百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
はてさて、昨日の云々はとりあえずおいといて。
今日は土曜日、健全な学生諸君はお休みの日である。
……え?サービス業とか観光業とかの人には休みはない?私は学生なので知らなーい。
「おはよーお母さん、今日はお昼いらないからー」
「んー?なになにどっか行くの?お土産よろしくねー」
「はいはーい」
キッチンで朝食を用意する母に、昼間はいないことを伝えながら、トーストにバターを塗ってがぶり。
……うむ、いつもの落ち着く小麦の風味と、バターの濃厚さだ。
基本お米のほうが好きな私だけど、トーストした食パンは、それはそれでおいしいよね。
それとは別の皿に盛り付けられた、こんがり焼かれたベーコンと、しっかり固くなるまで熱せられた目玉焼き。……醤油を掛けるのもいいけど、私は調味料なしでも美味しく頂ける質なのでそのままパクリ。
うんうん、ご機嫌な朝御飯って感じだ。
「……姉ちゃんって、なんでも美味しそうに食べるよな」
「子供舌だからねー。基本的に嫌いなものはないのさ」
前世からの縁で貝だけダメだけどね!
……小学校の給食で出る、クラムチャウダーのアサリでノックアウトされてから、貝類全部嫌いになったんだよね、へへへ。
八宝菜に入ってるエビも、時々貝っぽい味がする時があって苦手だねぇ、エビフライとかは好きなんだけど。
……って、誰も喜ばないだろう私の味の好みは置いといて。
なんか目の前で呆れたような視線を向けてくるのは、うちの弟である。
まだ小学生なので、姉に対しても変に反抗期でもない、普通にかわいい弟である。……歳を取ると、邪険に扱われるのかねぇ?
「んー、まぁそれはそれでいいと思うけどねー」
「唐突になに言ってるのさ姉ちゃん……」
反抗期がないと逆に拗れたりするから、個人的にはちゃんと反抗期には入って欲しいものだけど。……まぁ、今から弟の先行きを気にするのもあれかな?
なんてことは表に出さず、弟の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
やーめーろーよーと言っているが、言うほど嫌がっているわけでもなさそうなので暫く相手をしてあげた。
いい加減に怒りそうなタイミングを見計らって、撫でていた手を離してそのままごちそうさま。
自身の部屋にとんぼ返りして、身支度の準備。
……前世では男だった私は、女性の諸々のケアの大変さについては、ほとんど又聞きで──又聞きであったとしても色々大変だと知っていたので、こうして女性になって、わりと戦々恐々としていたのだけれど。
なんとまぁ、この世界だとそのあたりも、かなり便利になっていた。
その理由は今私が座った化粧台。
こやつはこの世界の科学の粋を結集して作成された超ハイテク化粧台で、なんと全自動かつ迅速に、スキンケアから日焼け止め・化粧の下地に、ファンデーションとフェイスパウダーのような基礎部分から、果ては眉毛や睫毛を整えたり描き足したりまで──をやってくれる優れものなのである。……最初にパーソナル登録が必要だから基本的に個人用なんだけどね。
内蔵された小型カメラによって、多角度から撮影された顔データを元に、複数のフェイスパターンを作成し、それに合わせるように各種化粧品を適切に使いわけることで、朝の準備の時間を大幅に短縮する……という触れ込みで、大ヒットロングセラーになった、とある会社の売れ筋商品である。
いやね、実際五分と掛からずに全部終わるから、ほんと凄いんだよこれ。
前世でこれあったら絶対みんな買ってる、って確信できるくらい便利だし。体調悪い時は、低刺激の化粧品に自動で調整してくれるし。
……まぁ、その代わりに百合的てぇてぇ展開のお約束である、気になる相手の化粧を手伝ってあげる……というのが、この時代ではほぼ発生しなくなってしまってるわけなんだけど。一部の人が血涙流してそう(こなみ)
ま、私にとっては朝の準備が楽だ、ってほうが重要なんだけども。……いや、ちょっと手動で朝の準備してみたら、なんというかエグいことになったからさ、簡略化できるなら、そうするべきだよねって言うか……。
そんなことを思いながら、変に気取ってない程度の化粧をリクエストして、五分ほど化粧台の前で待機。
化粧が終わったらそこから離れて、自身のクローゼットから、今日のコーディネートを選んでいく。
……ふーむ、変に気合い入っててもおかしいし、普通に動きやすいのでいいかなぁ?ならショートパンツ?
……うーんパス。スカート系で膝丈くらいのがいいなぁ、ならサーキュラー?ん、じゃあ下はこれにして。
靴はブーツでしょ、上はフリルのブラウスだな。……まだちょっと肌寒いしなにか羽織るかな?ならストールでも足しとこうか。
そのまま姿見の前で服合わせ。
……うむ、美少女だとなんでも似合うから、なんかなに選んでも正解な気がしてくるなこれ……。
「いや、己の姿に甘えず!ファッションは磨き続けてこそだ!」
頭を振ってむん、と気合いを入れる。
……まぁ、今日はあと帽子を加えるか否かくらいで終わっとくけど。気合いが持続してないことについてはノーコメントで。
時間を見れば、まだ出発までは余裕がある。
……ふむ、小物選びくらいは、もう少し時間を掛けようかなぁ……。
……さて、私が一体なにをしているのか、いい加減確認しておこう。
今日は、幼馴染みとちょっと出掛けることになっていた。
へぇ、デートかよ、的な声が聞こえた気がする。……ある意味そうかも?
確か元の意味的に同性でも異性でも、とにかく連れだって出掛けるのなら、デートと呼んでたような気がするし。
なおこのデートって言葉、由来はローマである。
……いやホントにローマって色んなものに繋がってるな?流石は、全ての道はローマに通じるだけはある、というか。
「ってわけで、おまたせー」
「どういうわけだ……?いや、待ってはないけど」
玄関から外に飛び出すと、隣の家の入り口あたりで待っていた、幼馴染みの姿が目に入る。
軽い挨拶をしながら近付けば、彼もまた軽い挨拶を返してくるのだった。……その姿は女装なんだけどね!
いやいやこれには理由があるんだ!……主に私の気分が上向くという理由が!
そもそもこの世界、異性装に先入観とかないから、街中に出ても特に目立つものでもないし!
「だからって、自分の服を紙袋に詰めて突撃してくるやつがあるかよ……」
「折角連れだって出掛けるんだから、気分くらいはゆりゆりしたいんじゃい!……いや、こういうのって、薔薇で作った百合の造花って言うのか……?」
「知らねーよ……」
小さくため息を吐く幼馴染みの今の格好は、いわゆるフェミニン系のちょっとゆったりとしたもの。
……ゴスロリとかもありかなーと思ったんだけど、流石に今回は自重。やるなら、私もお揃いにするだろうから服が足りないしね。
ん?持ってるのかって?
……そりゃあるでしょ、ちょっと着てみたくなるでしょゴスロリ。少なくとも私は着たぞ、姿見の前でおお……ってなったぞ。
「いやほんと、好奇心の塊というか」
「デメリットないならとりあえず挑戦したい、やれることはやっときたいタイプの人間です」
経験は何物にも勝る宝とはよく言ったもの、特に自身の負担にならないならとにかくやってみるのが一番ってわけさ!
……あ、いらない苦労は流石の私も欲しくないんでお断りします。
「……まぁ、お前のそのあたりの情熱については、今更議論する気もねぇよ。……ほら、バスとか乗るんだろ、早くいくぞ」
「おっとそうだった。よっしゃ今日はバリバリいくぜー」
「ヤメロォ!!」
む、バリバリはダメか、反省反省。
ベッドタウンである、自身の住む街からバスに乗って暫く。
中心街にたどり着いた私達は、目的の物を探してあちこちの店を巡っていた。
「ふーむ。改まってよく見てみると、ほんと色んな人がいるものだねぇ」
「おかげで悪目立ちしなくて済む、ってのは有難いところだな」
スカートが捲れないようにベンチに腰を下ろす幼馴染みに、内心で慣れてるなぁと呟きつつ、その隣に腰掛ける私。
……いやまぁ、小学生の道徳の授業で、異性の気持ちを学ぶために異性装に着替えることがあったので、その時覚えた知識を有効活用してるだけなのかもしれないけど。……小学生?う、頭が……!
頭を振りながら視界を周囲に巡らせれば、街中を歩く多種多様な人々を認識することができる。
男性同士で恋人繋ぎしながら歩くのが見えたり、はたまた女性同士でイチャイチャしながら、ウィンドウショッピングしてるのが見えたり。
普通の男女のカップルや、よく見ると互いの性別と服装が逆っぽい男女ならぬ、女男カップルが居たり。
カップルに限定せずとも、下手な男性よりカッコいい感じの女の子や、そこらの女性よりかわいい感じの男の子なんかもいるみたいだ。
無論、いわゆる普通の人も多いんだけど。
……え、どうやって判別してるのかって?
や、声とか仕草とかは元の性別のまんまだったりするんだよねこれが。
好きな格好をして好きに過ごしてるだけだからなんだろうけど、前世の感覚がまだ残ってる私としては、よくもまぁこんな混沌とした状態で、上手く回ってるなこの世界、と困惑したりもしている。
「こういう風になったのも、わりと最近のことらしいから、地方に行くとここまでおおらかかどうかはわからないけどな」
「へぇー」
幼馴染みの解説に、改めて周囲を見渡しながら首肯を返す。
曲がりなりにも、政令指定都市を名乗ることだけはある、ということだろうか。
沈んだ顔をした人が見当たらないあたり、政府仕事してる!……ってことなんだろうか?
いやまぁ、単に見てるだけなので、偉そうなことは言えないのだけれど。
そうしてしばらく二人で街を行き交う人々を観察する。……一応、これも目的の一つだったり。
街の様子を劇の参考にしたらどうか、とは幼馴染みの言。ウケを気にするのなら、人間観察は普通に有効な手だろうと。
実際、改まって街を見ていると、意外な発見がよく起こる。
例えば、さっきの『服装に合わせた仕草をとる人は意外と少ない』なんてのは、わりと大きな発見だ。
我が幼馴染みだけ違うのかと思ってたんだけど、世間的には幼馴染みのほうが多数派である、というのは結構な驚きだった。
「……ん、とりあえず観察はこんなものでいいかな」
「お、もういいのか?」
近くのコーヒーショップで買ってきたブレンドコーヒーを、ストローでずるずると飲んでいた幼馴染みが、こちらに視線を向けてくる。
私は彼に小さく頷きを返して、自身の鞄を手にベンチから立ち上がった。
……そろそろお昼時だし、一旦観察については切り上げよう、という感じだ。
もう一つの用事に関しては午後からやるとして、とりあえずは昼食にしよう、ということを彼に伝える。
「ん、そっかもう昼か。……どこで食うよ?」
「遠出したのならジャンクに済ませるのが我がジャスティス」
「どんな正義だよそれは……」
なんてことを言いあいつつ、近くのハンバーガーショップに向かう私達なのだった。