百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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星を落とす狩人のごとく

「いよいよクリスマスも明日、か」

「そうだな。……どうする気なのか知らんけど、明日で終わりだな」

「……ああ、明日で終わりだ。泣いても笑っても、明日で決着が付く」

 

 

 暗い夜道を、二人で肩を並べて歩く。

 彼は──堅い顔で、暗い道の向こうを見詰めている。

 その奥にあるものか、はたまた自身の記憶の中のどこかなのか。……傍目にはわからないどこかを、彼は見詰め続けている。

 

 きっと、それこそが彼のなくしたいものであり、譲れないものなのだろう。

 それをどうにかするためだけに、彼はずっと自分を蔑ろにし続けていた。それこそが、()()にたどり着くための答えだと信じて。

 

 ゆえに、その答えはもうすぐ出る。

 彼が望むモノを得られるか、はたまた得られずに膝を折るのか。

 ──そのどちらであったとしても、俺の選ぶものは変わらないだろうが。

 

 

「相棒は動じないねぇ。……いやまぁ、それでこそ俺の見込んだ男なわけだが」

「そういうお前も変わらないな。選ぶものも、選ぼうとする場所も」

 

 

 そうだな、なんて声を返して。

 ──そうして、日は開けた。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 クリスマスの日に終わらせようと思ったのは、まぁ最初の予定をそのまま繰り上げたから、だったりする。

 ……男性部分である()を否定させる為にあれこれ仕込む予定だったのだが、これがまぁなんとも上手くいかず。

 結局、筋書きを大幅に変える必要に迫られたわけだが。

 それでもまぁ、終わりは聖夜が()()()と思ったところがなくもなく。

 

 

「普通にクリスマスパーティしたあとに全部投げる、というのは果たしていいんだか悪いんだか」

「急に屋上に来い、だなんて言うから、なにかと思えば……」

 

 

 屋上のフェンスの一画、密かに破れていたそれを潜って外に出ている俺。

 

 夜の空気は澄んでいて、吐く息は白く染まり、星空は静かにそれを照らしている。

 ──こんな夜に終われるのなら、まぁ悪くはない。

 そんなことを思いながら振り返れば、相棒は屋上の入り口の前に立っていた。……なにをしても、間に合わない位置に。

 

 

「それが、お前の選択か?」

「……そうだな。俺としてはもうちょっと穏便に終わらせたかったんだけど、どうにも上手くいかないし。……まぁ、強硬手段に行くしかないよな、というか」

 

 

 本当はこの体に傷とか残したくなかったんだが。

 ……もう俺に取れる選択肢も多くはない。じゃあまぁ、こうするしかないわけで。

 使()()()()()()()()()をわざわざ引っ張り出してまで、()()が一番だと導き出したのだ。──相棒には、見届けて貰わねば困る。

 

 

「そういうわけだから、ちょっとショッキングなことになるかもだけどあとはよろしく。……いやホント、大勝おめでとう相棒。──できれば、俺の勝ちで収めたかったがね」

 

 

 言うだけ言って、屋上の縁から身を躍らせる。

 これで上手いこと地面にぶつかれば、半身不随の代わりに()は永久消滅。

 納得のいく結末かと言われれば違うけど、まぁ、俺の末路なんてこんなものだろう。

 そんな思いと共に、静かに目蓋を閉じようとして。

 

 ───こちらに手を伸ばしながら突っ込んでくる、彼の姿を見た。

 

 

「……はっ?」

「勝ち負けを勝手に決めるのは、お前の悪い癖だぞ」

「いやちょっと待てお前どうやって、っバカ止めろなに考えてやがるっ!?」

 

 

 俺の腕を掴んで、強引に位置を変えて、彼は俺の代わりに夜空に身を躍らせた。

 半ば放り投げられるように屋上に戻された俺は、一連の流れが信じられずにしばし唖然として。

 ()()、彼が覆したのだと知った。この、土壇場でだ。

 

 

「いや、……いやふざけんな!なんでこんな、こんなタイミングでんなことになるっ!!?」

 

 

 俺が落ちれば、それで終わりのはずの場所に、なんで彼が割り込む必要がある?

 俺が死ねば、それで終わりで、それで解決で、それで丸く収まって……。

 

 

「………っ!?」

 

 

 そこまで考えて、急に思考が冷えた。

 いや、いやだ、()()()()()、あの時と同じ、これ、()()()()……。

 

 震える体を掻き抱く。寒くて、寒くて仕方がない。()()()()()()()()から、震えが止まらない。

 あの時よりも、より鮮明に。()()()()()()()()()()()()()()()()を、今更ながらに突きつけられて(思い出して)、吐き気が喉元にまでこみ上げてくる。

 

 嘘だと言って欲しい。誰かに間違いだと言って欲しい。

 けど、それを言ってくれる相手は、今、俺の代わりに宙に飛び出して(下で■れて■んでいる)

 ──つまり、そうか、これは、全部。

 

 

「は、はははっ」 

 

 

 乗り越えたと思っていたのは気の所為だった。

 過去のものにできたと思っていたのは勘違いだった。

 ほら、()はまだ、それから逃げられてなんかいなかったんだ。……ずっと、()()に苛まれ続けるしかないんだ。

 

 ……神様が居るなんて、信じたことはないけれど。

 もし仮に存在するのなら、なんて残酷なんだろう。

 克服できたと思っている人間に、これ以上ないタイミングで現実を突きつけるなんて、なかなかできることじゃない。

 しかも、一度希望を見せて、それを奪うように演出するだなんて。

 

 

「……………………………」

 

 

 ……死のう。もはや、ここにいる意味なんてない。

 死んだ先でまた同じことを見せ付けられるかも知れないけれど、もう、なにも考えたくない。

 ()の人生に、意味なんて無かった。価値なんて無かった。──端から、終わっておけばよかった。

 そうすれば、せめて彼は巻き込まなかったかも知れなかったのに。

 

 ふらりと立ち上がって、彼が落ちた場所へと向かう。

 ……彼を犠牲にしたのは()だ。だから、最期にその罪をこの網膜に刻みつけるのは、()に課せられた罰だろう。

 そんな思いから、鉛のような足を引き摺って。

 

 ──いやはや、最期まで負けっぱなしだねぇ、俺?

「…………」

 

 

 自己の裡から響く、()の声を聞いた。

 

 

「……今さら、なんだ。()を、笑いに来たのか?」

 ──そうそう、笑いに来たんだよね。バカな俺を笑いに、ね?

 

 

 おどけたような声をあげる彼女に、声を返すような元気もない。

 ……実際、彼女の言う通り()は大馬鹿者だった。たった一度の希望を追いかけ、そのために彼を■に追いやった、大馬鹿者だ。

 そんなもの(希望なんて)、まやかしだったというのに。

 

 彼は失われた、()が失わせた。

 大切だったのに、必要だったのに、()は、取り返しの付かない選択をした。……その()()()()()()()()()()ことまで含めて、ここまで滑稽な道化もそうは居ないだろう。

 だから、彼女が()を笑うのは既定事項。いちいち反論する余地もないくらい、当たり前のことだった。

 

 

 ──ああいや、そこじゃなくて。

「……?なにを、言っている?」

 

 

 けれど彼女は、そこは笑いどころじゃない、なんて風に口をだして。

 ……じゃあ、どこがお笑い草なんだよ、って少しムキになって。

 

 

 ──『気持ち悪い』って、()の気持ちでしょ?

 

 

 なんて言葉を、()に投げかけるのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「気持ち、わるい」

 ──そ、晃とイチャついてるとたまーに脳裏に閃いたこの言葉。……これ、アンタのでしょ?

 

 

 彼女からの問いは、とある感覚についての疑問。

 ……確かに、たまに気持ち悪いという思いを抱いていたような記憶がある。けど、それがなんだというのか?

 気持ち悪い、なんて。()が彼と付き合うのはおかしい、みたいな。

 そんな、大した事のない感傷で──。

 

 

「んなわけあるかっての。……じれったいからはっきり言うけど。()()()()()()気持ち悪いって、はっきり言ってたじゃない」

「……あ」

 

 

 彼女の言葉に衝撃を受ける。

 ……男性同士だから気持ち悪いんじゃなくて。

 ()()()()()()()()()()()()()のに幸せな気分でいたから、気持ち悪いと。

 ()は、そう思っていたのか……?

 

 

「私からすればなんで気付かないんだろって感じだったけど。……まぁ、アンタってば視界がかなり狭まってたから、仕方ないところもあったんでしょうね」

「い、いや、だからって、それがなんだって言うんだよ」

 

 

 彼女の言葉に動揺が隠せない。

 いや、だって。気持ち悪いっていうのが、俺の感想だっていうなら、そんなの。

 

 

「よーく思い出してみなさいな。……なんでアンタ、晃とかがゲームのキャラだって気付かなかったの?……単純でしょ、アンタはそれ(■■)しか見てなかったから。でも私は気付いた。……同じ前世から派生したものなのにも関わらず」

 

 

 その差はなに?

 そう聞かれて、ようやっと俺は答えにたどり着く。

 そうか、俺は。■■を捨てたいと思っていた癖に、どこまでも■■に縋っていたのか。

 だから、彼女は気付けたのに俺は気付けなかった。だから、俺は彼をあんなふうにしてしまった、と。

 

 だが、今さらこれに気付いてどうしろと言うのか。

 サイは投げられた、振り直すことは不可能だ。……この後悔を抱いたまま、俺にどうしろと言うのか。

 

 

「あーもう、我が事ながら世話の焼ける……そもそも前世の私達、■■(それ)に絶望してた?してないでしょ?……転生なんてして、ちょっとした気の迷いだったってだけで」

「先走って、迷走して、大ゴケしたのは認める。……でも、もう取り返しようがないじゃないか」

 

 

 そうだ、例え前世()■■(これ)に絶望していなかったのだとしても。

 ()が犠牲になったことは覆らない。それが、バカな俺の選択の結果だということも、全て。

 けれど、彼女はもう一度大きく嘆息して。

 

 

()()()()()()()()()()()なんて、お互い同じなのに。なーんで気付かないんだか」

「は?」

「……恋人なんだから、最期まで信じて上げなさいよ。そもそも()()()でしょ、まだ」

「────。い、いや?嘘だ、んなことあるもんか」

 

 

 彼女の言葉に、心臓が跳ねる。

 ……嘘だ、絶対嘘だ。俺を騙そうとしている。

 だって、だってだ。()()()()()()()()()()()、なんて、そんな都合のいい話があるわけなくて。

 

 恐る恐る、屋上の縁から身を乗り出して、下の方を覗き見る。

 ほら、そこには彼の見るも無残な亡骸が転がってるはずで──。

 

 

「……やっとか。いい加減、血が頭に上るところだったよ」

「え?」

 

 

 視線の先、地面に赤い花は咲いていなくて。

 

 

「ぐっ、クソ!おいもういいんだな!?僕にこんなことさせて、あとでお前ら酷いからなっ!?」

「ヘイ頑張ってくださいっす慎一君、頑張れ頑張れおまえならやれる、っす!」

「やかましい秋則!!もっと力入れろバカ!!」

「俺の名前は透っすよ!?」

「やかましいっ!お前の名前なんか秋則で十分なんだよ!!」

「意味わからないんっすけどー!?」

 

 

 代わりに、彼の足を、下の階の窓から身を乗り出した男性二人(透と慎一)が必死の形相で捕まえていて。

 ……いや、なんで、そんな。

 本当に、全部覆したってのか……?

 

 思わず、気が抜けて笑ってしまって。……涙が、止まらなくなって。

 

 

「まぁ、やっとここまで来たんだからあえて言うぞ。……これで完全勝利だ、まいったか」

 

 

 彼の言葉に、今度こそ白旗を上げるしかない()なのだった。

 

 

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