その光の名は   作:名無なな

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天井まで行ってフジキセキ引けました!

フジキセキの卑しかポイントが高すぎる……。


メイクデビューに向けて

 エイシンフラッシュに対する能力測定が終わり、いよいよトゥインクルシリーズに向けて本格的なトレーニングを開始していた。

 

 他のウマ娘たちとの兼ね合いもあり、毎日のようにコースを使ってのトレーニングはできない(大手チームとなれば別だが)。だいたい週2、3回ほどだ。それ以外は室内坂路を利用するかフィットネスルームでの筋トレが主となる。

 

 デッドリフトでハムストリングを鍛えたり、ハードルを活用して腿上げをしたり。コースでもペース走やビルドアップなど基礎固めがほとんどだ。最後にタイムトライアルを1本するくらいか。

 

 まだ身体の出来上がっていない状態で負荷の強いトレーニングはさせられない。まずは基礎能力と怪我のしづらい身体作りこそ肝要である。

 

 エイシンフラッシュは新たなメニューが追加されるたびに、トレーニングの効果と意図を尋ねてくる。本人が理解してトレーニングに臨むのとそうでないとでは大きな差がある。それに彼女は疑問に思うことはその場で解消しようとするタイプなので、こちらとしても生半可な受け売り知識を披露することはできず、結果的に俺の勉強にもなっている。

 

 彼女とコンビを組んで早3か月が経過していた。

 陽が傾き始めた頃、俺たちはいつものように最後のタイムトライアル走で練習を締め括ろうとしていた。

 

 

「よーい……どん!」

 

「ふっ!」

 

 

 エイシンフラッシュがスタートを切る。今日は芝2000メートル走。トゥインクルシリーズでは主に中・長距離を走ることを予定している。スタミナもついてきてクラシック3冠に向けての準備は着々と済みつつあった。

 ペース走で自身に合った走り方を学習したエイシンフラッシュは、中盤まで脚を溜める戦略――差しを己の最適解と導き出した。優れた瞬発力を持つ彼女には合っていると俺も思う。

 

 エイシンフラッシュが第3コーナーに入るが、コーナリングの際遠心力で身体が外側へと流れる。彼女はそのまま内ラチをやや離れた位置から最終直線へと入る。ここで溜めに溜め込んだ末脚が炸裂――爆ぜるような加速力でゴールまでの距離をぐんぐん縮めていく。

 

 彼女がゴール板を横切るタイミングでストップウォッチを止める。タイムを見るとほぼ2分ジャスト! デビュー前としてはかなり良いタイムだ。

 俺はエイシンフラッシュがタイムを尋ねてくる前にストップウォッチを見せる。すると彼女はある程度満足したのか、小さく頷いた。

 

 

「私1人では参考記録にしかなりませんが……確かな成長を感じますね」

 

「ああ。キミは間違いなく成長している。外からずっと見ている俺が言うんだから間違いないよ」

 

「いえ、客観的なデータがそう物語っているので成長が実感できているだけです」

 

「相変わらずつれないな、キミは」

 

 思わず苦笑する。こういったやり取りを重ねてきて、彼女の言動の機微が何となく汲み取ることができるようになってきた。たとえば今みたいな客観性を口にするときは、嬉しさや興奮のようなポジティブな感情を隠すときに使う場合がある。今回もそのケースに該当する。

 

 素直じゃない一面を見て微笑ましく思っていると、エイシンフラッシュがむぅと不本意そうな表情を向けてくる。まずい、このままだと小言が飛んでくるパターンだ。

 俺は矛先を変えるために二度手を叩いた。

 

「さあ、今日はこのくらいにしよう。いつものようにジョギング2周の後、ストレッチで締めよう」

 

「あっ、誤魔化しましたね? 何故私の顔を見て笑ったのか、後ほど追及させてもらいますからね」

 

 そう言い残して彼女はゆったりとした速度で外周を回り始めた。

 

 エイシンフラッシュの背中を見送りながら、俺の脳裏には近頃の悩みの種が噴出していた。それは「メイクデビュー戦をどうするのか?」ということである。

 元々の素養の高さもあり、最近の彼女はメキメキと力を付けてきている。実力だけなら既にデビューしてもいい頃合いだ。

 

 けれどいくら強くなったからとはいえ、まだまだ改善すべき事項はいくつもある。それらをデビュー前に解決しておきたい気持ちと、レースを通じて進化する彼女を見てみたい気持ちが相反しているような状態だった。

 

 どうせレースに出るのであれば勝たせてやりたい。ならばもっとトレーニングを積んでからでもいいんじゃないか? 気持ちがそっちに傾く最中、1周目を終えようとしているエイシンフラッシュが目に入った。

 

 夕陽を背に浴びる彼女は俺の前を通過し、そのまま2周目へと突入する。そのときの彼女の真剣な面持ちを見て、俺は伸びてきた髪をボリボリと掻いた。

 

「何を独りよがりなことを言っているんだ、俺は。彼女があそこまで頑張っている理由を忘れたのか」

 

 かつて彼女の母が踏み入れたという『光の道筋』に入ることと、ヴィクトリーピザに勝つこと。特に後者は「2人の力を合わせて勝とう」と誓ったじゃないか。

 

 彼女に負けを味わわせたくない。それ以上にヴィクトリーピザに勝たせてやりたい気持ちの方が強かった。だとすればデビューさせるべきか否かの答えなんて既に決まっている。

 

「メイクデビュー戦か……」

 

 今日はまた、夜遅くまでの作業になりそうだ。

 向こう正面をジョギングするエイシンフラッシュの姿を見て、俺は一層努力する決意を固めたのであった。

 

 

 




一気に3か月飛ばしました。
成長の過程をじっくり書きたいところですが、テンポを重視しました。

そろそろ同部屋のファル子を登場させたいところですね。
ファル子かわいいよファル子。
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