百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「うーむ、あんまり面白い新メニューはなかったなぁ」
「お前みたいに、突飛な新商品を望むやつばっかりでもないんだよ……」
無難な季節限定のハンバーガーのセットを頼んだ私と、思春期の男子らしくがっつり二段バーガーのセットを選んだ幼馴染みは、二人で窓際の席に陣取り、あーでもないこーでもないと駄弁りながらポテトを口に運んでいた。
……うむ、ポテトはやっぱりマ○クだな。皮付きポテトとかだと他のところが候補に上がるけど、揚げたてならやっぱりここがいい、異論は認める。
「このチープな感じが堪らないんだよねー」
「おいバカやめろ喧嘩売るな、店員さんめっちゃ見てきてるじゃねぇか」
「んー?」
幼馴染みの言葉に、ポテトに向けていた視線を僅かに上げる。
別に大きな声で話してるわけでもないのだけど、確かに周囲からの視線を感じないでもない。……あ、いや、これ違うわ。
「同胞同胞、これ睨まれてるんとちゃう」
「はぁ?……あ」
私の言葉を聞いて理由に思い当たったらしい幼馴染みは、なんとも言えない渋面を作る。……元がいいのでそれも案外可愛く見える、なんて言うと怒られるんだろうなぁ。
そしてこうやってじゃれてると、周囲からの視線が更に増える、と。うーむ擬似キマシタワー。
……や、実際傍目から見たら今の私達、お出かけしに来た美少女二人が、ポテト食べながら戯れてるようにしか見えないからね、仕方ないね。
そりゃ周囲からの視線も増えると言うものです。
……そして私はサービス精神旺盛な女。
衆目が期待しているのだからやらねばなるまい!
「ほい、あーん」
「…………あ゛?」
幼馴染みに向かって自身のポテトを差し出し、声を掛ける。
……困惑の視線が返ってくるけど美少女スマイルでガード。
ふふふ、君に取れる選択肢は、端から二つだけなのだよワトスン君。
私の手ずからのあーんを受け入れるか!はたまたそれを退けて照れを見せるか!
二つに一つだ!お前の運命は!
「……ぐぬぬぬぬ」
珍しく唸り声をあげる幼馴染みに、大いに楽しませて貰いつつ、ポテトを目の前に差し出し続ける私。そうしてニヤニヤ笑っていると、
「んぬ?」
「ただでは死なねーぞ……」
なんと我が幼馴染み、こちらにもポテトを突き出してあーんを行おうとしているではないか!
……いやなんだこのクロスカウンターめいた状況。楽しげにやってるならまだしも、不敵に笑って突き出してるから、なんか変な感じになってるし。
……ふっ、だが甘いな幼馴染みよ!そんなもので今さら私が怯むか!
「んむ」
「躊躇いなく食ったー!?」
「……んぐんぐ……いやだって、別に友達同士なら、相手が男でも別に照れるもんでもないし……
仲の良い友達同士、かつ気安い関係ならわりと男同士でも食べさせあいは普通に起こるものです、基本的にはふざけてやる感じだけど。
……だから世のお姉様方がガタッてするんですよね、ガタッと。
「だからほれ、変に照れずにサクッと行くのじゃ同胞。意識するほうが疲れるぞい」
「そういうもんなのか……?んじゃまぁ、あむ」
私の言葉に促されるように、ポテトにかぷっとかぶり付く同胞。……うむ、幼馴染みも中々いい食べっぷりである。
周囲もなんかほっこりしてるみたいだし、とりあえずこれで満足でしょみんな。……ほれほれ、美少女(?)達の戯れで目の保養をするなら今の内だぞー?
そのあとはハンバーガーを食べながら、一時間くらいあれこれ駄弁っていた私達なのであった。
……窓際だったので、店の売上にも結構貢献していたような気がしないでもないけど、それはまた別の話。
ハンバーガーショップを退店し、街の散策を再開してからおおよそ三十分くらい。
私は今、ちょっとした感動を覚えていた。
「ね、いいじゃんちょっとだけ!話するだけだからさ!」
「いや、だからだな……」
見た目がチャラい金髪のにーちゃんが、私達の行く手を遮るように立っているのだ。
顔の前で手を合わせて懇願する姿はなんというか、改めて目前にしてしまうと「マジかぁ」と、ちょっと笑みが浮かんできてしまう。
……いや、だってさ?
まさかこんな典型的なナンパ男が、この世界にも実在するだなんて思わないじゃん?
しかも積極的に話しかけてるの同胞のほうなの!笑うでしょこんなの!
なので今の私は、ちょっとだけ判断が緩くなっているのだった。
「ふ、ふふふ。まぁいいんじゃない?話すだけなら、ね」
「……おいちょっと待て、お前なに考えてるんだ?」
「お、そっちはお堅い感じなのかと思ってたんだけど、結構話せるじゃーん」
「ええ、お話だけなら幾らでも。あ、一応先に言っておこうかなと思うのだけれど」
「え、なになに?」
視線を幼馴染みからこっちに向け直した彼に、にっこりと笑い返す。……見るからに表情が緩んだのを見て、ちょっと笑えるなぁなんて思いつつ。
困惑する幼馴染みの手を取って、伝えたいことを口にする。
「この子、男の子。で、私の彼氏、なんだけど。……そのあたり、大丈夫?」
瞬間、ナンパ男と我が幼馴染みが揃って硬直する。
幼馴染みは「なななな……っ?!」っとなななbotになって茹で蛸化してるし、目の前のナンパ男はあちゃー、と顔に手を当てて天を仰いでいた。
無論、彼氏扱いはナンパ撃退の常套手段以外の何物でもないのだけれど……。
ちょっと同胞の挙動が面白いので、これからも時々使ってみてもいいかもしれないね?なんて思う私。
「なるへそ、そりゃあ俺はお邪魔虫だわー」
「物わかりがいい人は嫌いじゃないわ。……というか、見た目的に彼のほうが良かったりした?」
「いやー、彼女さんはちょっと性格キツそうに見えたからさー。……いやでも可愛さで見るなら、彼氏さんのほうじゃね?」
「そうそう、私は綺麗系だからね。……見てよほら、真っ赤になっちゃってる彼、可愛くない?」
「可愛い可愛い」
「「いえーい!」」
「なにわけわかんない意気投合してんだよお前ら!?」
ナンパ男とハイタッチしてウェイウェイしてたら、ようやく再起動した幼馴染みが声を荒げて荒ぶっていた。……顔真っ赤なままだから全然怖くないけどね!
でもお約束としてナンパ君と息を合わせておこう。チラッと視線を向けると、ナンパ君はニヤリと笑っていた。
なので大袈裟なリアクションを交えつつ、幼馴染みに声を返す。
「あらやだ奥様聞きました?最近の若い子は怖いですわねぇ」
「そうですわね奥様、話題のキレる若者なのかしら?くわばらくわばら」
「なんなんだよ!?なんでそんな息あってんだよお前ら?!あと別にキレてねぇ!」
「「きゃーこわーい♪」」
「……ぐ、ぐぬぬぬ」
あー面白い、隣のナンパ君もノリがよくてとても楽しい。
……まぁ、あんまりやり過ぎると同胞が拗ねるから、これくらいにしておこうかな。
ナンパ君の横から幼馴染みの隣に戻って、改めてナンパ君と視線を合わせる。
その顔には楽しかった、という感情しかなくて、どうやらナンパとかはどうでもよくなったようにも見えた。……いや、ホントにノリいいなこの人?
「いやー、俺ホント見る目ないわー。彼女さん見掛けによらず話せる人じゃん?つーか話してるとめっちゃ楽しいじゃん」
「乙女にとって素顔を隠す仮面は付き物、でしてよ?……ナンパするなら、相手を考えたほうがいいんじゃない?なんてね」
「ぷっ、ははははっ!いや、ホント!マジそれ!」
「……なんだこの圧倒的アウェー感……」
そうして二人で楽しく話していたら、幼馴染みが渋面でぶつぶつ言っていた。
いやごめんて、まさかこんな愉快なことになるとは思わなかったんだって。
「んじゃま、お邪魔虫な俺は退散しますよー。お二人ともデート楽しんでねー」
「あ、ちょっと待ちなさいナンパ君」
「はい?」
笑って離れようとするナンパ君に、声を掛けて引き止めた。
困惑した様子の彼に悪戯っぽく微笑み掛けながら、こっちの要件を伝える。
「どうせなら、ホントにお話しない?」
「……はい?」
「いやホント、ボディーガード頼まれるとかまさかまさかでびっくりっすよ」
「受けてくれたアンタにも、俺はびっくりだよ……」
見た目的に美少女二人が街をぶらついてるようにしか見えないので、遅かれ早かれナンパ野郎には絡まれていたような気がする。
なので、厄介なやつらを避けるためにも付いてきてくれないか……、というようなことを彼にお願いした私。
困惑した彼に、両手に花気分も味合わせてあげるわよ?と言ったら「彼女さんなんかスッゲーっすね……」と幼馴染みにひそひそと話し掛けていた。
対する幼馴染みは「いや、うん、もうなんか、うん」とか言っていたが。
……彼氏ってところを否定するとややこしくなるから否定できずにいるので、ちょっと処理がハングしてる感じかなこれ?
なお、確かに両手に花気分も味わえるだろうけど、周囲からの羨望と嫉妬の視線によって針の筵状態にもなっていたので、正直プラマイゼロのような気がしないでもない……ということについては知らん顔しておく。
「で、こうして本屋巡りしてるんですっけ?それも、できうる限り色んな店に行きたいー、とか」
「売れ筋ランキングが見れるところとか、個人でやってるようなところとか。……とにかく数を回りたいんだよねー」
ナンパ君が先導しながら、首だけこっちに向けて話し掛けてくるので、その通りだと軽く答える私。
現在の私は、ナンパ君相手なら優等生モードでなくても構わないかなー、って感じで言葉を崩しているのだが。
それを聞いたナンパ君は、最初「俺ホント見る目ねぇー!」と頭を抱えて悶絶していた。……気安い感じの関係がいいから、ナンパ男やってるのかなこの人?
まぁそれは置いといて。今日のもう一つの目的は、ズバリ本屋巡りである。
一応転校生ちゃんにも頼んではいるが、演劇祭は地元の人も招くお祭。……リサーチするなら近場を押さえておく必要もあるだろう、と思ってのことだ。
実際、それなりに店を回ることで、最近の売れ筋が妖怪退治ものらしいということも知れた。
それに合わせて活劇系とかも考慮に入れとこうかなー、なんて道筋を立てられたので、リサーチとしては大成功の部類だろう。
……いやまぁ、最初の勇者と魔王も中々捨てがたいなー、ってまだ迷ってはいるんだけどね。
そのあたりは次の部活で煮詰めるかなー、なんて思っていたところ。
「……あ、もう五時か」
「ありゃ、意外と時間経ってたんだね」
基本的に商店街のアーチの中を動き回っていたので、日の傾きとか全然気付かなかったのだけれど。……どうやら、思った以上に時間が過ぎてしまっていたらしい。
本屋の外にある時計が、ちょうど五時になったことを私達に知らせていた。
「ふーむ、じゃあそろそろ解散かな?遅くなってもあれだし。……ナンパ君も、今日は一日ありがとねー」
「いやー、ははは。俺としてはお邪魔虫じゃなかったか、気が気じゃなかったんすけどね」
「いや、居てくれて助かった、ほんと助かった」
「はい?……いやなんで彼氏さん、そんなめっちゃ歳食ったみたいになってんです?」
「聞かないでくれ……」
疲労困憊まさに折れかけ、みたいな幼馴染みの姿に困惑するナンパ君。……それは私のせいだが私は謝らない。
まぁ、彼と一緒にいて楽しかった、ということだけは確かだろう。
なので、最後にナンパ君に、ちょっとしたアドバイスを投げておくことにする。
「ナンパ君、頑張ってね?どこかに貴方だからこそ好きになってくれる人、きっといるだろうからさ」
「ははは。そうっすねぇ、見付かったらいいっすねぇ」
腑抜けた笑顔を浮かべながら、頭を掻くナンパ君。
……今日一日一緒に歩いただけの私だけど、それでも彼が悪い人ではないのは分かる。だから、
「──見付かるよ。貴方がいい人なのは保証するよ。この私が、ね。……天下無敵のパーフェクト美少女からのお墨付きだぜ、ドンと胸を張りな兄ちゃん!」
「ぷっ、全く。彼女さんはスッゲーなぁ」
ナンパ君は眉をへにゃっと曲げながら笑みを浮かべ、手を振りながら雑踏に消えて行った。
……ん、まぁあとは彼次第、かな。
まぁでも、すぐにいい人見付けてそうな気もするけど。
「んじゃま、私らも帰ろっか。……手とか組む?」
「くーまーなーいー!」
……そこまで拒否せんでも。いやー可愛い幼馴染みだなー。
そうして私は家に戻るまで、幼馴染みを適度にからかい続けるのだった。