百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
戻ってきた彼に対する逆侵攻作戦、『桐依補完計画』は順調に進んでいた。
彼は頑なに男装で居るが、それに合わせて俺もずっと女装である。
……母親が大喜びで服を持ってくるんだが、この作戦が終わった後が今から怖くて仕方がない。
刻遠野もいい加減エセ日本語にも慣れたというか、いい加減吹っ切れたというかで、今では元気に彼に突撃する日々だ、
……まぁ、クラスメイトからの視線がいい加減辛そうでもあったが。
どうしたの?と聞かれるたびについ普通の言葉を返そうとして、一度不自然に止まって言い直す姿は哀愁すら漂っている。
西内は、俺達とは別のクラスなのでダメージは少ない……ように見えて、そもそも喧嘩腰で彼に挑むこと自体が胃にダメージを与えているので、正直大差ないと思われる。
その他のメンバーは、大体いつも通り。
先生なんかは暗躍を止めたせいか、いつもより健康そうに見える始末だった。
さて、日付はそんな日々にいい加減慣れ始めた十二月の初旬。
部室にて、クリスマスはどうするかということについての会議になった日のことだった。
「えー、というわけで。今年は部室でパーティをすることに決まったわけなんだが」
室内をぐるりと見渡せば、部員たちがこちらに視線を向けているのがわかる。
早いものでそろそろひと月、こいつらとの付き合い方も次第にわかってきたというか、わからされてきたというか……。
そんなことを思いつつ、背後のホワイトボードに視線を変える。
……クリスマス、ねぇ?
「基本的にはパーティか。……それとプレゼント交換?」
「ビンゴとかボドゲも予定にありますよ!」
「……つっても、基本的にはそんなもんだけどな。別に聖歌をみんなで歌うとかってわけでもないし」
「日本のクリスマスは単なるパーティデスものネー」
「それでいいのよ、基本的には騒ぐ場があればいい、位のものでしかないんだから」
「先生、あまりにも身も蓋もない話をするのはどうかと」
「あら、ごめんなさいね」
「……柳瀬さんたちも呼ぶかー」
……みんな好き勝手話してやがるが、ちょっと待て相棒。柳瀬って確か、いらんこと言って俺の目覚めを誘発したやつだよな?
なるほどなるほど、お礼参りしろってことだな?いいぜ、乗ってやるよその誘いに……!
「いや誰もそんなこと言ってな……聞いてねーなあれ。……栗花落もお兄さん呼ぶか?」
「いいんですか?うちの兄がお邪魔しても」
「パーティなんだし、参加者が多いほうが楽しいだろ?料理なら俺が準備するし、安心して誘ってくれ」
「わかりました!堀ノ内先輩のご厚意に甘えさせていただきます!」
なんか後輩と相棒がなにやら話しているが関係なし。
待ってろよ柳瀬栞、クリスマスが貴様の命日になるんだぜっへっへっ……!!
変なテンションになってんなこいつ、なんて思いながら他のメンバーと一緒にパーティの仔細について纏めていく。
さっき刻遠野も言っていたが、日本のクリスマスというのはほぼ単なるパーティ……即ち食事会である。
一応ビンゴ大会とかプレゼント交換みたいなものもあるけれど、その本質は仲間内で集まってご飯を食べることに尽きる。
ターキーを準備するのは手間なのでチキンを焼くとして、ケーキやらその他の食事やら、基本的には調理役の負担が大きいイベントだと言えるだろう。
まぁ、俺は料理をするのはわりと好きなので、そこらへんを苦に思うことはないわけだが、それでも時間というものは有限である。
「と、いうことで、ケーキは流石に頼もうと思ってるわけなんだが……」
「あ、はい!うちの知り合いにいいお店があるので、そこに頼むのはどうでしょう?」
「ちなみにお値段は?」
「お得意様価格になるので普通のケーキ屋のケーキと変わりませんよ?」
「採用、やっぱり持つべきものは人脈だよな」
「わーい、褒められました!」
「……これは褒めているのかしら……?」
ケーキを手作りするのは流石に骨が折れるな、と思った俺が口に出すと、すかさず栗花落が手を上げて提案をしてくる。
……いや、ホントに栗花落の人脈は凄いと言わざるを得ない。
一応こいつ自身は和菓子のほうが好きなはずなのだが、洋菓子出であってもいい店を幾つも知っているあたり、流石名家のお嬢様と言うか。
普段はそういうこと一切感じさせないが、こういう時は本当に頼りになるなぁと思う。
「ふっふっふっ!もっと褒めてくださってもいいんですよ堀ノ内先輩!」
「ああ、凄いぞ栗花落!お前はやればできる子だ!すごい子!強い子!」
「……いや、相棒?強い子は違くないか?」
「?どうした桐依、リベンジというかアヴェンジというかの予定は纏まったのか?」
「いやまだだけど……なんつーか、その格好になってからお前、いつもより部活メンバーとのスキンシップ増えてないか?」
「……そうか?」
「どうでしょうね?あ、でも私からよく抱きつくようにはなったかも知れません!その姿の先輩、いい香りがするので!」
「ああ、コロンとか付けてるしな。今日のは柑橘系だったか」
「爽やかな感じがシマスネー。よくお似合いデスヨー」
「おう、ありがとな」
なんて感じにきゃいきゃい話していたら、桐依がこっちに近寄ってきていた。
俺と栗花落が仲良さそう、みたいなことを言ってくるので、軽くとぼけておく。
そのまま、俺の付けているコロンの話に話題が移った。
こういう格好をしていると匂いにも気を使うように、と母親からレクチャーを受けた俺は、基本的に毎日付ける香りを変えているのだった。
それを伝えると、周囲がまたきゃいきゃいと寄ってくる。……微妙に蚊帳の外になった彼は、どうしたものかと思案しているようだった。
「あー、そのだな?俺にもそのコロンの売ってる店、教えてもらっても?」
「……お前、コロン付けるのか?」
「いや、俺が付けるんじゃなくて……ああもう、後学のためだよ後学のためっ!!」
「ふーん?じゃ、今度の休みにでも見に行くか?」
「は?……あ、いや、頼む」
なので、彼のお願いにあっさり頷いてやると、彼は一瞬とても間の抜けた表情を浮かべたのち、微妙に納得できてないような空気を滲ませながらこちらの言葉に了承を返してくる。
……まぁ、大方こっちの行動に振り回されている
…………そもそも。
こうなるのもまた、作戦のうちなのだから。
「彼の最終目標は自身の喪失。但し、それに付随して『桐依を巻き添えにはしたくない』というものも含まれている」
「……えっと、つまり
「より正確に言えば、
在原が語るところによれば、彼が自身を殺そうとしているのは、本質的には彼の前世の記憶のせい、なのだという。
そしてそれは、記憶であるが同時にパンドラの箱のようなものでもあると。
「中身が外に出ていることが好ましくない。だから、とりあえず彼はその
「だから、箱をどうにかしようとする限り、彼は必ず居なくなることを選ばなければならない、と」
「んー、秋山の話を聞いて箱の中身がどういうモノかを知れたのはいいけど、同時に俺達には箱の中身をどうにかできたりはしないってことも明確になっちまったのがなぁ……」
箱をなくす必要性がなければ、あんまり悩む必要もなかったのだが。
こうなってくるとなかなか、どうしたものかと思考が詰まってしまう。
……なんてことを考えていたら、在原がくすくすと笑っていた。いや、笑うとこあったか?なんて俺達が顔を見合わせていると、彼女は笑顔のまま俺を指差して。
「方向性は間違ってない。箱の中身をどうにかする、というのは、即ち
「……ということは」
彼女はこちらの言葉に頷いて、ホワイトボードにまた何事かを書き記していく。
そこに書かれたのは、『重要なのは中身ではなく外見』という言葉。
「
そうして、俺達の作戦は開始したのだった。
「まぁ、そのあたりの話はまた今度の休みにするとして」
「おやつタイムですよー!」
相棒が手を叩くと、どこからともなく三人ほどの人影が室内に入ってくる。
……ええと、確か生徒会役員の生徒たちだっけ?なんか忍者みたいな機動力を持ってるって聞いたけど。
そんな彼等は、各々が一つ、白い紙箱を持っていた。中身は見えない、完全なブラインド状態の箱だ。……まぁ、多分ケーキの入っている箱だとは思うが。
「今回はロシアンケーキだ」
「別にからしとかわさびとかは入っていませんが、中身は種類が違うので好きな生徒会役員さんの前に並んでくださーい!」
「一応当たり枠とハズレ枠がありますわ。さぁ、桐依さん、勝負ですわ!ルールは簡単、当たりを引いたものの勝ち!先行は譲りますわ、存分にお悩みくださいませ!」
「ま、また藪から棒に……!」
ここで西内からの勝負が飛んでくるとは思わなかった。
……いや、辛いとかでもないのに当たりとかハズレとかなんなんだよ感半端ないわけだが。
とはいえ、手を抜くと怒るので俺も真剣に…………いや、ランダム系で手を抜くもなにもないだろ実際……。
なんてことを思いつつ、とりあえず右端の役員の前へ。
他のみんなも適当?真剣?に悩んでそれぞれの役員の前に並んだようで。
それを確認した役員たちが、箱の蓋を開ける。
……右端から苺のショートケーキ・チーズケーキ・モンブランが中に入っていた。
そして彼等が掲げるプラカード。……ああ、なるほど。
「右端の苺のショートケーキが一番高い品でしたか……今回は私の負けのようですわね」
「あー、そのことなんだが。……俺チーズケーキの方が好きなんで変えてもらっても?」
「……なら、引き分けですわね」
勝負内容は、一番高いケーキを引き当てたものの勝ち、という非常にシンプルなものだった。
……ただまぁ、どれだけ高かろうと、好きなものに勝てる道理もなく。
その旨を西内に伝えると、彼女は苦笑した後にこちらのショートケーキと、自身の選んだチーズケーキを交換して。
「ほれ、紅茶」
「あいよ、どうも相棒」
相棒から熱い紅茶を受け取って、ティータイムを楽しむ俺達。
……さて、こういうのどうなんだろうな、なんて苦笑する俺を見て、不思議そうに首を傾げる相棒がちょっと面白かった、ということだけは伝えておこう。