百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「……いやいやいやいやっ!!?なんですかそれは超大事じゃないですか!!?」
再びの休憩時間を迎え、話を聞きながら百面相していた栗花落が、ついに堪えきれなくなったとばかりに爆発した。
まぁ、淡々と過去を語る俺達も、ちょっと「なにこれ」という気分になるのだ。
当事者ではない彼女からしてみれば、わけのわからないことだらけだろう。
とはいえ、これは切っ掛けでしかない。
なにせ、
「あ、そういえば」
「まぁ、実はそっちはそんなに語ることもないんだけどな。なにせ、あんな事になったのはあそこの一回きり。……それ以降は、何事もなく平穏な日々が続いたんだから」
そう、少なくとも表面上は。
そう前置きして、俺達は続きを語り始めた──。
──目を覚まして一番に思ったことは「目、覚めちゃったか」だった。
あそこで綺麗に終われていたなら、わりと満足だったのだが。……巡り合わせというのか、まんまと生き延びてしまったらしい。
母親にはまぁ、泣きつかれた。
そりゃそうだ。一人娘がナイフで刺されたとか、心配しないほうがビックリである。
幸い、流れた血に反して内臓が傷付いたりはしていなかったらしく、傷そのものも痕は残らないだろうとも言われていたので、いつまでも泣きつかれる、ということにはならなかったわけだが。
クラスメイト達は、おっかなびっくり見舞いに来てくれた。
まぁ、正直彼等にはよくわからないだろう、だって事件は彼等が帰った後に起きたわけだから。
突然大怪我をしたクラスメイトを見舞いに行きましょう、みたいなことを言われて、素直に千羽鶴とか折ってくれてるあたり、まだ可愛げがあるというか。
西内さんは、見舞いには来なかった。
……うん、そりゃそうだ。タイミング悪すぎるし、互いにバツが悪い。
お互いに引け目があるのだから、それはもうどうしようもない。
そのまま疎遠になっていく、なんてことも有り得る話だろう。
転校生と幼馴染みは、打って変わって毎日病室にやって来ていた。
同じように毎日来てくれていた都乃葉姉さんとは、来る時間がずれていたので顔をあわせることはなかったけど。
あと、転校生のほうにはすごい泣きつかれた。
母の次に大泣きだったので、ちょっとばかり罪悪感を抱いたりもした。
───そして、幼馴染みは。
「お前、なんで起きて」
「おー、相棒。元気そうでなにより」
「……相棒?」
アイツが病院に緊急搬入?されて少し経ったある日。
あれだけの血を流していたにも関わらず、彼女はピンピンとしていた。
白い病室の中で一人だけ真っ黒な彼女は、こちらの姿を見てにかっ、と笑っている。
……あまりに楽しそうに笑うものだから、なにを聞こうとしていたのかも忘れてしまって。
代わりに、彼女から飛び出した言葉に、思わずオウムのように聞き返して。
「そ、相棒。いや、実際君が先生呼んでくれてなきゃ死んでたし。──命の恩人なんだから、呼び方くらい変えるもんでしょう?」
「そういう、ものなのか?」
こちらの疑問にからからと笑いながら、彼女は俺を楽しそうに見詰めてくる。
……なんというか、今までのアイツと雰囲気が違って、どう対応したものかわからずに、俺は及び腰になっていた。
そんなこちらの様子にまた笑みを深めて、彼女はこちらを手招きする。……無論、俺は彼女に近付けずにいて。
「……うむ、ちょっとフランク過ぎたか?でもなぁ、正直こうなるのも仕方ないからなぁ」
「な、なんだよ……」
そんな俺をニヤニヤ見ながら、彼女は危なげなくベッドから飛び降りて、こちらに近寄ってきた。
……いや、医者に動き回るなって言われてたろお前、と彼女を制止しようとして。
こちらの腕をすり抜けた彼女は、俺の耳元に顔を近付けてきて。
「────」
「……なに言ってんだ、お前」
耳元で告げられたモノに、思わず顔を強ばらせる。
それを告げた彼女は、ずっとニヤニヤと──その表情以外を忘れてしまったかのように笑いながら、こちらを指差してくる。
「相棒だからこそ頼むんだぜ?……おっと、くれぐれも他の奴にバラさないでくれよ?──君と、
そんなことを宣って、彼女はベッドに舞い戻る。
こちらが声を上げようとしたタイミングで、医者達が戻ってきて、俺はあれよあれよという間に病室の外に押し出されてしまう。
外ではアイツの母親が、見舞いに来た他の子供達に感謝の言葉を伝えていた。
放り出された俺に気付いた彼女が、こちらに近付いてくる。
「ああ、晃くん。ありがとうね、あの子を見舞いに来てくれて」
「あ、はい。友達なので、大丈夫です」
彼女からの感謝の言葉に、なにが大丈夫なのかわからないままに大丈夫だと返して。
見舞いに来てくれたから、なんて言われてお菓子やらジュースやらを、お土産としてしこたま持たされて。
結局、あの言葉の意味を問うこともできぬまま、俺は家に戻ってきていた。
母親から持っているお菓子や飲み物について聞かれたので、半ば反射でお見舞いのお土産と返せば、母はああ、お隣さんの。……なんて呟きながら、テレビに視線を移す。
流れているのは地域のニュースで、ちょうど隣県から逃走していた強盗犯が自首してきた、ということを放送していた。
強盗犯二名のうち、片方は錯乱状態で市内の病院に収容されており、落ち着き次第余罪について調べを進めていく……みたいなことを言っている。
「なんというか……怖い話ねぇ」
「……そう、だな」
当事者でない母の言葉は、どこまでも他人事で。
喉元まで出掛かった言葉は、そのまま呑み込まれる。
……たぶん、こんなことを相談しても、世迷い言だと笑われるか、彼女のことを気味悪がってしまうだけだと思ったから。
だから、母には部屋で宿題してると返して、そのまま自室に戻った。
戻って、改めてアイツの言ったことを反芻する。
「『俺を殺してくれ』だなんて、なに考えてるんだアイツは」
死にかけた少女が、笑いながら死にたいと溢しているだなんて。
……どう反応するのが正しいのか、俺には全くわからなかった。
「あー、都乃葉
「いいよ別に。手持ち無沙汰だし、花もちゃんと飾らないと可哀想だから」
何度めかのお見舞いの時。
ベッドで退屈そうに横になっている
……なんとなく、事件の前と後で雰囲気が変わったような気がする
だから、ここ最近は学校が終わるとすぐに、彼女の病室に向かっていたのだけれど。
「~♪」
窓の外を眺めながら、鼻歌まで口ずさみ始めた
……事件以前が世間の荒波に疲れ果てたサラリーマンだとすれば、今の
これが例えば、何か良いことがあったから変化したというのなら、私もここまで気にはしないのだけれど。
彼女が最近遭遇したことと言えば、強盗犯のナイフによって重症を負ったという、どう考えても悪いことである。
……聞いた話によれば、怪我をしたのはクラスメイトを庇った結果らしいので、そこが唯一良かったことになりそうではあるものの。
だからといって、こんな劇的な変化をもたらしたりはしないだろう、と納得できずにいたのだった。
「あー、楽しみだなぁ!」
「……っ?何が楽しみなの?」
抑えきれなくなった、という感じに
流しに居たので彼女のほうを見ていなかった私は、その声に振り返って。
──恋する乙女のように、美しい微笑みを浮かべる彼女を見た。そう、その瞳さえ見なければ、恋する乙女以外の何者でもない、彼女の笑みを。
「あ、都乃葉姉居るのに叫んじゃった。……まぁ、いいか。どうせ都乃葉姉は
「……えっと、何がそんなに、嬉しいの?」
だから私は
「そう!やっと見付けたんだ、
頬を染め、夢見心地で語る
「ああ、でも
理解のできない言葉を垂れ流しながら、
私はただ、
「貴方は、死ぬ気なの?」
思わず、口に出していた。
それを聞いた彼女は、一瞬意外そうな顔をして、その後バツが悪そうに頭を掻いた。
「あー、そういえばそっか。都乃葉姉とはもう長いんだから、変に愛着とか湧かせちゃったか。……ん、これに関しては
「え、は、いや?」
「その上で、貴方の質問にはイエスと返すよ。
返ってきたのは、またしても意味のわからない言葉だった。