百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
さて、日付はさらに飛んでクリスマス前日。
実は刻遠野の誕生日なので、それを先に祝うため現在あれこれと準備中である。
明日の料理の仕込みと同時進行になるので、ちょっと控えめなお祝いになってしまうということは予め謝っておいたが。
「なんというか、大体クリスマスと纏めて祝って貰うことがほとんどだったから、ちょっと新鮮な気分ね」
「まぁ、日付が近いと纏められがちだよな。……それと桐依がいないから、久しぶりに普通の口調だな」
「……ホントにね。最近はずっとあの喋り方だったから、正直こっちを忘れそうになっていたわ」
机に座った刻遠野がふぅ、とため息を吐く。
桐依がいる場合はあのキャラで居なければならないというのは、なかなかに疲れるもののようだ。
まぁ、俺は基本女装してればいいだけなので、彼女の言葉には相槌くらいしか打てないわけなのだが。
「寧ろ貴方が気にしなさ過ぎなのよ、それに関しては」
「……いや、何度か聞いてるけど、ホントにそうなのか?」
「そうよ。……小学生の時ならいざしらず、高校生になったのなら基本的には自身の性別はどちらかに決めるもの。……貴方みたいにどちらも自分、みたいな人はそうは居ないわよ」
「あ、そっちか。てっきり女装することがおかしいのかと」
「そこがおかしいなんてことになるわけ無いでしょう……」
この間からお前はおかしいと言われ続け、なにがおかしいのかと考えていたのだが。
どうにも現時点で性別をちゃんと定めていないように見えるのが、おかしさの原因だったらしい。
「じゃあ、結局桐依のせいじゃねーか」
「はい?……え、もしかしてそういうことなの?」
「それ以外になにがあるっていうんだよ……」
料理の味を確かめつつ、呆れたように刻遠野に声を掛ける。
最初から、俺がそういうことを気にしない理由は、変わっていない。
……ということを今更ながらに気付いたらしい。いやまぁ、確かに俺も口に出して明言した覚えはないから仕方ないところもあるのかも知れないが。
そんな感じにふと視線を彼女に向けると、刻遠野は額に手を当ててなんとも沈痛な面持ちをしていた。
「……その、こういうこと言うのはどうかと思うのだけど。……実は消化試合なのねこれ?」
「……否定はしない」
勝利条件の設定の仕方をミスしたのは向こうなので俺は知らん。……という感じに目線を逸らす俺。
まぁ、彼女の痛ましげな表情も宜なるかな。最初から決まってる勝負とか、正直失笑しか買わないだろう。
……え、意味が違う?いや合ってるぞ、向こう的には笑って欲しくない場面なのに、こっち的には笑うしかないんだから。
「……前々から思ってたのだけど、貴方って意外とサドっ気強いわよね?」
「さて、なんのことやら」
基本的にはアイツが悪い、で済むので。……なんて感じに俺は返すのであった。
「へっくしょいっ!!」
「わっ、大丈夫きりえん?」
「ああ、大丈夫……誰か噂でもしてたか……?」
突然鼻がむずむずし始めたので思わずくしゃみをしてしまった。
一緒に買い出しに出掛けていた秋山に心配されたので、別に風邪とかをひいたわけではないと返す。
……いやまぁ、寒いからちょっとくしゃみが出たって可能性も無くはないが。
商店街を歩きながら探すのは、刻遠野に送る誕生日プレゼントと、明日のクリスマスの交換用のプレゼントの二つ。
……刻遠野相手には化粧品でも送ればいいのかと思ったのだが、よくよく考えたら他人に化粧品とかある意味テロみたいなもんだったか、と思い出して踏みとどまった。
「まぁ、体質的に合わないこともあるからねー。今はそういうの、例の化粧台でどうにかなったりするけど」
「それも理由だったな、今の時代バラ売りの化粧品は基本嗜好品みたいなもんだって」
「先輩はご自分の部屋を見れば一発だったのでは?」
「見たんだよ気付いたんだよ悪いかこのっ、このっ!」
「ちょ、先輩髪をぐしゃぐしゃにしないでくださいよー!?」
「ええいやかましい、ポニテになんぞしやがって、あてつけかありがとうございます!」
「何故かありがたがられました!?」
「なるほど、きりえんポニテ好きかー」
「大好きだよ悪いか!」
ポニテをわしゃわしゃするとか禁断の楽しみですねわかります。……ってそうじゃなくて。
いかんな、この後輩話してるとペースが乱される、気を付けなくては……。
彼女の髪を弄っていた手を離し、いい加減前を向く。
商店街はクリスマスの前日……場合によっては今日が当日になるんだっけ?まぁとにかく、どこもかしこもクリスマス一色で飾りやツリーでどこもかしこもキラキラしている。
行き交う人々も、寒さに白い息を履きながらも、楽しげに街を目的地に向かって歩いている。……まぁ、なんというか、平和そのものといった感じの光景だった。
「いいねぇ、楽しげなのはいいことだ」
「おや意外。きりえん、そっちだと楽しそうな空気とか嫌いそうだと思ってたんだけど」
「……いや、俺が楽しいのはあれだが、周囲が楽しそうなのは別にいいんだよ。……そもそも、周囲の幸せを願ったのが俺なわけだし」
「そうなんですか?」
……あー、余計なことを口に出しちまったな今。
頭を掻いて、二人に先に進むように促す。
二人共こちらの話を聞きたそうにしていたが、生憎とこのあたりのことを話す気はない。
「だから、そういう顔すんの止めろ。……ほれ、あそことかプレゼント探すのにいいんじゃないか?」
「むぅ、先輩はそうやって煙に巻くの好きですよね」
「まぁ、ここは大人しく煙に巻かれてあげようよりんちゃん」
……なんか、子供扱いされてないか俺。
いやまぁ、話をするよりかは全然マシなんだが、どうにも腑に落ちない感が残るというか……。
ま、まぁいいや。気を取り直して、目の前の店──百貨店に歩を進める。
記憶によれば、ここは夏に水着を買いに来た場所らしい。
品揃えが豊富なので、意外と利用している記憶が残っている。
「で、結局なにを買いますか?」
「……んー、いまいちなにが喜ばれるのかわからん……髪留めとかの小物系も人によっては地雷だろ?」
「地雷とか気にしすぎるとなんにも買えなくなるよ?だって人によって地雷って違うし」
「……まぁ、そりゃそうなんだが……」
とはいえ、どうせ買うのなら出来得る限り喜んでほしいと思うのが人情というやつだろう。
……食べ物買ってきて怒られることは結構あるけど、アレルギーでもなければ誰でも
「……まさかお菓子で済ませようとか思ってませんよね先輩?」
「思ってませんっ。……いやまぁ、お高めのお菓子ならプレゼントにできなくもないかなーとは思うけども」
「お高めのお菓子?……んー、万するようなのとか?」
「それ逆に重くないか……?まぁ、その場合は買っても五千円くらいだと思うが」
「……?それくらい普通のお菓子では?」
「いやお前の感覚で話さないでくれお願いだから」
そういえばこいついいトコのお嬢様だった、なんて感じに後輩を横目にしつつ、とりあえず菓子コーナーから離れる。
……いやまぁ、クリスマスの交換用なら別にいいとは思うが、流石に誕生日にお菓子はなぁ、というか。
そうして向かったのは、小物類を売っている雑貨屋だった。
「髪留めとかシュシュとか、そのあたりにしとこうかなというか」
「なるほど、地雷云々は気にしないことにしたんですね?」
「秋山も言ってた通り、そこ気にするとホントに選べるもんなくなるからな……」
並んでいる小物を見比べつつ、後輩に声を返す俺。
……世の男性達は、こういう時どういうモノ選んでるんだろうな?とりあえず金にモノを言わせたりしてるんだろうか?
だが、その選択は横の後輩見てる限り、意味があるようには思えないんだよなぁ。
「?なんです先輩?」
「お金で解決できるものって意外と少ないんだなって思ってたとこ」
「…………?????」
正直高いもの選ぶにしても、横の後輩がもっと質とか値段とかいいものを選んできかねないので、送るのなら値段は気にしない方がいいと思うっていうか。
まぁ、それを彼女に言っても仕方ないので、俺は俺で(正しい意味で)適当に選ぶとしよう。
二人と相談しつつ、選ぶこと数十分。
納得のできるモノを選んだ俺達は、充実した気分で百貨店をあとにするのだった。
「誕生日おめっとさん」
「オー、アリガトデース」
部室にてささやかな誕生日パーティが開かれる中、桐依が刻遠野にプレゼントを渡しているのが見える。
……どうやら、いろいろ考えた結果置物にしたようだ。クリスタルの天使の彫像?のようなものを渡しているのが見えた。
「シュシュとか腕輪とかにするつもりだったみたいですけど、途中であの彫像を見付けて」
「それで半ば衝動的にあれにした、と?」
「なんだか思い入れというか、ちょっと目につく理由があったみたいだよ?その理由部分は教えてくれなかったけど」
「ふむ……」
天使の彫像、ね。
……ふむ、ちょっと思いつかない感じか。アイツがそういうものに言及したのって、神様は嫌いだ、くらいのものだしなぁ。
そこから考えると、人の贈り物に天使を選ぶというのは、少々アイツらしくない選択のような気もするが……。
「まぁ、気にしても仕方がないか。ほれ、チキン焼けたから持ってけ」
「わぁ、流石先輩美味しそうなチキンですねっ」
「明日の練習も兼ねてるんだがな」
家から持ってきた簡易グリルの使い心地を確かめる面もあるので、ざくざく数をこなさなければならないのだ。……いや、あんまり焼きすぎても消費しきれないだろうから、ある程度自重もしているわけだが。
現在テーブルに並べられているのは、原則的に明日の予行練習の結果であるチキンやらフライやらである。……明日はこれにケーキやらが加わるわけだが、そっちに関しては俺が作るわけではないので、気にする必要はない。
なのでまぁ、俺がするべきことは明日のために料理の完成度をあげることなわけで。
仲睦まじく話をしている桐依と刻遠野を遠目にしながら、俺は次の料理に取り掛かるのだった。