百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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流れる先に道はあり

「いや、まったくもって意味がわからん……」

「いつまで言ってるんだよお前」

 

 

 昼食の時間、頭を抱えて机に突っ伏す幼馴染み()の姿を見ながら、俺は密かにガッツポーズをしていた。

 まさかのカタコトエセボイスで驚愕させた刻遠野や、胡散臭いムーブを投げ捨てた先生。

 そしていろいろかなぐり捨ててイマドキJK()を演じる俺による意味不トライブリッツ(三連突撃)は、うまいこと彼の困惑を引き出すことに成功したようだった。

 そのあとは久しぶりに生意気系お嬢様ムーブで彼に突っ掛かった西内による追撃も入っていたので、暫くはまともに思考することもできまい。

 

 まぁ、代わりに約二名ほど死にそうなのを必死に堪えているわけなのだが。

 無論、その二人というのは……。

 

 

(……誰か私を殺してちょうだい……生き恥に恥を上塗りするとか、最早公開処刑以外の何物でもないでしょこれは……)

(私今理解しました、これは私の今までの所業に対する相応の罰だと言うことを。それを理解した上で願います。──無駄に辱めるくらいなら一思いに殺して下さいまし……)

 

 

 表情はそれぞれ笑顔とムッとしたものだが、その目が完全に死んでいる。

 ……あれは内面で酷いことになっているやつだ、俺にはわかる。

 わかる上で、暫くの間その責め苦の中で生活するしかない彼女達には、同情するほかない。まぁ、できるのは同情だけなのだが。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「しかし、()が帰ってきたんだとして……俺達はどうすればいいんだろうな?」

 

 

 あれこれと長かった過去語りも終わり、部室内には暫しの静寂が訪れていた。

 死にたがりの彼、彼女に任せて沈んでいったはずの彼。その再びの来訪を受け、俺達はどうすればいいのか。

 皆が対応を考慮する中、手を上げる者が一人。

 

 

「私に考えがある」

 

 

 そう声を上げたのは、先程まで単なる聞き手として静かに座っていた在原だった。

 ……そういえばお前、栗花落よりも更に空気になってたな……。

 なんて風に思っていたのだが、彼女は最初から普通の喋り方をしていた。……どうにも、いつもとは調子が違うらしい。

 

 

「……思えば、私はこの時のためにこの部活に所属したのかも知れない」

「結花ちゃん?一体何を」

「私の事情は後回し。今は部長について」

「は、はい?」

 

 

 なにやら決意に満ちた瞳をした彼女は、俺達の視線を受けながら席を立ち、ホワイトボードを引っ張ってきて何事かを記入し始める。

 数分後、ホワイトボードに書かれたのは──、

 

 

「『部長補完計画』……?」

「それ怒られるやつでは?」

「補完の意味的にこうなった、特に何か含みがあるわけではないので勘違いしないで」

「あ、はい」

 

 

 文字の並びというかなんと言うかがちょっと危ないような?

 なんて思ったのだが、補完(足りないところを補う)為のものなのでこれであっているのだ、と言われてしまうとこちらも文句を付けるわけにもいかず。……いや、別に文句を付けたいわけでもないけども。

 

 こちらの反応を気にせず、彼女はその題目の下にするべきことをリストアップしていく。

 ……内容的に、彼を押し留めようとしている感じだろうか?

 

 

()は恐らく短絡的な思考に陥っていると思われる。更に、この事態の解決に関しては()()の手は借りられない」

「それは何故なのですか?」

「ある意味、愛。それと、信頼?」

「は、はぁ?」

 

 

 あ、愛?信頼?

 ……よくわからんが、桐依に協力の意思はない、と?

 そう問いかければ、在原は「恐らくは、だけど」と頷いていた。

 ……なんで彼女がそんなことを知っているのかという疑問はあるが、とりあえず彼女に協力の意思はなさそうと言うのは俺にもわかる。

 協力する気があるのなら、端から()を説き伏せているだろう。それがないということは、恐らくだが……。

 

 

「……ああ、確かに信頼とか愛とかになるのか、これ」

「ん、先輩は話が早い。なので、これに関しては私達でどうにかしないといけない」

 

 

 俺が納得したように頷くと、在原もうんうんと頷いていた。

 ……まぁ、俺達だけで勝手に納得した形になっているので、周囲のみんなはちんぷんかんぷんって感じだが。

 特に栗花落がどうして二人だけでわかり合ってるんです!?みたいな目で見てきているし。

 とはいえ、これの説明ってのも難しい。とりあえず置いといて、作戦について話を進めることにしよう、と周囲に提案する。

 

 

「……いえ、そもそも秋山さんの話についても、ちょっと理解の及んでいないところがあるのですが……」

「彼女の話については前提。……というか、彼女がそれを話したからこそ私も動く気になった」

「え、ってことはゆーちゃん知ってる側なの?!」

「その理解で間違いない。なので、私のしたいことはわかって貰えると思う」

「ひぇー、マジで言ってるのそれ?!……いや、でもそうじゃなきゃ意味ないか」

「すみません、勝手に納得するのは止めて下さい!ただでさえ私だけ蚊帳の外なの確実化してきてるんですよ!?これじゃ私ただの可愛い後輩なんですけど!?」

「え?」

「え?……じゃないですよバカーっ!!」

 

 

 そんな感じに、一人だけ本当に特になにもないことが確定してしまって、あれこれ喚く栗花落を皆で宥めながら、件の作戦は開始するのであった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 ──古くはジキル&ハイド氏も似たようなことを行おうとしました。

 己の中にあるものの分離、そして排斥。

 しかし、人の意思というものは複雑怪奇なもの。

 不必要と切り捨てようとすれば、必ず己に牙を剥くモノなのです。

 

 

「それをわからぬわけでもないはずなのに、彼はそれを為そうとしている。『陰中の陽、陽中の陰』を例に出す以上、中の陰陽は、決して失われるものではないと知っているはずだと言うのに」

 

 

 太極図に代表されるその考え方は、白と黒は決して切り離せぬものであることを示すものでもある。

 

 どちらも単なる色のことではなく、白は陽・良きもの・男性性などを表し、黒は陰・悪しきもの・女性性などを表す。

 善き行いの中にも悪しきものはあり、悪しき行いの中にも善行と呼べるものがある。

 男性であっても女性のような見方をすることはあるし、女性であっても男性のようなモノを好むことはある。

 

 そういった、単なる二元論では語れないものを示す概念。

 それを例えに出す以上、彼にも自分を切り捨てることの意味はわかっているはず。

 ──それでもなお、彼がそれを希求するのは、恐らく。

 

 

「そうまでして、切り捨てたいものがあるから」

 

 

 そして、それを覆そうとするのならば。

 切り捨てる必要などないのだと、彼に示さなければならない。

 なれば、答えは単純明快。そして、それを為せる者もまた、単純明快。

 

 

「向こうも、今はまだ余裕を持って動くでしょう。──最大にして最悪の時を迎える為に、困惑しながらも、今はまだ焦りを見せることはないはず」

 

 

 ゆえに、こちらも積み上げる。

 彼に反論などさせないように、必要なものを集めていく。

 その為に、その為だけに。

 

 

「──私は、ここにいる」

 

 

 そんなことを嘯いて。

 彼女は一人、離れた場所から彼女達のやり取りを見守っているのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「ほい、あーん」

「いや待て、なんであーんなんだっていうか、そもそもなんでお前が飯作ってるんだよ!?」

「……?昼飯だって俺の手製だったろ?」

「いやそうだけど!……いやそれも大概おかしいけどもだ!俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな?!」

 

 

 食卓に並べられた、栄養バランスまでしっかり考えられた()()のおかずを前にして、俺が困惑するのは無理もないとわかって貰えると思う。

 

 ……いや、なんで相棒、うちに来て飯作ってるんですかね?

 通い妻?通い妻だったのお前?!っていうかそういうことしたの俺が出てきてからだよね!?

 前()の記憶で見た男にナンパされた時のあれ、わりと嬉しそうに見えたのは間違いじゃなかったりすんのもしかして?!

 

 

「もう、俺の口から言わせるなよ──バカ」

「ちーがーうーだーろー!!?そーれーはーわーたーしーのーいーうーせーりーふー!!!」

「モー、貴方はイツモ話が長いデース!ご飯冷めちゃいマスヨー!!」

「いやそもそもなんで居んの刻遠野!?ほら見ろようちの弟の困惑っぷりを!!いつぞやかに出会った素敵なお姉さんが唐突にイロモノになってビックリしてるじゃねぇか!?」

「いや、これはこれでいいと思うよ?」

「弟ー!?ふざけ、正気に戻れバカ!()の時も思ったけど正直お前さんの将来が心配で心配で仕方ないんだけど?!」

「あら、いいお兄ちゃんね」

「ちーがーいーまーすー!!俺はお姉ちゃんですぅー!!」

 

 

 料理について聞いたら相棒が頬を染めながらそっぽを向くし、かと思えば唐突に刻遠野と都乃葉姉が夕食にお呼ばれしに来てるし!

 まさかと思って母を見れば、招き入れたのどうやらこの人だし!

 弟もなんか変なテンションだしで、これ俺のツッコミできる許容量越えかけてるんですけどぉ!?

 

 

「まぁまぁ。とりあえず、いただきますしましょ?」

「賛成デース!お腹ペコペコなのデ、早速いただきマショー!」

「今日のは自信作だから、味わって食べてくれよー」

「……ツッコまん、俺はツッコまないからな……」

 

 

 変なテンションでサラダを器に盛り始めた刻遠野を横目に、いただきますの挨拶をして焼き魚に箸を伸ばす。

 ……焼き鮭か、味噌汁と白米があればわりとこれだけで満足だよなぁ、なんて思いながら箸を入れて一口。

 

 

「……嫁に欲しい」

「嫁だぞ?」

「……独り言に反応すんな。いや、冗談置いといてお前どこ目指してんの一体?」

 

 

 炊事洗濯掃除と家事全般得意らしいのは知っていたが、それにしたって限度があるような気がする。

 そんなこっちの思いを知ってか知らずか、彼はにっこりと笑ってこちらを見ていた。

 ……いや、なんだよその微笑みは。

 

 

「いや別に?ただ……」

「ただ?」

「幸せ、ってこういうこと言うんだろうな、ってな」

「やめろー!幸せそうな女の子みたいな台詞はやめろー!」

 

 

 お前は俺をどうしたいんだよ!

 そんな言葉は聞き流され、夕食の時間は過ぎていくのであった。

 

 

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