。

 その事からなのか、彼は俺の発言を疑っているようだった。

 ……意味もなくそんな場所に行くはずがない以上、俺の虚言にしか聞こえないと、彼はそう暗に告げていたのだ。

 

 

「……俺はアイツの幼馴染みです、一々貶めたりとかしません」

「ふむ、なるほど。……とはいえ、それはそれで彼女がそんなところに何をしに行ったのか、という疑問を解消できないわけですが」

「それは……」

 

 

 いじめやその類似の何かなのではないか、そういう事を考えているらしい彼に、俺は言葉に詰まってしまった。

 ……実際、アイツが唐突に言い出したことなので、詳しく理由を説明しろと言われても無理がある。

 そうなると、先生達からよく褒められているアイツに対しての嫉妬から、適当なことを言っているのではないか?……と考えるほうが筋が通ってしまうのだ。

 彼が少し不機嫌だったのも、いじめかなにかだと思っているからだというのなら辻褄があう。

 

 つまり、俺は現在、彼を納得させられるだけの理由を持ち合わせていない。それゆえ、彼を説得することは不可能だ、ということだ。

 

 ──どうしたものか。

 彼女は脇目も振らずに出ていった。

 つまりそれは余裕がなかったということであるが、同時に説明を俺に任せたということにより、彼女が居なくても説得はできる……と少なくとも彼女は思っていたということでもある。

 さて、この状況で、彼女の助けを借りず、俺が先生を説得するには。……一体、なにを言えばいい?

 

 

「えっと、堀ノ内君?」

「……あ」

 

 

 先生に名前を呼ばれ、脳裏に閃くものがあった。

 ──そうだ、()()()はどこに行った?

 

 

「先生。その廃工場なんですが、転校生と西内が先に向かっているらしくて、多分彼女達を連れ戻しに行ったんだと思います」

「……刻遠野さんと西内さんが?……なるほど、確かに彼女達は東山さんに色々とちょっかいをかけていましたし、当の彼女も色々と相手をしていましたね」

 

 

 転校生と西内がどこに行ったのか、それを俺は知らされていたことを思い出したのだ。……時間になったら、廃工場に来て欲しいと伝えてくれ、と言われていたことを。

 彼女の異様な様子に今の今まで頭から抜けていたが、彼女達が廃工場にいるのは確か。……アイツが廃工場に向かう理由なんて、それ以外にないだろう。

 唯一気になることがあるとすれば、俺はそのことを()()()()()()()()()わけだが。……それはまぁ、どうでもいいことだろう。

 

 

「ふむ、となると……彼女達を連れて帰るのに、車で行った方がいいですね。堀ノ内君も一緒に付いてきますか?」

「あ、はい。俺も心配なので」

「……ふむ。すみませんね、君には変な疑いを向けてしまったようです」

「え?……あ、いえ」

 

 

 こちらに頭を下げる先生に、思わず面食らう。……大人って、子供に謝るんだ。

 そんなことを思ったかは定かではないけど、きょとんとした様子の俺に彼は微笑んで、

 

 

「謝ることもありますよ。大人は()()()()()()()()()()のですから」

 

 

 なんて言葉を告げるのだった。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「く、暗いですわね……?」

「そりゃマア、もう五時近いデスシネー」

 

 

 二人で廃工場の中を進みます。

 ──今回の対決内容はかくれんぼ。

 機械類も残っているこの場所でなら、うまく彼女に見付からないように隠れることも可能でしょう。

 薄暗く、死角も多いこの場所でなら、今度こそ彼女を……。

 

 

「西内サン?」

「え?あ、はい。なんでしょうか?」

 

 

 袖を引かれてハッとしました。

 薄暗い工場内では、足元に気を付けないと容易く転んでしまいます。……取らぬ狸の皮算用なんてしている場合ではなかったのです。

 そのことに気付かせてくれた彼女に礼を言おうとして、彼女の顔が少し青くなっていることに気が付きました。よく見ると、少し震えているような?

 

 

「こ、ココ廃工場……つまり誰モ居ないハズデスよね?」

「え、ええ。つい最近まで悪い人たちが集まっていたとも聞きましたが、彼等はすでに追い出された後だと」

 

 

 こちらの返答に、彼女は一度大きく身震いをして、私の耳元に顔を近付け、こう囁いたのです。

 ──誰かの話し声がするような気がする、と。

 

 誰も居ない廃工場。

 人の居ない無人のはずの場所で、聞こえてくるという微かな話し声。

 薄暗く、パッと見では部屋の内部を見渡せないような場所。

 ──いや、まさか。だって、そんな、まだ夜ではないですし。

 そんな私の現実逃避は、確かに自分の耳に届いた微かな声によって終わりを告げるのです。

 だから、その後の反応も予想通り。

 

 

「「お、おばけだーっ!!?」」

 

 

 ──そして、そこから後の展開は、全て私の予想の外のモノだったのです。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 必死で走って、限界を越えて、ようやくたどり着いた廃工場。

 それと同時に中から響いてきた叫び声。

 ──ああダメだ、まだ()()()()()()()、まだ足を休めてはいけない。変えたいのなら、変えるべきだと思うのなら、休むことなんて許されない。

 

 周囲を見回す。

 声がしたのはどこからだった?どこから入れば最短で彼女達のもとにたどり着ける?

 そこまで考えて、思考(視界)に走るノイズ。──なにも考えずに走り出す。

 

 ()は、これを呪いだと思っていた。それは今も変わらない。

 だけど、変えられるのなら。本当に、ただの気の迷いでしかないのだとしても、その灯りを見たのなら。

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

「なんだぁっ!!?」

「東山さんっ!?」

 

 

 窓ガラスを突き破って、廃工場の中へ。

 二人の成人男性・その前で呆然とする二人(西内さんと転校生)・男の一人が持ったナイフ・刺される■■──。

 ブレる視界を振り払い、錯乱している男と、西内さんの間に割り込んで。

 

 ……あ、ダメだ。これ、私が受ける(庇う)以外でどうにもなんないや。

 そんな諦観を、けれど笑顔で呑み込んで。

 

 

「もうちょっと、考えるべきだったな」

「ひがし、やまさん?」

 

 

 思わず漏れた言葉にだけ、後悔を残しながら。

 ()は、男が振り下ろしたナイフをその身で受け止めるのだった。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「──え?」

 

 

 意味がわかりませんでした。

 廃工場で、誰かの話し声を聞いて。おばけだと思って震え上がって。

 思わず声を上げたら、物陰から知らない大人の人達が現れて。

 そのうちの一人が、奇声を上げながらこっちに向かってくるのを、もう一人の大人が制止しようとして。

 止められずに走ってきた男の姿を、呆然と見上げることしかできず。

 その手に握られているものが刃物であることに気付いて、咄嗟に後ろの刻遠野さんを庇おうとして。

 

 突然割れた窓ガラスと、中に飛び込んできた東山さんに思考が止まり。

 彼女の大声に目の前の男の意識も逸れ、その隙を縫うように、彼女は私と男の間に割り込んできて。

 

 

 目の前で、彼女は、赤く、紅く、朱く、染ま、って。

 なに、これ?なに、どうして、なんで?

 

 

「もうちょっと、考えるべきだったな」

 

 

 彼女がぽつりと漏らした言葉を、今更ながらに認識して。

 ああ、つまり、これは、私の、私が、

 

 

「あ、ああ、あああああぁああああああああぁあぁっ!!!!?????」

 

 

 頭が割れる。呼吸ができない。視界が朱く染まる。

 私が、私が私が私が私がっ!!この、状況をっ!!!!

 

 

「……!?これは……っ!!?」

「あ、せ、センセイダメっ!!」

「う、うあああああああっ!!」

 

 

 私が自身の罪に崩れ落ちる間にも、状況は動いていきます。

 彼女が突き破ってきた窓から中に入ってきたのは、学校の男性教師の一人。

 彼は僅かな明かりの中に立つ人間達と、その足元で血溜まりに沈む彼女を見て一瞬呆けたあと、刻遠野さんの声と、自身に向かってくる狂乱した男の姿を見て表情を引き締め。

 

 

「──ぜいっ!!」

「がっ!!?」

 

 

 男が突き出したナイフを冷静に避け、逆にその腕を絡め取って投げ飛ばした彼は、さっきから微動だにしないもう一人の男に視線を向け。

 

 

「抵抗するおつもりでしたらどうぞご自由に。──その場合、彼の保障はしかねますが」

「……いや、そのつもりはない。こうなったら素直に捕まるさ」

 

 

 半ば脅迫めいた言葉を発するも、当の男性にはそもそも抵抗の気配がなく。

 先生は暫く彼を警戒するように見ていたものの、そもそも重症の人間が居ることを思い出して「携帯をお持ちでしたら、救急車をお願いします」と声を掛けました。

 男はそれに頷いて、懐から携帯を取り出して連絡を始め。

 そこまで終わって、ようやっと彼が工場内に入ってきたのです。

 

 

「──桐依?」

 

 

 血溜まりに沈む彼女を、わけがわからないと見詰める幼馴染みが。

 

 

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