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ヴィクトリーピザが勝利した弥生賞からおよそ1か月後。先日まで満開だった桜の多くは散り始めを迎えたのとは対照的に、トゥインクルシリーズは急激にボルテージの高まりを見せている。
――――皐月賞。最も速いウマ娘が勝つレースとされ、クラシックレースの記念すべき1冠目。世代を代表するウマ娘たちが続々と名乗りを上げていた。
ちょうどテレビで今年のクラシック級である主要なウマ娘たちの紹介がされていた。午後にやっている、トゥインクルシリーズ・ドリームトロフィーなどのレース情報を特集する番組である。
『――それにしても今年は非常に楽しみなメンバーが揃いましたね!』
『いやぁそうですねぇ。例年なら世代の代表となれそうなウマ娘が何人もいますからね! 特になんといっても注目なのがヴィクトリーピザです! デビュー戦こそフラワープリンセスに惜しくも敗れましたが、その後は4連勝と噂に違わぬ強さを見せてくれています。前走の弥生賞は圧巻でしたね』
『いやいや田中さん。そのヴィクトリーピザにデビュー戦で勝ったフラワープリンセスを忘れないでくださいよ! 他にも弥生賞2着のシンエイポアロやホープフルを勝ったゼアリオもいます。そう簡単には勝たせてくれないですよ!』
事情通がクラシック級の注目ウマ娘を挙げていくが、その中にエイシンフラッシュの名前はない。「他者の評価に揺さぶられるな」とエイシンフラッシュには釘を差されてしまいそうだが、彼女ほどのウマ娘が注目を浴びていないのは素直に悔しい。
俺はテレビの音量を下げベッドに身を投げ出す。手持ち無沙汰もあって、これまでのことを何となく振り返ってしまう。
弥生賞を棄権し、皐月賞一本に絞ってトレーニングを重ねてきたおかげで、エイシンフラッシュの2000メートルのタイムはかなり良い。模擬レースでも上手い駆け引きができつつある。
皐月賞は明日。数日前に追い切りを終えて、今日は軽く流して疲労も抜けていることを確認済みである。ベストコンディションで明日のレースに臨むことができる。
――――そのはずなのだが。
「目が冴えて眠れそうにない……!」
いつものように歯を磨いて柔軟体操をして、後は床に就くだけなのだがまるで眠たくならない。これはあれだ、遠足前の小学生が陥るやつだ。ドキドキして眠れない。
実際に俺が走るわけではないにせよ、気持ち的にはエイシンフラッシュと一緒に走っているつもりだ。しかしデビュー戦のときもちゃんと眠れたというのに、何故今回に限って寝つきが悪いのか……。
明日はメインレースのため、時間には比較的余裕があるとはいえ今の状態だと夜更けまで起きている可能性が高い。こういうときは一度リセットして布団に入り直した方が眠りやすいものである。
俺は半袖半ズボンの上から1枚薄手の上着を羽織る。春とはいえ夜中はまだ冷える。外に出ると夜空には雲と空とが半々くらいの空模様だった。もしかすると明日は少し降るかもしれないな。
夜中の散歩は随分と久しぶりだった。大事な受験を控えた前日も確か寝付けなくて、今のように散歩をした覚えがある。日頃味わえない静寂が心を落ち着けてくれるのかもしれない。
トレーナー寮を出て程近い位置にある公園へと入る。公園にしては遊具が少なく、敷地面積もそれなりに広く自然も多いためもっぱら近隣住民の散歩コースに使われているのだ。
「それにしても、エイシンフラッシュを担当してもう1年が過ぎたのか……」
波乱万丈というほどでもなかったが、それでも俺にとってはあっという間の1年間だった。
トレーナー1年目でエイシンフラッシュと出会えたことは俺の最たる幸運なのだろう。担当ウマ娘1人目でクラシックレースに参戦できるトレーナーは多くない、とトレセン学園理事長の秘書を務める駿川たづなさんにも褒めてもらった。
とはいっても俺の助力なんて微々たるもので、元より彼女自身が持っていた素質によるところがほとんどである。中央のトレーナーなら誰でも彼女を輝かせることはできただろう。
それに大事なのはここから。クラシックレースをどう乗り越えるのか。それによりシニア級での戦い方も決まってくる。ヴィクトリーピザとの決着も重要だが、トレーナーとしてもっと先を見通しておかないと。
「だけどそのために立ちはだかってくるのもヴィクトリーピザなんだよな……。シニア級でも最大のライバルとなってくるはずだし、そういう意味でも明日の皐月賞での初対決は重要になる……」
周囲に誰もいないと独り言を発してしまうのは昔からの癖である。万が一聞かれたら変質者と間違われそうだし、改善したいとは思ってるんだけど。
――突如として、すぐ近くに茂みがガサガサと音を立てた。静寂を打ち破るような物音にみっともなく狼狽えてしまう。
「な、なんだなんだ!?」
音がした方を注意深く窺ってみるも、何かが飛び出してきそうな雰囲気はない。公園内で度々見かける猫のせいかな、と結論付けて額の冷や汗を拭う。
「――随分と素っ頓狂な声を出しましたね? ……トレーナーさん」
今度は前方の道から声が飛んできた。俺のことを「トレーナーさん」と呼ぶのは1人しかいない。何故彼女が? とは疑問に思ったけれど。
電灯の下に現れたのはエイシンフラッシュだった。彼女は学園指定の体操服を身に纏っている。
「フラッシュ……? あれ? 何でこんなところにいるんだ? 栗東寮はもう門限なんじゃなかったか」
「きちんとフジキセキ寮長さんには許可を得ていますよ。トレーナーさんの方こそどうしたんですか?」
「俺か? 俺はその……、まあ色々あってな」
眠れないので仕方なく近辺をブラブラ散歩していました、って言うと彼女からお叱りを受けることになる。「明日は大切なレースなんですから、眠るための努力をしてください」なんて風に。
彼女は少しの間俺を観察するように覗き込み、ふむと顎に手を添える。
中途半端ですが次回に続く。
皐月賞まで冗長に書きすぎたかもしれない、と今になって思います。