百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「………あの人が」
電信柱の影から彼女を窺う。
幼馴染みの青年と、仲睦まじげに帰路を急ぐ少女。
……あんなに仲が良さそうなのに、別に付き合ってるわけではないという、不思議な二人組。
……彼女の目的の為に、追い求めていた人物。
「やっと、見付けた」
闇夜の中で、ぽつりと呟く声が響いた。
「むー」
「……それで、なんで後輩ちゃんは拗ねているのかしら?」
「あー、土曜日に同胞とお出かけしてたことを話したら『ずーるーいーでーすー!』って拗ねちゃって……」
「ずーるーいーわーよー!」
「こっちも拗ねたんだが」
「うーむ連鎖反応……」
部活初めに休みの日になにをやっていたのか的な話になったので、幼馴染みとちょっとお出かけしてたということを伝えたら、後輩ちゃんが拗ねっ子になってしまった。
なのでどうしようかなーと思案していたところ、後からやって来た転校生ちゃんが、後輩ちゃんの様子を見て疑問符を浮かべていたので、同じように説明したらこれである。……なんだこの拗ねっ子感染力。
うーむ、これは私と幼馴染みもずるい的なこと言ってれば、四つ揃って消えたりするのでは……?などと宣えば「誰が丸くて柔らかくて四つ揃うと消えそうな不思議生物ですかー!」と後輩ちゃんが憤慨していた。
仕方ないので、代わりにグミを与えて機嫌を取ってみる。
……四つ頬張った時点で機嫌がよくなったので、やっぱりなにかしら消えてるんじゃないかな、と思わないでもない。
なお、転校生ちゃんは五つ目で機嫌が直った。……いやなにその謎の張り合いは?
「私と後輩ちゃんは
「て、転校生さん……!」
「……え?なにこの空気?いい話なのこれ?」
「俺に振らないでくれ……」
いや、ホントによくわからないのだけれど、これはどういうあれなの?
……てぇてぇ?これはてぇてぇなの?てぇてぇと言い張っていいものなの?
わからない、私にはなにもわからないのよ、知らないことばかりなのよ。……って感じに、意識を宇宙に飛ばす私。
幼馴染みが「しっかりしろぉ!」って揺すってくれるまで意識が飛んでた私は、さらに一度頭を振って気を取り直した。
「まぁ、土曜日に色々見てきたから、それを元に話を考えて行こうか」
「あ、ちょっと待って下さい!」
「んん?後輩ちゃんどうしたの?」
そうして今日の部活の方針を説明しようとしたのだけれど、後輩ちゃんから待ったの声が上がった。
いきなりなんだろうと思った私は、部室の外に人の気配があることに気付いてなるほど、と勝手に納得する。
……この前の金曜日、帰り道に感じた人の気配。そして、本来ならこの時期での文芸部は、しっかり部活として認められていたという事実。
──幼馴染みを除いた時に、足りてない二人の部員。……その内の一人のフラグが立ったのだと確信する。
……ふ、ふふふふ。なるほどなるほど。
我がユリーレム完成の時がまた近付いたのだと!つまりはそういうことだな後輩ちゃん!
無論、そのあたりは一切口にも顔にも出さない。
文芸研究会部長の私は慌てない、傲らない、昂らない。……クールに待つのさ、果報をね……。(ドヤァ)
「なんだか先輩が唐突にドヤってますが、とりあえず。……入ってきていいですよー!」
来た……来た……。
思わずざわざわしつつ、部室の入り口に視線を向ける。
……私の予想が確かであるのなら、ここで現れるのは、本来の時間軸で一番文芸部らしい存在であった少女、通称寡黙ちゃんだろう。
文芸部所属かつ眼鏡を掛けた大人しい女の子で、いわゆる綾波系の系譜にあたる少女。……いや、情報統合思念体の子のほうが近いかも?
物を書いたり読んだりするのが好きな子で、例の演劇祭もその実、彼女の紹介イベントの趣が強いものだった。
実際彼女のルートは、寡黙ちゃんが作った台本による劇は大成功に終わった──みたいなところから始まるものであるし。
文芸部での主な役職はプロット作成などの基礎部分。
……原作での演劇祭の台本が、王子様とお姫様のラブストーリーであることからもわかる通り、ロマンチックな恋愛に憧れる、恋に恋する乙女だったりもする。
なお、とある理由から夜になるとちょっと元気になる体質で、金曜日に暗がりから気配を感じた私が顔を綻ばせたのは、彼女がそこにいるということを半ば確信していたからだったり。
と、言うわけで。
可愛い可愛い寡黙ちゃんを迎えるため、組んだ手の甲の上に顎を乗せて待ち構える私。背後に控えた幼馴染みはなんか微妙な顔をしていたが、わくわくが止まらない私は意図的にスルー!
さぁ、さあさあ!おいでませ寡黙ちゃん!そして私とレッツゆりゆりしようぜ!
そして、ついに扉が開き────、
「
「………んんん?」
……ん?気のせいかな?とても可愛らしい声音で、なんか変な言葉が聞こえたような?
私が困惑から首を捻る間に、空いた扉の隙間から、室内に一人の少女が滑るように入ってくる。
……トレードマークの眼鏡はそのままに、左目には何故か黒い眼帯を装着していて。
綺麗な黒髪をおさげにしているはずが、何故か銀髪のウェーブ掛かった長い髪を棚引かせていて。
気弱な視線を向けてくるはずが、キリッとした強い視線を向けてきていて。
そんな、寡黙ちゃんってなんだよ……みたいな、どう考えても寡黙とは真反対の姿の少女が、堂々と室内に仁王立ちをしていたのだった。
……あれ?新キャラ?知らないよ私この子?
なんて困惑でいっぱいの私の前で、件の彼女が静かに口を開く。
「
「………………げふぁっ!!?」
「先輩が血を吐いたっ!?」
「あー、うん。御愁傷様というか」
「言ってる場合じゃないでしょう、ちょっと寝かせてあげないと」
「
わ、私の寡黙ちゃんが、大人しくて可愛い寡黙ちゃんが……っ!!
ふ、
「すごく落ち着いた」
「全然落ち着いてないわね、もう少し横になってなさいな」
「はい……」
室内のソファーに寝かし付けられた私。
元気になったと主張したが、転校生ちゃんにまだ寝てろと言われたので、大人しく横になっておく。……いやまぁ、確かにまださっきのショックから、立ち直れていないわけなんだけども。
「彼女は私と同じクラスの子なんですよ!」
「
「……なるほど?」
「ぐふっ……!」
「いいから、辛いなら寝てなさい」
机のほうでは、後輩ちゃんが寡黙ちゃんの紹介を幼馴染みにしていたのだが、寡黙ちゃんが口を開くたびに、私に精神的ダメージが飛んでくる。
……なんか副音声が聞こえるからまだマシなほうだけど、それでも濃厚な
いや、なんで寡黙ちゃん中二病にクラスチェンジしてるんです……?
「あ、これはちょっと緊張してたり、張り切ってるとこうなるみたいで、普段は普通に会話できますよ?そっちはそっちで、ちょっと恥ずかしがり屋さんですが!」
「
「……うん、うん。……おい」
対応していた幼馴染みが、そっとこちらにヘルプの視線を送ってくるが、私は首を振って拒否する。……慣れるまで ムリです 。というか、熊本弁だけじゃなくて特殊部隊語も混じってないそれ?
「
「うん、とりあえず一つ短いのお願いしてもいいかな!早急に!今すぐに!」
「
寡黙ちゃんがこちらに声を掛けてきたので、精神安定と確認の意味も兼ねて、一つ創作を頼む私。
……これでできあがってきた文章まで
なんてよくわからない懇願をしつつ、待つこと大体一時間。
「
「あ、はい。……これが……ごくり」
私の目の前にあるのは、四百字詰め原稿用紙七枚分くらいの短編小説だ。……一時間で三千文字くらい書いてるんですけどこの子(恐怖)
いや、執筆速度がよくても、内容によってはダメだったりするし、中を確かめなければ。
……確かめる、のか。この、寡黙から中二にクラスチェンジした彼女がしたためた、渾身の作品を?
……なんか手が震えて来たんですがそれは。
大丈夫?ホントに大丈夫?中二ワールド全開の、読むだけで私の死が確定するブツだったりしない?
思わず視線を原稿から寡黙ちゃんに移してしまう。
……彼女はこてん、と小首を傾げて、読まないのか?とでも言いたげに眉をひそめていた。……副音声的に睨んでるんじゃなくて、不安になってるのだと思われる。
ぬぐぅ、これは裏切れない。そんな顔されたら読むしかないじゃない……っ!
意を決して、原稿を手に取る。
……タイトルは「片羽の契り」。幼い頃に疎遠になってしまった、二人の男女の物語だった。
「………ふむ」
「……………(そわそわ)」
「んー………」
「!」
「………ふぅ」
「……………」
「………うん」
「
全てを読み終えた私は、自然と敬礼を取っていた。
目蓋の端からは、滔々と涙が流れていた。
――静かな畏敬がそこにはあった。感動があった。溢れる感謝があった。
僅か三千文字、されど三千文字。
集約された物語には、確かに人を引き込む熱があった。
……名作。陳腐だが、そう呼ぶほかない一品だった。
「ブラボー、おおブラボー……」
「
「な、なんかよくわからんけど、上手くいったみたいだな」
「……ぐすっ、まさか、十年前の約束がこんな風に繋がるなんて。……名作だわ」
「あ、ずるいですよ転校生さん!私にも読ませてください!」
「はい、どうぞ。……それにしても、見掛けによらず繊細な物語を紡ぐのね、貴方」
「
できあがった物語は、中二的な要素のほとんどない、若い男女の恋物語だった。
三千文字では足りないだろうそれを、それでも上手く納め、素晴らしい物語として出力していた。
……疑いようもなく、彼女の腕は最高のものだった。
中二っぽく姿が変化したとしても彼女の芯は変わらなかった、ということらしい。
「よろしい、我が文芸研究会は紡ぎ手ちゃん、貴方の参加を認めます」
「……紡ぎ手?」
「
こら同胞、いいところなんだから茶々入れないの。
対する紡ぎ手ちゃんは、恭しく一礼をして私の言葉を受け入れた。
……副音声と肉体の行動が合ってない気がするんだけど、この副音声ホントに合ってる?どこか間違ってたりしない?
……なにはともあれ、こうして我が文芸研究会に新しい仲間、寡黙ちゃん改め紡ぎ手ちゃんが加わることになったのだった。