その光の名は   作:名無なな

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①の続きです。


エイシンフラッシュとスマートファルコン②

 

「それはね、勝った後のウイニングライブ! いつもは観客席で見てることしかできなかったけど、自分がステージに立って初めてそこからの景色を見て、うわぁ凄いなーって感動したの!」

 

 ウイニングライブ。応援してくれたファンの人たちに感謝を示すライブのこと。特にG1クラスのウイニングライブとなると、観客の数も演出も桁違いとなりそこに立つことを目標に据えるウマ娘もいるくらいだ。

 

 ウマドル? を目指すスマートファルコンともなると感無量だったのだろう。トレーナーが立つことはまずないが、1位だけが見える景色というのは格別なんだろうと何となく思う。

 

 キラキラと輝く破顔っぷりを見せていたスマートファルコンは、ふとしたときに「しまった」と自身の側頭部をコツンと右拳で叩いた。

 

 

「ごめんなさーい! これだと何のアドバイスにもならないよね? えーとえーと、他に何か感じたことはあったかな~?」

 

「はは、いや別にいいんだよ。そんな素敵なウイニングライブを目指すという良い目標ができた。なあエイシンフラッシュ?」

 

「いえ、私はどちらかと言うとレースの勝敗に重きを置いていますので、ウイニングライブはあくまでその副産物という認識ですが」

 

「っておい、ここは素直にありがとうでいいじゃないか。……と、すまない。ちょっと電話がかかってきた」

 

 

 俺は席を立ち、少し離れた位置で通話を始める。

 

「もしもし?」

 

『あ、トレーナーさん? 理事長秘書の駿川たづなです。すみません、明後日のメイクデビュー戦の書類でいくつか確認していただきたい箇所があるのですが、お時間よろしいでしょうか?』

 

「分かりました! 時間は今余裕あるので問題ありませんよ。場所は理事長室でよかったですか?」

 

『はい! ご足労おかけしますが、よろしくお願いします』

 

 何事か、とこちらを注目していたエイシンフラッシュたちに俺は片手を立てて詫びのポーズを示す。

 

「悪い。ちょっとだけ書類チェックがあるみたいだから行ってくるよ。エイシンフラッシュ、何か気になることがあればいつでも電話してくれていいから。それじゃ!」

 

「あっ……」

 

 エイシンフラッシュが珍しく言葉に詰まった様子を見せる。さらにさらに言い淀み、何か言いたげにこちらを見つめている。

 

 見慣れないそんな態度を前に、困った俺はつい首を傾げた。

 

「……どうした? 何か気になることでもあったか?」

 

「……いえ、何もありません。どうぞ行ってらっしゃいませ」

 

 エイシンフラッシュはそう言って俺を見送った。最後の言動は引っ掛かったが、一応スマートファルコンと話せてリラックスできているみたいだし良かった。

 

 その後理事長室で書類の訂正を終え、秋川理事長に激励の言葉を受けて今日を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 トレーナーさんが慌ただしく去った後、ファルコンさんはニコニコと私の顔を見つめてくる。

 

「……どうかしましたか?」

 

「へ? ううん! 何でもないよ☆」

 

「何でもないのに人の顔を見て笑うというのであれば、それは悪癖だと思うので是非矯正した方が良いかと思います」

 

「あーん、拗ねないでよ~っ」

 

 ファルコンさんが私に縋り付いてくる。人の感情は必ずしも表裏が同一になるとは限らないが、こと彼女に限れば表に出ている感情が全てである。つまりファルコンさんが笑っているときは、何か喜ばしいことがあったということなのでしょう。

 

 ファルコンさんは先ほどまでトレーナーさんが座っていた席を見やる。

 

「だってフラッシュさん、担当トレーナーさんととっても仲良しに見えたんだもん! 素敵だなーって思わされちゃった!」

 

「……仲が良さそうに見えましたか?」

 

「もっちろん! ちょっぴりしかお話できなかったけど、お互いが信じ合ってるんだなーって伝わってきたよ! それにフラッシュさん、自分がそう思っていないことはすぐに否定するってこと気付いてる?」

 

 ファルコンさんにしては珍しく言葉に含みを持たせてくる。すぐに否定できなかったから仲良しだとでも言いたげだ。

 

 私は背もたれに身を預けて言う。

 

「……私のことはさておくとしても、仲良しというのは双方向がそう認識して初めて成り立つものでしょう? 彼がそう認識しているとは限りませんよ」

 

「そんなことないと思うけど……あっ、でもフラッシュさんのことまだフルネームで呼んでたし、不安に思っても仕方ない……のかも? 私のことをファル子って呼んでくれなかったし、単純に愛称で呼ぶのに慣れていないのかもしれないよ!」

 

「そこは別段気にしていませんが……」

 

 何をどう考えれば私がトレーナーさんとの関係性に悩んでいると勘違いできるのか。論理性に欠けています。

 

 ウマ娘とトレーナーの関係は互いの利に沿ったもの。心を通じ合わせる必要は必ずしもなく、俗に言うところのビジネスライクでも充分成り立つ間柄なのだ。

 私に踏み入ってほしくない領分があるのと同じく、彼にも踏み入ってほしくない領分があるはず。そもそも人は言語を介してでしか意思疎通ができず、心が通じ合うというのも論理的ではありません。割り切った関係性こそが求められる、とさえ私は当初考えていました。

 

 ……せっかく今日は時間があるのだから、もう少しだけトレーナーさんと話してみたかった、なんて僅かでも残念に感じてしまった私を以前の私が見れば、きっと「論理的ではない」と言うのでしょう。

 

 ふぅ、とファルコンさんに悟られない程度に小さく息を漏らして苦笑した。思わず笑みがこぼれるなんて、ファルコンさんのことを咎められませんね。

 

 

 ――――私と彼にとって、初めてのレースがすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 




終わりです。

次回はようやくメイクデビュー戦の予定。ここまで長かった……。
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