その光の名は   作:名無なな

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お久しぶりです。
約1週間ぶりになりますが投稿します。


クリスマスと勝負服③

 

 トレーナー室に入ると俺は真っ先にストーブの電源を入れた。そして途中の自販機で購入した缶コーヒーを手の平で転がして暖を取る。

 蓋を開け口を付ける。ともすれば火傷しそうな熱が唇に伝わる。液体が喉を通り、体内に広がっていくのを感じる。

 

「ふぅ……」

 

 今年のレースを消化し終え、気が緩んでいるのか何の気なしに今年を振り返る。

 

 ――トレーナー1年目の今年、俺はとてつもない幸運に恵まれた。もちろんそれはエイシンフラッシュと出会えたことだ。彼女の走りを一目見たとき「この娘しかいない!」と感じた衝動は今なお鮮明に覚えている。

 

 最初は論理派の彼女と上手くやっていけるか心配なところも正直あったが、今ではそれなりに親しくやれていると自負している。……俺だけかもしれんが。

 

 エイシンフラッシュは練習内容にも意味が薄いと思えばすぐに口を挟んでくるし、論理的に意味のあるものしか取り組んでくれない。何もかもその場で有効性を示す必要がある。そのため新しいメニューを取り入れる際は準備万端にして彼女に打ち明けていた。

 

 他にも色々あったな、と思い返していると、扉が2回ノックされた。どうぞ、と訪問者に返す。

 

 

「失礼します。……何を1人で笑っているんですか?」

 

 

 入ってきたエイシンフラッシュは、俺の顔を見るや否や怪訝そうに眉をひそめた。笑っている? 俺は自身の顔をペタペタと触る。

 

「あれ? 自覚なかった、悪い」

 

「いえ別に謝る必要はありませんが……、少し気持ち悪いと思っただけですので」

 

「本当に悪かった!」

 

 たまに飛んでくる毒舌には未だに慣れない。確かに1人でニヤニヤとしている奴を見たら気持ち悪く思われても仕方ないにせよ、気持ち悪いて……。

 

 ともかく笑っていた弁明をしないと、彼女の中で俺の評価が下落されると困る。

 

「違うんだ。これは、その……ちょっと今年のことを振り返ってたんだよ」

 

「今年のことを、ですか。何か面白いことでもありましたか?」

 

「色々あるだろう? キミと出会ってから新鮮なことばかりで、楽しいことも苦しいことも、思い返せば良い思い出だったと思えたんだよ」

 

「ますます理解に苦しみますね」

 

 エイシンフラッシュは軽くため息を吐く。

 

 

「来年は今年以上の思い出ができる予定なんですよ? 今満足してどうするんですか?」

 

「…………!」

 

 そうだ。来年はクラシック級――あくまで今年はそのための準備期間。

 

「まったくもってその通りだな。年の瀬が近くなってちょっと緩んでいたみたいだ。来年からが本番なんだから気を引き締めていかないと」

 

「はい。……それで、今日は何の用件でしょうか?」

 

 メッセージで呼び出した理由を尋ねてくるエイシンフラッシュに対し、俺は自販機で買った280㎖のホットティーを渡す。彼女は手の中にあるそれを少しの間見つめ、キャップを外して一口飲んだ。

 

 その間俺は話すべきことを再確認していた。いつもは会話するたびにセリフまで決めたりしないのに、今日ばかりは普段と勝手が違っていた。

 

「……お、俺は今まで人にプレゼントを贈った経験がない。男友達がばかりで異性の知り合いが少なかったせいでな」

 

 なんて、意味のない前置きをしてしまう。案の定エイシンフラッシュは何のことやら、と首を傾げている。

 

「? はあ、それがどうかしましたか?」

 

「だから……その、あれだ。プレゼントというと少し違うんだけど、キミに渡したいものがあるんだ」

 

 早くも想定しておいた台本の中身を忘れてしまう。こんなのは学生時代、機会があって壇上で一言話したとき以来だ。

 俺は言葉での展開を諦め、机の脇に隠しておいたものをエイシンフラッシュへと差し出す。

 

「ドレスカバー……?」

 

 深紅のそれを受け取り、エイシンフラッシュが目で中身の正体を窺ってくる。

 

 

「――――勝負服だよ、キミの」

 

「……!」

 

 

 そう告げるとエイシンフラッシュは俺とドレスカバーを交互に見やる。

 勝負服とはG1レースに出走する際に身に纏う、唯一無二の衣装のこと。トレセン学園ではデビュー前に全員がそれぞれの着たい勝負服をデザインするのだ。サイズなんかは定期的に行われる身体測定時のデータを使えばいい。

 

 かねてより用意しなければならないと思っていたエイシンフラッシュだけの勝負服。4月までG1レースへの出走は計画していないため、まだスケジュール的に余裕はあるのだが早く渡したいと俺が依頼したのだ。

 

 しかしサプライズのはずが、彼女はさほど驚いた素振りを見せない。あれー? 俺の予定ではここで彼女の年相応なはしゃぎぶりを拝めるはずだったのに……。

 

「……驚かないんだな?」

 

「ええ、まあ。少し前から『勝負服の希望は前と変わりないか?』『生地はどうしよう?』とか、突拍子もなく尋ねてくることが多かったのでもしかしたら、とは思っていました」

 

「お、おお……そうだったのか…………」

 

 サプライズ失敗に俺はがっくりと肩を落とす。くそぅ、こんなことなら学生時代にもっとサプライズイベントを企画しておくんだった……。

 

 落ち込んでいるとエイシンフラッシュが声をかけてくる。

 

 

「すみません。せっかくなので今試着したいのですが……、この部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、それもそうだな。もしもサイズ違いとかがあれば再調整してもらわないといけないから……」

 

 了承して俺は部屋を出ていく。

 

 着替え待ちの間、俺はサプライズ計画の欠陥を洗い出すことにした。俺が勝負服に関することを何度も聞けば怪しまれるに決まっているんだから、同部屋のスマートファルコンにお願いするなりすればよかったなー。

 

 ――そして待つこと10分が経過。思ったより時間がかかっているな。袖を通すのにそこまで手間がかかる衣装とは思わなかったが。

 

「――――お待たせしました」

 

 

 扉越しに声をかけられる。いったいどんな着こなし方になるんだろう、と半ばドキドキしながらドアノブに手をかける。

 

 

 




長くなりそうなのと久々の執筆で疲れたのでここまで。
次回④で一区切りです。

そろそろ私の勘ではエイシンフラッシュが実装されると思うのですが、そうなったら天井覚悟で回しますよ!
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