百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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白を黒に、黒を白に

「私、遊園地とか初めてデース!」

「……そう。なら今日は楽しみなさい、存分にね」

「言われずトモー!!」

「……かっ飛んで行ったな」

「いや言ってる場合じゃないでしょ、迷子になられても困るからさっさと追い掛けるわよ!」

 

 

 いや元気すぎるだろあの子!?

 こちとら中身は完全なおっさんだぞ、加減してくれマジで。……とは言い出せず、仕方なく彼女のあとを追い掛ける。

 ……すでに豆粒レベルの大きさになるくらいに離されてるんだけど、あの子なに目指して走ってんの……?

 

 ある意味この世界での女の子としてのサンプル的な意味で観察しようかな、なんて思ってた俺としては、なんというか出鼻を挫かれた感がすごい。

 ともすれば横にいる相棒のほうが女の子らし、らし……。

 いやなんでだよ!なんでそこらの女の子より走り方可愛らしいんだよおかしいだろうが!

 

 

「……今日はやけに睨んでくるなお前」

「俺としては、お前さんがなにを目指してるのかわかんねーんだよ……」

「???」

 

 

 小首を傾げてこっちを見る相棒が、普通に女の子にしか見えなくて辛い……。

 だからよぉ!オメェはよぉ!!そんなんわかるわけねぇだろうがよぉ!?

 

 

「……よくわからんが、転校生止まったぞ」

「なんですって!?じゃあとっとと追い付かないと!」

 

 

 そんな風に頭を抱えながら進んでいれば、相棒から転校生が立ち止まったとの報告。

 ……また置いてかれては堪ったもんじゃないので、しっかり手綱を握るために追い付くことを優先。とりあえず相棒のことは後回しだ後回し。

 

 

「オー、皆サン遅いデース!見てくだサーイ、コレ一時間待ちデース!」

「……いや、そもそも乗れないわよ私達」

「ワッツ!?なにゆえデスカー!!?」

 

 

 追い付いた先の彼女は、とある行列の前に立ち止まって近くの看板を眺めており、こちらの接近に気付くと振り返ってぷんぷんと怒りの声をあげた。

 どうにも、猛ダッシュしていたのはこの行列に並ぶためだったらしい。……とはいえ、行列があろうがなかろうが、この乗り物に私達が乗ることはできないわけだが。

 

 

「なにゆえもなにも、ジェットコースターには身長制限があるのよ?」

「俺ら誰一人としてクリアしてないな、これ」

「が、ガーンデース……」

 

 

 こちらの指摘に、がっくりと肩を落とす彼女。

 ……うん、俺達小学一年だからね。身長足りるわけないね。

 そもそも年齢制限のほうも引っ掛かるだろうし、どうしようもないね。……と彼女に告げれば、更に肩を落としてしまった。

 いや、どんだけ乗りたかったんですかねジェットコースターに。

 

 

「風にナリタかったのデース。風をキッテ風を感じレバ、キット風にナレルと思ったのデース」

「…………?」

 

 

 なにを言ってるのか全くわからなかったので、相棒にわかる?ってジェスチャーをしたが、返ってきたのも肩を竦めるジェスチャーだった。……うん、まぁわからんよね。

 

 

「とりあえず、ここにはゴーカートもあったはずだからそっちに行きましょうか」

「ホー?カーですカ。これは私の華麗なドライビングテクニックを披露するチャンスデスネー!?」

「なるほどスピード狂……」

 

 

 とりあえず園内にあるもので、風を感じられそうなものをあげてみたらとても喜ばれた。

 ……相棒うるさいっ、折角いい感じにテンション戻ったみたいなんだから、変に水を差すようなことを言うんじゃない!

 みたいな感じに相棒に視線を送りつつ、そのまま三人でゴーカートがある場所へ移動。……ふむ、こっちは空いているようだ。

 説明の看板にも、年齢制限とか身長制限とか引っ掛かりそうなものは書いていない。

 

 なのでそのまま受付に近寄って、子供三人分の料金を払ってカートを用意してもらう。

 

 

「勝負!勝負しまショー!」

「構わないけど……勝負事ならなにか賭けないと。なにを賭ける?」

「無難に次の給食のデザートとかでいいんじゃないか?」

「じゃあソレにしまショー!」

 

 

 転校生が勝負しようと持ちかけて来たので、勝負だって言うのならなにか賭けないとな、と俺が返し、内容を相棒が決める……という一連の流れののち、準備ができたのでスタートの合図を待つ。

 ……今!

 

 

「スタートダッシュはお手のモノデスヨー!」

「やるじゃない、けどそう簡単には負けないわよ!」

「元気だなー」

「相棒はもうちょっとやる気を……うそ!?インコーナー抜けてった!?」

「意外な伏兵デース!?」

 

 

 綺麗なスタートダッシュを決め、華麗に走り出した私達。

 壮絶なデッドヒートを制したのは、結局相棒だった。

 

 

「お嬢ちゃんなかなかやるねぇ!そんな格好でハンドル捌きもブレーキやアクセルの踏み込みも抜群とは大したもんだ!」

「あ、はい。どもっす」

「……めっちゃ照れとる」

「ドチラに照れたのデショー?」

「お前らうるさいっ」

 

 

 ゴスロリ着たままコースを攻める相棒の姿は、あっという間に話題になってしまったようで。

 しばらくの間、俺達はコースから立ち去りにくいことになってしまうのだった。

 

 

 

★  ★  ☆

 

 

 

 まぁ、そんな感じに。

 時に転校生に振り回されたり、時に相棒の姿に惑わされたり。

 転校生との別れの時に思わず涙ぐんでしまったり、久しぶりに勝負を仕掛けに来てくれた西内さんの姿に、ちょっと元気を貰ったり。

 都乃葉姉の手練手管が極まり初めて、正直ごまかすのは無理そうだなってなったり。

 

 そんな日々を積み重ね、積み上げて──。

 そして、その日が来た。

 

 

「小学生も今日でおしまい、か。長かったような、短かったような」

「まぁ、小学生が終わっても中学ではどうせ一緒なんだろうけどな」

 

 

 卒業証書を手に、相棒と帰路を歩く。

 

 桜の花が散る中を歩く、というのは意外に珍しいことらしい。

 早咲きか冬咲きか知らないけど、一般的な桜の花では卒業式の時にはまだつぼみ、ということのほうが多いのだそうで。

 なので、卒業の日に桜の花を見るというのは、わりと貴重な経験なのだそうだ。

 

 

「それを聞いて、俺はどういう反応をすればいいんだ?」

「めずらしー、すごーい。……とかでいいんじゃないか?」

「ええ……」

 

 

 みたいな話をしてみたら、相棒からの反応は芳しくなかった。

 ……特別な卒業の日として、思い出に残るんじゃないか、なんて思ったのだが、そのあたりは相棒的にピンと来ない感覚だったようだ。

 

 ……むう、仕方ない。

 じゃあ否が応でも特別な卒業の日にしてやるとしよう。

 並んで歩いていたのを意図的に崩して、ちょっと駆け出して彼の前に進み、反転してその顔を覗き込む。

 少したじろいだ彼に笑って、一つ俺からのお知らせを告げる。

 

 

「はい、残念なお知らせがありまーす。……いや、君に取っては嬉しいお知らせかな?」

「なんだ唐突に、まさかあれの話か?」

「おっ、なんだ相棒、わかってんじゃーん」

 

 

 察しのよい相棒の姿に思わず笑みが浮かぶ。

 ……ことあるごとに彼にはこちらの期待を投げ付けて来たからなぁ、すっかり覚えてくれて()としてはとても嬉しい。

 ……嬉しいと同時、ちょっと寂しくもある。

 彼のそんな姿も、しばらくの間は見れないんだとすれば、……ちょっとくらいは、名残惜しくもある。

 いやまぁ、そうやって名残惜しいとか言ってるといつまで経っても俺消えられないので、時には心を鬼にして決断しなきゃいけないこともあるわけだけど。

 

 

「……鬼もなにも、お前はずっと自分勝手にやってたじゃねぇか」

「いえいえ。結局目標は果たせずじまい、こうして逃げの一手しか打てない情けない奴ですよ俺は」

「逃げの、一手?」

 

 

 相棒がオウムのように言葉を返してくるので、そうだと深く頷く。

 そう、逃げの一手。

 直接的にも間接的にも自殺を封じられた俺は、仕方がないので遠回しに自分を削るという方向にシフトしていた。

 と言っても、不要な自分と切り換える為の()の作成っていう、ちょっとなに言ってるのかわかんないって返されそうな方向に、だけど。

 

 

「ずっとお前が言ってたやつか」

「そうそう。……いや、ホント大変だったんだぞ?」

 

 

 具体的にはお前の好みとかタイプとか好きなものとか。

 ……全くわかんなくて、結局なんかこういい感じに、みたいなだいぶあれな感じになったけど!

 いや、俺にそういうことさせるんじゃねーよとしか言えねぇですわ。まぁ、これからは()がそのあたりを頑張ってくれるんだけど。

 

 

「私?」

「そ、私。……いや、別に俺と完全に別人って訳でもないんだがな?知識とか記憶とか、持ってたら宜しくない部分に関しては、俺と一緒に沈めておくつもりだし」

 

 

 逆に言えば、前世があるとか生まれてから今までの記憶とか、特に問題ない部分はそのままにしておくつもりだし。

 基本的には男女(陰陽)を入れ換える、以上の意味はないのだ。

 

 

「『陰中の陽、陽中の陰』と『全は一、一は全』の組み合わせになるのかね?全体を占める男性性、その中の女性性を拡大して反転し、元の男性性を『陰中の陽』にする、というか」

「…………?」

「あ、すまん。わからんか流石に。……まぁ、今まで通りでほとんど変わらんよ。男と女だと見るところが違うっていうから、俺とはちょっとずれるかもしれないけれど」

 

 

 まぁ、最終的にはそのズレを広げて、俺を消し去ってくれるくらいに強く大きく育って欲しい訳ではあるのだが。

 それを目の前の彼に言っても、よくわからないと返されるだけだろう。だから、俺から告げるのは一つだけ。

 

 

「さよならだ、相棒。できれば、二度と会わないことを願ってるぜ」

「…………」

「なんだよ、折角別れの挨拶をしてるんだから、せめて笑顔なり悲しむなりしてくれりゃあいいのに。……まぁ、いいや。じゃ、()を宜しく!」

 

 

 瞳を閉じれ(幕を落とせ)ば、意識は闇に沈む。

 二度と表に上がってこないようにと願いながら、代わりに浮上していく()を見送って。

 

 まぁ、悪くはなかったか。

 そんなことを思いながら、()は長い眠りについた。

 

 まぁ、誤算があったとすれば。

 男と女の視点の違いと言うものを甘く見すぎていたということ。

 ()になって初めて、この世界がなんなのか、ということの具体的な答えに至ったこと、だろうか。

 おかげさまで、こうして目覚める余地ができてしまったというのは、なんとも皮肉な話だとしか言えないだろう。……ってな。

 

 

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