百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について   作:アークフィア

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百合ゲー世界に転生したら文芸部に迫っていた影の件について

「………あの人が」

 

 

 電信柱の影から彼女を窺う。

 幼馴染みの青年と、仲睦まじげに帰路を急ぐ少女。

 ……あんなに仲が良さそうなのに、別に付き合ってるわけではないという、不思議な二人組。

 ……彼女の目的の為に、追い求めていた人物。

 

 

「やっと、見付けた」

 

 

 闇夜の中で、ぽつりと呟く声が響いた。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「むー」

「……それで、なんで後輩ちゃんは拗ねているのかしら?」

「あー、土曜日に同胞とお出かけしてたことを話したら『ずーるーいーでーすー!』って拗ねちゃって……」

「ずーるーいーわーよー!」

「こっちも拗ねたんだが」

「うーむ連鎖反応……」

 

 

 部活初めに休みの日になにをやっていたのか的な話になったので、幼馴染みとちょっとお出かけしてたということを伝えたら、後輩ちゃんが拗ねっ子になってしまった。

 なのでどうしようかなーと思案していたところ、後からやって来た転校生ちゃんが、後輩ちゃんの様子を見て疑問符を浮かべていたので、同じように説明したらこれである。……なんだこの拗ねっ子感染力。

 

 うーむ、これは私と幼馴染みもずるい的なこと言ってれば、四つ揃って消えたりするのでは……?などと宣えば「誰が丸くて柔らかくて四つ揃うと消えそうな不思議生物ですかー!」と後輩ちゃんが憤慨していた。

 

 仕方ないので、代わりにグミを与えて機嫌を取ってみる。

 ……四つ頬張った時点で機嫌がよくなったので、やっぱりなにかしら消えてるんじゃないかな、と思わないでもない。

 なお、転校生ちゃんは五つ目で機嫌が直った。……いやなにその謎の張り合いは?

 

 

「私と後輩ちゃんは強敵(とも)ですもの、競争できるところでは競争しておかないとね」

「て、転校生さん……!」

「……え?なにこの空気?いい話なのこれ?」

「俺に振らないでくれ……」

 

 

 いや、ホントによくわからないのだけれど、これはどういうあれなの?

 

 ……てぇてぇ?これはてぇてぇなの?てぇてぇと言い張っていいものなの?

 わからない、私にはなにもわからないのよ、知らないことばかりなのよ。……って感じに、意識を宇宙に飛ばす私。

 幼馴染みが「しっかりしろぉ!」って揺すってくれるまで意識が飛んでた私は、さらに一度頭を振って気を取り直した。

 

 

「まぁ、土曜日に色々見てきたから、それを元に話を考えて行こうか」

「あ、ちょっと待って下さい!」

「んん?後輩ちゃんどうしたの?」

 

 

 そうして今日の部活の方針を説明しようとしたのだけれど、後輩ちゃんから待ったの声が上がった。

 いきなりなんだろうと思った私は、部室の外に人の気配があることに気付いてなるほど、と勝手に納得する。

 

 ……この前の金曜日、帰り道に感じた人の気配。そして、本来ならこの時期での文芸部は、しっかり部活として認められていたという事実。

 ──幼馴染みを除いた時に、足りてない二人の部員。……その内の一人のフラグが立ったのだと確信する。

 

 ……ふ、ふふふふ。なるほどなるほど。

 我がユリーレム完成の時がまた近付いたのだと!つまりはそういうことだな後輩ちゃん!

 

 無論、そのあたりは一切口にも顔にも出さない。

 文芸研究会部長の私は慌てない、傲らない、昂らない。……クールに待つのさ、果報をね……。(ドヤァ)

 

 

「なんだか先輩が唐突にドヤってますが、とりあえず。……入ってきていいですよー!」

 

 

 来た……来た……。

 思わずざわざわしつつ、部室の入り口に視線を向ける。

 ……私の予想が確かであるのなら、ここで現れるのは、本来の時間軸で一番文芸部らしい存在であった少女、通称寡黙ちゃんだろう。

 

 文芸部所属かつ眼鏡を掛けた大人しい女の子で、いわゆる綾波系の系譜にあたる少女。……いや、情報統合思念体の子のほうが近いかも?

 物を書いたり読んだりするのが好きな子で、例の演劇祭もその実、彼女の紹介イベントの趣が強いものだった。

 実際彼女のルートは、寡黙ちゃんが作った台本による劇は大成功に終わった──みたいなところから始まるものであるし。

 

 文芸部での主な役職はプロット作成などの基礎部分。

 ……原作での演劇祭の台本が、王子様とお姫様のラブストーリーであることからもわかる通り、ロマンチックな恋愛に憧れる、恋に恋する乙女だったりもする。

 なお、とある理由から夜になるとちょっと元気になる体質で、金曜日に暗がりから気配を感じた私が顔を綻ばせたのは、彼女がそこにいるということを半ば確信していたからだったり。

 

 と、言うわけで。

 可愛い可愛い寡黙ちゃんを迎えるため、組んだ手の甲の上に顎を乗せて待ち構える私。背後に控えた幼馴染みはなんか微妙な顔をしていたが、わくわくが止まらない私は意図的にスルー!

 さぁ、さあさあ!おいでませ寡黙ちゃん!そして私とレッツゆりゆりしようぜ!

 そして、ついに扉が開き────、

 

 

此処か、祭の会場は(失礼しまーす)

「………んんん?」

 

 

 ……ん?気のせいかな?とても可愛らしい声音で、なんか変な言葉が聞こえたような?

 私が困惑から首を捻る間に、空いた扉の隙間から、室内に一人の少女が滑るように入ってくる。

 

 ……トレードマークの眼鏡はそのままに、左目には何故か黒い眼帯を装着していて。

 綺麗な黒髪をおさげにしているはずが、何故か銀髪のウェーブ掛かった長い髪を棚引かせていて。

 気弱な視線を向けてくるはずが、キリッとした強い視線を向けてきていて。

 

 そんな、寡黙ちゃんってなんだよ……みたいな、どう考えても寡黙とは真反対の姿の少女が、堂々と室内に仁王立ちをしていたのだった。

 

 ……あれ?新キャラ?知らないよ私この子?

 なんて困惑でいっぱいの私の前で、件の彼女が静かに口を開く。

 

 

新たなる夜明けを求め参上仕った(はじめまして、こんにちわ)錨をあげよ、汝の為すべき事を違えるな(私も入部させて頂けないでしょうか?)

「………………げふぁっ!!?」

「先輩が血を吐いたっ!?」

「あー、うん。御愁傷様というか」

「言ってる場合じゃないでしょう、ちょっと寝かせてあげないと」

……む?(あれ?)千載一遇の好機を逃したか?(なにかやっちゃいましたか私?)

 

 

 わ、私の寡黙ちゃんが、大人しくて可愛い寡黙ちゃんが……っ!!

 ふ、不良(中二)になっちまっただ!……がくっ。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

「すごく落ち着いた」

「全然落ち着いてないわね、もう少し横になってなさいな」

「はい……」

 

 

 室内のソファーに寝かし付けられた私。

 元気になったと主張したが、転校生ちゃんにまだ寝てろと言われたので、大人しく横になっておく。……いやまぁ、確かにまださっきのショックから、立ち直れていないわけなんだけども。

 

 

「彼女は私と同じクラスの子なんですよ!」

我が親愛なる盟友に多大な感謝を(私達とっても仲良しなんですよ)盟友の奏でる説話に(色々と話を聞いて)気ままな風が吹き抜けたのでな(私も仲間に入れて欲しいなって)

「……なるほど?」

「ぐふっ……!」

「いいから、辛いなら寝てなさい」

 

 

 机のほうでは、後輩ちゃんが寡黙ちゃんの紹介を幼馴染みにしていたのだが、寡黙ちゃんが口を開くたびに、私に精神的ダメージが飛んでくる。

 ……なんか副音声が聞こえるからまだマシなほうだけど、それでも濃厚な熊本弁(中二ワード)に脳が揺さぶられるのだ。

 いや、なんで寡黙ちゃん中二病にクラスチェンジしてるんです……?

 

 

「あ、これはちょっと緊張してたり、張り切ってるとこうなるみたいで、普段は普通に会話できますよ?そっちはそっちで、ちょっと恥ずかしがり屋さんですが!」

盟友(もう!)次余計な事を言ったら(私だって恥ずかしいんだから)その口を縫い合わせるぞ(そういうこと言わないでよー!)

「……うん、うん。……おい」

 

 

 対応していた幼馴染みが、そっとこちらにヘルプの視線を送ってくるが、私は首を振って拒否する。……慣れるまで ムリです 。というか、熊本弁だけじゃなくて特殊部隊語も混じってないそれ?

 

 

破壊を嫌い退ける者よ(モノを書くのは得意なので)我がカルマ(そのあたりを)汝の先行きを約束するモノなれば(お手伝いできればなー、と)

「うん、とりあえず一つ短いのお願いしてもいいかな!早急に!今すぐに!」

む?了解した(え?あ、はい)

 

 

 寡黙ちゃんがこちらに声を掛けてきたので、精神安定と確認の意味も兼ねて、一つ創作を頼む私。

 ……これでできあがってきた文章までアレ(中二)だったら私部長辞めるからね!?ふりじゃないぞ!お願いだからお願いね!?

 なんてよくわからない懇願をしつつ、待つこと大体一時間。

 

 

結びを此処に。(できましたー!)汝の望む華、その真価を今示そう(こんな感じでいいですか?)

「あ、はい。……これが……ごくり」

 

 

 私の目の前にあるのは、四百字詰め原稿用紙七枚分くらいの短編小説だ。……一時間で三千文字くらい書いてるんですけどこの子(恐怖)

 いや、執筆速度がよくても、内容によってはダメだったりするし、中を確かめなければ。

 

 ……確かめる、のか。この、寡黙から中二にクラスチェンジした彼女がしたためた、渾身の作品を?

 ……なんか手が震えて来たんですがそれは。

 大丈夫?ホントに大丈夫?中二ワールド全開の、読むだけで私の死が確定するブツだったりしない?

 

 思わず視線を原稿から寡黙ちゃんに移してしまう。

 ……彼女はこてん、と小首を傾げて、読まないのか?とでも言いたげに眉をひそめていた。……副音声的に睨んでるんじゃなくて、不安になってるのだと思われる。

 ぬぐぅ、これは裏切れない。そんな顔されたら読むしかないじゃない……っ!

 

 意を決して、原稿を手に取る。

 ……タイトルは「片羽の契り」。幼い頃に疎遠になってしまった、二人の男女の物語だった。

 

 

「………ふむ」

「……………(そわそわ)」

「んー………」

「!」

「………ふぅ」

「……………」

「………うん」

いざ、裁定や如何に(ど、どうでしたか)?」

 

 

 全てを読み終えた私は、自然と敬礼を取っていた。

 目蓋の端からは、滔々と涙が流れていた。

 ――静かな畏敬がそこにはあった。感動があった。溢れる感謝があった。

 僅か三千文字、されど三千文字。

 集約された物語には、確かに人を引き込む熱があった。

 ……名作。陳腐だが、そう呼ぶほかない一品だった。

 

 

「ブラボー、おおブラボー……」

恐悦至極(やりました!)

「な、なんかよくわからんけど、上手くいったみたいだな」

「……ぐすっ、まさか、十年前の約束がこんな風に繋がるなんて。……名作だわ」

「あ、ずるいですよ転校生さん!私にも読ませてください!」

「はい、どうぞ。……それにしても、見掛けによらず繊細な物語を紡ぐのね、貴方」

我が仮面、無論偽りにて(お恥ずかしながら)その異様、我が一筆に抗うこと能わず(昔から切ない物語が好きなんです)

 

 

 できあがった物語は、中二的な要素のほとんどない、若い男女の恋物語だった。

 三千文字では足りないだろうそれを、それでも上手く納め、素晴らしい物語として出力していた。

 ……疑いようもなく、彼女の腕は最高のものだった。

 中二っぽく姿が変化したとしても彼女の芯は変わらなかった、ということらしい。

 

 

「よろしい、我が文芸研究会は紡ぎ手ちゃん、貴方の参加を認めます」

「……紡ぎ手?」

その勅命、委細承知した(あ、有難う御座います!)

 

 

 こら同胞、いいところなんだから茶々入れないの。

 対する紡ぎ手ちゃんは、恭しく一礼をして私の言葉を受け入れた。

 ……副音声と肉体の行動が合ってない気がするんだけど、この副音声ホントに合ってる?どこか間違ってたりしない?

 

 ……なにはともあれ、こうして我が文芸研究会に新しい仲間、寡黙ちゃん改め紡ぎ手ちゃんが加わることになったのだった。

 

 

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