百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「うーん。そこでなに言ってるの?……みたいな顔をされても、
私は、彼女が言った言葉を理解できずに、ただそこに立ち尽くしていた。
──死にたいのかと聞かれて、
……意味がわからない。少なくとも、普通の人間である私には、一ミリ足りとも理解できなかった。
けれど、
「あの時はちょっとやけっぱちだったから、貴方に
そもそも、当初の予定だとちゃんと老衰するつもりだったからなぁ、なんて笑う彼女は、そもそもこちらを見ていなかった。
熱に浮かされたように、
その前に
つまり、
「あ、違うってば。それは違う。必要ないと切り捨てられるのは
「……それが迷惑だと言うのなら、何故その誰かに、自分を切り捨てさせようとしているのですか」
「うっ、また痛いところを……」
──まるで、私をなんとも思っていないかのようで。
思わず口をついて漏れた自身の言葉に驚きつつ、けれど聞くべきこと、聞きたいこととも合致していたので、そのまま問いかける私。
その言葉に彼は、
「いや、まぁ?こう、最後は、ねぇ?……それと、悪戯に希望を投げて見せたんだから、最後まで責任取って欲しいところもある、というか?」
あー、やだやだ気持ち悪い。
そんな言葉を嬉しそうに語る彼の姿に、私はおぞましさと、少しの嫉妬を感じて。
「……させない」
「ん?」
「そんなこと、させません。貴方が勝手に死ぬことも、誰かに殺されることも、私は絶対にさせません」
勢い任せに私が放った言葉に、彼は先ほどから浮かべていた微笑みではなく──面白いと、そう感じているかのような挑発的な笑みを浮かべ直し、こう言ったのでした。
「都乃葉姉も、大概物好きだねぇ?」
と。
「それからと言うもの……小学校卒業までの間……そんなことにさせないように……ずーっと……裏方よ……」
「まさかの黒幕ムーブの原因!?」
先生の語り口に、栗花落が驚いている。
……いやまぁ、確かになにか起きそうだな、みたいな
あのあたり、全部先生の暗躍の結果だと言うのなら。
……働きすぎなのでは、この人。
思わず遠い目をしてしまう。
あのバカ、振り回される云々とか言ってたの、ホントはお前が振り回してたのが始まりじゃねぇか、と。
「いや、そのさ?途中から聞いてる私が聞くのもどうかなーって思うんだけどさ?」
「ん?どうした秋山、なにか疑問でも?」
そんな風に呆れていたら、秋山がこちらに向けておずおずと手を上げて、発言の許可を求めていた。
……聞きたいことか、なにを聞きたいのだろう?
そのまま彼女のほうにみんなが向き直ると、彼女は意を決したように口を開いた。
「そもそも、
「……そうかそこからか」
語りの中で頻出する
情景を思い浮かべずに聞くと、まるでアイツが二人居るかのように聞こえるそれは、実際二重人格のような、そうでないような、ちょっと説明の難しいものでもある。
まぁ、演劇祭での告白を聞いた今でなら、ある程度の理解はできそうではあるのだが。
「
「そのあたり、本人に聞かなきゃ正確にはわからないだろうからな……」
恐らく、(彼女の説明を信じるのなら)二重人格としての明確な分離は、あくまでも小学校を卒業してからの事であり、それまでの俺と私の使い分けは、男性的な面を見せるか女性的な面を見せるか、そのどちらか程度の意味しかないはずだ。
「そもそも人間は
「先生の話を聞く限り、
どこまで行っても本人じゃないから詳しいことは言えない、と刻遠野が会話を締める。
それを聞いた秋山は、なんとも言えない表情を浮かべていた。
言うべきことを言うか、言うまいか。
なにか、重要な選択に悩むように、彼女はむむむ、としばらく唸って。
「──実は、聞いて欲しいことがあるんだけど」
死にたがりの俺。
■されたいという願いを叶えられぬまま、二度目の人生を与えられて、半ばやけっぱちになっていた存在。
■されないことは知っていたから、別に自分の性別に特にこだわりはなくて。
だからまぁ、今世で女性となって、可愛い服を着せられるということにも、そんなに抵抗はなかったのだった。
「女の子には女の子らしくして欲しいだろう、って思ってピンクとか可愛いものとか率先して選んでたけど……」
なので、ちょっと落ち着いて
……いや、なんだこの世界。
余裕がなかったから全然気付かなかったけど、男女の区分が曖昧すぎる……っ!?
精神的余裕が生まれて、周囲を見渡せるようになって、初めて気付いたこの世の真実。
なんか、前世での世界よりも遥かに、ジェンダーフリーが進んでる!?というか進みすぎてちょっとついてけねぇ!?
……東山桐依。ここに来てようやく、この世界のおかしさに気付きました。
いや、よくよく考えたら男の子っぽいやつがスカート履いてたり、女の子っぽい子が坊主頭にしてたり、なんかちょくちょく変なやつは居たんだよ。単に
その異常に気付くのに、ここまで掛かったってのがわりと失態だったってだけで。
……なんでそんな失態失態言ってるのかと言われれば。んなもん、あれを見ればわかる。
そんな脳内会議をしながら視線を横に動かせば、転校生と幼馴染みが仲良さそうに話しているのが見えてくる。
「オー、堀ノ内サン、ベリーキュートですネー!!」
「母さんが女子会行くならスカートよね、って譲らなくてな」
……何故か幼馴染みがゴスロリ着てるんだがな!!
いや待ってホント待ってちょっと整理させて?
え、なにこれ。どっち?君どっちが恋愛対象?
俺は私をどうすればいいの?え?いい感じにやれって?ふざけるなテメー!
……思わずキャラが崩れてしまった。
いやでも仕方なくない?単に転生して、転生したことそのものにキレ散らかしてた俺がさ?
よもやよもや、前世と大差ない平凡な世界だと思ってたのがさ?
実際はごりっと前世と違ったとか、今さらながらに突っ込まれるとかさ?
……いや、単に私ビルディングにかまけていられるか危ういじゃんこれ。
世界のピンチとか唐突なバトル展開とか、そんなもん全然ない仏教的輪廻転生だと思ってたのに!
これ、一旦脇に色々おいといて調べなきゃあかん奴じゃん!
んでもって安全だと確認できても、単純に俺切り捨てていいのかわかんねー奴じゃん!
どっちだよ相棒、お前男と女のどっちが好きなんだよお前っ!?
都乃葉姉がとことん邪魔してくるから、遠回しな方針に切り変えたってのに!
これ、いつまで経っても俺切り捨てられない奴じゃん!
「い、いや。落ち着け東山桐依、お前は強い子、仮に弱くても頑張れる子。素数だ、素数を数えて落ち着くんだ……」
「いや、なにわちゃわちゃ言ってるんだお前」
「ぎゃあ?!ああああ相棒っ!!いきなり話し掛けるのは止めろ!心の準備があるんだこっちには!」
「……いや、そもそもお前が誘ってきたのに心の準備も何もないだろうに」
「ぬぐぅ、そうだった……」
落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせていたら、背後から声を掛けられて思わず小声で叫ぶ。
……小声の理由?んなもん後ろの転校生にまで
「どうシタデスかー?ワタシの顔、何かツイてマスかー?」
「ついてないけど?いいから、今日は遊びに来たのだから、私には構わず目一杯遊びなさい」
「オー、楽しみデース!」
こちらを不思議そうに見詰める転校生に、とりあえずキリッ、とした感じのキャラを設定して話し掛ける。
……隣から「なにやってんだコイツ」みたいな視線が飛んできてる気がするが、背に腹は代えられない。
「それにしても、来週転校してしまうだなんて。ホントに急な話ね」
「それを聞いて、思い出作ってやろうみたいなことを言い出すお前も大概急だがな」
親の都合だとかで、彼女は来週アメリカに行ってしまうのだと言う。
そんな彼女に、最後に思い出を作ってもらおう、というのが、今回の遠出の理由だった。
……そういうことにしとけば都乃葉姉が油断するのでは、みたいなところもなくはなかったのだけれど。
うむ、そっちに関してはちょっと保留になったので、純粋に彼女の為に遊ぶのが、今日の俺たちのミッションである。
「そういうわけだから、行くわよ相棒」
「へいへい……」
「アイボー!?やっぱりソーイウ関係だったデスネー!?」
「違う」
「……いや、なにが違うの相棒?」
「違う」
「……????」
……なにが違うので?
相棒のよくわからない態度に首を傾げつつ、俺たちは今日の目的地である遊園地のゲートをくぐるのであった。