百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
──シミュレーテッド・リアリティ。
アイツも言っていた通り、
今、ここにある全てが作り物に見えるというそれ。
……前世の俺はまぁ、平凡な男だった。
たった一つ、『
俺の見る正夢はいわゆるお告げ型ではなく、実際に自分が体験するモノを見る……というものだった。
そして、
俺は、夢の中で『夢で見た』という風に夢を見ることがあった。……そういう夢の時は、決まって起きると夢の内容を忘れてしまうのだが。
しばらくして、『夢で見た』と、突然に既視感に襲われることがあった。──そこで初めて、俺は夢で未来を見ているのだと知った。
そこからだ。俺にとっての地獄が──真綿で首を締め付けられ続けるような日々が始まったのは。
初めての既視感は、小学生の時。
祖父母達や両親、兄弟と一緒に遊園地に遊びに行く夢。
ついで、父と見知らぬ女性が、一緒に話している夢。
誰かの葬式で、涙を流せずにいる夢。
知っていたことに、後から気付く日々。
けれど、一番恐ろしかったのは知っていたことではなく。
──夢の中で、そうだったのかと気付く自分の心が。
現実で、夢であったと知る度に同じ心を抱く自身の行動が。
どこまでもどこまでも、
だからだろうか。
現実を見るよりも、物語を見ることに夢中になっていったのは。
「その時ハマったのがその百合ゲーだったわけだけど、まぁなんと言うか、こっちに転生したての時はその辺り全然覚えてなくてさ。……思い出せてれば、こんなに周囲へ迷惑かけることも無かったんだろうけど」
あの後、部活メンバーとOB組に部屋の中に引っ張り上げて貰った俺は、幾分スッキリした表情の桐依と共に、部室へと舞い戻っていた。
そこで彼女が語り始めたのは、本当の意味での種明かし。
「
「ふむ。前世においては、ある意味
柳瀬さんの言葉に「はい、その通りです」と苦笑いする桐依。
未来視ではあるものの、
転生した時にその記憶が欠けて、忘れればいいという対処も抜け落ちた結果、異様に
「まぁ、それでも最初の方は、夢で未来なんか見なかったし。前世で自分が覚えたモノも忘れていたからなんともなかったんだけどさ」
「前世で自分が覚えたモノ?」
「……練習したのよ、未来を見れないかなって。最初から答えに触れていたから、意外とすぐに覚えられてね。そのあたり、あっきーから聞いたんでしょ?」
桐依の言葉に秋山が頭を掻きながらへにゃ、と笑った。
そう、あの時彼女から話されたのは、彼女も転生者であり、前世の世界で一人、有名な未来視能力者が居た、というものだった。
……そして恐らく、桐依の前世が彼だろうということも、その時に聞かされていたのだった。
「いやねー、最初は『わっ、これあのゲームの主人公じゃん!』みたいな感じで近付いたんだけどさ。話してるうちに『あれ、この人どっかで』みたいな感じになって。ゆーちゃんにお墨付き貰って『やっぱり!』ってなったというか」
「私は私で、元の世界を知ってる人だったから。二週目、というべき?」
そして驚いたことに、在原も在原で特殊な出自の人物だった。
なんでも彼女は『桐依が自殺した世界からやってきた』のだという。……最終回に衝撃の事実を連打する人々みたいになっているが、大丈夫なのかこれ?
「伏線は最初から張っていた、問題ない」
「それはそれでメタいというか……」
「そのせいで私一人だけ本当に無関係になっちゃったんですがぁ!?」
「おおよしよし。鈴莉ちゃんは可愛いが仕事だから大丈夫だよー」
「むむむむ、納得していいのか悪いのか、正直判断に迷います……」
また栗花落が頭を撫でられている。……それでごまかされるから蚊帳の外なんだと思うぞ。
まぁ、とりあえずそれは置いといて。
「そうして忘れていたものを、あの日たまたま見たニュースをきっかけに思い出して。……ちょっとした不安から、見ちゃったのよね、未来」
「それは、もしかして……」
「そ、美玲と朱紅奈が刺されちゃう場面。……私が美玲にあんなことを言ったから、この未来に繋がったんだって、子供心に確信して。……そっから先はまぁ、しばらく未来視暴走モードよね。ずっと未来を見たまんまで、意識が定まってなくて、手を肩に置かれたことすら
……俺が肩に手を置くことすら見えていたらしい。
つまりはまぁ、そのあと落ち着けと声を掛けることすら見えていたということで。
完全にパニックになった彼は、教室の隅まで逃げて、ガタガタと震えて。
「意を決して名前を呼んだ貴方の言葉に、意識を取り戻した。……未来視では
──見ていたモノを覆されて、希望を得た。
それがどれほどの衝撃だったのか、俺にはわからない。ここにいる他のみんなにだってわからないだろう。
ただ、彼に取ってのそれは、砂漠の中のオアシスだとか、嵐の中で見えた北極星だとか、そういうものに匹敵するくらいの希望の灯りだった、ということだけは確かだ。
「言ってしまうと、そこが一目惚れのタイミングだよね。──作り物だと思ってた世界で、
そしてそれゆえに、彼の暴走が始まった。
変えられる、覆せるという希望は、彼にとっては麻薬のようなもので。
己を犠牲にしても、何一つとして惜しくないと思った彼は、結果として自身の人格を消して、新しく別の人格を作ることを思い付いた。
「前世の彼のもう一つの置き土産が、その時になって効いてきた感じというか。……うん、前世で軽度のシミュレーテッド・リアリティに陥っていた彼は、
「それが遠因となって、
刻遠野の言葉にその通り、と頷いて彼女は語る。
前世からの置き土産の二つ、片方は未来視で、もう片方は愛への忌避感。
……前世の両親の離婚が、少なからず自分のせいであったことからも派生した、
それについて、彼は当時明確に意識できていたわけではなかったらしいが、それでも「自分に愛を語る権利はない」という思いだけは強く残っていたようで。
「意図せずして、自分も好きな癖して身を引くやつのムーブになってたわけで。……私に言われるまでそのあたりに全然気付いてなかったってんだから、なんというか筋金入りというか」
「なにが問題って……結局相手の堀ノ内君が……先に貴方を好きになっていたことよね……」
ここで問題だったのが、そもそも先に気にし始めていたのが俺の方だったこと。……端的に言うと先に惚れてたのは俺だったので、こっちが彼に合わせ始めていたということだった。
性別は確かに女性だったけど、彼がどちらを恋愛対象にしていたかわからなかったので、俺はどちらを選ばれても対応できるように、先にいろいろ準備し始めていたのだ。
その結果が、俺の女装への忌避感のなさである。
そして、それを見た彼の方も次第にバグり始めた。
……そりゃそうだ、彼は前世の記憶を頼りにあれこれと考えていたから、そもそも
「いやはや、なんというか僕も見る目がないというか。……彼女よりよっぽど真実に近いのが君のほうだったとはね」
「つまり、俺が見惚れていたのもある意味仕方なかったということっすね?!」
「んなわけあるか、お前はもうちっと考えて喋れこの
「いてぇ!?っす!」
「は、ははは……」
やっぱりこの人やベー奴なんじゃ?なんて思いつつ密かに距離をとる俺。
……気を取り直して、桐依の話に耳を傾ける。
「最初はサクッと女性人格を作って終わり、って予定だったんだけど。晃が女装とか普通にしてくるものだから、男性的な人格を置いておく方がいいのか、はたまた女性人格を作ることを推し進めるべきなのか、完全に行き詰まっちゃってね?で、
「なんでそう変な方向で思い切りがいいんだお前」
「思い切りが良くなきゃ自殺計画なんて立てないでしょふつー」
「……確かに」
「そこを納得するのはよくないと思いますわよ……?」
西内にツッコミを入れられるが、まぁ仕方ない。
実際、自分の死をほいほい計画にぶち込める時点で、大概おかしいのは確かなのだから。
「あとはまぁ、皆さんご存知の通り。
「文化祭が終わって、また
俺の言葉に桐依は鷹揚に頷いた。
きっかけがあったのか、はたまた単になにかが緩んだだけなのか。
そのあたりはわからないが、結果として冬の時期に彼が目覚めたのは事実。
目覚めて、なんで起きてしまったのかとあれこれ記憶を精査して。
「えっと、その。……付き合って結構経つ癖に、キスもしてねーやコイツらってなって、まだ計画成功してないやんけ!……みたいになったというかね?」
「……は?え、先輩達まだやってなかったんです!?」
「ううううるさいっ、心の準備とかいろいろできてなかったんだいっ」
「……いえ、それで巻き込まれた方からしてみれば、堪ったものではないのだけれど」
「ぬぐっ」
結果として、あんまりにもプラトニックなお付き合いをしてるものだから、計画が失敗したと勘違いした彼は、とりあえず自分の抹消くらいは完遂しとこうか、みたいなことになったのだという。……だから、なんでそう思い切りがいいのか。
まぁ、なので。
最初からキスの一つでもしてれば、それで終わっていた話でもあったのだった。
「まぁ、その時は代わりに
「精神のバランス的な意味で、というわけだね」
「柳瀬先輩の言う通り。まぁ、その場合でもしばらくしたら治ってたかもだけど、同時に精神の均衡を欠いて、その内飛び降りてたかも知れない……というか多分飛び降りてたから、わりと結果オーライなところがあるというか」
「なんでまたそんなことに……」
俺が呆れたように声をあげれば、彼女はすっと視線を逸らして、理由らしきモノをポツポツとこぼし始めた。
「『自分は幸せにはなれない』ってのは、
「前世からの念、だったか。……しかしまぁ、意外だな。そういうものを抱く場合、他者に対して攻撃的になるものだと思っていたのだが」
柳瀬さんが溢した疑問に、彼女は小さく苦笑して、答えを返した。
──曰く、幸福な他人を見るのは、わりと好きだったのだと。
自分が得られないものを得ている誰かを見るのが、わりと救いのように感じていたのだと。
「絶対に得られないって思ってたから。嫉妬とか、そういうのはなかったかな」
そんな風に、彼女は苦笑いを浮かべ続けていたのだった。
「あー、全く。とんだクリスマスだったねぇ」
「そうだな」
しばらくして解散になったパーティからの帰り道。
二人で並んで歩いて帰るのは、なんだか久しぶりのような気がして。
なんというか、ちょっとドギマギするというか。
そんなことを思っているのは自分だけなのだろうか、なんて風に彼女を見て、ちょっと声が上擦っているのに気が付いた。
「……なによ」
「いや、
気付いたことをごまかすように、
「あー、もう。……わざわざわける必要なくなったから、今の
「……なる、ほど?」
確かに、そう言われるとちょっと雰囲気が変わったような?
そんなことを呟けば、彼女は深くため息を吐いた。
「……晃に取ってはそんなもん、ってことなんでしょうけど。ちょっと、ほんのちょっとだけ受け入れられるかどうか悩んでた
「ふむ、じゃあこれでお返しってことで」
「へ、ちょ」
思えば、最早隠す必要もないのだし。
そんな思いと共に彼女の唇に軽く口付けをすれば、彼女は顔を真っ赤にして、しばらく何かを言おうとして止めるのを繰り返して。
「……あーもう。そう言う時まで全部ぶっ壊してくの反則でしょ……」
なんて言葉と共に片手で顔を覆ってしまった。
……その言葉的に、また
「別に、遠慮する必要もなくなったし。……今ので、ほとんど使い物にならなくなってるのはわかったし、もう良いかなって」
「ほう?……もしかして、今のは大分不意打ちだったか?」
「不意打ちも不意打ち、してやられたとしか言えないってのこんちくしょー……」
もー、なんて呻き声を上げる彼女が面白くて、もうちょっとからかってみたかったのだが。……そこは流石に見切られていたので断念した。
しばらくして落ち着いた彼女と共に、家への帰路をゆっくりと歩いていく。
「ところでさ」
「あん?」
「晃は、私のどこを見て好きになってくれたの?」
その中で、彼女がふと呟いた疑問。
……どこが好き、か。
多分、最初は好きではなくて、義務感に近かったように思う。
なにも見ていない、誰も見ていない。ずっとずっと遠くの、ここではないどこかを見詰め続けていた彼女を、放って置けなかった、という義務感。
それが好きに変わったのは、恐らく───。
「『
「……ん?それ、確か晃に昔言った台詞?」
「これを聞いた時、最初は無関心からの言葉だと思っていたけれど。……どこまでも、他人を気遣った台詞だったことに気付いて、ほっとけないってのが強くなったんだよ」
何を抱えているのかはわからないけれど。
──その抱えているものが、良くないものだから。
嫌われてもいいから、誰も近付けたくない、自分のせいで、傷付けたくないという思いから来るものだと気付いた時。
子供ながらに、この子を一人にしてはいけないと、強く思った。……まぁ、それだけの話なのだ。
「そもそも、一目惚れなんてちゃんとした理由が付けられる方が珍しいだろ、んなもんだよ」
「……一目惚れって成就しないって聞いてたけどなぁ」
桐依は苦笑して、ふと空を見上げた。
つられて空を見上げると、空から白いもの──雪が舞い降りて来るのが見えた。
「ホワイトクリスマス、ねぇ。聖夜に雪が降ると嬉しいって、誰が言い出したんだろうねぇ」
「さてな。ほれ」
「ん?──ああ、はい」
冷えてきたから、彼女の手を取って、指を絡めあって、肩を寄せあって。
「……ふふっ。あー、
「気持ち悪い?」
「──
笑顔でそう叫ぶ彼女を見ながら、俺もまた笑みを浮かべる。
──ああ、明日もまた、いい日になるのだろうな、と思いながら。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
このお話に関しましては、これにて幕引きとなります。
色々拙い物語ではありましたが、楽しんで頂けたのなら幸いです。