百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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そうして黒は流される

 目を覚ました時、よくわからない喪失感に涙が溢れた。

 ……何を失ったのかもわからない、本当にそれが悲しいことなのかもわからない。

 だけど、涙だけは滔々と流れるものだから、よくわからないまま涙を拭って。

 

 

「ほれ、ハンカチ」

「え、あ、はい。ありがと」

 

 

 差し出されたハンカチを手に取って、いつの間にかぐしゃぐしゃになっていた顔を拭う。

 ある程度濡れていたのを拭い終わって、貸して貰ったハンカチをどうしたらいいだろう、と顔を上げて。

 

 

「……え、天使?」

「はぁ?」

 

 

 視界に入った相手があまりにも可愛すぎて、()は思わず声を溢していたのでした。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「すいません、一つ聞いてもいいですか?」

「ん、なんだ?」

 

 

 秋山からの告白を皆が聞いたあと、再び()についての話を続けていたのだが。

 栗花落が、なんとも言えない表情でこちらを見詰めている。

 ……ふむ、なにかおかしなところでもあっただろうか?

 そんな風に尋ね返すと、彼女は「いやまぁ、多分そのままなのでしょうけど」とぼやき。

 

 

「もしかして堀ノ内先輩、その時女装ですか?」

「ああ、なんかいつの間にか女性用の制服に変えられててな、仕方ないからそのまま」

「先輩、幾らなんでも女装に対して無頓着過ぎでは?」

「まぁ、今の世界でも珍しいくらい自然に着るわよね、貴方」

「一切の躊躇が見えないのは、なかなか珍しいですわね」

「……え?」

 

 

 え?なんで俺が変みたいな話になってるんだ?

 そんな感じに周囲を見渡せば、話を聞いていたメンバーはみんな、こちらを温かい目で見詰めていた。

 ……いやいや。そんな馬鹿な。珍獣扱いはアイツの十八番だろ?

 

 

「今さらながらに改めて実感しましたが、この二人割れ鍋に綴じ蓋以外の何物でもないですね!」

「そりゃあこれだけ噛み合うはずというか」

「寧ろなんで途中まで付き合って無かったのでしょう?」

「おい待てお前ら、好き勝手言いすぎだろいくらなんでも」

 

 

 そんな俺の困惑は、遠回しにお前(堀ノ内晃)アイツ(東山桐依)と同じだよ、と言われることによって深まっていく。

 ……いや、なんでさ。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 主導権が()に渡されてからしばらくは、てんてこ舞いの日々だった。

 

 いやまぁ、当時の私は言うなれば、小学校卒業した日の体に突然憑依させられたようなものだったわけで。

 前世の記憶の一部に欠けこそあったものの、その他の基本的な現代の常識とか世界観は思い出せた(記憶にあった)から、生活に困るとかそういうことはなかったんだけど。

 代わりに、交代前の彼が気付いていなかったことに、私は気付いてしまったのだ。

 ……そう。この世界、前世でやってた百合ゲーじゃね?……と。

 

 それからは「なんでこんなあからさまに主要キャラとか居るのに気付いてないの()!?」みたいなテンションになったのと、彼から「何をすればいいのか」とかを全然渡されていなかったのも合わさって、とりあえず「百合の王になればいいんだな!?」みたいな感じで突き進むことにした私なのであった。

 ……まぁ、それはそれで「あれ、私主人公ポジの子じゃね?」みたいな気付きも加わって、変に拗れる火種にもなったわけなのですが。

 

 意識が切り替わった時に、初めて目にした美少女()

 それによって芋づる式に起きた記憶のフラッシュバックと、今まで目にしてきた主要人物達の姿。

 

 ……転生したこの世界が百合の花咲く世界だと確信して、目の前の娘に一目惚れっぽいことして。

 彼女に負けないくらいの女の子になろう、なんて決心して、自分磨きを開始して。

 

 時々遊びに行った時に彼女が男の子(普通)の格好をしてても、「あ、ボーイッシュな子なんだな」なんて変な納得してみたり。

 ……晃って名前が男女どっちでも大丈夫なやつだから、中学上がってもしばらく勘違いしてたりして。

 

 それがある日、たまたま晃の家に遊びに行った時に、彼が着替えてる真っ最中に出くわして、そこで初めて「晃って、男!?」と気付いて。

 ……そうして漸く「ゲームの友人ポジ」(女だと思ってたから除外してた役)と彼が結び付いて、さらには可愛い女の子だと思ってたのに!っていうショックも混ざって、完全に私が(主人公)にひっくり返ったわけなのでした。

 ……我がことながら、なんだこの言い掛かりみたいな人格分裂。

 

 ……つい先日まで晃、晃って読んでた仲の良い女の子が、なんか知らんけど唐突に同胞とか幼馴染み、とかみたいな呼び方に変わった時の、彼の心のダメージがどれほどだったのかはわからない。……ってか、途中でちゃんと名前呼べってキレてたのこれが原因でしょたぶん。

 

 まぁ、私だって私を()に棚上げしてしまうくらいにダメージ受けたんですけどね?……その結果として、ずっと底に沈んでいるはずの()の目覚めにも繋がっちゃったわけですが。

 いや()もまぁ、そんな起こされかたをするとは思ってなかったんだろうけど。

 

 ……誰が想像できようか、自分の中の女性性()に任せて沈んだはずの男性性()が、まさか残してきた女性性()が勝手に男役()女役()に別れてわちゃわちゃしだすなんてことを。

 ──同じ色()が生まれてしまったせいで、自分が一緒に持っていったはずの記憶まで、引っ張り出されてしまうだなんてことを。

 

 

「……まさにパーフェクト桐依に至る為の最終試練……なんて、()からしてみればその程度の話なんだけども」

 

 

 それを()が納得するかどうかはまた別の話。

 

 いやまぁ?久しぶりに起こされて、()がなにをやってきたのかとか、今さらながらに見聞して。

 その結果、勝手に他人(自分)の口を使ってなにやら喋ってたあたり、どういう心境なのかはなんとなく察しは付くけどさ。

 

 知識は共有できても、互いになに考えてるかまでは共有できないのが、なんとももどかしい。……それですぐに終わる話なのに。

 しばらく沈んでたせいで、本当に二重人格じみたことになってるのは、笑えばいいのかなんなのか。

 

 ……まぁ、いいや。

 考えはわからずとも、なにをしようとしているのかはわかる。

 どうせ()()()()()()()()()()()()()とか、そんなあれだろう。

 

 ──なので、好きにさせる。

 どうせ、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 なら、好きにさせてやるのが一番だろう。

 

 

「んじゃま、頑張ってね()。次()が起きた時、全部ちゃんと終わらせといてね」

 

 

 そんなことを呟きながら、目蓋を閉じて。

 

 

「───終わらせるとも、今度こそ」

 

 

 そんなことを呟きながら、目蓋を上げた。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 次の日。

 

 

「えと、気を付けてね?」

「大丈夫だよお母さん、心配症なんだから」

 

 

 こちらを案ずるように声をあげる母に心配ないと返して、玄関から外に出る。

 今日からしばらくこんな感じが続くので、母には早めに慣れて貰いたいものだ。

 そんなことを思いながら、いつものように幼馴染みとの待ち合わせの場所まで走って行って。

 

 

「やっほー、晃。おまた、せ?」

 

 

 そこで待っていた人物の姿に、思わず硬直した。

 ……いや、いやいやいや?なんで?

 

 

「おう、遅かったな桐依。恋人を寒空の下で待たせるのはスマートじゃないぞ?」

「いや、なん、ちょっ、待て!とにかく待て相棒!」

「いや、化けの皮剥がれるの早すぎだろお前」

 

 

 待ち合わせのポストの前。

 いつもなら、そこで立って待っているはずの彼は、近くのフェンスに腰を掛け、吐いた息で両手を暖めながらこちらを待っていた。

 それだけならまぁ、わからないでもない。俺も前世では人を待つ時に近くの石とかに腰を下ろしてたことあったし。

 ──だから問題は、彼の格好のほう。

 

 

「ふ、ふざけんなテメェ!?なんだその『彼氏を待ってた女の子スタイル』はっ!?」

「お前だって学ラン着てるじゃねぇか?」

「ちげぇよ!俺のとお前のじゃ意味がちげぇんだよ!?」

 

 

 ブレザーミニスカ黒タイツに、髪型も髪留めで可愛くアレンジしている相棒。……最初みたとき人違いかと思ったわ!声で相棒だってわかったけど!

 こっちの服装は学ランとズボンに、髪は後ろで邪魔にならないように括ることで男性っぽくしているせいで、なんか単に服装交換したみたいになってるし!?

 

 

「ま、話はおいおいってことで、ん」

「あ?なんだその手は」

「……握って?」

「は、はぁ?!」

 

 

 相棒が手をこちらに伸ばして、握るように要求してくる。……いや、彼女かよ。…………彼氏ではあったわ。

 いやでも、いや、なんだこれ?

 思わず混乱しつつ、相棒の手を取ると、彼はこちらの腕を引っ張りながら立ち上がる。

 ……いや、それ普通()がやるやつ……って違う!いいんだよ一応!なんでこうなってるのかわかんねぇけど!

 

 

「ん、どした桐依?」

「どうしたはこっちの台詞だよ……わかっててやってんなテメー」

「なんのことやら。ほら、刻遠野も待ってるんだから行くぞ」

「あ?……あー、転校生か。なんだよ、二人きりかと思ってたんだが」

 

 

 相棒に促され、ポストの前から歩き出す。

 ……いや、しかしだな?俺、これからどう動けばいい?当初の予定最初っから瓦解したんだが。

 

 

「オー!お久しぶりデース!覚えてマスカー!?」

「は?」

「………っ」

 

 

 そうして歩いていった先には、先、には?

 いや、いやいや?なんでこいつ、小学生の時と同じ喋り方なんだ?

 ますます困惑する俺の前に現れたのは、エセ臭いカタコト日本語を喋りつつ、こちらに大きく手を振りながら近付いてくる転校生(刻遠野)

 それと、()は面識のない後輩の栗花落、だったか。

 

 二人がこちらに合流して、そのまま刻遠野が空いてる相棒の手を取った。

 

 

「堀ノ内サン!手を繋ぎマショー!」

「はいはい」

「朝からお二人は仲が良いですね!」

 

 

 ……????

 いやホントになにこれ?俺はなに見せられてるの?

 なんか女の子同士みたいに仲良く手を繋いで歩き始めたんだけど、俺の反対側で。

 それと栗花落は、俺の周囲をくるくる回りながらへーとかほーとか頷いている。

 ……なんだよこの状況。マジで意味わからないんだけど。

 

 

「あ、おはよう。元気してた?」

「センセーおはよーござマース!」

「……いや、いやいやいや?ホントにどうなってんだこれ?」

 

 

 なんて言ってたら、校門で生徒達の服装チェックをしていた都乃葉姉までおかしかった。……いや、()の記憶が正しいなら、アンタもうちょっと暗い感じになってただろ!?

 

 そんな感じに、クラスにたどり着くまで俺の困惑は積み重なって行くのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「……計画通り。次の段階に移行する」

 

 

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