先日の選抜レースでは遠目ではっきりしなかったが、ヴィクトリーピザも素晴らしい身体を持っている。上半身下半身ともにバランスよく鍛え上げられ、特に立ち姿は体幹の強靭さを物語っている。
「ねえあんた、今ちょっと手空いてるでしょ? パワーリフティングしたいんだけど、念のために補助してもらいたいのよ」
「いやー、悪いんだけど、俺も今担当ウマ娘についてないといけないから……」
ヴィクトリーピザと言えば目下エイシンフラッシュの最大のライバルだ。彼女のトレーナーとして関わるのは憚られた。
曖昧な感じで断ろうとしたけれど、ヴィクトリーピザは「関係ないし」と手首を掴まれた。
「フラッシュは今トレッドミルの最中でしょ? 別に補助者が必要ってわけじゃないんだからいいじゃん」
「……え? ちょっと、なんで俺がエイシンフラッシュの担当だって知ってるんだ?」
「後で教えてあげるから、とりあえず1セットだけでいいから補助者やってよ! 最近筋トレに凝ってて、今の自分の限界知りたくてさぁ」
「て聞いてないし……」
この強引な感じ、あまり経験がなくて対応に困る。というか俺はどっちかっていうと押しに弱いタイプなので、結局ヴィクトリーピザに押し切られて付き合うことになった。
彼女は重量を250キロにセットし、ふーっと大きく息を吐いてからベンチの上で仰向けになる。そして両腕に力を込め、いざベンチプレスを開始しようというところで俺は待ったをかけた。
「ちょっと待って。ちゃんと肩甲骨を下に付けないと駄目だよ」
「あん? ……そうなの?」
「うん。それとつま先立ちにならないようにね。常に足裏全体を接地してやらないと」
「ふーん、分かった」
ヴィクトリーピザは素直に姿勢を修正してバーベルを持ち上げ始めた。
「ふっ!」
そうして一度持ち上げたバーベルを胸元までゆっくりと下ろし、バウンドさせるように勢いよくそれを持ち上げる。
「駄目駄目、下ろしたバーベルは一度少しでいいから静止させて持ち上げないと。それにもっと深くまで下ろせるだろう? 楽しちゃ意味ないよ」
「あんたっ、人畜無害そうな顔して、厳しいんだな……っ!」
エイシンフラッシュの受け売りじゃないが、正しいやり方でやらないと自分の力にならない。半端な方法でメニューをやり遂げても中身が伴わなければ空虚な自信しか身に付かない。最も避けないといけない結果だ。
苦しげなヴィクトリーピザは両腕を振るわせながらも、歯が砕けんばかりの力を込めて250キロバーベルを上下させていく。パワーもさることながら俺が脅威に思うのはその根性だ。根性論は廃れつつあるが個人的には重要だと思っている。
7回目を終え、そして最後の8回目を上げ終えたところで、限界を迎えたヴィクトリーピザの補佐にすかさず入る。バーベルを上から持ち上げて、ゆっくりとバーベル受けへと戻す。
ヴィクトリーピザは激しく息を切らしながらも、目標重量を達成できたことに多大な充足感を覚えているようだった。口角が吊り上がっている。
俺は彼女の担当トレーナーではないが、こうしてウマ娘の成長に関われることはどうあれ嬉しい。
ヴィクトリーピザは使い終わった器具を清掃・片付けし、タオルで汗をぬぐいながら近寄ってきた。
「ありがと。おかげで目標重量を持ち上げることができた」
「いいよ別に。あ、それとちゃんとクールダウンを忘れずにな。やり方が分からないのなら常駐の人に聞いたら教えてくれるはずだ」
「分かったよ。……ふむ」
不意に彼女は顎に手を添え、なにやら考え込むポーズを取った。
「トレーナーとしてある程度知識を持ってるみたいだし、新人っぽいしアリかもね」
何か独りごちているが、小声のため内容までは聞き取れない。しかし薄っすらと嫌な予感が背筋を過ぎった。
ヴィクトリーピザはヨシ! と手の平を打って踏ん切りがついた風に切り出した。
②へと続く。
思ったよりヴィクトリーピザとのやり取りが書きやすくて困る。
エイシンフラッシュとの絡みがちゃんと描けてないのに、先にライバルキャラを描写して大丈夫かと思う今日このころです。