百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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いつか朱き華を願ったように

「うーん。そこでなに言ってるの?……みたいな顔をされても、()にはこういう風に言うしかないからなぁ」

 

 

 彼女()は、困ったように眉根を寄せて、腕を組み唸っている。

 私は、彼女が言った言葉を理解できずに、ただそこに立ち尽くしていた。

 

 ──死にたいのかと聞かれて、()を殺したいと答える。でも、自分を殺したいわけではない、らしい。

 ……意味がわからない。少なくとも、普通の人間である私には、一ミリ足りとも理解できなかった。

 

 けれど、彼女()はそれでいいのだと笑う。

 

 

「あの時はちょっとやけっぱちだったから、貴方に()を見せてしまったけど。……うん、いらないものでしかない()が、烏滸がましくも誰かと話そうとか思ったのが間違いだった。いやまぁ、こんな機会が来るだなんて想像もしてなかったから、仕方ないところもあるんだけども」

 

 

 そもそも、当初の予定だとちゃんと老衰するつもりだったからなぁ、なんて笑う彼女は、そもそもこちらを見ていなかった。

 熱に浮かされたように、()は見付けた希望に御執心で。

 その前に()()()()()()()()()()()声を掛けた相手には、おざなりな謝罪だけを投げて。

 つまり、()は。

 

 

「あ、違うってば。それは違う。必要ないと切り捨てられるのは()。寧ろ、貴方に()を捨てさせるだなんて迷惑を掛けなくて済むって、ちょっと安心したりしてるんだよ()

「……それが迷惑だと言うのなら、何故その誰かに、自分を切り捨てさせようとしているのですか」

「うっ、また痛いところを……」

 

 

 ──まるで、私をなんとも思っていないかのようで。

 思わず口をついて漏れた自身の言葉に驚きつつ、けれど聞くべきこと、聞きたいこととも合致していたので、そのまま問いかける私。

 その言葉に彼は、()()()()()()視線を逸らしながら。

 

 

「いや、まぁ?こう、最後は、ねぇ?……それと、悪戯に希望を投げて見せたんだから、最後まで責任取って欲しいところもある、というか?」

 

 

 あー、やだやだ気持ち悪い。

 そんな言葉を嬉しそうに語る彼の姿に、私はおぞましさと、少しの嫉妬を感じて。

 

 

「……させない」

「ん?」

「そんなこと、させません。貴方が勝手に死ぬことも、誰かに殺されることも、私は絶対にさせません」

 

 

 勢い任せに私が放った言葉に、彼は先ほどから浮かべていた微笑みではなく──面白いと、そう感じているかのような挑発的な笑みを浮かべ直し、こう言ったのでした。

 

 

「都乃葉姉も、大概物好きだねぇ?」

 

 

 と。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

「それからと言うもの……小学校卒業までの間……そんなことにさせないように……ずーっと……裏方よ……」

「まさかの黒幕ムーブの原因!?」

 

 

 先生の語り口に、栗花落が驚いている。

 ……いやまぁ、確かになにか起きそうだな、みたいなお約束(フラグ)が見える度に、フラグのまま消えていくだなんて事態には結構出会していたけども。

 あのあたり、全部先生の暗躍の結果だと言うのなら。

 ……働きすぎなのでは、この人。

 

 思わず遠い目をしてしまう。

 あのバカ、振り回される云々とか言ってたの、ホントはお前が振り回してたのが始まりじゃねぇか、と。

 

 

「いや、そのさ?途中から聞いてる私が聞くのもどうかなーって思うんだけどさ?」

「ん?どうした秋山、なにか疑問でも?」

 

 

 そんな風に呆れていたら、秋山がこちらに向けておずおずと手を上げて、発言の許可を求めていた。

 ……聞きたいことか、なにを聞きたいのだろう?

 そのまま彼女のほうにみんなが向き直ると、彼女は意を決したように口を開いた。

 

 

「そもそも、()とか()()とかなんなの?」

「……そうかそこからか」

 

 

 語りの中で頻出する()()()

 情景を思い浮かべずに聞くと、まるでアイツが二人居るかのように聞こえるそれは、実際二重人格のような、そうでないような、ちょっと説明の難しいものでもある。

 まぁ、演劇祭での告白を聞いた今でなら、ある程度の理解はできそうではあるのだが。

 

 

()は、()()()()。で、彼女は……あの時点だとまだ彼が演じてるだけのもの、なのかしら?」

「そのあたり、本人に聞かなきゃ正確にはわからないだろうからな……」

 

 

 恐らく、(彼女の説明を信じるのなら)二重人格としての明確な分離は、あくまでも小学校を卒業してからの事であり、それまでの俺と私の使い分けは、男性的な面を見せるか女性的な面を見せるか、そのどちらか程度の意味しかないはずだ。

 

 

「そもそも人間は()()()()()()()()()()()()()()()ってする説があるんだそうで、それに倣って男っぽいことをしたり思っている時には()、女っぽいことをしたり思っている時には()って言ってるんだ、みたいなことをアイツは言ってたんだが……」

「先生の話を聞く限り、()を切り離しに行った結果が今の彼女、ということなのかしら?」

 

 

 どこまで行っても本人じゃないから詳しいことは言えない、と刻遠野が会話を締める。

 それを聞いた秋山は、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 言うべきことを言うか、言うまいか。

 なにか、重要な選択に悩むように、彼女はむむむ、としばらく唸って。

 

 

「──実は、聞いて欲しいことがあるんだけど」

 

 

 ()()()()()()調子で、彼女は口を開いた。

 

 

 

★  ★  ★

 

 

 

 死にたがりの俺。

 ■されたいという願いを叶えられぬまま、二度目の人生を与えられて、半ばやけっぱちになっていた存在。

 ■されないことは知っていたから、別に自分の性別に特にこだわりはなくて。

 

 だからまぁ、今世で女性となって、可愛い服を着せられるということにも、そんなに抵抗はなかったのだった。

 

 

「女の子には女の子らしくして欲しいだろう、って思ってピンクとか可愛いものとか率先して選んでたけど……」

 

 

 なので、ちょっと落ち着いて()をプロデュースしようと思った時、()は困惑してしまったのである。

 ……いや、なんだこの世界。

 余裕がなかったから全然気付かなかったけど、男女の区分が曖昧すぎる……っ!?

 

 精神的余裕が生まれて、周囲を見渡せるようになって、初めて気付いたこの世の真実。

 なんか、前世での世界よりも遥かに、ジェンダーフリーが進んでる!?というか進みすぎてちょっとついてけねぇ!?

 

 ……東山桐依。ここに来てようやく、この世界のおかしさに気付きました。

 いや、よくよく考えたら男の子っぽいやつがスカート履いてたり、女の子っぽい子が坊主頭にしてたり、なんかちょくちょく変なやつは居たんだよ。単に()が見逃してたってだけで。

 その異常に気付くのに、ここまで掛かったってのがわりと失態だったってだけで。

 

 ……なんでそんな失態失態言ってるのかと言われれば。んなもん、あれを見ればわかる。

 そんな脳内会議をしながら視線を横に動かせば、転校生と幼馴染みが仲良さそうに話しているのが見えてくる。

 

 

「オー、堀ノ内サン、ベリーキュートですネー!!」

「母さんが女子会行くならスカートよね、って譲らなくてな」

 

 

 ……何故か幼馴染みがゴスロリ着てるんだがな!!

 

 いや待ってホント待ってちょっと整理させて?

 ()、君の為に()をビルディングしていくつもりだったんだけどさ?

 え、なにこれ。どっち?君どっちが恋愛対象?

 俺は私をどうすればいいの?え?いい感じにやれって?ふざけるなテメー!

 

 ……思わずキャラが崩れてしまった。

 いやでも仕方なくない?単に転生して、転生したことそのものにキレ散らかしてた俺がさ?

 よもやよもや、前世と大差ない平凡な世界だと思ってたのがさ?

 実際はごりっと前世と違ったとか、今さらながらに突っ込まれるとかさ?

 ……いや、単に私ビルディングにかまけていられるか危ういじゃんこれ。

 

 世界のピンチとか唐突なバトル展開とか、そんなもん全然ない仏教的輪廻転生だと思ってたのに!

 これ、一旦脇に色々おいといて調べなきゃあかん奴じゃん!

 んでもって安全だと確認できても、単純に俺切り捨てていいのかわかんねー奴じゃん!

 どっちだよ相棒、お前男と女のどっちが好きなんだよお前っ!?

 

 都乃葉姉がとことん邪魔してくるから、遠回しな方針に切り変えたってのに!

 これ、いつまで経っても俺切り捨てられない奴じゃん!

 

 

「い、いや。落ち着け東山桐依、お前は強い子、仮に弱くても頑張れる子。素数だ、素数を数えて落ち着くんだ……」

「いや、なにわちゃわちゃ言ってるんだお前」

「ぎゃあ?!ああああ相棒っ!!いきなり話し掛けるのは止めろ!心の準備があるんだこっちには!」

「……いや、そもそもお前が誘ってきたのに心の準備も何もないだろうに」

「ぬぐぅ、そうだった……」

 

 

 落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせていたら、背後から声を掛けられて思わず小声で叫ぶ。

 ……小声の理由?んなもん後ろの転校生にまで()の失態なんか見せらんないからだよ!

 

 

「どうシタデスかー?ワタシの顔、何かツイてマスかー?」

「ついてないけど?いいから、今日は遊びに来たのだから、私には構わず目一杯遊びなさい」

「オー、楽しみデース!」

 

 

 こちらを不思議そうに見詰める転校生に、とりあえずキリッ、とした感じのキャラを設定して話し掛ける。

 ……隣から「なにやってんだコイツ」みたいな視線が飛んできてる気がするが、背に腹は代えられない。

 

 

「それにしても、来週転校してしまうだなんて。ホントに急な話ね」

「それを聞いて、思い出作ってやろうみたいなことを言い出すお前も大概急だがな」

 

 

 親の都合だとかで、彼女は来週アメリカに行ってしまうのだと言う。

 そんな彼女に、最後に思い出を作ってもらおう、というのが、今回の遠出の理由だった。

 ……そういうことにしとけば都乃葉姉が油断するのでは、みたいなところもなくはなかったのだけれど。

 うむ、そっちに関してはちょっと保留になったので、純粋に彼女の為に遊ぶのが、今日の俺たちのミッションである。

 

 

「そういうわけだから、行くわよ相棒」

「へいへい……」

「アイボー!?やっぱりソーイウ関係だったデスネー!?」

「違う」

「……いや、なにが違うの相棒?」

「違う」

「……????」

 

 

 ……なにが違うので?

 相棒のよくわからない態度に首を傾げつつ、俺たちは今日の目的地である遊園地のゲートをくぐるのであった。

 

 

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