12月24日。いよいよ年の瀬も目前というところで、エイシンフラッシュは変わらず厳しいトレーニングメニューをこなしていた。
ペース走5本、最終直線を意識した400メートル走10本など、身体の負担をケアしながら最大限できるメニューを考案した。エイシンフラッシュはデビュー前から既に下半身の土台ができていた。それが身体の丈夫さにつながっているのだ。
練習の締め括りとする400メートル走の8本目を終え、疲労がピークに達しつつある様子のエイシンフラッシュに檄を飛ばす。
「ラスト2本! フォームを意識して最後まで全力でやり切ろう!」
「はい……っ!」
最後まで集中を切らさない汗だくな彼女の姿を見てふと考える。
――初勝利の後は1勝1敗となり、ジュニア級を2勝2敗の戦績で終えた。結果だけ見ると贔屓目でもまずまずといったような成績である。
それでも当初の目的通り、本番のレースで多くの経験を積むことができた。これはクラシック級に挑む際大きな財産となる。
ひとまず今後の展望としては、1月に行われる京成杯にはエントリーしており、その後は皐月賞トライアルの弥生賞へと挑む。特に弥生賞は俺たちと同じ皐月賞を狙うウマ娘たちが集まる。つまり同期の有力ウマ娘たちが集結する可能性が高いのだ。
「……ヴィクトリーピザ、か」
エイシンフラッシュが最もライバル視する超実力ウマ娘。メイクデビュー戦こそ固さがあったか2着に終わったが、その後のレースでは噂に恥じぬ実力ぶりで連勝している。やはり当初の目論見通りヴィクトリーピザが最大の難敵になるだろう。
それ以外にも油断ならない相手がいる。メイクデビュー戦でそのヴィクトリーピザを破り、ここまで無敗のフラワープリンセスや先月デビューしたベルーナ、他にも園部トレーナーと契約したワープボートなど、今年は一際強豪揃いだ。
しかしそんな相手たちにクラシック3冠で勝つために、今日までの負けを許容してきた。当のエイシンフラッシュは負けるたびに悔しい思いをしてきたはずだが、俺を信じてトレーニングを積み重ねてきてくれた。
……これで彼女を勝たせてやれないというなら、嘘だ。
「ラスト1本――――!」
歯を食いしばって駆ける彼女を見て、俺は知らず知らずのうち指が白くなるほど握り締めていた拳を解いて、ストップウォッチのボタンを押した。
その日の夕方、普段使っているカフェテラスは多くの人でごった返していた。
今日はクリスマスイブということで、トレセン学園の生徒会が企画・主催したクリスマス会が催されているのだ。立食形式でめいめいが談笑している姿を壁際から眺めていると、園部トレーナーがグラスを片手に近寄ってきた。
「よう。お前さんも来てたのか」
「どうも。どんな様子なのか気になって顔を出したんですが、生憎ほとんど知り合いがいないもので孤独感を味わってるところでした」
「その孤独を酒のツマミにできればお前も大人の仲間入りだな。当然この場でアルコールは出ないが」
「大人ですか。シリウスの元トレーナーみたいな感じで歳を重ねることができるのなら、大人になるのも悪くありませんね」
「おいおい、大人として見習うならもっと身近な奴にしとけ。たとえば俺とかな?」
「ははっ」
「鼻で笑うんじゃねーよ」
まったく、と不満げな息を吐いてジュースを飲む園部トレーナー。
その頃仮設壇上ではビンゴ大会が執り行われようとしていた。園部トレーナーが俺の分のビンゴシートを渡してくれた。
「今年の戦績は2勝2敗。まあ新米トレーナーからすれば上出来なんじゃないか?」
不意に園部トレーナーが口を開いた。会話の対象がエイシンフラッシュであることはすぐに察せられた。
「それは俺の戦績ではなくフラッシュのものです。そして彼女ならもっと勝てたと思っています。……俺の力不足のせいです」
「誰だってそんなもんだ……と今でこそ言えるが、当事者からすれば収まらないよな。俺たちは今後何人ものウマ娘を担当することになるが、ウマ娘からすればたった1人のトレーナーだ」
話しながら2人してビンゴシートのマスを潰していく。けど見事に虫食い穴のようにまとまりがない形となってしまう。
そうこうしているうちに「ビンゴ~!」という声が上がった。名前の知らないウマ娘が嬉しそうに跳ねている姿が目に付いた。壇上にいるエアグルーヴがそのウマ娘を招いている。
次回へと続く。
一応アプリのイベント関係はやっていくつもりです。