百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「いよいよクリスマスも明日、か」
「そうだな。……どうする気なのか知らんけど、明日で終わりだな」
「……ああ、明日で終わりだ。泣いても笑っても、明日で決着が付く」
暗い夜道を、二人で肩を並べて歩く。
彼は──堅い顔で、暗い道の向こうを見詰めている。
その奥にあるものか、はたまた自身の記憶の中のどこかなのか。……傍目にはわからないどこかを、彼は見詰め続けている。
きっと、それこそが彼のなくしたいものであり、譲れないものなのだろう。
それをどうにかするためだけに、彼はずっと自分を蔑ろにし続けていた。それこそが、
ゆえに、その答えはもうすぐ出る。
彼が望むモノを得られるか、はたまた得られずに膝を折るのか。
──そのどちらであったとしても、俺の選ぶものは変わらないだろうが。
「相棒は動じないねぇ。……いやまぁ、それでこそ俺の見込んだ男なわけだが」
「そういうお前も変わらないな。選ぶものも、選ぼうとする場所も」
そうだな、なんて声を返して。
──そうして、日は開けた。
クリスマスの日に終わらせようと思ったのは、まぁ最初の予定をそのまま繰り上げたから、だったりする。
……男性部分である
結局、筋書きを大幅に変える必要に迫られたわけだが。
それでもまぁ、終わりは聖夜が
「普通にクリスマスパーティしたあとに全部投げる、というのは果たしていいんだか悪いんだか」
「急に屋上に来い、だなんて言うから、なにかと思えば……」
屋上のフェンスの一画、密かに破れていたそれを潜って外に出ている俺。
夜の空気は澄んでいて、吐く息は白く染まり、星空は静かにそれを照らしている。
──こんな夜に終われるのなら、まぁ悪くはない。
そんなことを思いながら振り返れば、相棒は屋上の入り口の前に立っていた。……なにをしても、間に合わない位置に。
「それが、お前の選択か?」
「……そうだな。俺としてはもうちょっと穏便に終わらせたかったんだけど、どうにも上手くいかないし。……まぁ、強硬手段に行くしかないよな、というか」
本当はこの体に傷とか残したくなかったんだが。
……もう俺に取れる選択肢も多くはない。じゃあまぁ、こうするしかないわけで。
「そういうわけだから、ちょっとショッキングなことになるかもだけどあとはよろしく。……いやホント、大勝おめでとう相棒。──できれば、俺の勝ちで収めたかったがね」
言うだけ言って、屋上の縁から身を躍らせる。
これで上手いこと地面にぶつかれば、半身不随の代わりに
納得のいく結末かと言われれば違うけど、まぁ、俺の末路なんてこんなものだろう。
そんな思いと共に、静かに目蓋を閉じようとして。
───こちらに手を伸ばしながら突っ込んでくる、彼の姿を見た。
「……はっ?」
「勝ち負けを勝手に決めるのは、お前の悪い癖だぞ」
「いやちょっと待てお前どうやって、っバカ止めろなに考えてやがるっ!?」
俺の腕を掴んで、強引に位置を変えて、彼は俺の代わりに夜空に身を躍らせた。
半ば放り投げられるように屋上に戻された俺は、一連の流れが信じられずにしばし唖然として。
「いや、……いやふざけんな!なんでこんな、こんなタイミングでんなことになるっ!!?」
俺が落ちれば、それで終わりのはずの場所に、なんで彼が割り込む必要がある?
俺が死ねば、それで終わりで、それで解決で、それで丸く収まって……。
「………っ!?」
そこまで考えて、急に思考が冷えた。
いや、いやだ、
震える体を掻き抱く。寒くて、寒くて仕方がない。
あの時よりも、より鮮明に。
嘘だと言って欲しい。誰かに間違いだと言って欲しい。
けど、それを言ってくれる相手は、今、
──つまり、そうか、これは、全部。
「は、はははっ」
乗り越えたと思っていたのは気の所為だった。
過去のものにできたと思っていたのは勘違いだった。
ほら、
……神様が居るなんて、信じたことはないけれど。
もし仮に存在するのなら、なんて残酷なんだろう。
克服できたと思っている人間に、これ以上ないタイミングで現実を突きつけるなんて、なかなかできることじゃない。
しかも、一度希望を見せて、それを奪うように演出するだなんて。
「……………………………」
……死のう。もはや、ここにいる意味なんてない。
死んだ先でまた同じことを見せ付けられるかも知れないけれど、もう、なにも考えたくない。
そうすれば、せめて彼は巻き込まなかったかも知れなかったのに。
ふらりと立ち上がって、彼が落ちた場所へと向かう。
……彼を犠牲にしたのは
そんな思いから、鉛のような足を引き摺って。
──いやはや、最期まで負けっぱなしだねぇ、俺?
「…………」
自己の裡から響く、
「……今さら、なんだ。
──そうそう、笑いに来たんだよね。バカな俺を笑いに、ね?
おどけたような声をあげる彼女に、声を返すような元気もない。
……実際、彼女の言う通り
彼は失われた、
大切だったのに、必要だったのに、
だから、彼女が
──ああいや、そこじゃなくて。
「……?なにを、言っている?」
けれど彼女は、そこは笑いどころじゃない、なんて風に口をだして。
……じゃあ、どこがお笑い草なんだよ、って少しムキになって。
──『気持ち悪い』って、
なんて言葉を、
「気持ち、わるい」
──そ、晃とイチャついてるとたまーに脳裏に閃いたこの言葉。……これ、アンタのでしょ?
彼女からの問いは、とある感覚についての疑問。
……確かに、たまに気持ち悪いという思いを抱いていたような記憶がある。けど、それがなんだというのか?
気持ち悪い、なんて。
そんな、大した事のない感傷で──。
「んなわけあるかっての。……じれったいからはっきり言うけど。
「……あ」
彼女の言葉に衝撃を受ける。
……男性同士だから気持ち悪いんじゃなくて。
「私からすればなんで気付かないんだろって感じだったけど。……まぁ、アンタってば視界がかなり狭まってたから、仕方ないところもあったんでしょうね」
「い、いや、だからって、それがなんだって言うんだよ」
彼女の言葉に動揺が隠せない。
いや、だって。気持ち悪いっていうのが、俺の感想だっていうなら、そんなの。
「よーく思い出してみなさいな。……なんでアンタ、晃とかがゲームのキャラだって気付かなかったの?……単純でしょ、アンタは
その差はなに?
そう聞かれて、ようやっと俺は答えにたどり着く。
そうか、俺は。■■を捨てたいと思っていた癖に、どこまでも■■に縋っていたのか。
だから、彼女は気付けたのに俺は気付けなかった。だから、俺は彼をあんなふうにしてしまった、と。
だが、今さらこれに気付いてどうしろと言うのか。
サイは投げられた、振り直すことは不可能だ。……この後悔を抱いたまま、俺にどうしろと言うのか。
「あーもう、我が事ながら世話の焼ける……そもそも前世の私達、
「先走って、迷走して、大ゴケしたのは認める。……でも、もう取り返しようがないじゃないか」
そうだ、例え
けれど、彼女はもう一度大きく嘆息して。
「
「は?」
「……恋人なんだから、最期まで信じて上げなさいよ。そもそも
「────。い、いや?嘘だ、んなことあるもんか」
彼女の言葉に、心臓が跳ねる。
……嘘だ、絶対嘘だ。俺を騙そうとしている。
だって、だってだ。
恐る恐る、屋上の縁から身を乗り出して、下の方を覗き見る。
ほら、そこには彼の見るも無残な亡骸が転がってるはずで──。
「……やっとか。いい加減、血が頭に上るところだったよ」
「え?」
視線の先、地面に赤い花は咲いていなくて。
「ぐっ、クソ!おいもういいんだな!?僕にこんなことさせて、あとでお前ら酷いからなっ!?」
「ヘイ頑張ってくださいっす慎一君、頑張れ頑張れおまえならやれる、っす!」
「やかましい秋則!!もっと力入れろバカ!!」
「俺の名前は透っすよ!?」
「やかましいっ!お前の名前なんか秋則で十分なんだよ!!」
「意味わからないんっすけどー!?」
代わりに、彼の足を、下の階の窓から身を乗り出した
……いや、なんで、そんな。
本当に、全部覆したってのか……?
思わず、気が抜けて笑ってしまって。……涙が、止まらなくなって。
「まぁ、やっとここまで来たんだからあえて言うぞ。……これで完全勝利だ、まいったか」
彼の言葉に、今度こそ白旗を上げるしかない