百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界の後輩ポジは気難しいらしい件について

 ──次の日も、生憎の雨だった。

 自身の部屋の中から、窓越しに空を見上げる。

 雨雲は厚く、その向こうの青空を見ることは叶わない。

 

 

「…………嫌な天気」

 

 

 ぽつりとそう呟いて。

 予習のために開いた教科書を閉じ、おざなりに机の上に放って傍らのベッドにダイブする。

 部屋の中を見渡せば、目を引くのは可愛らしい大きなクマのぬいぐるみや、概ねピンクで統一された調度品達だろう。

 ……年頃の少女らしい、可愛らしさに重きを置いた部屋だと言えた。

 

 少女は枕元に置かれたうさぎのぬいぐるみを胸元に抱き寄せ、ベッドの上で仰向きになる。

 見つめる先の証明は、今は明かりが消えていて。

 曇天の空から、それでも降ってくる太陽の明かりだけが、部屋の中を照らしている。

 

 ……部屋の薄暗さは、自分の心の有様と同じなのだろうか。

 そんな疑問を胸に閉じ込めながら、少女は静かに目蓋を閉じるのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「おじいさま、おはようございます」

「おお、おはよう。調子は戻ったかね?」

 

 

 朝食の為に食堂に集まるのは、彼女の家では常識である。

 長いテーブルの、上座に当たる位置に座っているのは、この家の祖父に当たる人物だ。

 こちらに微笑みを向けてくる祖父に、同じ様に笑みを返しながら、彼女は自身の席に腰を下ろす。

 

 

「……昨日は目眩がしたとかで、ピアノを休んだそうじゃないか。寝てたほうが良いんじゃないの?」

 

 

 その対面に座るのは、自身の兄である男。

 三つ年上の彼は、彼女の対面の席に頬杖をつきながら、気怠げにこちらに視線を向けていた。

 

 

「ご心配には及びませんよお兄さま。一晩しっかりと休みましたので、体調はすっかり戻りましたから」

「……なら良いんだけどね」

 

 

 彼女が微笑みながら返せば、兄は興味を失ったように視線を反らした。

 ……彼が彼女をどう思っているのか、直接聞いたことはないが。なんとなく、嫌われているのだろうな、と彼女は思っている。

 

 祖父からの期待というか、愛情というか。

 そういうものに、露骨な差を感じることがあるからだ。

 とはいえ、それをどうすれば良いのかもわからず、彼女はただ笑みを貼り付けているのだが。

 

 

兄妹(きょうだい)仲睦まじい事は喜ばしきことよな。……皆揃ったようだし、早速頂くとしよう」

 

 

 いつの間にか埋まっていた席に着いた者たちが、一様に食前の挨拶をしていく。

 彼女もそれに倣い、食前の挨拶を済ませ、食事に手を伸ばす。

 ……特に、代わり映えのない朝の一時。

 明日も変わることのないだろうそれを、どこか他人事のように俯瞰しながら、彼女は朝食を食べ進めるのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 高校入学前の最後の春休み。

 

 推薦入試も卒なくこなし、合格通知も疾うに受け取っている彼女にとって、必然的に家に居ることを強要されるそれは、あまり嬉しいものだとは言えなかった。

 かといって、時期的にはまだ内定通知を受け取っていない者も多い。……友と連れだって遊びに行く、というのも現実的ではない。

 

 ……()()()()()、一人で外に出掛けたのは。

 自身の内心を語っているようで、どうにも気分が上がりきらない。

 好きなことをしているのに、そんな気分になるということ事態が、親しい人への■■■なのではないか。

 そんなノイズを脳内に響かせたまま、彼女は自身の前に置かれた甘味に、虚ろな視線を向けているのだった。

 

 

「今日は、元気がないみたいだねぇ」

「……すみませんおばさま。折角遊びに来たのに、お店の雰囲気を悪くしちゃってるみたいで」

 

 

 少女が申し訳無さそうにおずおずと声を上げれば、店の主人である老婆は小さく首を振って否定を返す。

 

 

「甘味っていうのは、客を幸せにするもんさ。……お嬢ちゃんが笑えていないんなら、私の腕が悪かったってだけのことさね」

「……っ、違います、これはっ、私が……」

 

 

 悪いのは、私。……美味しいものを食べて、素直に笑えない自分が悪いだけなのだ。

 それでも、老婆は首を振る。……()()()()()()を吹き飛ばすのが食の力だ。だから、その鬱屈を払えないのは、自身の甘味が力不足だということなのだと。

 

 

「とはいえ、これは適材適所を誤っているというだけの話でもある。……お嬢ちゃんに今必要なのは、うちの甘味じゃなかったってことさ。ほら、今日は別の気分転換を試すんだね」

「あ………はい」

 

 

 ニコリと笑った老婆が、器に残ったままのあんみつを店の奥に下げていく。

 その背に手を伸ばしてみるが、何を言えばいいのかわからず、彼女は小さく肯定だけを返す。

 

 お代はいいよ、若いんだからもっと色々見て回るんだね──。

 そんな言葉と共に、半ば放り出されるように店の外に出た少女。店の外では休みの日らしい人の波が、右に左に流れ続けていた。

 

 何をすれば、良いんだろう──。

 

 少女の行動範囲は、あまり広くない。

 先の店が珍しいと言えるほどに、彼女が自発的に向かう場所というのは、家から近隣のモノに限られていた。

 だから、駅一つ(ぶん)家から離れたこの場所で、あの店から追い出されてしまったのなら。……彼女が歩みを向ける場所というのは、最早無いものに等しい。

 

 ──色々見て回れ、と言われたけれど。一体、何を見て回れば良いんだろう?

 目の前の人波に飛び込む様な勇気はないし、かといってこのまま家に戻る、というのも選択肢には上がらない。

 そうして逡巡しているところに、

 

 

「失礼、そこの貴方。さっきから辺りを見回しているけれど、何か探しものかしら?」

「……えっ?」

 

 

 背後から、声を掛けられた。

 振り向いた先には、こちらに視線を合わせるように腰を折る、長い黒髪が目を引く少女と。

 その後ろで、先の少女をなんとも言えない微妙な表情で眺めている、一人の少年の姿があったのだった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「あら、うちの新入生だったのね。親しみを込めて後輩ちゃん、とでも呼びましょうか」

「……いきなり馴れ馴れし過ぎだろ。……そっちも、嫌だったら言えばいいからな?」

「あ、いえ」

 

 

 ──初対面の男女に囲まれ、何処かへと歩いている今の状況は、一体何なのだろう?

 内心を困惑でいっぱいにしながら、それでも少女は歩みを合わせている。……初対面のはずなのに、奇妙な既視感が自身の裡から抜け切らなかったからだ。

 

 左側を歩く彼女は、少女よりも頭一つ分程度背の高い女性で、楽しげに笑みを溢すその姿からは、適度な余裕が窺える。……見ていると、自分がどうにも惨めに思えてきて、あまり好きな人だとは思えなかった。

 右側の少年は、先の少女より少しだけ背が低い。……少女にも彼女にも気を配って、色々と先回りをしているのが伺えて、どうにも申し訳ない気分になる。

 

 どちらも、普段の彼女ならば、何かと理由を付けて離れようとするタイプの人間だった。……こうして連れ立って歩いているのは、既視感の正体が何なのか、彼女が気にしているからに過ぎない。

 そもそも、男女で出掛けているのなら()()()()()なのだろう。

 ……わざわざ自分を間に入れる意味が分からなかったというのも、彼女が二人に付いていく理由になっている、というのは間違いではないだろう。

 

 

「さて、遊びに出たというのなら、ゲーセンは外せないわよね」

「今日の目的はそっちじゃなくて、併設されてるスポーツ施設のほうだろうに」

 

 

 たまにはボウリングでもって言ったのお前だろうに、と少年が咎めるように問えば、それもそうだったわねと飄々と返す少女。

 

 

(──あれ?)

 

 

 そのやり取りが、少女の既視感を刺激して。

 それを思い出すよりも先に、彼女は少女に手を引かれて施設の中に歩み入る。

 そのまま、あれよあれよと言う間に準備が(主に少年の主導で)進められ。

 

 

「……すみません、やり方とかわからないのですが」

「バンパー出したから、とりあえず投げれば大丈夫だよ」

 

 

 数分後、適度な重さの玉を選び取る事になった彼女は、何故か一番最初にボールを投げる羽目になっていた。

 

 表面上は無愛想にしているが、内心は困惑でいっぱいの少女である。

 このボールは何なのか、靴を履き替えたということはここは土足厳禁なのか、投げろとは何に対して?

 横を見れば他の客らしき人々が、ボールを滑らせるように投げ、施設の奥にある白いピンにぶつけている。

 つまり、これはボールを投げてピンに当て、倒した数を競う遊び、なのだろうか?……そういったことを、困惑しながら分析していく。

 

 

「ふふふ、どうせなら競争でもする?」

「初心者相手に何考えてるんだお前」

 

 

 近くに備えられたソファでは、先の二人がこちらの方に視線を向けながら、何事かを話している。

 ……順番待ち、なのだろうか?すなわち、自分が投げないことには進まない、と。

 

 

(ええい、成るように成れ、ですっ)

 

 

 半ば祈るように、他の人の真似をして送り出された重い玉(ボウリング玉)

 思いの外真っすぐ進んだその玉は、吸い込まれる様にピンに向かっていき。

 

 

「おお、ストライク」

「っ、び、ビギナーズラックというやつね」

「えと、凄いんですか?」

「おう、凄い凄い」

 

 

 すべてのピンが倒れたことを示すリボン(ストライク)のマークが、頭上のモニターに記された、自身の名前がある表に記載される。

 

 ……よくはわからないが、凄いことらしい。

 正直実感が湧かないので喜び辛いのだが、他の客達もこちらを感心した様に見ていたので、少年の言葉は本当なのだろう。

 まぁ、当の少年も軽々とストライク(リボン)を取っていたので、その感覚もちょっと怪しく感じてしまったのだが。

 

 

「ふ、流石は我が幼馴染みね。──でもダメ、全然ダメね。所詮は、私の引き立て役よ」

「引き立て役って、そもそもまだ一投目だぞ?」

 

 

 少年が投げたので、次は彼女の番である。

 ……なんだかよくわからないが凄い自信だった。横の少年のもっともな指摘が霞むくらいに堂々としていた。

 そのまま彼女はレーンの前に優雅に進み出て、皆が惚れ惚れするようなフォームで投球をして見せ。

 

 

「……バンパー、出したままのほうが良かったか?」

「……………………」

 

 

 最初に少女が投げた後、引っ込めたバンパーによって隠されていた(ガーター)へと、ボールは綺麗に吸い込まれていった。

 ……いっそ芸術的ですらあった、最早笑いすら上がらなかった。

 そんな、気まずい沈黙の中で彼女は。

 

 

「………う」

「う?」

「うがぁぁぁぁぁあああぁっ!!」

「!!?」

 

 

 先までの優雅さは何処へやら。

 謎の雄叫びを上げた後、ボールが戻ってくる場所で素直に待って、出てきた自身のボールをむんずと掴み、再びレーンの前に立って。

 

 

「───チェェストォォォオォッ!!!」

 

 

 気合一閃、威勢良く放たれたボールは、寸分違わずピンに向かい、その全てを打倒してみせた。

 次いで、彼女の名前の横に刻まれる三角形(スペア)のマーク。

 戻ってきた彼女は、先までの澄まし顔を何処かにやった、勝ち気な笑みを浮かべていて。

 

 

「どうだい同胞っ!!バンパーなんざ、いらんのじゃいっ!!」

「はいはい。後輩がビビってるから程々になー」

「はい?……ほわっ!?ごごごごゴメン後輩ちゃんっ!?」

 

 

 何を謝っているのだろう?そう思いながら下に視線を向ける。

 そこでようやく、少女は自分が持っていた飲み物を、地面に落としてしまっていたことに気付くのだった。

 

 

 

 

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