その光の名は   作:名無なな

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この4連休は毎日投稿したいですね。


休養日とモンブラン①

 未勝利戦で勝利を収めた翌日、レース前ということで今日はオフとしていた。

 俺はといえば久しぶりに昼過ぎまで惰眠を貪ろうと当初計画していたのだが、習慣が抜けずに結局7時には起きてしまっていた。これでもいつもよりは睡眠時間が取れているのだから良しとするか。

 

 その代わりにいつもはインスタントで済ませる朝食時のコーヒーも、今日は豆を使ったちょっと本格的なものにして、レタス、ハム、タマゴのサンドイッチを作ったりした。

 

 その後は足りなくなっていた日用品の買い出しを兼ねて街中をぶらぶらと散策し、お昼ご飯を済まし、帰寮する頃には15時近くになっていた。

 

 両手に持った荷物を整理し終え、ふうと一息つく。

 

「…………」

 

 さて、既にやることがなくなってしまった!

 

 トレーニングに役立ちそうな本を何冊か溜め込んでいるが、普段はちょっとした空き時間にコツコツと読み進めることにしているため、休日の中腰を据えて読書に耽るのも何か違う気がする。

 

 かと言って外の友人に声をかけるのも憚られる。トレーナー以外の職に就いた友人たちは平日の今は仕事真っ只中だろうし、同期のトレーナーたちも担当ウマ娘たちとトレーニング中のはずだ。

 こういうとき無趣味なのは地味に困る。園部トレーナーは麻雀だの釣りだのに休日は勤しんでいると聞くが、そのどちらも体験したが肌に合わなかった。映画やドラマも普段まったく見ないせいで1、2時間費やす我慢ができないだろう。

 

 

「うーむむむ……」

 

 

 ソファーで頭を悩ませても仕方ない、と俺は立ち上がり鞄に書類や手帳なんかを詰め込む。そうして準備を整えて部屋を出た。

 

 オフの間に済ませるべきことはやったし、今から夕食までの間だけでも次のレースに向けてプランでも練ろう。本当は明日やる予定だった昨日のレース内容をまとめて、明日からの練習メニューに活かさないと。

 

 トレーナー寮はトレセン学園の敷地外にあるとはいえ、徒歩3分もすれば関係者専門口までたどり着く程度の距離にある。いつものトレーナー室に入りパソコンを立ち上げる。

 

 立ち上げ時間中、手持ち無沙汰な俺はふと昨日の未勝利戦を振り返る。

 

 ――ギリギリの勝利だった。2着とはクビ差だったということもあるが、何よりエイシンフラッシュ本人が土壇場で一段階上に行かなければ勝てないレースだった。

 

 これがトゥインクルシリーズ。誰もが勝ちたいと思い、限界以上の力を発揮してくる。確実に勝てるレースなど存在しないのだと改めて認識する。

 だからこそ1戦1戦がエイシンフラッシュの大きな糧となる。勝てたレースも負けたレースも、次のレースへと繋がる血肉となる。

 

 俺は運営公式で記録されたレース動画を繰り返し視聴する。俯瞰映像で見てみると課題とすべきポイントが見えてくる。たとえば前回の課題だった『視野の狭さ』はそれなりに改善できているものの、返って周囲に気を取られすぎて細かく位置取りを修正し、無駄な脚を使っている。前回の失敗体験を過剰に意識しすぎているのだろう。

 

 レース映像を繰り返し見るたびに改善ポイントが浮上してくる。しかし同時にそれはエイシンフラッシュの伸びしろとも言える。いや……これを伸びしろにすることが俺の役目なんだ。

 時間を忘れて映像に没頭していると、不意にトレーナー室の扉がノックされた。どなたですか? と尋ねると、返答の代わりにドアが開かれた。

 

 

「……トレーナーさん、何をやっているんですか?」

 

「え、エイシンフラッシュ……」

 

 

 扉の先には何やら白い箱を抱えたエイシンフラッシュが立っていた。彼女は俺が仕事に打ち込んでいる姿を見るや否や、途端に険しい表情を浮かべる。え、何? 物凄い圧を感じるんだけども。

 

「今日は完全休養日と言いましたよね? 私はその言いつけ通り授業の体育でさえお休みをいただきました。それなのに発案者の貴方が率先して何をやっているんですか?」

 

「あー、いや、その……これはだな……」

 

「言い訳は結構です。その姿を見れば休養していないことは明白ですから」

 

「違う違う! 俺だってさっきまでは休みを満喫してたんだよ、買い物行ったりご飯食べたり」

 

「では今やっているそれも違うと? そのパソコンでトレーニングメニューか何か練ってらっしゃるのかと思いましたが、私の早とちりでしたか」

 

「いやまあ、これは仕事と関係ないと言えば嘘になるが……スミマセン」

 

 

 駄目だ、ことロジカルな彼女相手に舌戦では分が悪すぎる。俺は降参してノートパソコンを閉じた。

 

 

 開幕追及が入ったので聞きそびれていたが、同じくオフのはずの彼女が何故トレーナー室まで足を運んできたのだろうか? そう尋ねるとエイシンフラッシュはすらすらと説明してくれた。

 

「ケーキを作ってみたので、トレーナーさんにもお裾分けしようと思ったんです。ところがトレーナー寮の方に行ってもいなかったので、もしやと思いこちらに来てみれば案の定働かれていたというわけです」

 

「へえ、ケーキか。料理が趣味なのか?」

 

「趣味と言えば趣味ですが、今日作ったのは――――」

 

 何か言いかけたところで、彼女は喉を鳴らして言葉を濁した。そして「それはいいとして」と強引に話を切り替えてくる。

 

「せっかくなのでトレーナーさんも今召し上がりませんか? 今日は休養日なんですから」

 

「……ん。そうだな。せっかくだしそうするか」

 

 了承して、部屋に一応置いてあるお皿を取り出す。エイシンフラッシュにそれを渡すと、彼女は白い箱からモンブランを取り出しお皿へと載せていく。

 

 

「ほう、モンブランか。また難しそうなものを作ったんだな?」

 

「意外とモンブランは簡単ですよ。それに今の季節を鑑みると和栗を使ったものがいいかと思いまして」

 

「なるほど。あ、そうだ。エイシンフラッシュはケーキには紅茶とコーヒーどっち派だ? そんな高いものじゃないけど」

 

「それでしたら……紅茶でお願いします」

 

 分かった、と電気ケトルで沸かせたお湯をティーパック入りのカップへと注いでいく。俺はコーヒー粉をやはりお湯で溶かしていく。

 

 

 




②へと続く。
前後編にしないと1ページあたりの文字数が多くなるので分割しました。

メインストーリーのナリタブライアンの皐月賞がかっこよすぎる。もはやアニメじゃん。
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