その光の名は   作:名無なな

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クリスマスと勝負服④

 

 恐る恐る扉を開ける。そこには――――

 

「――――っ」

 

 彼女なら何を着こなしても似合うだろう、と漠然とした先入観を抱いていたが故に、どんな服装でもすぐに誉めようと思っていた。しかし勝負服の彼女を目にした途端、そんな予定は吹き飛んでしまった。

 

 パフスリーブの白を基調としたブラウスに紐で締める胴衣を合わせており、その上から白エプロンを巻いている。きつく締められた胴衣により身体のラインが強調され、胸元のカッティングが深めのため、冷静に考えれば何とも目のやり場に困る衣装である。

 

 そんなことはお構いなしに、俺はエイシンフラッシュに釘付けになっていた。煽情的であるとかそんな理由ではなく、とてつもなく勝負服の彼女に見惚れてしまったのだ。

 

「トレーナーさん……?」

 

 扉を開けっぱなしの状態で固まる俺を見て、少し不安げにエイシンフラッシュは覗き込んでくる。いかんいかん、と俺は咳払い1つして言う。

 

「なんというか、うん。似合ってるよ、すごく」

 

「……ありがとうございます」

 

 2人して黙り合う。何ともむず痒い空気が空間を漂っている。

 

 居心地の悪い雰囲気を打破しようと、努めて明るい口調で話を切り出す。

 

 

「ディ、ディアンドルって言うんだってな。その服装」

 

「はい。私の故郷ドイツの民族衣装で、勝負服にするなら是非この服装で走りたいとずっと考えていたんです」

 

「そ、そうか。まあ地元愛が強いのは良いことだよな、うんうん」

 

「……先ほどから話し方が浮ついていませんか?」

 

「気のせい気のせい」

 

 いかん。もしもキミの勝負服姿に見惚れてました、なんてバレたら距離を置かれること間違いなしだ。容姿云々ではなく在り方そのものに魅せられたと言っても信じてもらえないだろう。

 

 俺はもう1度咳払いをして誤魔化す。エイシンフラッシュが「咳が多いですね」と突っ込まれる。

 

「それで? 何か衣装で気になるところとかあるか? 仕立て屋さんに至急直してもらうから遠慮なく言ってくれ」

 

「……いえ、特には。私の思い描いていた通りのものを実現していただいています」

 

「それは良かった。実を言うとこうして改まった感じでプレゼントを贈る行為をしたことが少ないから、大丈夫かとドキドキしていたんだ」

 

「けれど衣服類は実際に着てみないと分からないことがあります。サプライズに心を砕くのは結構ですが、サイズ違いなどがあれば仕立て屋に二度手間をかけるところですよ?」

 

「うっ……。そうだよな、ちょっと独りで突っ走りすぎたかもしれない。ただ俺にはセンスっていうものがないから、何を贈ればキミが喜ぶのか見当もつかなかったんだ。それこそ豪華なドレスや素敵なアクセサリーなんて、とてもとても選べる自信がなかったしね」

 

「贈り物ですか?」

 

「ああ、せっかくのクリスマスなんだ。サンタさんはもう現れてくれないだろうから、せめて俺からと思ったんだけど……」

 

「心外ですね。私はきちんと早寝早起きを守っている良い子なので、サンタクロースさんは来てくれるはずなんですが」

 

「はははっ、そいつは悪かった」

 

 冗談めかして言うエイシンフラッシュ。しかし次に彼女はバツが悪そうに手を右頬に添えた。

 

「しかし困りました……。まさか貴方からもらうとは思っていなかったもので、お返しのプレゼントを用意していません」

 

「え? いやいや、別にそんなの気にしなくていいのに」

 

「そうはいきません。礼には礼をもって返す、というのが日本の文化と聞いています。私だけが従わないわけにはいきませんから」

 

 ふむ、とエイシンフラッシュは考える仕草を取る。物腰が柔らかい所作はとても彼女に似合っていた。

 

 少しして「そうだ」と彼女は呟き、ポケットから何かを取り出す動きを見せた。

 

 手の平に握り締められていたのは、数センチ程度の銀の蹄鉄であった。

 

 

「――これは私が日本へ旅立つ日に母からいただいたお守りです。ドイツでは蹄鉄を魔除けとして扱う風習があるんですよ」

 

 

 彼女はどこか昔を懐かしむように目を細める。

 

「お母さんからそれをもらったって……なおさら駄目だ。そんな大切なものはいただけないよ」

 

「いえ。私はもう充分に守ってもらいました。どちらかと言えば貴方の方が無茶をしそうな気がするので、私の代わりに守ってもらえるようにと」

 

 だがしかし、と受け取りを渋る俺に対し、彼女は半ば強引に俺の手にその蹄鉄を握らせた。平生の彼女らしからぬ強引さだった。

 

 これ以上拒否すると悪い気がする。俺は渋々蹄鉄を受け取った。

 

 

「ありがとう。大切にするよ」

 

「はい。財布などに入れるといいと思います」

 

「分かった。けど、却ってこっちの方が申し訳なく思えるな……。勝負服はいずれ必ず用意しなければならないものだし、それをあえてサプライズ風に渡したところでなぁ」

 

 俺から一方的にプレゼントできればそれで良しと考えていたから、お返しをもらったときの想定をしていなかった。困った。

 

 うーむ、と俺が頭を悩ませていると、エイシンフラッシュは奥ゆかしく胸に手を当て頭を下げて言う。

 

「それでしたら、来年も是非贈り物をしてください。どんなものでも受け取りましょう」

 

 そう言って、彼女は妖艶さを含ませたような笑みを浮かべて告げた。

 

 

「――豪華なドレスや、アクセサリーでも」

 

 

 




クリスマス編終わり。

皆さんの思うエイシンフラッシュ像と違ってるかもしれませんが、私はこんな感じの彼女だと予想しているのでこのままでいきます!

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