百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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そして、彼は至った

「……いやいやいやいやっ!!?なんですかそれは超大事じゃないですか!!?」

 

 

 再びの休憩時間を迎え、話を聞きながら百面相していた栗花落が、ついに堪えきれなくなったとばかりに爆発した。

 まぁ、淡々と過去を語る俺達も、ちょっと「なにこれ」という気分になるのだ。

 当事者ではない彼女からしてみれば、わけのわからないことだらけだろう。

 

 とはいえ、これは切っ掛けでしかない。

 なにせ、()()()()()()()が生まれた理由の部分、その始まりでしかないのだから。

 

 

「あ、そういえば」

「まぁ、実はそっちはそんなに語ることもないんだけどな。なにせ、あんな事になったのはあそこの一回きり。……それ以降は、何事もなく平穏な日々が続いたんだから」

 

 

 そう、少なくとも表面上は。

 そう前置きして、俺達は続きを語り始めた──。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 ──目を覚まして一番に思ったことは「目、覚めちゃったか」だった。

 あそこで綺麗に終われていたなら、わりと満足だったのだが。……巡り合わせというのか、まんまと生き延びてしまったらしい。

 

 母親にはまぁ、泣きつかれた。

 そりゃそうだ。一人娘がナイフで刺されたとか、心配しないほうがビックリである。

 幸い、流れた血に反して内臓が傷付いたりはしていなかったらしく、傷そのものも痕は残らないだろうとも言われていたので、いつまでも泣きつかれる、ということにはならなかったわけだが。

 

 クラスメイト達は、おっかなびっくり見舞いに来てくれた。

 まぁ、正直彼等にはよくわからないだろう、だって事件は彼等が帰った後に起きたわけだから。

 突然大怪我をしたクラスメイトを見舞いに行きましょう、みたいなことを言われて、素直に千羽鶴とか折ってくれてるあたり、まだ可愛げがあるというか。

 

 西内さんは、見舞いには来なかった。

 ……うん、そりゃそうだ。タイミング悪すぎるし、互いにバツが悪い。

 お互いに引け目があるのだから、それはもうどうしようもない。

 そのまま疎遠になっていく、なんてことも有り得る話だろう。

 

 転校生と幼馴染みは、打って変わって毎日病室にやって来ていた。

 同じように毎日来てくれていた都乃葉姉さんとは、来る時間がずれていたので顔をあわせることはなかったけど。

 

 あと、転校生のほうにはすごい泣きつかれた。

 母の次に大泣きだったので、ちょっとばかり罪悪感を抱いたりもした。

 

 ───そして、幼馴染みは。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「お前、なんで起きて」

「おー、相棒。元気そうでなにより」

「……相棒?」

 

 

 アイツが病院に緊急搬入?されて少し経ったある日。

 あれだけの血を流していたにも関わらず、彼女はピンピンとしていた。

 

 白い病室の中で一人だけ真っ黒な彼女は、こちらの姿を見てにかっ、と笑っている。

 ……あまりに楽しそうに笑うものだから、なにを聞こうとしていたのかも忘れてしまって。

 代わりに、彼女から飛び出した言葉に、思わずオウムのように聞き返して。

 

 

「そ、相棒。いや、実際君が先生呼んでくれてなきゃ死んでたし。──命の恩人なんだから、呼び方くらい変えるもんでしょう?」

「そういう、ものなのか?」

 

 

 こちらの疑問にからからと笑いながら、彼女は俺を楽しそうに見詰めてくる。

 

 ……なんというか、今までのアイツと雰囲気が違って、どう対応したものかわからずに、俺は及び腰になっていた。

 そんなこちらの様子にまた笑みを深めて、彼女はこちらを手招きする。……無論、俺は彼女に近付けずにいて。

 

 

「……うむ、ちょっとフランク過ぎたか?でもなぁ、正直こうなるのも仕方ないからなぁ」

「な、なんだよ……」

 

 

 そんな俺をニヤニヤ見ながら、彼女は危なげなくベッドから飛び降りて、こちらに近寄ってきた。

 ……いや、医者に動き回るなって言われてたろお前、と彼女を制止しようとして。

 こちらの腕をすり抜けた彼女は、俺の耳元に顔を近付けてきて。

 

 

「────」

「……なに言ってんだ、お前」

 

 

 耳元で告げられたモノに、思わず顔を強ばらせる。

 それを告げた彼女は、ずっとニヤニヤと──その表情以外を忘れてしまったかのように笑いながら、こちらを指差してくる。

 

 

「相棒だからこそ頼むんだぜ?……おっと、くれぐれも他の奴にバラさないでくれよ?──君と、()だけの秘密だ」

 

 

 そんなことを宣って、彼女はベッドに舞い戻る。

 こちらが声を上げようとしたタイミングで、医者達が戻ってきて、俺はあれよあれよという間に病室の外に押し出されてしまう。

 

 外ではアイツの母親が、見舞いに来た他の子供達に感謝の言葉を伝えていた。

 放り出された俺に気付いた彼女が、こちらに近付いてくる。

 

 

「ああ、晃くん。ありがとうね、あの子を見舞いに来てくれて」

「あ、はい。友達なので、大丈夫です」

 

 

 彼女からの感謝の言葉に、なにが大丈夫なのかわからないままに大丈夫だと返して。

 見舞いに来てくれたから、なんて言われてお菓子やらジュースやらを、お土産としてしこたま持たされて。

 

 結局、あの言葉の意味を問うこともできぬまま、俺は家に戻ってきていた。

 母親から持っているお菓子や飲み物について聞かれたので、半ば反射でお見舞いのお土産と返せば、母はああ、お隣さんの。……なんて呟きながら、テレビに視線を移す。

 

 流れているのは地域のニュースで、ちょうど隣県から逃走していた強盗犯が自首してきた、ということを放送していた。

 強盗犯二名のうち、片方は錯乱状態で市内の病院に収容されており、落ち着き次第余罪について調べを進めていく……みたいなことを言っている。

 

 

「なんというか……怖い話ねぇ」

「……そう、だな」

 

 

 当事者でない母の言葉は、どこまでも他人事で。

 喉元まで出掛かった言葉は、そのまま呑み込まれる。

 ……たぶん、こんなことを相談しても、世迷い言だと笑われるか、彼女のことを気味悪がってしまうだけだと思ったから。

 

 だから、母には部屋で宿題してると返して、そのまま自室に戻った。

 戻って、改めてアイツの言ったことを反芻する。

 

 

「『俺を殺してくれ』だなんて、なに考えてるんだアイツは」

 

 

 死にかけた少女が、笑いながら死にたいと溢しているだなんて。

 ……どう反応するのが正しいのか、俺には全くわからなかった。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「あー、都乃葉(ねぇ)ごめんね?()がやろうとすると、ちゃんとベッドで寝てろーって怒られちゃうから」

「いいよ別に。手持ち無沙汰だし、花もちゃんと飾らないと可哀想だから」

 

 

 何度めかのお見舞いの時。

 ベッドで退屈そうに横になっている彼女()に相槌を返しながら、私はお見舞いの花を花瓶に活け直していた。

 

 ……なんとなく、事件の前と後で雰囲気が変わったような気がする彼女()から、目を離してはいけないような気がしていた私。

 だから、ここ最近は学校が終わるとすぐに、彼女の病室に向かっていたのだけれど。

 

 

「~♪」

 

 

 窓の外を眺めながら、鼻歌まで口ずさみ始めた彼女()を見て、これは雰囲気が変わったなんてレベルで、片付けられるような変化なのだろうか?と少し不安にもなっていた。

 ……事件以前が世間の荒波に疲れ果てたサラリーマンだとすれば、今の彼女()は毎日が楽しくて仕方ない夏休み中の小学生みたいに思える。

 

 これが例えば、何か良いことがあったから変化したというのなら、私もここまで気にはしないのだけれど。

 彼女が最近遭遇したことと言えば、強盗犯のナイフによって重症を負ったという、どう考えても悪いことである。

 

 ……聞いた話によれば、怪我をしたのはクラスメイトを庇った結果らしいので、そこが唯一良かったことになりそうではあるものの。

 だからといって、こんな劇的な変化をもたらしたりはしないだろう、と納得できずにいたのだった。

 

 

「あー、楽しみだなぁ!」

「……っ?何が楽しみなの?」

 

 

 抑えきれなくなった、という感じに彼女()が声を上げる。

 流しに居たので彼女のほうを見ていなかった私は、その声に振り返って。

 ──恋する乙女のように、美しい微笑みを浮かべる彼女を見た。そう、その瞳さえ見なければ、恋する乙女以外の何者でもない、彼女の笑みを。

 

 

「あ、都乃葉姉居るのに叫んじゃった。……まぁ、いいか。どうせ都乃葉姉は()のこと知ってるし」

「……えっと、何がそんなに、嬉しいの?」

 

 

 だから私は()()()()、彼女にその喜悦の理由を聞いてしまった。──聞いて、後悔した。

 

 

「そう!やっと見付けたんだ、()をちゃんと終わらせてくれる人!無駄に次を見てしまった()を切り捨ててくれる人!」

 

 

 頬を染め、夢見心地で語る彼女()は、端から見ていればさぞ可愛らしく、愛らしく写るのだろう。……その口から漏れ出す、呪詛のような言葉さえ聞かなければ。

 

 

「ああ、でも()には返せるモノがないなぁ?……ああ、()が消えればいいんだから、()をあげればいいか。じゃあ準備しないと。……あ、でもその前に()()()()()()()()らどうしよう。()、せっかちだからなぁ。機会があったら試したくなるだろうし」

 

 

 理解のできない言葉を垂れ流しながら、彼女()は明日着ていく服を決める時のような気軽さで、己の終わりを渇望している。

 私はただ、()()()()()()という言葉に、言い様のない不安を覚えて。

 

 

「貴方は、死ぬ気なの?」

 

 

 思わず、口に出していた。

 それを聞いた彼女は、一瞬意外そうな顔をして、その後バツが悪そうに頭を掻いた。

 

 

「あー、そういえばそっか。都乃葉姉とはもう長いんだから、変に愛着とか湧かせちゃったか。……ん、これに関しては()の大失態。ごめんなさい」

「え、は、いや?」

「その上で、貴方の質問にはイエスと返すよ。()の目標は()の殺害。……あ、『東山桐依の殺害』じゃないから、そこんとこは勘違いしないでね?」

 

 

 返ってきたのは、またしても意味のわからない言葉だった。

 

 

 

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